……つけられている。
学校帰りにちょっと本屋に寄り道したのがいけなかったのか。
日が落ちたころ、名状しがたい不吉な予感と存在感に気がついた。
「……誰?」
振り返るが、誰もいない。アパートやマンションが立ち並ぶ住宅街だというのに、不気味なほどに人がいない。
私は指名手配中の狂気殺人鬼のニュースを思い出し身震いした。
(早く帰ろう)
冬の北風が制服とコートだけの私を凍えさせた。アルビノに生まれついた私は身体が弱い。
(テスト期間で風邪引いたら留年しちゃうし)
「可愛い天使よ」
背後からの声に、心臓が止まったかのような衝撃を受けた。
恐る恐る振り返ると……、目の前に金髪碧眼の西欧人が立っていた。
流暢な日本語に優しい笑み。美しい瞳に見つめられ、思わず目を逸らした。
「あ、あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ」
訳もわからずとっさに口走った。自分で赤面しているのが判る。恥ずかしさとこの特異な状況から逃げ出したくなる。
「おいで……可愛がってあげよう」
優しく微笑んで彼は手を差し伸べた。
(逃げないと)
逃げないときっと家に帰れなくなる。そう確信めいた予感。でも身体は走って逃げ出してはくれなかった。身体は私を裏切って快楽の期待に打ち震える。
「ぁ……」
思わず彼の目を見てしまった。微弱な電流の様な快感が私を襲い、ほんの僅かに声を上げてしまう。
「いい声だ。もっと聞かせておくれ天使よ。代わりに快楽をあげよう」
彼から目を離す事が出来ない。胸に違和感を感じ、腕で胸を隠した。鞄がぱたりと落ちる。胸からもたらされるものは、快感。腕からのわずかな刺激に、例えようも無い甘い快楽を返す。ここが外でなければ思い切り胸を揉みしだいて自慰に溺れてしまいそうな。
「やめてください……」
拒絶の台詞。でも、自分でも驚くほど官能的な甘い声。十六歳の私が声を出すなんて。
「はぁん……!」
右手がコートの中に入り、まるで彼の命を受けたかのように胸をまさぐり始めた。左手がコートの上から股間を刺激する。
……気持ちいい。
いつの間にか、私は彼のすぐ傍まで引き寄せられていた。肩を抱かれ、彼の吐息が私の耳にかかる。連続殺人鬼の顔写真を思い出したが、恐怖感はもう無かった。
「堕天の喜びをあげよう、天使よ」
「……はい」
私の首筋に埋まる彼の鋭い牙。ありとあらゆる感覚が性的快感に変換されるような恍惚の瞬間。
「はあっ……はあぁぁぁんっ」
私は処女のまま性の絶頂を覚えてしまった。
血が吸われていくのを感じたが気にはならなかった。絶え間の無い快楽。尽きることの無い淫らな絶頂。揉みしだいた胸が膨らみ、秘所が愛液でドロドロになっているのがわかる。
「堕天使よ、お前は美しい」
「はぁぁぁんっ! 気持ちいいっ! あっあっ…ああっ…きゃあああん!!」
淫らな処女の嬌声が夕暮れの住宅街に響き渡った。