なぁ、聞いてくれないか?俺は最近新しい所へ引っ越した。
自立のためといえば聞こえがいいが単に実家だと両親がうるさいというのが正直なところだ
思い立ったその日に向かった不動産屋で見つけた物件がここだった。
少しボロいが立地条件は非常に良く、家賃も周辺の半分以下というすばらしい物件。
…まぁ、こういうぱっと見美味しい物件は絶対に裏があるのだがこれも例外ではなかった。
出るんだってよ。それも幽霊ではなく悪魔が。実際に目撃情報や、事故もおきているらしい。
だが俺はその話を信じるつもりは無かった。
せっかく見つけたこの物件、幽霊や悪魔ごときで手放すには勿体無すぎる。
大方、どっかの地上げ屋がここを回収するためにでっち上げた噂なんだろうよ
…と俺もあの時まではそう思っていた
他のところになると今はよい場所(どころかそこそこ以下すら)はないらしく俺は早速契約した。
で、引っ越してきたんだが、まぁ、聞いてた通り以上にボロい。
一応住めなくは無いが条件と値段を考えるとこんなものだろう、…と納得することにしておく。
マジでなんか出てきそうだな…と、一瞬思うがすぐに打ち消す。
んなもんいるわけ無いし、いたとしてもホームレスくらいだろう…
と、合鍵で中に足を踏み入れた俺はとんでもないものを見ることになる…
俺はドアを開けた瞬間固まった。
驚きのあまり、しばらく動けなかったっつーか思考がフリーズした
えー…俺と同い年くらいのパンクス男が女の子っつかょぅι゛ょを膝の上に乗せている。
ライオンっぽい耳に赤い羽根、サソリの尻尾。せっかくのケモ耳も野郎ではこれッぽっちも嬉しくない。
ょぅι゛ょはふわふわの白いワンピースが似合う、かわいい女の子だ。10年後に期待する。
だが、微笑ましい光景とは程遠い。
「…ひゃあん、だ、だめ…だよぅ…も…ゆるしてよぉ…」
ところどころ破れてはだけた、なんか白いものまみれのワンピース。その中に突っ込まれた男の手。
「…ああ…やぁぁぁぁ…!」
スカートの中から聞こえてくる湿っぽい音。
「ふ…あああ…っ!」
あからさまに児童福祉法違反な光景が広がっていた。
(警察!警察!)
引っ越したての新居のドアを開けたら目の前でコスプレ男が幼女を手篭めにしている光景を見たら誰だってまず驚くだろう。当然だよな。
まだ電話は通じない。俺は迷わずポケットの携帯を取り出し…
「圏外?」
なんてこった。
っていうか、まず児童福祉法違反で住居不法侵入の不審人物をつまみ出せ。
「お前、何やってるんだよ!」
ああ、こいつがロリコンじゃなかったら。
助けてくれてありがとうハハハお嬢さん当然のことですよまあ素敵、ってなフラグが立つところなんだが。
この光景をある意味ラッキーと受け止められないこともないかもしれないが。
あいにく、俺にそういう趣味はない。
「んだよ、てめえ?」
なんですかこの巨大な態度は?ここは俺の部屋だぞコンチクショウ。
「初対面の住居不法侵入児童福祉法違反婦女暴行犯にてめえ呼ばわりされる筋合いねーっつうの。とっとと帰れ!」
「帰れるもんならとっくに帰ってるっつーの」
開き直った不遜な態度に、俺はついにブチ切れた。
そして。
「…てめえ、なかなかやるじゃねえか…」
「お前のパンチもなかなか効いたぜ…」
引っ越したてで物が何もなくて良かった。と、そう思うような死闘の末、俺たちはフローリングの床にぶっ倒れることになったのだった。
勝った。
ほんの一瞬、一瞬だが、先にヤツに膝をつかせることに成功したのだった…
…………違う。
なんで俺は引っ越し早々自分の新居で初対面のロッカー野郎と殴り合いの末に拳で語った友情を芽生えさせてるんだ。
俺が欲しい馬鹿一はそっちじゃない。こんな番長なフラグはいらん。
「この俺様が負けるとは…ま、勝ちは勝ちだ。よろしくな、ご主人」
「…………は?」
無駄に爽やかな笑顔のコスプレ男。
その時の俺の顔はとんでもなく大マヌケだったに違いない。
「だから、てめえは悪魔に膝をつかせたんだよ。こうなっちまった以上しょうがねえだろ」
悪魔?
マジですか?
ただのコスプレメタル野郎じゃないんですか?
あっけに取られてる俺の目の前でやたら偉そうな自称・悪魔はハラハラしながら事の成り行きを見守っていた幼女に叫んだ。
「聞けそこの天使!今この男が俺様の主になった!」
はい?
「ちょっと待て、俺は何も」
「そして俺様の事は「お兄ちゃん」と呼べ!「ダーリン」でも可だ!俺様は貴様をマイスイートハニーと呼ぶ!いいな!」
「うん!わかったよ、おにいちゃん」
待て待て待て素直に頷くなそこの幼女!そしてどさくさにまぎれて何を要求してるんだ自称・悪魔。
自称・悪魔はわしわしと幼女の頭をなでくりなでくりしてる。おい、犯罪者になつくな幼女!
もう一体どこからツッコんでいいのかわからない。まずは…
「…まず、俺に分かるように事情を説明してくれないか?」
ここ、俺の部屋だよなあ…
自称・悪魔が言うには、この部屋に俺の前の前の前の…面倒なので先代と呼ぶ。
先代住人に呼び出されたらしい。だが
「願いを唱える前に脳溢血でポックリ逝っちまったんだよ」
「はあぁ?」
だから結局先代の願いは分からずじまい。
「そのせいで俺様は魔界に帰れなくなっちまった」
「生き返らせるわけには行かなかったのか?」
「無理。誰かの願いでもねえのに無許可で生命を扱うのは規約違反なんだよ。せっかく順調だった出世街道をドブに捨てんのもちょっとな」
まったく偶然に起こった完全な自然死。先代の死と悪魔との間には何の因果関係もないので手の打ちようもないらしい。
「こんな前例今までになかったからな。魔界側でもどうすりゃいいか分かんねえからタライ回しにされちまってる。
何度掛け合っても『とりあえず待機してろ』って、その一点張りだ」
なるほどな…
「事故を起こすのはなんでだよ。八つ当たりか?」
「俺様だって起こしたくて起こしたわけじゃねーよ」
自称・悪魔が言うには人間界は正と負が微妙なバランスを取り合っているんだそうだ。
そして負の塊みたいな魔界の住人や正の塊みたいな天界の住人が長く人間界に留まると、その場所の正と負のバランスが乱れてしまうらしい。
「ジオパシックストレスみたいなもんか…」
聞いたことがある。その土地の「気」が悪いと、病気になるとか不運になるとか。
「そう、それだ。大事に至らねえようにはしたけどな。責任の一端は俺様にもある」
意外と律儀だな。
「んじゃあ、そこの天使は?」
「…奴ら、バランスを取るために俺を消しにかかって来やがった。この子はそれを知らせに来てくれたんだ」
ふんふん、それで天使か。
「万一にでも消されたらたまんねぇからな。悪いが支配させてもらった。要はバランスさえ乱れなけりゃ問題ないだろ」
「わたしね、お兄ちゃんがころされちゃったらやだな、って…」
天使だとかいうょぅι゛ょが頷く。
「俺様がいるせいで正と負のバランスが乱れてるなら、そばに天使がいれば問題はない、はずなんだ」
「わたしが…おにいちゃんといっしょにいたら…おにいちゃん、たすかる、よね…?」
純粋な瞳で俺たちを見上げる天使。
ひょっとして、この悪魔に惚れてるとか?お子様は100%守備範囲外なのでどうでもいいが。
天使の年齢があと10歳上ならショックの一つもあったかも知れないんだがな。
「…じゃあ、さっきしてたことは…」
そうか、だからこんな小さい子を。
悪魔と契約するときに身体を差し出すみたいな話なら俺も聞いたことがある。
そこまで差し迫った事情があったなら…まあ、仕方ないかもな。合意の上でのことではあるようだし。
誰だって命は惜しい。
案の定、そうだよ、と言う悪魔。やっぱりね。
「それに、目の前に年頃の可愛い女の子の一番食べごろな女体があったらする事は一つ、だろ?」
待て。ちょっと待て、話の後半部分待て。
前言撤回。結局ただのロリコンかよ!
「俺様を消しに来やがったことはムカつくけどな…」
そりゃそうだろう。たらい回しの末に事なかれ主義で殺されるなんて、誰だってごめんだ。
「まあ、マイプリティハニーとの出会いに免じてその件に関しては不問にしといてやる。俺様は心の広い悪魔だからな」
よく見たら尻尾がスカートの中でうごめいてるし。
「おにいちゃ…だ、だめだよぉ…」
尻尾でスカートの中をいじりながら、抱きかかえてる両手でぺたんこの胸を触っていた。
白いワンピースの生地に乳首が浮き上がっている。
「や…だいじなお話してるん…でしょ…だめだよぉ…」
そこをこすられるたびに天使が身をよじり、結果的によりしっかりと手が当たることになって小さな身体をびくりと震わせる。
爽やかに何をやってるんだこの男。まさかさっきこの子の目が潤んで顔が赤かった理由ってこっちなのか?
一瞬でもこのペド男に同情した俺がバカだった。
「と、言うわけでだ。もうトラブルが起こることはねえから安心して住んでいいぞ、ご主人」
…大問題を忘れていた。
「おい、俺はお前らと契約するつもりはこれっぽっちもねえぞ!」
魂なんて取られてたまるか。
「契約じゃねえ、支配だ。お前は俺様に勝ったんだからな」
別物なのか。
「要するに、召喚獣になったみたいなもんなのか?」
「おう、そんなもんだ。つーわけで、これからよろしくな」
召喚獣、ねえ…
まさかこんな事になるとは。訳ありの物件だと聞いてはいたが、ここまで予想の斜め上をかっ飛んだ展開になるとは思っていなかった。
どうするよ、俺。
こいつら、悪い奴でもなさそうだ。食費も人件費もかからないなら置いといてもまあいいか…
「…分かったよ…」
ルームシェアだと思っておこう。高性能ホームセキュリティがついてるようなもんだと思えば悪くない。
考えてみれば最初はオカルトハウスを予想してきたわけで、そう考えると憑かれるよりはマシだ。
「それから最初の命令だ。ご主人はやめてくれ。落ち着かないんだ」
男に言われたってまっっったく嬉しくねえっつかキモいセリフだよな、これは。
「…そうだな…」
しばらく考え込む悪魔。
「あいよ、マスター」
喫茶店のマスターみたいな言い方でアレだが、こっちの方が落ち着いていい。
実際、それ以来この辺りで事故やらそういうのは起こっていない。
俺にはむしろ運が向いてきたような気がする。今日だって福引でお買い物券が当たった。
ただ一つ問題は。
バイトから帰ると、リビングにあの二人がいた。
「愛してるぜ、マイラブリーハニー」
なぜか、いや原因は一つしかないがスクール水着の天使を抱き上げる悪魔。
スク水の上からくっきり浮き上がった天使のすじを撫でている。
「ひゃあっ…だ、だめだよ。おにいちゃ…あうっ…やめ…」
見る間に生地が水分を吸ってぴっちりと張り付いていく。天使の小さな羽根が小刻みに震えている。
「よ、おかえりマスター」
何やっとるんじゃこいつは。
「ご主人さまっ、ごはん、できてるよ…っ…あっ…おにいちゃん、ご主人さまもかえってきたよ…ひあぁっ…やめ…」
困ったようにうつむく天使と可愛い可愛いといいながら笑ってる悪魔。
俺は見ていない。何も見ていない。
「なんで俺、ロリコンとょぅι゛ょのバカップルと同居するハメになってるんだ…?」
……俺はやっぱりとんでもない物件を引き当ててしまったんだろうか。