『こんばんわー、今日も始まりました深夜の不定期海賊放送テレビショッピング“悪魔の囁き”。  
 今夜はここフ○テレビのスタジオをお借りしての放送となりまーす!』  
突然聞こえたけたたましい声に、俺は深酒による眠りから強制的に叩き起こされた。  
「な、なんだ?」  
何事かと思えば、つけっぱなしになっていたテレビの画面に、声の主と思われる少女の顔がこれ以上はないというほどドアップで映っている。  
非の打ち所のない完璧な営業スマイル。  
ニカっと笑った口元に、随分尖った八重歯が覗く。  
というか、八重歯というより、もう立派な牙のようだ。  
『初めての皆さんはじめまして、常連の皆さん3ヶ月ほどのご無沙汰でした、今夜も進行を務めますのはもちろん私、悪魔のキッカ』  
キッカと名乗った少女が身を引き、その全身が画面に映るようになる。  
大胆に肌を露出させたチューブトップにホットパンツ。  
なるほど悪魔という設定だけあって、いかにもな感じのファッションだった。  
ご丁寧に背後にはデフォルメされた小さな蝙蝠の羽がぷかぷか浮かび、黒い尻尾まで付いている。  
――あの尻尾、本物みたいだな。  
せわしなくくねくねと動く尻尾を見ていると、なにやら猫じゃらしを目の前で振られた猫にでもなったようにうずうずしてきた。  
ただ惜しむらくは、せっかくの露出度の高い服装も、それを着ているのが10歳にも満たないだろう少女なせいで、色気というより活発さをまず意識させてしまうことだろうか。  
妖艶な女悪魔というよりは、悪戯好きの小悪魔といった印象だ。  
『さて、それでは次に皆さんお待ちかねだと思います、今夜あたしのお手伝いをしてくれる子を紹介しましょう』  
キッカが手に持った紐を引くのを横目に見ながら、俺はテーブルの上に置かれた大量のビール缶の中から、まだ中身が残っているのを探し当てて口に運ぶ。  
――ん、紐ってなんだ?  
ビールの苦さを味わいながら、アルコールで麻痺しかかった頭でもわずかな違和感を覚えた直後――、  
「ぶっ!?」  
画面に現れた“アシスタント”の姿に、俺は思わず口に含んでいたビールを噴き出してしまった。  
鼻につーんとした痛みが生まれ、涙で視界が滲んでいく。  
『て、天使のセラフィ、です。  
 今日は皆さんに、商品のことをわかっていただけるよう、い、一生懸命レポートします。  
 よ、よろしくおねがいします……』  
たたらを踏んで画面に入ってきた1人の少女。  
キッカの手でカメラの方を向かせられた彼女は震える声で自己紹介をして、ぺこりと深いお辞儀をした。  
肩にかかる程度のふわふわした金髪。  
その上には輪っかが浮かび、背中にはデフォルメされた鳥の翼が生えている。  
清楚な感じの白いワンピースは、確かに天使というイメージにはぴたりと合うものだ。  
だがその一方で、天使というイメージに全くそぐわない物も彼女はいくつか身に着けていた。  
「いくら深夜でも、これはまずいんじゃないか……?」  
キッカが握っている紐の先が通された赤い首輪、目元を覆う黒い布。  
いくらなんでもフェティッシュに過ぎる。  
セラフィの身長はキッカよりも拳1つ高い程度。  
まだ幼げな外見が、より一層の背徳感を醸し出していた。  
 
『さあ、アシスタントの紹介も終わったところで、さっそく今日の商品の紹介に入りましょう。  
 今日の商品はこちら!』  
セラフィの姿に唖然としている俺なんか無視して――テレビなんだから当たり前だが――キッカが元気よく右手を挙げる。  
高く掲げたその手の先が一瞬光を放ったかと思うと、次の瞬間そこに長方形の箱がひとつ現れた。  
「うお!?」  
よく考えればこれはテレビなんだから別に驚くことではなかったのだが、さっきの衝撃のせいでついついリアクションが大きくなってしまう。  
『だららららららららら……』  
キッカによる口頭でのドラムロール。  
『じゃーん!』  
「マジですか!?」  
彼女が箱から取り出したものに、俺はもう今日何度目だよって感じの驚愕の声を漏らしてしまう。  
アルコールの後押しもあって通販番組のサクラも真っ青な好反応だと我ながら思う。  
だがまあ、今問題なのはそんなことではなく、キッカが箱から取り出した長さ10センチ強、先端が膨らんだ形状のそれがどう見ても疑いようなく卑猥なことに用いられる大人の玩具だったことだ。  
『今日の商品は、このバイブでーす!』  
あっけらかんと宣言するキッカの姿に、開いた口が塞がらなくなる。  
『基本的な使い方は今更説明する必要もありませんよねー?  
 ただ、常連さんには説明するまではないと思いますが、これはそんじょそこらで手に入るバイブとはわけが違いますよー』  
にやりと笑って、ずいっとカメラにバイブを突き付けてくるキッカ。  
画面に大写しになった、思わず目を逸らしたくなるほどの異様に精巧な造形。  
その全面が見えるように、キッカはバイブを回していく。  
『どうですか? 電池を入れるための蓋とかないでしょう?』  
確かにキッカの説明通り、見た感じ継ぎ目のようなものは一切なかった。  
『このバイブはですねー、なんと電気じゃなくて魔力で動くんです。  
 パワーチャージの方法は接触吸収型で、天使のあそこに突っ込んでおけば勝手に魔力が溜まっていくという驚異のお手軽さを実現しました!』  
「ま、魔力ぅ?」  
突然出てきた突拍子もない言葉。  
いや、天使とか悪魔な時点でもう十分突拍子もなかったが。  
『天使相手に使う場合、使用中に同時にチャージができますので半永久的に連続使用できちゃいますし、人間相手でもフルチャージからなら100時間は余裕です。  
 もちろん、動きを抑えることで連続使用時間を延ばそうなんて、小賢しいことはしていませんのでご安心ください』  
キッカが自信まんまんに言った直後、横で所在無さげにおろおろしていたセラフィがびくりと身を震わせた。  
 
『と、口で言っても信じていただけないかもしれませんので、いつものようにさっそく実演してみましょう!』  
キッカが手に持ったバイブで、セラフィの頬をぴたぴたと叩く。  
『それじゃーセラフィ、まずは準備からだよ。  
 どうしたらいいか、わかってるよね?』  
『は、はい……』  
蚊の鳴くような声で答え、頬を引き攣らせながらも舌を出すセラフィ。  
首輪を嵌められ目隠しされた少女の小さな舌が、見るもおぞましいバイブの上を往復する。  
その映像に、俺は思わず生唾を飲み込んでいた。  
ただでさえ本物そっくりだったバイブの表面が、セラフィの唾液でてらてらと濡れ光り、より一層生々しさを増していく。  
『そうそうその調子……カメラさん、もうちょっと寄ってくださーい』  
キッカの指示で、一心不乱にバイブに舌を這わせるセラフィの口元がアップになった。  
柔らかそうな唇から差し出された真っ赤な舌が、浮いた血管まで再現されているグロテスクな擬似男根を舐め上げる。  
ぴちゃぴちゃという音までもがちゃんとマイクに拾われ聞こえてきた。  
『はい、じゃあ口開けてー』  
言われるがまま、精一杯大きく開けられた口の中にバイブの先端が潜りこんでいく。  
キッカがバイブを前後に動かすと、それに合わせてセラフィの頬が形を変える様はひどく卑猥で目が釘付けになった。  
じゅぷじゅぷと音を立てるほどの激しいピストン運動。  
しばらくして、ようやくバイブが引き抜かれる。  
それに合わせて2人の全身が映るあたりまでカメラが引いたことで、俺もわずかに正気を取り戻すことができた。  
いつのまにかテレビに齧り付くような状態で没頭していたらしい。  
股間にはすでに突っ張るような感覚がある。  
『とまあ、準備はこれくらいでいいでしょうか。  
 ちなみにパワーチャージ用の天使はすでにこちらで調教済みですので、バイブを見せれば勝手に濡れますからいきなり突っ込んじゃっても大丈夫です』  
キッカが何かを説明している。  
それはわかっていてもその声は右から左に通り抜け、その内容は全く理解できなかった。  
なにせ、その横でセラフィがワンピースの裾をたくし上げはじめたのだ。  
裾が膝を越え太股を越え、最終的にはへそが見えるあたりまで上がっていく。  
そこまで行けば当然股間が露わになった。  
「ぱ、ぱんつはいてない……」  
俺の思考をトレースしたように、1度引いていたカメラが今度はセラフィの股間に寄っていく。  
わずかに開いた大陰唇の隙間。  
そこから肉の色が辛うじて窺える無毛の性器に、再び意識が吸い込まれる。  
モザイクもなしに大写しになったその場所に、アルコールのせいではなく眩暈を起こしそうになった。  
と、不意にカメラが引きセラフィの全身が再び画面に収まるようになる。  
俯き、頬を染めて唇を噛み締めているその表情。  
目元を覆う黒い布は、よく見ればかなりの範囲で色が濃くなっていた。  
最も恥ずかしい場所をカメラに捉えられ、羞恥に震えながら涙を流す天使の少女に、俺の股間のものはますます硬度を増していく。  
 
『それじゃー、本番いってみましょー!』  
対照的に元気いっぱいな悪魔の少女が、手に持ったバイブをセラフィの股間に宛がった。  
テレビの前、俺はまた生唾を呑み込んで次の瞬間を待つ。  
『ふ……うう……あ……はぁう……』  
見る見るうちにバイブを根元近くまで飲み込んでいくセラフィのあそこ。  
痛みなのか快感なのか、とにかく何かを堪えるように内股気味になった足が震えているのが見て取れた。  
『ほら、ちゃんとレポートしないとだめでしょ?』  
『あ……す、すごく太くて、それに固くて、……ど、どうにかなってしまいそうです……はぅん!?』  
セラフィの体がビクンとはねる。  
見るからに触りごこちがよさそうな、白く滑らかな肌。  
それに覆われたセラフィの下腹部が、ぐねぐねとうねるように蠢いていた。  
『あ、ああ、中で……中でうねってますぅ……』  
『動きのオンオフはユーザー登録した方の思念によって切り換えられます。  
 パターンの変化なども全てイメージするだけで対応してくれる簡単操作』  
『ふああ、振動までぇ……』  
キッカはもうバイブから手を離している。  
それなのに、突き立っていたバイブは勝手に細かな振動を開始した。  
『さらには動きの変化だけでなく……』  
『ひあ、あああ、こ、これだめ、こんなの激しすぎ……』  
セラフィの喘ぎ声が一際高く切羽詰ったものになる。  
『ほらほら、そんな説明じゃ見てくれてる人に伝わらないよ。  
 ちゃんとどうなってるか具体的に説明しないと』  
『は、はい……バ、バイブの、ふぁ……表……面にぃ……ああん』  
とろりとした粘液が溢れ、思わず頬擦りしたくなるようなセラフィの太股を伝い落ちていく。  
それが、俺にはまるで彼女が流す歓喜の涙のように感じられた。  
『表面に、なに?』  
『ぶつぶつが……ぶつぶつがいっぱい……ぃあ……できて動きまわって、かきまぜ……ひやああ、だめですそんなしたらぁ!』  
『さらにはさらに、こーんなことまでできちゃいます!』  
キッカの言葉を合図に、バイブがひとりでにピストン運動を開始する。  
ずるりと、あと少しで抜け落ちそうなところまで下がったバイブの表面には、確かにセラフィの言葉通り細かい突起が無数に生まれて蠢いていた。  
それが確認できたのも束の間、バイブは再び少女の秘奥に潜り込んでいく。  
『ふあ、あ……もう……ひあぅ!?』  
バイブを放して自由になったキッカの魔手が、今度はセラフィの胸に襲いかかった。  
目隠しをされ、一切の心構えができていなかったセラフィが全身を痙攣させて身悶える。  
股間同様そちらも下着は着けていないらしく、白いワンピースには2つの突起が浮き出ていた。  
服の上からそれぞれを摘んで擦り、押し潰すキッカの指。  
『ひぁん、イク、イク、イッちゃいますぅ!』  
ぶるぶると内股を震わせ、潮まで吹いて絶頂を迎えたセラフィがついに床の上に崩れ落ちた。  
 
『あ、ああ、だ、だめ……』  
いったい何が駄目なのか。  
それはすぐに目に見える形で提示された。  
ぺたりと座り込んだセラフィの足の下に、薄黄色の水溜まりが見る見るうちに広がっていく。  
『はぁぁぁぁぁぁぁ……』  
どこか満足げな吐息を漏らすセラフィのアップ。  
それをしばらく映していたカメラが、相変わらず完璧な営業スマイルを浮かべたキッカへと向きを変えた。  
『いかがでしたか? お堅い天使が思わず失禁するほどの気持ち良さ。  
 これだけの高性能で、お値段なんと寿命3ヶ月分!  
 今回はこのバイブ本体に、パワーチャージ用の天使を1人お付けしての販売になります。  
 この天使、本来の用途はパワーチャージ用ではありますが、単体でも十分愛玩用としてお使いいただける1級品ばかりを揃えさせていただきました』  
画面が分割され、20人分の少女の顔が映し出される。  
そのどれもが、パターンの違いはあれど息をのむほどに愛らしい容貌の美少女だった。  
『限定数は20。  
 注文数が予定に達し次第締め切りとさせていただきますので、ご注文はお早めに。  
 なお原則としてお届けする天使はこちらで選ばせていただくことになっておりますので、予めご了承ください』  
再び画面がスタジオに戻る。  
『電話番号はこちら』  
キッカが胸の前で指を下に向けて左右に往復させると、画面下部に携帯のものと思しき電話番号が表示された。  
『さて、そろそろお別れの時間が近づいてまいりました。  
 進行を務めましたのは私、悪魔のキッカと……』  
キッカが足元のセラフィに視線を送る。  
だが彼女の方はカメラの前での絶頂と、それに続く失禁のショックで完全に放心状態になっているらしく何の反応も返さなかった。  
『あちゃー、完全に逝っちゃってますね。  
 えーでは改めまして、この番組は私、悪魔のキッカと、アシスタントの天使のセラフィでお送りしました。  
 それではまた、いつかどこかのチャンネルでお会いしましょう。  
 さよーならー!』  
ぶんぶんと必要以上に大きく手を振るキッカを中心に画面がズームアウトする。  
そして次の瞬間、画面は砂嵐に包まれていた。  
耳障りなノイズの音に、俺はようやく我に返る。  
「やべ」  
下着の中に冷たい感触。  
「な、なんだったんだ、今のは……」  
夢、にしてはあまりにも鮮明すぎる。  
耳にこびりついたセラフィの嬌声。  
身悶えるその姿。  
頭には最後に表示された電話番号が焼き付いていた。  
そしてパワーチャージ用の天使たちの顔も。  
テーブルの上に放り出してある携帯が目に入る。  
俺は震える手を伸ばし――。  
 

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