「おう、これから仕事か?」
人間の所に向かっている時、天使に声をかけられる
「そうよ、あんたは?」
「俺は今帰るところさ。ま、がんばれよ」
「はーい。お疲れさん」
このあたりの天使と悪魔の関係は、比較的穏やかだ。
場所によると、天使対悪魔でかなり深刻な争いを繰り広げている地域も
あるらしいが、ここではそんな空気は微塵も無い。会えば軽口もたたく。
もっともこんな、神もいるけど「ホトケサマ」もいるような地域で
躍起になっても仕方が無いと言うことか。天使も悪魔もただ自分に
与えられた仕事をこなすだけ。共存共栄。
「やあ、アデイラ」
また天使がやってきた。この穏やかで、張りのある声は、苦手なあいつだ。
大天使サリエル。
「これから仕事かい?」
そういって奴は私と並んで飛びはじめる。
「…ああ、医者の娘がまただんなに浮気をされたんだ。
これから嫉妬と怒りを煽りに行ってくる」
嫌いな奴だが、中程度の階位の悪魔である私は大天使である彼を
むげには出来ない。
彼は神から指令された役職ゆえに、大天使の一人でありながら時として
堕天使の汚名をかぶる事がある。だが、彼は明らかに我々悪魔とは違う。
普段は人間界をふらついてるが、〔最後の決戦〕の時には
至極当然と言った顔で七大天使の一人として振舞い、
神の玉座にはべるのだろう。
「またか?この前『許しを』を説いたばかりなのに…」
うんざりとした顔でサリエルはため息をつく。私は彼を睨み付けた。
「お前、その時、あの娘と寝たんだろ」
彼は、おっ、と小さく驚いたが、すぐまた清らかに微笑んだ。
「なんと人聞きの悪い。私は神の教えを説きながら彼女を慰めただけだよ。
人間にはあのやり方が一番効くからね。それに、夢の中での行いだから、
体は綺麗なまま」
こいつ本当に最低な天使だよな。
見た目は優雅で洗練された振る舞いの美しい若者だ。
その優しく甘い微笑みは見る者の動きを奪い
彼の説く教えは、まるで天界に流れる美しい旋律そのもののよう。
表向きは本当に、清く正しく、美しく。
…それなのに、目の前のこいつってば………
「お前の尻尾ってさ〜、何のためにあるわけ?これ」
いきなり乱暴にサリエルが私の尻尾をつかんで来た。
びくっ、体が大きくとびはねる。
「うわ。びくんってしちゃって、今の、何?もしかして性感帯か?ここ」
面白そうにサリエルは私の後ろにまわると、もう片方の手で
尻尾をなで上げてきた。
違う、そこは性感帯じゃない。
なんていうか、尻尾は急所だ。
変な触られ方をされると不愉快…というかかなりイライラする。
尻尾が無い奴には分からないだろうが。
「なあ、ずっと気になってたんだこのしっぽ。これ、気持ちいいわけ?」
「違う…離してくれ」
不愉快な気持ちに飲み込まれ、短い言葉を吐くのが精一杯だ。
本当は怒鳴りつけそうになるのをこらえる。
なんせ相手は大天使だ。怒らせたら後々面倒……。
ところが彼は何を思ったのか調子に乗ってきた。
「おまえ、ふるふる震えてるぞ。なんだよ、かわいい…」
ぷっちーん。と何かが切れる音がした。
「尻尾はイラつくだけなんだよ!ゴルァ!!!」
どごっ
振り向きざまの鈍い音と確かな手ごたえ、いや、足ごたえ。
まずい、蹴り、入っちゃった。
空振りさせるつもりだったのに。
慌てて足を引っ込めたが時既に遅く、哀れ大天使サリエルは
地上にまっさかさま。
……って、のんきに見ている場合じゃない。
乳白色の羽を散らしながら落ちていくサリエルを慌てて追いかける。
手が届いた。ぐっと引き寄せ、彼の頭を抱える。
加速が付きすぎて制止が効かない。
ぶつかる。眼下には森。
私はサリエルを抱え込むようにして、激しい衝撃に耐えた。
「いたた……っと、サリエル?」
木の枝に引っかかりながら落ちたので、地面に付いたときには
だいぶ衝撃は緩和されていた。
だが、私の体の上にいるサリエルはぴくりとも動かなかった。
「おい、サリエル?」
地面に横たえ、肩を揺らすが、何も反応がない。
「おいってば!返事してよ!おいサリエル」
もしかして……死んじゃった……?どうしよう、大天使を殺してしまった。
「サリエル……」
サリエルが死んじゃった。サリエルが……。
涙がぼろぼろとこぼれ出て、彼の顔に落ちていく。
サリエル…サリエル…
私はなすすべも無く、彼の胸にすがりついた。
「くっ」
変な声が聞こえた。
あれ。体、揺れてる?
慌てて見上げると、サリエルが必死な顔をして、笑うのをこらえている。
「なっ、お前」
慌ててサリエルから体をはなすと、はじけたように彼は笑い出した。
「おまえ。……最高だよ!必死になっちゃって『さりえるぅ』って、
ひー……。おもしれえ」
「だ、だましたなっ」
「蹴りを入れた罰だよ…あーだめだ。腹、いてぇ」
体を丸めながらひいひい笑っているサリエルの姿に、一度引っ込んだ涙が
再びあふれて来た。
同時に、怒りでわなわなと体が震える
「ひどいじゃないか、ホントに心配したのに!お、お前が死んだら、
死んだらって…」
最後はしゃくりあげて言葉にならなかった。情けない。これじゃ子供だ。
私の様子を見て、サルエルがふっと静かになった。
そして彼は顔を覆っていた私の手をとった。
「やりすぎたな。悪かったよ。…あーあ、こんなに擦り傷いっぱい
作っちゃって…」
そう言うと、サリエルは私の手にキスをしようとした。
「うわ、なにすんの」
手に唇が触れる直前に、私はサリエルの口をもう片方の手で塞ぐ。
「馬鹿、変な意味じゃないよ。傷を直してやるんだ」
サリエルはじゃまくさそうに塞いだ手を退けると、
手に出来た切り傷に口を付けた。
ほんのり、その部分が光ったように見えた。内側から暖かくなり、
痛みが消え、見る間に傷が消えていってしまった。
その奇跡にあっけに取られていると、サリエルは得意げに笑った。
「大天使サリエル様の力もなかなかのもんだろ」
「……」
「お前さ、身を挺してかばうことなんて無いんだぜ、俺のこと。
…傷、全部直してやるから」
じっとしてろ、と有無を言わさぬ口調でサリエルが命令する。
サリエルは、私を手ごろな岩に座らせると、
私に付いた傷にひとつづつ唇をつけた。
ちりちりと焼けるように痛んでいた傷がひとつひとつ消えていく。
かなり大きな傷もあったが、サリエルがその部分に唇を這わせるだけで、
治ってしまう。
体がほんのりと温かくなり、すぐそばにある彼の白い衣から発せられる
ふくよかな花の香りが私を包んで、心地いい。
ずっと、このままで、いたい…
私の心の中で、もう一人の私が呟いた。
長い間、奇跡を受けていた。
体の大きな傷はほとんどもう消えてしまった。
「サリエル。あの…もう、いいよ。」
大天使のくせに私の足の前にひざまずくような格好のサリエルに
何となく申し訳なくなって、私は彼に声を掛けた。
「まだ傷があるだろ」
「でも、もう小さいのばっかだし……もう、これで十分」
サリエルは顔を上げて、私を見た。
じっと目を見つめてくる。私は思わず目をそらした。
「じゃあ……続き、しない?」
サリエルが甘い声で私にささやいた。鼓動が一気に早まる。
「つ…続き?」
私は聞き返す。
言っている意味はその表情から何となく分かっている……けど。
サリエルは腕を伸ばして私の両腕を力強くつかむと、私を岩から下ろした。
「キスしていたら、続きがしたくなってきた」
「……そんな、だめだよ」
サリエルが私の顔を覗き込む。
「だって、好きな女にそんな潤んだ目で見られてたら、こっちだって
我慢できないでしょ」
顔がほてった。そう、私ははじめ『心地よい』と思っていたのに、
彼の唇が体のあちこちを回るうちに、『気持ちよく』なって
しまっていたのだ。
淫らな心の中を覗かれたのではないか、と言う不安を打ち消すように
私は彼を突き放そうとした。
「て、天使がそんな情欲の罪を犯しても…いいわけ?」
「お前悪魔のくせに、なに説教してんの。それに……」
サリエルの瞳が残酷に輝く
「大天使は悪魔には何してもいいんだぜ」
そう囁くと、彼は私の髪を掻きあげ、耳にふっと息を吹きかけた。
体がびくりと跳ね上がる。
「え……?」
「そういう特権があるの。あれは悪魔を改心させ、悪行を阻止するための
試みでした……って言えばね」
サリエルが小さく笑いながら私の唇をふさぐ。
少しずつ彼が体重を掛けていき、私の体の動きを封じた。
半ば強引に舌を入れて私の舌を捕らえると、ゆっくりと絡ませてくる。
「う……う、ん」
苦しい…そう思ったとき、サリエルは唇を離した。
「アデイラ、もしかしておまえって、処女?」
処女…悪魔に処女も何も無いもんだが、要するに今までに性交渉は
あったかないかということかと解釈して、首を横に振る。
すると、そうか、と少し残念そうな顔をされたが、
すぐにまた意地悪そうに笑って髪をなで始めた
「お前、馬鹿だなあ…。処女って言っておけば、少しは優しく扱って
やったのに」
ちゅ、と音をたてて、唇をついばむ。
「でも、その感じじゃ、処女でもないけど、そんなに経験も
多くなさそうだよ…な」
「な、何がいいたいの、お前」
睨み付けたが、ふふふん、と余裕の笑みで返さる。
両手で頬を挟まれ、サリエルはまたゆっくりと覆いかぶさってきた。
さっきより強く唇を吸われる。
口の中を味わうようにねっとりと舌が這い、吸いながらゆっくりと
抜き差しを始めた。……唇が、犯されてる。
「ん、ん…ふぅ……」
自然に息がもれる。
キスがさらに激しくなり、それについていけなくて顔を反らせようとしたが
頭をつよく押さえつけられて、ままならない。
口の端から唾液があふれて、頬に伝う。
もう片方の空いた手が私の膝にふれ、迷いも無く黒いワンピースの裾に
すべり込み、ゆっくりと腿をなで上げていく。
そのまま服を胸までたくし上げるつもりだったらしいが、腰のところで
引っかかる。
サリエルは一旦唇を離すと、体を起して私の胸元に両手を伸ばした。
そしてワンピースのあきのところをぐっとつかみ、
一気に左右に引きちぎった。
「きゃぁ!」
ビィィィィ……!
鋭い音を立てて、ワンピースはざっくりとおへその辺りまで
裂けてしまった。
そのままぐいっと肩を露にされ、胸をはだけられる。
「やだ……サリエル……」
「黒い服ってお前には最高だな。お前、本当に肌が白いからな」
私のその姿を眺めながらサリエルは満足げに呟くと、首筋を上から下に
舌を這わせた。
「はあっ……」
そのまま舌が何度も上下する。
私の顔のすぐ横で、猫が体をこすり付けてくる動きにも似て、
金色の髪の毛で隠されて表情の見えないサリエルの頭が動いている。
さっきより少し荒くなった彼の息使いを間近に感じた。
彼の大きな手の平が胸でゆっくりとまさぐるように動いてから、
硬くなった胸の突起を指で弄び始めた。
「う…ん。…はぁ…。ああ……ん」
吐息を漏らす私の顔を一度覗き込んでからサリエルは胸を舐め始めた。
もう片方の胸は彼の手でもみしだかれたままで、濡れた舌が
胸元を這い回り、胸の突起に絡みついていく。
舌が執拗に先端をなぶったあと、その口で乳首を含むと、
ちゅ、くちゅ…くちゅと音を立てて吸い付いて、味わい始めた。
「あ……あぁん。……あっ…んぅっ……はぁ…はぁ」
甘く痺れる様な感覚が、胸の先端から体の奥に響いていく。
もう片方の胸にも、同じようにされて……。
押し殺そうとしているのに、声が漏れてしまう。
気持ちいい…すごく。
でも、こんなに感じている様をあまり彼には見られたくない。
それは、やっぱり彼が天使の姿をしているから。
「お前、甘い声出すなぁ。……そんなの他の奴に聞かせるんじゃないぞ」
肩で息をする私の姿を楽しそうに眺めながら、サリエルが言う。
「もっと鳴いてみせろよ。ほら」
「ぁあっ!あっ、だめ。…あっ……あっ……あ……ん」
彼はワンピースの裾から手をいれて、いきなり私のその部分に
指を突き立てて中をかき回してきた。
もう十分に濡れてしまっているそこは、容易く彼の指を受け入れてしまう。
「もうこんなに蜜を出して……いやらしいな、アデイラは」
「……いやぁ…あ…ぁあん…」
指はゆっくりと抜き差しを繰り返す。それに反応してしまい、
じんじんと体が痺れてくる。
もう片方の手で服の裾を腰の上までまくられ、弄ばれている部分が
露になる。
サリエルの視線をそこに感じた。
「お前が天使だったらいつもそばに置いておけるのに…残念だな。
でも、天使姿のお前じゃ魅力も半減するかな」
サリエルが独り言のように呟いた。
「この黒くて長い髪も…」
彼の手が私の髪をとり、はらはらと胸の上に落とす。
「その黒い瞳も」
顔をぐっと近づけて、目を見つめる。
「この大きくてやわらかい胸も……淫らな体も」
サリエルは乳首を口に含んで舌で舐め回し、
体の中に入れた指の動きを早めた。
激しく抜き差しされるたびに、グチュグチュと淫らな音が響く。
「あっ、いやっ、こんなの……あっ、……あっ!」
胸と腰から、一度に激しい快感が押し寄せてきた。
体に電気が走ったような感覚にとらわれて、力が入らない。
だめ……もう…だめ……
私は体をひくひくと震えさせ、その日初めての絶頂を迎えてしまった。
「動いてみろ」
「……え…」
あと少しで2回目の絶頂がきそうだという時に、突然彼の動きが
止まってしまった。
絶え間なく続いていた快感に蝕まれ、頭がぼんやりとして、
何も考えられない。
呆然とサリエルの顔を見上げていると、彼はもう一度私に言った。
「イきたかったら、自分で動くんだ」
私の体の中に入ったままの彼の2本の指は、残酷に動きを止めたままだ。
さっきまであんなに激しく、貪る様に私の中をかき回していたのに。
もう抗えない。
羞恥心でいっぱいの私の意志とは別に、腰は勝手に動いてしまう。
さっきまでの淫らな彼の指の動きを再現させようとするかのように。
もっと……。もっと、続きがほしい…。
「う……うう…ん。く…ぅん」
腰を突き上げるようにしながら、前後に動かして、彼の指を
浅い所にもっていっては、深い所まで一気に飲み込む。
この、体の疼きを何とかして……お願い。
すがるようにサリエルを見たが、彼は無慈悲にも少しも表情を変えずに
私の姿を眺めたままだ。
「中がすごいひくついている。そんなに欲しいのか?淫らな悪魔め」
とても天使の口から出る言葉とは思えないその問いかけに、答える気力がない。
私はだた、はあ、はあ、と息を荒くさせ、腰を動かしてその行為にふけった。
大きな波が押し寄せてくる──。
そして、2回目の絶頂に私は達した。
目を閉じて、ぐったりと脱力したままあがってしまった息を整えていると、
サリエルが私の頬をなでた。
目を開けると、すぐ近くに彼の顔があった。
「アデイラ」
「………」
「かわいいよ」
「……お前が優しいセリフを吐く時は、何かたくらんでる時だろ」
「なんだよ、それ」
サリエルが苦笑いしながら、ゆっくりと覆い被さってきた。
「汝、疑うこと無かれ──」
唇をふさがれ、舌が入ってきて、私の舌を絡め取る。
私は彼の背中に腕を回して、体を彼に擦り付けた。
「初めて抱きついてきたな、お前」
サリエルの声は少しうれしそう……気のせいか。
彼も私の背中に腕を回してきて、きつく抱きしめてくる。
私はそれに応えるように彼にしがみついて、足を彼に絡めた。
天使に対してこんな事するなんて考えたことも無かった──今までの
行為が私を大胆にさせてしまっていた。
私を抱きしめたままサリエルの手が脚の間の濡れた部分に伸びてきた。
既に頂点に達して感度の増したそこに、緩やかに指が這う。
「う…ううぅ……ん。サリエルぅ……」
背中に伸ばした手に自然に力が入っていく。
彼の指が入り口の肉をなでる。そして、その上にある突起を捕らえて、
ゆっくりと撫でさすった。
体中で一番敏感なそこを繰り返し指で擦りあげられ、そのたびに背中を
這うように電撃が走る。その快楽にこらえ切れないかのように
奥のほうから蜜があふれ出してくる。
意地悪な言葉で私をいじめるくせに、彼の愛撫はものすごく
激しくて、優しい。
せっかく整った息が、また荒くなる。
「気持ちよさそうだな…」
私は何も答えず、サリエルの胸に顔を押し付けた。
まるでそれが合図になったかのように、サリエルは私の脚を開いていった。
「あっ…」
彼の固く、いきり立った物が私の中を押し広げるように入ってくる。
私の体は待ち構えていたように収縮して彼の侵入を受け入れ、包み込んだ。
「アデイラ…」
サリエルは私を見下ろしたまま、腰を動かし始めた。
「あっ、あっ……あ…ん、あぁ…ん」
彼に突き上げられるたびに、快楽が声になって口から漏れた。
ぐい、と腰を引き寄せ、もう一方の手で片足を大きく広げたまま
押さえつけ、より奥まで入ってこようとする。
一番奥まで届くと、彼は腰同士を擦り合わせるように動かした。
その動きが、私の心を狂わせて、私の体をとろけさす。
「あ……はぁ…ん」
私は彼の動きに合わせるように腰を浮かした。
「お前、すごいな……中で…しごきあげてくる…」
彼は苦しそうに小さく呻き、腰を掴んだ手に力を込めると、ぎりぎりまで
腰を引き、勢い良く奥深くに突き入れた。
「あっ…ん、いや…!ぁあ…ん、あっ…ん」
サリエルはそのままの勢いで、激しく腰を打ち付けてきた。
ずちゅ、ずちゅ…と動きに合わせて淫らな水音を二人の体は奏で続けた。
はあ、はあ、と息を荒くしながら、私達は互いを貪り合った。
何度も奥まで荒々しく貫かれて、今まで一度も味わえなかった
途方も無い、痺れるような感覚が押し寄せてくる。
耐えられない快感に私は声を上げた。
「サリエルっ…私っ……」
私の求めを受け入れて、サリエルが身を屈めて唇を重ねてくる。
私はその唇を獣のように貪りながら、快感の頂点に登りつめた。
びくびくと体が震え、絶頂の最中の収縮が彼の物を締め付ける。
サリエルは快楽に表情を歪めて動きを早め、
私の中に精を放った。
(あ……私。寝てたんだ)
目をあけて、ぼんやりとあたりを見回す。
真っ白だ。
地面があったかくて、なんだかふわふわしている──気持ちいい。
……寝床にこんな毛皮敷いていたっけ?
私は横になったまま、寝ぼけ眼で毛皮をさすった。
すると、毛皮と思ったのは羽毛を敷き詰めた絨毯だった。
立派な羽だな……
何の鳥だろ?
ぼんやりとした頭で、私は試しにその羽を一枚むしってみた。
「いてっ」
背後で聞き覚えのある声がした。
驚いて寝返りをうつと、そこには憮然とした顔の大天使サリエルが……
「って、何でお前が家にいるのっ?」
私がそう叫ぶとサリエルは一瞬きょとんとした表情になって、
また、不機嫌な顔に戻った。
「馬鹿。お前何寝ぼけてんだよ。俺がお前の家にいるわけ無いでしょ」
私は急いで飛び起きた。
そこは森の中だった。昼間の……。あっ。
そこで、全てを思い出した。
サリエルとの生々しいやり取りも。
慌てて下を見た。絨毯だと思って寝ていたのは、サリエルの翼だった。
「お前さぁ、風きり羽を抜くなよ。生えるのに時間かかるんだぞ。
骨につながってるから、マジで痛いし」
横になったまま腕を組んで、非難めいた顔で私を見上げる。
あ、そうか。私が羽の上にいるから、身動き取れないんだ。
私が、ごめんと言って羽から降りると、
まったく、しょうがねえな、とぶつぶつ言いながらサリエルが体を起した。
ばさっばさっと何度か羽を震わせて、ついていた泥を払う。
「ねえ、サリエル……」
「あ?」
「もしかして、私が寝てる間、ずっと敷いていてくれたの?……翼」
私がそう言うとサリエルはものすごく微妙な顔をして、
「おまえがあのまま寝ちまったんだから、仕方ないだろ」
とぶっきらぼうに言い放った。
私は少しうれしくなってサリエルの肩に寄りかかった
「……何?」
「ふふっ」
「……」
短い沈黙があった。
私は幸せな気分に浸っていたが、サリエルはこんな事を言い出した。
「お前、改心した?」
「え?」
何のことかわからずに聞き返す。彼はニヤニヤして私を見つめた。
「昼間の『あれ』は、お前を改心させるためのお説教だったんだぜ。」
「──!……あんなんで、改心できるわけ無いでしょ」
私はあきれたように彼を睨みつけた。
だが、彼は少しも動じない。
「そうか……じゃあ、次はどんな手を使うかな」
そう言って、サリエルはいつもの私に見せる、意地悪そうな笑みを浮かべた。
その時、ワンピースの前がはだけたままで、胸が露になっているのに
気が付いて、私は慌ててそれを掻き合わせた。
「…………悪魔」
私が呟くと、彼は面白そうに笑った。
「天使は白き翼にその罪を隠す」
END