「うーん…完ッ壁迷ったなーこりゃ…」  
 
深緑の樹海の上空。あたし―悪魔のアニシスはどっちに行っていいか分からず右往左往していた。  
 
この下に広がる樹海、通称「神秘の森」。この森には悪魔と天使の領地の境界線がある。あたしは今ちょうどその境界線ギリギリの所を飛んでいる…と思う。  
と思うって言うのは、境界線自体があやふやではっきりしない上、あたしの現在位置が分からなくなってしまったからだ。  
 
更に運の悪いことに、辺りには濃い霧が立ち込めていて遠くまで見渡せない様になってしまった。  
 
「あー最悪…やっぱもっと天気のいい日にすりゃ良かった…」  
後悔先に立たず…かぁ…。  
あたしはもともと飛ぶのは得意じゃない。そして長時間ぶっ続けの飛行…。ちょっと気を抜いただけで墜落しそうだ。  
 
さて…これからどうするか…。  
あたしは自分のこれからを思案することにした。  
 
と、  
 
ばこん  
 
背後で小さく音が。  
 
「?」  
何だろう?あたしは気になって振り向いた。  
ヒュゴッ!!  
 
「うわっ!?」  
 
て、鉄塊!!  
それも大きな!!  
 
「…くっ!」  
あたしは咄嗟にそれを避けた。  
 
避けきれた…つもりだった。  
 
チュンッ!!  
「あっ!!」  
鉄塊があたしの羽を掠った。  
 
グラッ…  
バランスが一気に崩れる。  
 
「あっ…うわあああああああっ!!!」  
 
あたしは真下の樹海に真っ逆様に落ちていった。  
 
 
 
「う…」  
 
ここは…?  
樹海の…中…。  
 
体のあちこちが痛い…。落ちた拍子に所々打ったみたいだ。  
 
「ついて無さ過ぎだろ…」  
 
体を起こそう…。あたしは痛む体に鞭を打って起き上がろうとした。  
 
ズキッ  
 
「!?いっ…!」  
 
左足に鋭い痛みが走る。あたしはその場に崩れる。  
足を捻挫したらしい。  
畜生…とことんツイてないな…。  
あたしは段々自分の運の無さに苛々してきた。  
 
あたしはズルズルと芋虫の様に這い出した。こんな所を天使にでも見つかったら…捕まって殺されるかもしれない。何とかしないと…。  
 
「あっ居た!」  
 
突然の声に体が跳ねる。  
「やーごめんごめん大丈夫か?」  
 
あたしは首だけで後ろを振り向くと、そこには一人の青年天使が居た。  
 
「わー、ごめんボロボロになっちゃったな。ちょっとこっち来て」  
その天使はグィッとあたしのうでを引っ張って立ち上がらせた。  
 
「ハァ?あ、ちょっと?」  
 
ぐいぐい引っ張られてどこかへ連れて行かれそうになる。  
「その傷とか治してやるから」  
引っ張りながら天使は言う。怪しい。天使が治す?悪魔のあたしを?  
そんなうまい話ある訳ない。  
「ちょっどこ連れてく気だ!」  
あたしは目一杯抵抗した。  
「あ?俺ん家」  
こいつの家?ますます怪しい。普通見ず知らずの悪魔を家に連れて行くだろうかいやそんなことある訳ない。絶対怪しい。  
「いやだー!!お前ん家なんか誰が行くか!!」  
あたしは更に抵抗した。  
「遠慮すんなって」  
「いやだー!!誰か助けてさらわれるー!!」  
あたしは更に更に抵抗した。  
「人聞きの悪いこと言うなッ!」  
 
ぽきっ  
 
「はぐっ!」  
さっき捻挫した足首を軽く蹴られた。  
そんな…人の弱点を容赦なく叩くなんて…あ、悪魔みたいだ…。  
 
 
そうこうしているうちにあたしはとうとう変な小屋に連れて来られた。  
 
 
「…よし、これでいいな」  
そう言うと天使は包帯をあたしの足首に丁寧に巻いた。  
 
「あとは…この擦り傷だけだな」  
そう言ってあたしの膝をペシッと叩く。  
「てっ…ぇな」  
あたしは天使の顔を睨み付けた。  
 
 
あたしが連れて来られたこの場所は、一応この天使の家らしい。  
「なぁ…あそこになんかいっぱい並んでるけど何なのあれ?」  
あたしは戸棚にズラッと並んだ何かを指差した。  
「あ…あれ俺が作った薬」  
「薬!?やっぱりお前」  
「やっぱりってなんだ」  
「怪しい奴だったんだな」  
「違うよ!!俺は只ここで風邪薬とかの研究してるだけ」  
「ふーん、どーだか」  
「疑り深いねぇ…えーと傷薬は…」  
そういいながら戸棚を物色している。  
「ここに無かったかな…ごめんちょっと上探してくるわ」  
バタバタと二階へ上がっていった。  
 
あたしはびっこをひきながら戸棚に近寄って色々見て回った。  
 
中には変な色の軟膏やヤバそうな薬などがあったが、その中に一つの塗り薬を発見した。「…これ傷薬…じゃあないか」  
それでも一応手に取り蓋を開けてみた。  
「…お」  
良いにおいがする。甘いにおいだ。  
「…」  
少しばかり手に取ってみる。薄いピンク色のそれを、  
 
何となく傷口に塗ってみた。  
 
「…やっぱ傷薬じゃないよな」  
すぐに拭った。  
 
 
「お待たせー」  
それから5分位経って、天使は戻ってきた。手には何だかそれっぽい薬を持っている。  
「…はいこれでよし」最後に傷口の上に絆創膏を貼った。  
 
「…なぁ」  
「ん?」  
「あんた名前なんつーの?」  
「俺?俺はセロっつーんだ。お前は?」  
「…アニシス」  
「そっか。アニシスか…うーん、なかなかいい……あれ?」  
「…?どうした」  
「ちょっ…お前ちょっと後ろ向け!」  
「ハァ?」  
あたしは言われるがままに後ろを向いた。  
「あ…ヤバ…」  
「何が?」  
「痛かったら痛いって言えよ?いくぞ?」  
 
…???  
 
ミシッ  
 
「ぎゃああっ!?ちょっおまっ!!」  
突然背中…いや羽に激痛が走る。  
 
「あぁ…やっぱり…」  
 
「??何がだよ?」  
 
「羽…骨折してるぞ」  
 
 
…最悪。  
 
 
 
あたしは結局セロの家にとどまることになった。セロは外傷は専門外だったが、近くに他に建物が無いことと、歩いて樹海を抜けるのは到底無理ということで、セロが何とか頑張ってくれるそうだ。  
 
それに、あたしが骨折したのはセロの責任が大きい。というのも、今朝あたしを攻撃してきた鉄塊はセロが放ったものだというのだ。遠くで飛んでいたあたしを鳥と見間違えたらしい。無事仕留めたら薬の材料にしようと思ったのだそうだ。  
 
そのことについてはセロは何度も謝ってくれた。  
 
 
「なぁ…骨折って…大体どれぐらいで治るもんなの?」  
「…うーん…程度にも依るだろうけど…最低でも一週間は必要じゃないかな」  
「…一週間かー…」  
あたしは思わず溜め息をついていた。  
その溜め息が聞こえたのか、セロはまた「ごめん」と謝った。  
「もうごめんはいいよ。やっちゃったことは仕方ないしさ」  
「…なぁ、そもそもなんでお前、こんな所うろついてたんだ?こんな…辺鄙な場所」  
「ああ…只飛ぶ練…いや何でも無い」  
「?何だよ?」  
「何でも無い」  
あたしは適当にはぐらかす。あんな事他人には絶対言えない。  
「言えよ。気になる」  
「しつこいなあ」  
「言えないのか?言えない程恥ずかしいことなのか?」  
「別に…そんなんじゃないけどさ」  
いえ、そうです。すごく恥ずかしいことです。絶対言わねぇけどな。  
「とぶ れん…?飛ぶれん…?あ、飛ぶ練習?」  
「何で分かった!?」  
…あっ。しまった。  
 
「えっマジで?飛ぶ練習?」  
 
「………」  
 
終わった。一生の恥を晒してしまった。  
 
「えええ?マジで?その歳にもなって未だに練習必要なの?」  
「…この歳にもなって未だに練習してて悪かったな…」  
 
…そうなのだ。あたしは実はつい最近まで飛べなかったのだ。  
その理由は…今度は一生だけでなく来世まで持ち越しされそうな程の恥なので言わない。絶対言わない。何がなんでも言わない。  
 
「マジかよありえねー…」  
セロはまるで珍しい物でも見るような目つきだ。  
「うるせえ!そういう反応されたく無かったからから言いたく無かったんだよ!」  
そうだ…そういう反応って結構傷つくんだ。  
「あ…うん、悪かったよ」  
反省したみたいだ。できればもうこのことは忘れて欲しい…。  
 
 
「あ、もうこんな時間か…ホラ、怪我人はさっさと寝ろ」  
「え…まだ早いじゃん」  
まだ寝るには早過ぎる時間だ。  
「たくさん寝た方が治りが早いだろ。そのベッド貸すから早く休め」  
「…はいはい」  
あたしは渋々ベッドに横たわろうとする。  
「ああうつぶせで寝ろよ、わかってるだろうが…。寝返りもあまりうつなよ」  
「無茶言うなよ…完全に寝ちゃったらどうしようもないじゃん」  
「まぁそれはそうだけどさ。俺まだこっちでやることあるから、なんかあったら呼べよ」  
「うん…分かった、おやすみ」  
「おう、おやすみ」  
セロはそう言って明かりを消し、隣りの部屋にいってしまった。  
 
あたしは枕を顎に敷いて物思いに耽った。  
なんでセロはあんなに優しいんだろう。あたしは悪魔で彼は天使なのに。本当なら樹海で会った時に殺されていてもおかしく無かった筈だ。  
 
奉仕の精神、だっけ。セロはそういうのでいっぱいなのかな。  
 
万物博愛?アガ…アガなんとかとも言うっけ。そういうのだったとしたら本当に天使らしい天使だな、セロは。何だかいつも損してそう。  
 
ふふっ。  
そんなセロの姿を想像したら、自然と笑みがこぼれた。  
 
 
 
 
 
「あーっよく寝た!」  
あたしはそう言って伸びをし、コキコキと首を鳴らす。  
窓からは気持ちのいい朝日が差し込んでいる。  
「早速だけど朝飯食いたいな。おーいセロー!」  
あたしは隣りにいる筈のセロを呼んだ。  
 
返事が無い。まだ寝てるのかな?  
 
「…あーあよっこらせっと」  
 
あたしは仕方なく起こしに行くことにした。  
 
案の定机に突っ伏して寝てる。  
「やれやれ…おいセロ、朝だよー」  
あたしはセロの背中を軽く揺すった。  
「…」  
「おーい起きろー、朝だって」  
「……」  
段々揺さぶる力が強くなっていく。  
「ちょっとセ」  
「うるさいっ!」  
 
バシッ  
 
「うわっ!?」  
 
羽で叩かれた!?  
ね…寝起き悪ッ!!  
しかもねぼけているとはいえ怪我人を攻撃した。万物博愛じゃ無かった…。  
 
「…ちっ、なんだよこいつ、もっと怪我人をいたわれよ」  
 
しょうがない、なんか適当に食べさせてもらうか…。  
あたしは奥にあった小さめの冷蔵庫を開けた。  
 
「…げっ!なんだこいつベジタリアン!?」  
冷蔵庫の中には…見事に野菜しか入っていなかった。  
「うーん…野菜このままでってのは…」  
 
ちょっとな〜…。  
 
ふと、あたしは昨日見たあの薬の事を思い出した。  
あの嘘みたいな良いにおい。あたしは花に誘われる虫の様にあの薬のもとへ歩き出した。  
 
「…あった」  
 
戸棚から例の薬を取り出し、またにおいを嗅ぐ。昨日と変わらず甘くていいにおい。  
 
「これ何の薬なんだろ?」  
あたしは薬を少量手に取った。  
薄いピンク色のそれは、何だか水飴の様に見える。  
 
ゴクッ…。  
 
無意識に喉がなる。あたしはおそるおそるそれを口に含んだ。  
 
 
…  
 
 
……  
 
 
味がしない…。  
 
においはすごい良いだけに勿体無いなぁ…。  
あたしは薬を戸棚に戻した。  
 
 
空腹は果物なんかを適当に食べて満たした。  
 
腹が満たされると一気に暇になる。セロは未だに起きない。  
 
「あーあ暇くせ…」  
 
この暇な時間をどう過ごそう。薬なんか見ても面白くないし、外になんかは出歩けない。ここにじっとしてるしかないのか…。  
 
…?変だな…?  
体がちょっと熱い…?風邪かな…?  
でも寒気は無い。風邪のそれとは違うような…。  
 
 
おかしい…。段々酷くなってきた。息も乱れてきたし…どうしてこうなったんだろう…。  
もしかして…さっき舐めたあの薬が悪かったのだろうか…?  
 
どうしよう…?モヤモヤした気分は収まりそうにない。体の所々が変に疼く。  
もし…もしこのままこのモヤモヤが収まらなければ…  
 
あ、あたし…  
 
死んじゃうんじゃ…!!!  
 
 
いやだ…!!死にたくない!!  
 
「セロ!!セロォ!!」  
そうだ。セロならきっとなんとかしてくれる。あたしは必死にセロの名前を呼んだ。  
 
「あ?どうした?」  
しばらくしてセロがやってきた。  
「セロ!助けて死ぬ!」  
「はっ!?」  
 
 
 
「はぁ!?薬を舐めたぁ!?」  
あたしはセロに薬を舐めた事を告げた。  
「おまっ…馬鹿たれ!!なんでそんな勝手な事すんだ!!一歩間違えれば死ぬことだってあるんだぞ!!」  
「だから死ぬって言ってるんじゃん助けてよ…」  
あたしは既に半ベソをかいていた。  
 
「…それで?どの薬を舐めたんだ?」  
「あれ…ピンク色の良いにおいのやつ…」  
「ピンク…あのドロッとしたやつか?」  
多分それだ。あたしは頷いた。  
「…本当にそれか?錠剤になってる方じゃないよな?」  
二回頷く。するとセロの顔が強張った。  
「水飴みたいで美味しそうだったから…」  
あたしはまた怒られるかと思って急いで言い足した。  
が、セロは聞いていない様だった。  
何か戸惑った表情でブツブツ一人言を喋っている。  
 
あたし助かるのかな…?  
 
「…おし、とりあえずお前は水飲んで落ち着け」  
「…うん」  
 
 
セロはすぐ水を持って来てくれた。その水を一気に飲み干す。  
「…どうだ?少しは落ち着けたか?」  
変わった様な気がしない…。  
それに、セロには悪いが、セロが近くにいるとモヤモヤや疼きが酷くなっている様な気がする…。  
首を横に振った。  
「そうか…」  
「お願いだから早く直してよぉ…」  
あたしは最早全ベソ状態だった。  
「…」  
セロは何か真剣な顔をしていた。  
「…おっし!」  
 
パシッ!  
 
セロはいきなり自分の頬を叩いて気を引き締めた。  
「アニシス。今から俺の言う事を落ち着いて聞け」  
「…うん」  
セロは真剣な目であたしを見つめてそう言った。  
「…いいか?今からお前のそのモヤモヤを治してやるが、それで俺がお前に何をしても、絶対に我慢するんだぞ?」  
「…うん」  
「どんな事をしても、だぞ」  
「………うん」  
 
あたしの返事を聞くとセロは小さく頷いた。  
「じゃあ…いくぞ」  
その合図を聞いて、あたしは急に怖くなって目を閉じた。  
 
ムニュッ  
 
「!?」  
突然何かに胸を揉まれ、あたしは体を少し後退させた。  
 
え…?  
まさか…今の…セロ?  
「…あっ…びっくりした?」  
「今の…セロがやったのか…?」  
「そうだよ…恥ずかしいかもしれないけど、今のお前を治すには、これしか無いんだよ」  
「ホントに…?」  
 
セロは何も言わず頷いた。  
セロは何も悪くない。これも全部あたしの自業自得なんだ…。  
それに、さっきあたしは我慢すると言った。全てセロに…まかせよう。  
 
「…分かった…続けて」  
 
セロの手がまたあたしの胸に伸びてきた。  
「…ぅ…」  
セロの大きな手の平が、あたしの胸をゆっくりと揉んだ。  
「あ…なんかっ…モ、モヤモヤが酷くなってる…!」  
「…我慢しろ、もうしばらくで終わるから…」  
 
そういいながらセロは服の中に手を滑り込ませた。  
「…っ!!」  
たまらず体が跳ね上がる。  
服越しとは比べ物にならない衝撃が走った。  
「は…うぁっ…」  
更に、セロはあたしの首筋にキスをしてきた。  
ちゅ…ちゅ…  
わざとだろうか…?セロの口から音が漏れる。  
 
あたしはセロの唇の音を聞いていた。何だかセロがさっき迄とは別人に思えてきた…。  
 
と、その時、  
「あ…ぅわっ!!」  
胸の先端から痺れる様な感覚が全身に走った。  
 
セロの指が胸の先端をいじくっている。  
「はぁっ…あ…ちょっ…!!」  
あたしは体の力が抜けてセロにしがみついた。  
それでもセロは指の動きを止めず、痛い位に胸の突起はいじられる。  
モヤモヤは一向に収まらない。  
 
「あんぅっ…ぃっ…」  
このままじゃっ…気絶しちゃいそうっ…!!  
そう思った瞬間、ふっと、胸に走る感触が消えた。  
 
「ぁ…」  
 
あたしは次に何が来るのかと焦った。  
 
 
「服を脱いで…ベッドにうつぶせになって」  
 
あたしはセロに言われた通り下着一枚でベッドにうつぶせになっていた。  
セロはさっきから何かを探している。  
あたしは折れていない方の羽を揺らして待っていた。  
 
「…あった」  
向こうでセロの声が聞こえ、セロは何かを持って戻ってきた。  
そしてセロはあたしの後ろに座ると、  
「よいしょ」  
あたしの腰を持ち上げた。  
「あ…ちょっと…」  
うつぶせであたしの腰を持ち上げる…要約すると、あたしは…セロの方に尻を突き出す格好になってしまった。  
「っ…〜〜〜〜〜っ!!」  
あたしはとてつもなく恥ずかしくなって、枕に顔を埋めた。  
「おい」  
「…ん…?」  
あたしは枕の中でくぐもった返事をする。  
「…下着、脱がすぞ」  
「…へっ!?」  
 
あたしは枕から顔を起こす。  
今までの流れからすれば当然…かもしれないが…下着を、脱ぐ。つまり…。  
 
ちょっと待てまだ心の準備が…!!  
 
そう言うより早く、セロの手があたしの下着に伸びた。  
 
「………っ!!」  
あたしはまた恥ずかしくなって枕に顔を再度埋めた。  
そのままセロはあたしの下着を下ろす。  
「ふっ…うぅっ…!」あたしは不安と緊張と恥ずかしさで膝が笑っていた。  
その笑っている膝の辺りまであたしの下着を下ろしたセロは、次にこんなことを聞いてきた。  
 
「なあ…お前さ…」  
「うん?」  
「まだ、その、ほらあれだ…その…しょ…処女…なのか?」  
「え………ショジョって………何?」  
「…………つ、つまりだ、今までも誰かとこういう事をした経験はあるのかって聞いてるんだ」  
「…ないよ」  
「…そうか、分かった」  
 
?どういう関係があるんだろう…?  
 
あたしはその質問の意味がよく分からなかった。  
 
と…その時だった。  
 
ちゅぷっ…  
「うわぁあっ!?」  
 
…な、何!?  
 
ちゅぷ…ちゅく…  
「あっ…やぁっ…うっ…」  
 
すっかり麻痺したあたしの脳に送られてきたのは、濡れた水音と…それから、  
 
何かがあたしのアソコに這い入る感覚。  
 
「あぅっ…はっ…な…にぃ…?」  
 
細い。細くて…くにくにと動くそれ。  
 
まさか…セロの…指?  
そう思ったら、ぼっと顔が熱くなった。まさに顔から火が出る感覚。  
 
「どうだ…?気持ち良いか?」  
「ぁ…うんっ…凄くっ…!…でも…な…んか…っ…物足りない、気も…するっ…!」  
あたしは喘ぎながらやっとの思いで言った。  
「…そうか…」  
すると、あたしの中の指がゆっくり引き抜かれる。  
 
「うっ…ん…はぁ…はぁ…はぁ…」  
 
凄く気持ち良かった…。でも…まだ体のほてり  
モヤモヤした気分も全然なくならない。それどころか更に悪化している。  
 
…ん?後ろの方で、何かゴソゴソと音がする。箱を開ける音…何かを破る音。  
…セロが何かしているのだろうか…?  
 
しばらくして、音がやんだ。  
「…おい」  
セロの手があたしの太腿を軽く撫でる。  
「ひっ!?」  
あたしは小さく悲鳴をあげた。  
「体の力を抜いて…」  
「え?」  
「できるだけリラックスするんだ…」  
「え…いきなりそんなこと言われても…」  
「…ゆっくり深呼吸してみろ」  
「…うん」  
 
あたしは言われた通り、ゆっくりと深呼吸をしてみた。  
 
すると…少しだけ緊張がとけ、震えも幾らか収まった。  
 
「…よし、じゃあ…いくぞ」  
 
…は?いくって、何が?  
あたしが突然のことに困惑していると、  
 
ずぷっ…  
 
あたしのアソコに激痛が走った。  
「ああぁあぁあ痛い痛い痛い!!!」  
あまりの痛みに今さっきほぐれた体が一気に強張る。  
さっき深呼吸させたのはこの為だったのか…!  
 
激痛でよく分からなかったが、何かがあたしの中を無理矢理押し広げて入って来た感覚はよく伝わった。  
 
その何か…何だか熱くてそれに固い。その上ドクンドクンと脈打つ感覚まではっきりと伝わってくる。  
 
何…これ…?  
 
「ごめん…痛いだろうけど…ちょっと我慢してくれな」  
セロがあたしの頭を優しく撫でる。  
「んっ…」  
あたしは枕の中で頷いた。  
自業自得だ。  
 
 
ずっ…ずちゅっ…  
あたしの中でその何かは…音を立ててゆっくり動き出した。  
 
「いっ…うぅうっ…」  
動く度に激痛が走る。でも…何だかそれだけじゃない。  
少しだけ…痛みの中に気持ち良さが混じっている…様な気がする。  
 
「うぅ…つぅっ…!」  
…こんなんで…ホントに治るのかな…?  
 
「いっ…あぁっ…!」  
動きは徐々に速くなっていく。その度に聞こえてくる  
 
水音は大きくなり、痛みもまた増していく。  
 
だけど…だけどやっぱり気持ち良さも大きくなっている。  
 
「うっ…あ…!」  
セロの呻き声が小さく聞こえる。  
 
セロも苦しいのかな…?  
ごめん…あたしのせいでこんなことになっちゃって…。  
 
あたしは何だか悲しさと罪悪感と痛みで涙が溢れた。  
 
と、その時。  
 
じゅぽっ…!  
 
あたしの中で動いていたそれが、一層動きを激しくし、あたしの中を奥まで突きあげた。  
「うぁあああっ!!」  
あたしはたまらず大きな叫び声をあげた。  
 
たまらなかったのは痛みじゃない。その痛みに勝る程の快感があたしの体を襲ったのだ。  
「あっ…あぁあっ…ひぁんっ…!」  
 
更に何度も同じ様にそれはあたしの中を突きあげる。  
 
何度も、何度も。  
 
「ふぁあっ…やぁっあんっ…!」  
 
突きあげられる度にあたしは今まで出したことの無い恥ずかしい声を漏らしてしまう。  
「あっあぁんっ…うんっ…!」  
 
あれ…?  
何だか…頭が…真白になってきた…。  
 
こ…今度こそ…気絶しちゃう…!!  
 
「あっ…だっ…めぇっ…セ、ロォッ…!!」  
だめだ…意識が…遠のいていく…。  
 
「はぁっ…やぁあっ…だめっ…お、おかしくなるよぉっ…ふぁっ…あああああっ!!」  
 
その瞬間…あたしの体は燃え上がる様に熱くなり、あたしの意識は…快楽の波に飲み込まれていった…。  
 
 
 
 
「い…おい!」  
ペチッと頬を叩かれる。  
 
「う…んん…?」  
 
あたしは手放した意識を取り戻した。  
 
「…??」  
あたしは…どうなったんだっけ。  
そうだ…変な薬を飲んで…体が変になって…そして…セロと…。  
 
「…あっ」  
 
あたしは俯いた。セロと顔なんて合わせられない。  
 
「どうだ…?変な気分、収まったか?」  
「え?あ…そういえば…」  
いつの間にか、さっきまであんなに酷かったモヤモヤや体のほてりがなくなっている。  
「…うん、スッキリした…ありがと」  
「うん…まだ何か言うことあるだろ?」  
「あ…薬、勝手に弄ってごめん」  
「なさいは?」  
「…なさい」  
「はいよし。汗とかで気持ち悪いだろ?シャワー浴びてこいよ」  
「あ…うん、じゃあ…そうする」  
あたしはそう言うとふらふらと立ち上がった。  
「あ…肩貸そうか?」「いい!いいです要らないです!!」  
「そうか?つかなんで敬語…」  
 
またセロに触られたらなんかおかしくなりそうで…。  
 
ごめん…せっかくの善意を…。  
 
 
 
 
 
 
それからあたしは…セロの事を変に意識するようになってしまった。  
一方セロの方は、あれから何事も無かったかの様に接していた。  
 
あと…あの薬の正体は最後まで教えてもらえなかった。あれは結局何の薬だったんだろう…?  
 
 
―そして、数週間の時が過ぎて―  
あたしの骨折はすっかり完治し、あたしはセロの元から離れることになった。  
寂しいけど、これも仕方ない。セロは薬の研究だってしなくちゃならないんだし、いつまでもあたしの面倒を見ていられないのだ。  
あたしは自分に何度もそう言い聞かせた。  
 
「じゃあ…さよならな」  
「うん…いや、やっぱりちょっと待て」  
「え?」  
 
「やっぱりベランダから行かないか?」  
「え…な、なんでベランダ?」  
「まだちょっと不安なんだよな。ほら、助走みたいなのあった方が良いだろうし」  
そう言うとセロはあたしのうでを引っ張って無理矢理二階へ。  
「あ…ちょっと」  
ちょっと待て…ベランダっていやいやあんたそれって…!!!  
 
 
 
 
そしてあたし達はベランダへ。  
ベランダはそれ程までの高さじゃない。  
 
ゴクッ…  
大丈夫…もうアレは克服できた筈だ。  
大丈夫大丈夫。  
 
「ほら」  
「う、うん…」  
あたしは慎重にベランダの太い柵の上に乗り、ゆっくりと羽ばたき始めた。  
 
下を見ない様に意識しながら、タイミングを合わせて…  
 
 
飛び下りた。  
 
 
…が。  
 
「あああぁああぁやっぱり高いとこだめーーーーーーっ!!!」  
あたしは咄嗟にベランダの端につかまった。  
「………は?」  
 
 
 
 
「………いっやーーー…お前…くくっ…高い所が苦手なんだったら早く言えよなー…」  
セロは笑うのを堪えながらそう言った。  
「………」  
「しっかしアレだよな、皮肉だよな、せっかく飛ぶ能力あっても…高所恐怖症じゃな…あーおかしい…くくくっ…」  
 
「うるっせえなテメェ天使のくせしていつまでも人馬鹿にして笑ってんじゃねぇよ!!」  
「いや…でもいくら何でも高所恐怖症は流石に天使でも」  
「黙れボケっ!!」  
あたしはセロの背中を蹴った。  
「うわっおいおいまた捻るぞ足」  
「あっ…そうか」  
「あーもういっそのこと高所恐怖症が治る薬でも作ってみるか?」  
「えっマジで!?」  
「はっバーカ嘘だよそんなん薬で治せるか」  
「死ねっ!テメェ天使のくせして他人騙しやがったな!!」  
 
 
 
あー最悪…。  
 
…でも、ちょっと幸せ…かな。  
 
 

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