「はぁ、はぁ……」  
「ふぅ、ふぅ……」  
俺の周りにも男女問わず息を荒げている。  
そう、今日の体育はマラソンなのだ。  
校舎を出て決まったコースを5週する。1週約1kmだから5周はかなりつらい。  
でもまあ1、2時間の2時間体育なので、どんなに遅いヤツでも周回はできる。  
そして、早く終わったヤツは、それだけ余った時間遊んでられるので、  
運動神経いいヤツ、っていうか速いヤツにはそんなに苦じゃない。  
……そう。いつもならコイツも苦もないうちの一人だったのだが……  
 
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」  
マラソンでの疲れと、クラスの男子相手にパンツとブラを見せてしまった宮口和美は  
取り囲む男子の視姦攻撃から逃れるべく、必死にコースを疾走していた。  
そこはさすがスポーツ万能なだけあって、マラソンであろうとそこらの男子には負けはしない。  
健康的で豊満な胸元や尻回りを、まるで俺がやるように透かして見ようとする男子の視線。  
“服を透かすような視線”という比喩があるが、  
実際男子達にしてみれば、さっきのハプニングで宮口のパンツとブラを目の当たりにしているのだ。  
それだけに男子達の視線はよりリアルさを増し、宮口の女を辱めるのだ。  
(……ちくしょうっ……)  
男子の視線に耐えられず、懸命に引き離すように突っ走る宮口。  
疾走の甲斐あって、宮内についていける男子は、ほんの2人ほどになった。  
その2人も、たった2人で同級生の女子をいやらしい眼で見るのに後ろめたさを感じ  
見るなとばかりにキッと睨んだ宮口の視線に気圧されて、彼女から離れていく。  
 
だけど宮口。お前はなんにもわかっていない。  
このマラソンが、周回制だということが、どういう結果を呼び起こすのか。  
校外だからうるさい先生もいない。  
まずは罠を作らなきゃな。宮口をさらに辱める罠を。  
そして、餌に使う女子は……くくく……  
 
 
息せき切って疾走する宮口。  
男子達のいやらしい視線を振り切り、卓越した運動神経の全てを使うかのように走り続ける。  
とにかく早く走り終えたい。走り終えてとにかく逃げ出したい。  
そんな恥ずかしい思いを込めながら走る宮口の脚がにわかに止まる。  
そう。今日のマラソンは周回制だから、早く走ればどうしても周回遅れの男子にぶつかる。  
当然今日の注目度一番の宮口和美は、周回遅れの男子達の視姦のマト……  
にされる間もなく、一気に周回遅れを突き放す。  
男子達が泡食って追いすがろうとするが、突き放される一方。  
次の男子グループに対しても、一気に追いつき、視姦する間もなく一気に突き放す。  
 
(さすが宮口だな。男顔負けの気迫と運動神経。惚れ惚れするね。  
そこらの男じゃ、とてもあいつには追いつけない。  
そりゃ宮口より足の速い男はいるけど、数が少ないから、睨まれたらビビるんだよな)  
情けないと思いつつ、脳内映像の宮口に視線を移す。  
今俺が使っている能力は、念視と似たような超能力だ。  
目をつむり念じることによって、どこのどんな映像も見ることが出来る。  
当然目をつむったまま突っ立ってたのでは変な奴なので、  
コース脇に隠れて念視で宮口を追っているというわけだ。  
宮口を大勢の男子の視線に晒して恥じらわせるには、ともかく宮口を止めねばならない。  
止まらない宮口を止める方法。そのための罠。それに必要なエサ。  
もう俺の頭の中には全てのプランが出来ていた。まさしく一石二鳥というべきプランが。  
 
宮口からもう少し前方に念視を移動させる。  
このあたりになるともうどちらかといえば上位。まあ中の上といえるだろう。女子にしては。  
その、どちらかといえば上位の女子、田中陽子が懸命に走っていた。  
息せき切って走る彼女の顔は赤い。彼女もまた、5人ほどの男子に囲まれていたからだ。  
下位グループはまだしも、上位グループになってくると、女子とて友達とつるまずに走る。  
そんな彼女を、中−下位の男子グループが取り囲んで、視姦のエジキにしていたのである。  
汗で透けた体操服の奥から見える白いブラジャーが、取り囲む男子の視線に晒される。  
ときおり少しだけ彼女の前に出て、チラチラと胸元を覗き込む男子もいる。  
元々おとなしい田中は、顔を赤らめるのみで唇を噛み締めうつむきながら耐えて走っている。  
(さてと、野郎達にも目の保養をさせてやるか)  
俺はさらに強く念じる。念視に透視を足さなくてもいいほどに、田中の背中は汗で透けてる。  
ということは、ブラのホックが丸見えということで……  
(……外れろ)  
 
「あ……」  
一方、淫らな念動力を施された田中陽子。  
背中のホックの外れる音と、ブラがずりあがっていく感覚が、妙にはっきり知覚できた。  
けれど、自分がなにをされたかということに気がついたのは、小ぶりな乳房が震えたときだった。  
「――〜〜っっっ!!?」  
田中は悲鳴すらあげられず両腕で胸をかばってうずくまってしまった。  
ホックを外されてブラがずり上がり、丸見えになった田中の小ぶりな乳房。  
運の良かった男子には一瞬見えたであろう。濡れた体操服に透かされた桃色の乳首が。  
(……っ……っ……ど、どうして……っ?)  
なんでそうなったかまったくわからないままに、地に這い蹲るように胸を庇いうずくまる田中。  
おおお〜っという歓声とともに、近くの男子達がワラワラと集まってくる。  
背中丸見え〜とあからさまに言う奴もいれば、大丈夫〜なんて心にもないことをニヤケていう奴もいる。  
両胸をかき抱くようにうずくまる田中を横から覗き込んで、乳首が見えないかなんてやってる奴もいる。  
(……ぅ……ぅぅっ……)  
さっき自分が庇った宮口と同じような目に遭わされている田中。今にも泣き出しそうに震えている。  
あそこで宮口を庇った、おとなしいけど優しいという田中の性格が、男子達の嗜虐心に火をつける。  
宮内の件で、男子達の嗜虐心はただでさえ膨らんでいるときに、だ。  
パシャ!  
 
ビクッ!田中の肢体がショックで跳ね上がるように震えた。  
ついに悪ノリここに極まったか、携帯電話で田中の痴態を撮りだす奴まで現れた。  
一人が始めると、他の奴らまで携帯で田中の恥ずかしい姿を撮りまくる。  
無残にホックが外れたブラ。スケスケ丸見えの細く白い背中。  
隠してはいるものの垣間見える横乳。唇を震わせ耳や首まで染めている田中陽子の泣き顔。  
「……やめて…っ……、……やめて、ください……」  
啜り泣きの涙声でか細く訴える田中。しかし悪ノリ放題の男子達は止まらない。  
 
「も……もうヤダ……誰か、助けて…ぇ……」  
 
 
 
 
その時だった。  
「ちょっとあんたたち、陽子に何してんだよ!」  
いやらしい目で田中を視姦している男子たちの後ろから凛とした声が飛ぶ。  
見るまでもない。宮口和美が追いついたのだ。  
しかし、これこそがまさに俺の狙いだった。  
(親友の身を心配して足を止めてしまう優しさが災いしたな……くくく、飛んで火にいる夏の虫って奴だ)  
 
「あ……和美ちゃん、ひっく……」  
聞き慣れた親友の声に、田中陽子は泣きながらふらふらと駆け寄って抱きつく。  
「大丈夫、陽子? 一体何があったの?」  
視線は男子の方を睨みながらも、宮口は優しく田中に尋ねる。  
「ありがと、和美ちゃん……ぐすっ、分からないの、急に、ブラが外れちゃって……」  
嗚咽を上げながら、小声で宮口に恥ずかしいいきさつを告白する田中。  
だが、その告白は宮口だけでなく、近くにいる男子たちにも聞こえてしまっていた。  
 
「へー、そうだったのか。田中の奴、ブラが外れちゃったんだってさ」「様子がおかしいと思ってたらそういうことだったのか」  
「ブラがねぇ……田中って胸でかいもんなー」「なんなら、俺が付け直すの手伝ってやろうか?」  
わざとらしく囃し立てる男子たち。無神経な言葉の暴力に田中は居た堪れなくなったのか、涙を流しながら黙って俯いてしまう。  
その田中の様子に、宮口は殺しかねないほどの迫力で男子を睨みつける。  
「ふざけないでよ!これ以上陽子に何かしたら、ただじゃおかないからね!」  
だが、男子たちにはあまり堪えていないようだ。  
「えー、そんなこといわれてもなぁ」「俺ら、田中のことを心配してただけだし……」「だよなぁ、むしろ感謝して欲しいくらいだよ」  
口々に、白々しい言葉を取り繕う。宮口の拳は怒りに震えていた。  
 
「このっ……!」  
殴りかかろうと身構える宮口だったが、ここは田中を守るほうを優先すべきだと思い直したのか、  
田中に向き直って心配そうに話し掛ける。  
「陽子、歩ける?保健室に行って、休ませてもらいな。先生には私から言っておくから」  
「ひっく……ありがと、和美ちゃん……」  
田中は力なく頷くと、胸を抑えながらふらふらと保健室に向かう。  
「お、田中、俺が保健室まで付き添ってやろうか?」「それより、俺の手でその胸を抑えておいてやるよ」  
数人の男子が追いかけようとするが、宮口が遮る。  
「あんたたちね!いやらしい目で陽子を追いかけないで、真面目に走りなさいよ!」  
「うーん、でもなぁ」「やっぱり田中も一人で保健室に行くのは心細いだろうし……」  
遠ざかっていく田中の背中にちらちらと名残惜しそうに視線を送る男子たち。  
その様子に、宮口は苛立たしそうに声を荒げる。  
「っ……いい加減にしなさい!人の話を聞くときは、こっちを見なさいよね!」  
 
(くくく……そんなに自分の方を見て欲しいんだったら、俺が手伝ってやるよ。)  
俺は、宮口のハーフパンツに意識を集中させる。  
(脱げろ)  
「え……?」  
不意に、太股を何かが滑り落ちる感覚と共に、下半身が妙な涼しさに包まれる。  
そして、鬱陶しそうに自分の方を見ていた男子の表情が驚きに変わり、視線が股間の方へと集中していく。  
その感覚に宮口は、自分の身に何が起こったのかを想像してしまう。  
(う、嘘……まさか……ありえない、わよ……そんなこと……)  
宮口は、嫌な想像を振り払うかのように、恐る恐る、足元へと視線を落とした。  
……自分の足首に絡まっていたのは、見覚えのあるハーフパンツだった。  
そして、本来ならばそれに守られているべき可愛い花柄のパンツは、まるで自らの存在を男子たちにアピールするかのように、  
完全に外気に晒されていた。  
 
 
「……いやああああああ!?」  
一瞬の静寂の後、宮口の悲鳴があたりにこだまする。  
真っ赤になって両手でパンツを隠し、地面にしゃがみこむ。だが宮口の小さな手ではパンツの全てを隠し切ることは出来ず、  
ところどころからピンクの生地が覗いている。  
「な、なんで? どうなってるのよ!?」  
一度ならず二度までも自分の身に降りかかる理不尽な災難に、軽く錯乱する宮口。  
思わぬ幸運に男子たちはいやらしい笑みを浮かべながら宮口のパンツをたっぷりと堪能していた。  
 
「こ、この、見るなぁ……」  
宮口は必死にハーフパンツを穿きなおしながら訴える。  
心なしか弱気になっているが、それでも気丈に男子を睨みつけるているあたり、まだ心は折れていない。  
「えー……だって宮口が『こっちを見ろ』って言ったんだろー?」「そうそう。せっかく見てやったのに、ありがとうの一言もないんだもんな」  
「大体その花柄のパンツだって、宮口が勝手に見せたんだろ?」「着替えのときと言い今回と言い、露出狂なんじゃないか?」  
……俺が言うのもなんだが、こいつらかなり調子に乗ってないか?  
とはいえ、男子の心無い言葉は宮口に結構ダメージを与えているようだ。  
「う……うるさいっ! 私はもう行くから、勝手にお喋りしてろ!」  
僅かに目を潤ませながら、ゆっくりと立ち上がる宮口。  
どうやら、走ってこの場から離れれば、足の速さで男子たちの視線から逃げ切れると判断したらしい。  
確かに、宮口の脚力とスタミナを考えれば、その判断は正しい……もっとも、俺が邪魔をしなければの話だけどな。  
宮口はコースの方に向き直り、スタンディングスタートの構えを取ると、颯爽と駆け出し……  
 
(脱げろ)  
……そのまま前のめりに転んだかと思うと、一歩も進むことなくうつ伏せで地面に倒れこんだ。  
呆気に取られる男子たちの目に映ったのは、無様に地面にキスをしている宮口と……  
先ほどと同じようにその足首に絡みついているハーフパンツ。  
お尻を男子に向けるような格好なので、可愛い花柄のパンツは当然丸見えである。  
「痛っ……たぁ……っ! 誰よ、足引っ掛けたのは……!」  
本人は何が起こったのか未だに理解していないのか、男子を非難する言葉を浴びせながら立ち上がろうとする。  
しかし、全身が痺れてうまく動くことも出来ず、四つんばいになって呼吸を整えるのがやっとのようだ。  
「おいおい宮口……そんな格好で、もしかして誘ってるのか?」  
「はは……でも、そんな色気のないパンツじゃ、小学生も誘惑できないんじゃないか?」  
「いくら俺たちに見て欲しいからって、やりすぎだろ……」「履きなおすの、俺が手伝ってやろうか?」  
 
「あんたたち、何を言って……え?」  
囃し立てる男子の言葉に口答えをしようとし、ふと下半身の違和感に気付いた。  
今日一日で既に2度も味わっている感覚である……宮口は、見るまでもなくその正体に気づいた。  
「やあああああ! 見るなってば、変態……!」  
必死に叫びながら、なんとか起き上がってハーフパンツを穿き直そうともがくが、手足が痺れているため、  
起き上がろうとしても再び転んでしまい、足を大きく開いた格好で尻餅をついてしまう。  
今度は正面から恥丘の部分を見せつける大サービスである。  
 
「きゃぁ!? い、いや……お願い、見ないでよぉ……」  
ふーん、こいつもだいぶ女っぽい声を出すようになったな。  
「今度はM字開脚かよ、どっちが変態だか……」  
「どうせ見せてくれるんだったら、もっと大人っぽい奴を履いてくれよ、花柄なんかじゃなくてさぁ」  
一方男子の方は相変わらず聞く耳持たずという感じだ。  
結局、再びハーフパンツを穿きなおし、男子にパンツを見せびらかすような格好から解放されるのに30秒近くも掛かってしまった。  
 
「ぅ……く、っ……!」  
流石の宮口も、これだけの辱めを受けて相当堪えているようだな。  
屈辱に息を荒げながら体操服をハーフパンツの中に突っ込もうとした宮口は、ハーフパンツが妙に緩いことに気付いたようだ。  
腰のゴムが切れている。というか、俺がさっき超能力で切ったのだ。  
「え……そんなぁ……なんでこんなことばっかり……!」  
涙声で混乱する宮口の様子に、周りの男子も何が起こったのか気付いたようだ。  
「あれ?もしかして、ハーフパンツのゴムでも切れたのか?」「あーあ、ちゃんとダイエットしないからこうなるんだよ」  
「ほらほら、早く走らないと、授業が終わるまでに完走できないんじゃないか?」  
「なんなら俺がハーフパンツを支えて、一緒に走ってやろうかー?」  
……4人目のお前、さっきから似たような台詞ばっかり喋ってないか?  
 
「っ……余計なお世話よ! ついて来ないで!」  
涙目になりながら、片手でハーフパンツを支えたままの格好で走り出す宮口。  
しかしその状態では普段のスピードの半分も出すことができず、あっという間に男子に周りを囲まれてしまう。  
かといって手を離すと、再びハーフパンツがずり落ちてしまう。  
着替えのときとは違って、自分を庇ってくれる田中はもういない。  
結局、宮口には男子たちに視姦されながら恥辱のランニングを続けるしか選択肢は無かった。  
「もう、いやぁ……お願い、どこかに行って……!」  
「そんなこと言われても、走るコースは決まってるしなぁ。」「どんなペースで走っても俺らの自由だしなー」  
「それより宮口、ハーフパンツの隙間からピンクのパンツが見えてるぞ?」「きっとわざと見せてるんじゃねーの?」  
泣きながら走る宮口と容赦なく言葉責めを続ける男子を眺めながら、俺は次にどうすべきか考えていた。  
 
このまま宮口の後を追いかける(といっても念視だが)か?  
それとも、保健室の方に向かった田中を追いかけるか?  
もしくは酒井裕美の様子を見に行くか?  
 
 

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