銀の弾丸を詰めたベレッタが火を噴く。
「へっへ〜ん、あたんないよ〜っ」
吸血鬼の住む城に似つかわしくない、明るく元気な声は吸血鬼の少女のものだ。
さらに数発を吸血鬼少女に撃って牽制する。命中はしないが回避の動作の分だけ動きを
封じ、私は後退する。
「も〜、往生際が悪いなぁ。大人しく諦めて、ボクのご飯になっちゃいなよ」
黒檀のように黒く、腰まで届く長い髪。
雪のように白い肌。
そして、血のように紅い瞳と唇。
外見年齢は子供そのもので、精神的にも幼い(あるいはそのように装っているだけ?)
吸血鬼であった。頭には可愛らしいリボンまでつけている。
「はぁ……はぁ……」
吸血鬼ハンターの少女は息を切らしながら、城の廊下を懸命に走る。
吸血鬼ハンターの少女の名はケイト。幼い頃から吸血鬼狩りの業を仕込まれてきた若き
エリートハンターである。もっとも、理論と技術ばかりで経験に乏しい駆け出し、という
のが周囲の評価であった。
ケイトは自分の実力を示す為に、単独で仕事を成し遂げようと必死になっていた。
ケイトが狩りのターゲットに選んだのは、ある地方の城に住む吸血鬼である。最近、こ
の城の周囲で非常に汚らしい食い散らかされた死体が次々に発見された。
まだ、血を吸うのに慣れていない幼い吸血鬼の仕業であるとケイトは踏んだ。実際、外
見年齢も幼かったことにはケイトも驚いたのだが。
ブルネットのショートカットを揺らしてケイトは走る。
昼間とはいえ、太陽光が遮られた城の中。吸血鬼は人間を超える身体能力を見せ付ける
。必死に走るケイトの足音に対して、吸血鬼少女のそれは楽しげなステップであり、それ
でいて引き離されることなくついてきている。
(けど、勝算はあるっ)
ケイトとて無策で吸血鬼と対峙したわけではない。目的の場所は近い。廊下の角を一つ
曲がってケイトはそこで立ち止まった。
「はぁ……はぁ……よかった、ちょうどいい頃合だ」
息を整えながら、腕時計に目をやる。
「何がいい頃合なのかな?」
気がついた時には、すでに目の前に吸血鬼の少女がいた。
「あっ、そっか。人間ならちょうどお昼ご飯の時間だもんね。それで、ボクのご飯になる
のにちょうどいい時間帯だってことか」
吸血鬼の少女は満面の笑みを浮かべて、一人納得している。
「でも、昼間はボク達は寝ている時間なんだよ。だから、不正解、ぶっぶ〜♪ ボク、寝
てたの乱暴に起こされて起こってるんだよっ」
吸血鬼の少女は一歩二歩とケイトににじり寄っていく。吸血鬼の少女が怒るのも当然で
、寝込みを木の杭で襲われたのである。
「残念だけど、あたしはご飯になるつもりはないんだ」
ケイトは懐に仕舞っておいたリモコンのスイッチを押した。
轟音とともに天井が崩れる。そこから差し込んでくる太陽光が吸血鬼の少女の体を包み
込んだ。
「あっ! あっあっ、やだっ、熱い熱いッ! いやだああぁぁぁっ!!」
吸血鬼の少女は悲鳴をあげた。陽光に晒されて、その雪のように白い肌は見るも無残に
焼け爛れていく。
これがケイトの勝算であった。吸血鬼の眠る棺桶を襲う前に、城の中にいくつも仕掛け
を施しておいたのである。ここでは天井に爆弾を仕掛け、爆破することで太陽光を取り込
んだのである。
「熱いッ……あつ……やだ、死にたく……な……」
外見が幼く美しい少女であるだけに、陽光に焼かれて力尽きようとしている吸血鬼の姿
は憐れにも思えたが、ケイトはすぐに迷いを断ち切る。
「お前はそうやって命乞いをしていた人間を何人、その牙の犠牲にしたんだ?」
ケイトはそう冷たく言い放った。
その時、突如、陽光が遮られた。
「な、なにっ?」
ケイトが天井を見上げると、そこには多くのコウモリが群がって天井の穴を塞いでいる
。
チャリッ チャリッ
金属がぶつかりあう音が規則的なリズムで近づいてくる。
「まったく、フィーネったら手間を取らせますわね。吸血鬼ハンターの一人や二人、相手
にすることもできないなんて」
現れたのは、上質の蜂蜜のようなブロンドの長い髪、サファイアのような青い瞳、白磁
のような肌の少女であった。外見的にはハイティーンといったところで、清楚なイメージ
をドレスを着ているが、拍車付きブーツを履き、腰にはガンベルトを巻いてシングルアク
ションアーミーを帯び、手にはM1873ボルトアクションライフルを携えている。
「アナ……ベ……ル……お姉ちゃん……」
陽光が遮られたことで、辛うじて命を取り留めた吸血鬼の少女・フィーネは、アンバラ
ンスな格好をした少女・アナベルを見上げてその名を呼んだ。
「かわいそうに。こんなになってしまって。さぞ熱かったでしょう」
アナベルはボロボロになったフィーネの体を天井の穴の下から遠ざけようと抱き上げよ
うとする。
銃声。
「ぐぅ……」
ベレッタを取り落としたケイトが右手を抑えて、痛みに顔を歪めていた。
ケイトは、アナベルがフィーネを抱き上げる為に両手が塞がるのを好機と見て、ベレッ
タで狙い撃とうとした。が、それよりも早くアナベルの早撃ちがケイトのベレッタを狙い
弾き落としたのだ。それもライフルで。
「さて、かわいい妹をこんな目に合わせたからには、それなりの覚悟はお持ちですわね?
」
フィーネを日当から遠ざけると、アナベルはケイトを殺気を込めた視線を送る。
「い、妹?」
「中々、面白い奇策を用いるハンターのようですけれど、たった一人でわたくし達、我が
マスターの血族を倒そうというには、無謀にすぎましたわね」
M1873のレバーを動かして次弾を装填する。
「うっ……」
ケイトは銃を準備した音に身を固くする。
「じっくりなぶり殺しにしてあげますわ。これはわたくしが趣味で集めております、骨董
の銃ですの。西部劇はお好きですかしら?」
アナベルは愛おしそうにM1873を撫でる。
「つまり、これはただのライフル銃ですわ。撃たれれば、ただ死ぬだけ……血族に加わる
チャンスも、奴隷として生き延びるチャンスも、あたなに差し上げませんわっ」
ふいにアナベルの口調が強くなる。アナベルはケイトの足元を狙い打つ。ケイトのつま
先数mmのところで弾がはじける。
ケイトがそれに気を取られて、下を向いた瞬間、次はケイトの耳元を弾丸が飛びぬける
。続けて発砲するアナベル。ケイトの反対の耳元を弾丸が飛びぬけ、立て続けにケイトの
体を掠めるように撃ちまくった。レバーアクションライフルは装弾数の限りは連射が効く
のである。
ケイトは身じろぎ一つ息継ぎ一つ出来ず、ただ立ち尽くすばかりであった。
「っはぁ……はぁ……はぁ……」
発砲音がやみ、ケイトが緊張を解いてようやく息をすることが出来た時。
再び発砲。
「ひいぃっ!!」
アナベルはすべての弾丸を撃ちつくさずに、一発だけ残しておいたのである。
「あっ……ああっ……」
油断した一瞬の発砲。命中こそしなかったが、ケイトを襲った恐怖は並々ならなかった
。
その証拠にケイトの股間からは生暖かい液体が勢いよく溢れ出てしまった。
「あらあら、おもらしだなんて、レディーのすることではありませんわね」
ケイトの醜態にアナベルはくすくすと微笑む。
「くっ、こ、殺すならさっさと殺せッ! 嬲るなっ!」
羞恥と屈辱に頬を染めて、ケイトは精一杯の気力を振り絞ってアナベルを睨みつけた。
おもらしした後では、その迫力も半減してしまうのであるが。
「ええ、殺してしまいたいのはやまやまなのですけれど」
アナベルは少し残念そうな表情になる。
「今はフィーネの治療を最優先にしなくてはなりません」
言いながら腰の大きなホルダーにM1873を仕舞い、ケイトに近づいていく。
「フィーネの傷を癒すには、新鮮な血が必要なのですわ」
「や、やめろっ! あ、あたしは吸血鬼なんかにはっ……んんっ」
アナベルはケイトの首筋に牙をつきたてた。
「んんっ……あぁ……ふぁ」
ケイトは血を吸われる不可思議な感覚に声にならない声を発する。体がビクビクッっと
痙攣を起こした。
だが、アナベルはケイトの血を嚥下することなく、口の中に溜めていく。
「……」
アナベルは一旦、ケイトの首筋から牙を抜き取ると、口の中に血を留めたまま、フィー
ネの元へやってくる。
「ん……んん、ちゅ、ちゅぷ、じゅる……」
アナベルはフィーネに口移しでケイトの血を飲ませ始めた。互いの唇を合わせて、舌で
フィーネの唇を割りひらき、血を流し込む。
「……んっ」
すると見る見る内にボロボロになっていたフィーネの体が、元の幼さ故の瑞々しさに満
ちた体に戻っていく。
「アナベル……お姉ちゃん?」
「よかった、フィーネ」
アナベルは安堵の表情を浮かべてフィーネを抱き寄せた。口元を血に染めた二人の美少
女が抱き合う姿をケイトは呆然と見つめている。
「アナベルお姉ちゃん、ボク、もっとご飯が欲しい」
血を摂取したことで一応の回復はしたが、かなりの重症であったことを思えば、まだま
だ足りないということであろう。
「うふふ、フィーネったら食いしん坊さんですわね。ちょっとお待ちなさい」
再びケイトのもとへ歩み寄り、その首筋に牙を立てるアナベル。
吸血鬼の美少女二人は、血を媒介にした濃密なキスを楽しんだのである。
<続く?>