焼き魚を食べるのが苦手な人がいる。箸を上手に使えないから、どうしても魚の身がぐずぐずになって、
食べ残しの部分も多くなるし、なにより見た目も汚らしい。
吸血鬼にも、そんな風に不器用な者がいるらしい。
彼女もそんな吸血鬼の一人だ。ただ、弁護するのであれば、彼女はまだ幼いのだから仕方がないのかもしれない。
「あ〜あ、またぐちゃぐちゃにしちゃったよ〜」
ぐちゅりと音を立てて、まだ暖かさの残る内臓を指でぐりぐりとかき回す。
そうして、指先についた僅かな血を、かわいらしい舌でペロリと舐める。
それは、まだ吸血鬼になったばかりの少女。外見年齢はもちろん、実年齢も本当に少女であった。
だから吸血鬼の食事の作法にも、まだ慣れていなくて、首筋からスマートに血を吸うのがとても下手だった。
それでついつい、獲物の肌を裂き、肉を抉り、時に内臓を引きずり出して、そこから噴出す血を啜ってしまう。
そんなことをすれば、無駄に流れてしまう血も多く、食事を終える頃には返り血で全身がベタベタになってしまうのに。
なにより、食事を終えた後の惨状が下品で、汚らしい。
「また、お姉ちゃん達に怒られちゃうかなぁ?」
少女は、口の周りはもとより、顔も着ている服も、その指先も、全身を返り血で真っ赤に染めている。
そうして、もはや原型を留めない、グチャグチャの肉塊に、手を突っ込んでは、指についた血を懸命に舐めていた。
「えへへ・・・おいしっ♪」
覚えたての血の味は、少女に礼儀作法を忘れさせる程に、甘い蜜のようであった。
「まったく、これじゃ、まるで食人鬼だわ」
少女の姉、正確に言うと同じ上位吸血鬼をマスターとする年上の吸血鬼は、少女の姿に呆れたように溜息をついた。
食人鬼は筋肉と凶暴さだけが売りの、吸血鬼よりずっと格下の存在であるから、
それに例えられるのは、人間でいえば、犬や猿扱いされたような、そういう言い回しだ。
「ごめんなさぁい・・・」
それがわかったから、少女は恐縮して謝った。
「あなたの面倒をマスターから任されてる、あたしの身にもなってちょうだい。あなたがいつまでも、
こんなはしたない吸血鬼じゃ、あたしまでマスターに誤解されちゃうのよ?」
姉は小言を言い続けている。
「えへへ、お姉ちゃん・・・なんだか昔のお母さんみたい。ちっちゃい頃はね、泥んこ遊びしてね、よくこんな風に叱られたんだ」
つい最近まで人間だった少女は、そんな姉の姿に、かつての母親だったものを重ね見た。
「昔の」と言ったのは、自分がかつての自分とは別物であることを本能的に知っているからだろうか。
「げっ。あたし、そんなにオバさん染みてんの? 不老不死でも、やっぱりそんな風になっちゃうのかなぁ?」
姉は顔をしかめ、ついで天を仰いで嘆いて見せた。
姉の外見上の年齢は少女よりも、少し年上といったところだが、実年齢は少女の母親よりも上のはずだ。
「はぁ・・・嘆いても仕方ないか。マスターやお姉様達くらいの長生きになれば、威厳とか貫禄に変るだろうし」
ここにいる姉の上にも、同じマスターに仕える吸血鬼達がいる。
マスターの趣向で、家族のように暮らしている彼女達は便宜上、年上の吸血鬼を「姉」、年下の吸血鬼を「妹」と呼んでいた。
「はぁ・・・お姉様になるって、こんな大変なことだったのね」
ずっと末っ子だった姉は、ようやく妹が出来て喜んでいたのも束の間。
その妹はとっても手のかかる甘えん坊だったのだ。
「さて、と。何度も注意してるのに、いつまでもお行儀の悪い子には、そろそろお仕置きが必要かしらね?」
姉の目がキラリと怪しく光った。
「・・・お仕置き・・・? 痛いのやだぁ」
少女はビクっと体を振るわせた。姉の雰囲気に怖さというか、不気味さを感じてしまったのだ。
「あはっ、冗談よ。さ、全身血でベトベトだから早く綺麗にしなくちゃね」
そう言って姉は笑った。それで少女も安堵したようだ。
「うん、じゃあ、ボク、シャワー浴びてくるよ」
笑顔で答えて、その場を去ろうとする。が、その少女の肩を姉ががっしりと掴んだ。
「いいのよぉ、わざわざシャワーなんか使わなくても♪ あたしが綺麗にしてあげるから♪」
顔はにこやかな笑顔であったが、やっぱり姉の目は妖しい色をたたえていた。
「お、お姉ちゃん・・・でも、どうやって・・・?」
「この仔達を使うのよ♪」
そう言って姉はペットの犬達を連れてくる。この犬も吸血鬼(?)だ。
普通の犬では不老不死の吸血鬼のペットになるには寿命が短すぎるから、わざわざ吸血鬼と同じにしたものだ。
当然、この吸血犬達も血は大好きだ。
「さ、いいこと? この子についた血を綺麗に舐めとるのよ」
ワンッ、と一声上げて吸血犬達は少女へ向かっていく。
「ええ〜っ、ボク、そんなの嫌だよぉっ」
少女は不平の声を上げて、逃げ出そうとする。
パチンッ
だが、姉が指を鳴らして魔力を発動すると、少女自身の影が立ち上がり、少女に絡み付いてきた。
「きゃっ、やあぁっ! お姉ちゃん、やめてよ〜っ」
少女はほとんど泣き声になっていた。自らの影に囚われた少女は身動きが取れなくなっていた。
「駄目よっ。いつまでもお行儀の悪い子にはお仕置きが必要なの」
最初にお仕置きといったのは、やはり冗談ではなかったのだ。
「だいたい、そんなにいっぱい血がついてるのに、シャワーで流しちゃうなんて勿体無いのっ。
一生懸命生きている人間達から、あたし達が生きてく為に命を分けて貰ってるんだからね?
あたし達は下品な食人鬼なんかとは違うんだから、ちゃんと残さず綺麗に食べてあげるのが供養なのよ」
「うう〜、だってぇっ」
影に囚われて身動きのとれない少女は、姉のお説教に口を尖らせる。
「だって、じゃないのっ。だから、あなたにこびりついてる血は全部、犬のエサよ。わかった?」
ワンッ♪
犬が声をあげて、少女に接近すると、その足元、血のたっぷり染みた靴下を舐めた。
「ひゃあっ!」
靴下越しながら、犬に舐められる感覚は、身動きがとれないもあって、ひどくくすぐったいものだ。
犬は少女の靴下に、自分の唾液をたっぷり含ませて、染みこんで固まっている血を溶かすようにして舐める。
「ひゃんっ・・・やぁ・・・そんなの・・・汚いよぉっ」
すぐに他の犬達も殺到し、同じようにしてぴちゃぴちゃと舐め始めた。
少女の血に汚れていた衣服が、今度は犬の唾液に汚されていく。全身血塗れだったから、少女はあちこち舐められてしまう。
「・・・あっひゃっんんっ・・・っっんぅ 」
くすぐったがっているのか、感じているのかはわからない声を少女はあげていた。
「あっ、あなた、こんなところまで汚してたの?」
姉が少女のスカートの裾をめくる。見れば、真っ白いパンツが真っ赤な、今は赤黒く変色した血で染まっているのだ。
「あなた、地面に直座りしたでしょ? も〜、ほんとにはしたないわね」
少女は獲物をぐちゃぐちゃにしてしまった後、その辺りに流れ出しているのも構わず、ちょこんと座って食事をしていたのだ。
そんなだから、パンツは汚れて当然だったし、太股の内側にも血がたっぷりこびりついていた。
「ほら、ここを舐めなさい」
姉は犬に命じて、少女の太股を舐めさせようとする。
ハッ ハッ ハッ
涎を垂らしている犬が、少女の足の間に入ってくる。
「やだっ、やだぁっ! そんなの汚いよぉっ! お姉ちゃん、やめてっ、許してよぉっ!」
それを見た少女は、自分の影に縛られて動かせない手足を必死に動かしてもがいている。
「やだよぉ・・・今度から・・・ひっ・・・ちゃんと綺麗に・・・ひっく・・・食べるから・・・ねえ、お姉ちゃぁんっ・・・」
とうとう少女は泣き出して許しを請い始めた。しかし、姉に容赦はなかった。
「だぁめ。一度きつ〜いお仕置きしないと、あなた反省しなさそうなんだから。ほらっ」
少女の耳元で許しを請う願いは却下されたことを告げると、姉は犬を少女にけしかけた。
「はひゅ〜っ・・・んんっ・・・や・・・やぁぁ・・・」
犬は少女の剥き出しの太股を舐め始めた。
服の上から舐められるのとは、濃さが違った。舌が肌をはっていく感触、滴り落ちる唾液、ハッハッと規則的に吹き付ける呼気・・。
「・・・んんっ・・・ひゃあっ・・・ぁんっ・・・ボク・・・んああっ・・・ボク、変になっちゃうよぉ・・・」
少女のまだ幼いとも形容できる肉体に、確かな官能が高波のように押し寄せていた。
少女は頬を紅潮させ、目はとろんと焦点を失いはじめている。幼い顔立ちに、悦びを知る女の表情が浮かび始めている。
・・・ゴクリ・・・
そのアンバランスで、背徳的な妖艶さを見せる少女の痴態に、姉の方が思わず息を呑んだ。
「ねえ、それはどんな風に変なの? もしかして、気持ちよかったりする?」
姉は少女にそう聞いていた。
「・・・あっ・・・はううっ・・・へ、変なのは・・・変なんだよぉっ・・・!」
姉の問いかけに少女の答えは答えになっていなかった。
「もっと、ちゃんと答えなさいってば」
焦れた姉は少し乱暴な物言いになった。その様子に少女の体は少しだけビクっと震えた。
「え・・・えっと・・・ね・・・ああっんっ・・・お・・・お兄ちゃんに・・・ね・・・」
「お兄ちゃんじゃなくて、ちゃんとマスターって呼びなさいっ。それで、マスターに?」
喘ぎ声の合間に懸命に答える少女に、さらに先を言うように促す姉。
「・・・やっ・・・はんっ・・・お、おにいちゃ・・・マスターに・・・気持ちよく・・・してもらったのに・・・ひゃんっ・・・似てる・・・よぉ・・・」
それを聞いて、姉のほうも熱病にかかったような笑顔を浮かべた。
やはり、少女は性的な快感を感じているのだ。幼い妹がバター犬ならぬ吸血犬の愛撫に感じている。
「・・・やばっ、すっごくかわいいっ」
思えば、少女が妹になるまで、ずっと末っ子だった姉は、可愛がられることはあっても、誰かを可愛がることのない立場だった。
だから、という訳でもないだろうが、姉はあらためて妹の可愛さを噛み締めたいと感じていた。
「お前達、もういいから下がりなさい」
姉は犬達に命じる。少し名残惜しそうにしていたが、犬達は黙って命令に従った。
「はぁ・・・はぁ・・・お姉ちゃん・・・ごめんなさぁい・・・次から、ボク、もっと綺麗に食べるから・・・」
ようやく犬達から解放された少女は、脱力して横たわったまま、姉に謝った。
「あれ? まだ、お仕置きは終わりなんて言ってないわよ?」
姉はやはり頬を赤く染めて熱病にかかっているような笑みを浮かべた。
「・・・まだ・・・なにかするの? もぉ、やだよぉ・・・」
喜びも束の間。姉がまだ、何かする気だと知って少女は落胆する。
「ショーツもまだ、汚いままだったわね」
姉は少女の太股の間に潜り込んでいった。
血溜まりの中で、ペタンと腰を下ろしていた為に血がたっぷりと染みこんだ少女のショーツ。
犬に舐めさせなかったのは、さすがに可哀想かな、と思ってのことだったが、
少女の痴態に思いがけず欲情してしまった姉が、そこに向かっていくことになった。
「・・・お、お姉ちゃん・・・やめてぇ・・・きゃっ」
少女は弱弱しく姉に懇願するが、ぴちゃ、と音がたった瞬間、体をビクリと痙攣させた。
犬に太股を舐められていた時のもどかしい感じはなく、はっきりと少女の中で
(きもちいい)
と認識される行為だった。
「やだ、乾いて固まってても結構美味しい。あなた、こんな美味しい血をあんな勿体ない食べ方してんのっ」
ショーツに染みこんでいた血を舐めた姉は驚いていた。
「ほんとにしょうのない子ね」
姉はそういうと、少女のショーツにむしゃぶりつきはじめる。
もちろん、そのショーツに包まれている妹の感じる部分を意識しながらだ。
「・・・あっ・・・きゃんっ・・・あ、あっ・・・くふぅ・・・」
乾いた血を舐めとろうと、舌を突き出すようにして唾液をショーツに含ませる。
だが、犬達にそうさせていたのとは違い、姉の舌は布越しながらダイレクトに敏感な部分を刺激しているし、
なにより姉は意識的に少女の性感を刺激するように舌を動かしていた。
「・・・やっ・・・おね・・・えちゃん・・・あふっ・・・あんっ・・・」
「やあね、変な声出さないでよ。あたしはただ、あなたを綺麗にしてあげてるだけよ」
少女を嗜める姉。だが、喘ぎ声の理由は誰よりも姉がよくわかっていることなのだから、意地が悪い話であった。
「ほんとおいし。こんなので美味しいなんて、あなた獲物を見る目があるのかしら?」
はたまた、人のショーツに染みたものを舐めて美味しいと感じる姉の味覚に問題があるのか?
姉はより味わう為に丹念にショーツを舐め続けた。それは少女にとって執拗な愛撫に他ならない。
やがて、姉は舌先に感じる味に血以外のものが混じりはじめた。
「やぁっ・・・ボク、気持ちいいよぉ・・・」
少女がそれを口に出した時、姉は少女の股間から顔を離した。
「? ・・・お姉ちゃん・・・」
不思議に思って少女が姉に問いかける。
「ごめんごめん、ちょっとやり過ぎちゃったね。もう、いいからシャワー浴びてきなよ」
にっこり笑って姉は少女を解放した。先ほどまでの意地悪な様子はもうなく、
かわいい悪戯がバレた子供のような、照れ臭そうな表情であった。
「じゃ、あたしは自分の部屋に戻るから、ちゃんと綺麗にするんだよ?」
そう言って、姉は踵を返した。
「ま、まってっ。お姉ちゃんっ」
堪えきれずに声をあげたのは少女である。股間をもじもじとすり合わせている。
「お、お仕置き・・・ちゃんとしてくれないと・・・ボク、またご飯ぐちゃぐちゃにしちゃうよ・・・」
少女は恥じらいながら、そう姉に告げていた。
「じゃあまた、犬を呼んでくる? あの時、泣いてもうしないって言ってたわよね?」
姉は少女に提案する。
「えっ? やだやだっ。そっちのお仕置きじゃなくてぇ・・・」
犬に舐められるプレイは、少女のお好みではないらしい。
「なら、別にいいじゃない。お仕置きは十分でしょ? 気持ちよかったらお仕置きじゃないわ」
姉は素っ気無く言う。
「う〜・・・」
「まっ、ちゃんと口に出してハッキリと言ってくれるなら、かわいい妹の頼みくらい聞いてあげるけどね」
姉はそう言って、「優しいお姉ちゃん」の理想を体現したような姉妹愛に満ちた笑顔を見せた。
「うぅ〜、お姉ちゃん、酷いよぉ・・・」
「何が酷いのよ? あたしはあなたのお願いだったら、聞いてあげるって言ってるでしょ?
でも、ちゃんと口に出してもらわないと、あなたのお願いはわからないわ。さ、言ってみなさい」
姉は本当に意地悪だった。
「・・・お姉ちゃん・・・ボク・・・あのね・・・」
恥じらいの表情を浮かべて、なかなか切り出せない少女。
それでいて、股間をもじもじとさせていることに本人は気付いていなかったりする。
だが、やがて覚悟を決めると少女は必死の表情で言葉をひねり出した。
「・・・お姉ちゃんにも気持ちいいことしてもらいたんだよっ」
「そこのところ、も〜っと具体的に言ってくれないとわかんないわ」
「うぅ〜」
かくて、二人の夜は更けていくのだ。
<おわり?>