集中────一字一字、アイテムにルーンを刻み込んでいく。正確に一ミリの狂いもなく。  
魔法のアイテムを作るのに最も技術を要する作業だ。  
 
 
俺は今、金髪縦ロール貴族のシルビアから得た大量の報酬を元手に、  
新しい魔法のアイテムを作成していた。  
 
 もう既に秋が近くなり、作業も大分やりやすくなっている。メイド服の時代は終わった。  
 男は一つの道で立ち往生してはいけないのだ。今回作るものは材料の調達が難しく、  
恐らく旅にでなければならないだろう。シルビアに頼めばすぐなのだが…  
 
 最近、俺の顔を見るたびに不機嫌になるためうっかり頼みごともできないのが現状だ。  
「……………」(お兄様今度はなに作ってるの?)  
 そういって近づいてきたのは無表情な赤髪美少女、妹のベルだ。ちなみにしゃべれないため  
話したいことが表示される魔法のボードを渡している。  
 
「前のはシルビアに取り上げられてしまったからな。今度はまじめなものを作ってる。」  
「……………」  
 妹は俺を疑わしげな目で見ている。ちょっとまて!そんなに偉大な兄が信用できない  
とでもいうのか。兄は悲しいぞ。  
 
「……………」(前科がありすぎるから)  
 俺はがっくりと肩を落とした。  
 
「おう、おやっさん。腹減ったから晩御飯たのむぜ。」  
 一階に下りておやっさんに手を振る。  
 
「カイか。今日はシルビアの嬢ちゃんが来るらしいぞ。」  
「げ…まさか、まだ前のこと根に持ってるのか…。」  
「……なにしたんだお前。」  
 おやっさんが俺を呆れたような目で見ていた。だが、あれは漢としてやらざるを  
得なかったのだ。きっと男ならみんなわかってくれる。  
 
「こんばんは、おじさま。ベル…そして、ど外道変態。」  
 俺の葛藤を邪魔して店に入ってきたのは金髪縦ロールの侯爵様、シルビアだった。  
 
「……………」(シルビア、こんばんは。)  
「で、今日はなんのようだ?」  
「カイを抹殺……といいたいところだけど、依頼よ。」  
 冗談を話しているときとはうって変わってまじめな表情になる。シルビアは侯爵だけあって  
政敵も多い。俺達へ依頼が来るとき…それは身内に裏切り者がいる場合や、シルビア自身が  
動けない場合…そして…魔法が絡む場合だ。俺達は裏切らないという絶対の信頼から  
来る依頼が多い。危険なものも当然にある。俺達はおやっさんに個室を貸してもらい  
相談を始めた。  
 
「カイ…禁呪…なの、今回は。」  
 禁呪…なんらかの理由で技術的には可能ながらも封印された魔法…それに携われば  
犯罪者として拘束される。  
 
「禁呪か…お前が力を借りに来るってことは…バックがでかいのか。」  
「誰かに孕まされて私は余り動けないからね…。」  
 睨むなベル!怖いから睨むな!頼む…泣いちゃうぞお兄ちゃん。  
 
「後ろは公爵よ…。証拠はないけどね。」  
「引き受けた。ようは証拠を掴んでついでに潰せばいいんだな。」  
 妹は泣きそうな目でこちらを見た。だが、これは引き受けるしかない。借りがある  
からな。あの公爵様には。思い出したくもないが。  
 
「で、どんな禁呪をやってんだ?」  
「得た情報の範囲では………生命に関する実験よ。」  
「生命…ってことはまた例の人造の魔王を作るとか言うあの馬鹿な…。」  
「そう…。あれよ。」  
「援護は?」  
「できる限りのバックアップと…直接の援護は可能な限りってとこね。おおっぴらにやってしまうと  
 うちとあっちで内戦になってしまうから気をつけないと。」  
「わかった。絶対に潰してくる。」  
 
 
 翌日、シルビアの配下の密偵を案内役に下水を歩いていた。この国では上下水道が  
市街には備わっている。下水は縦横無尽に走っており、隠密行動には悪くないのだが…  
 
「臭い…」  
「この真上辺りが施設です。私はここで待機しておけばよいのですね?」  
「ああ。基本は俺たちだけでやる。ちっ、床にも魔法除去の結界が張ってあるな。」  
「……………」(お兄様…どうします?)  
「ちゃんと破る道具は作ってある。はしごもな。」  
 俺は合言葉を唱えて伸びるはしごを使い、天井にお手製結界破りを押し付けた。  
その上で土の魔法で干渉し、床を薄く削り取って人がいないか音を確認する。  
 
「………?なんか騒がしいな。」  
 施設の中は俺たちが出るまでもなく事故か事件がおきているようだった。  
 
「チャンスだな。どさくさにまぎれてまずは資料と服を奪う。ベル、行くぞ。」  
 ベルは頷いて穴を開けて侵入した俺を追いかけた。  
 
 施設の内部は警報と慌てふためいた研究員らしきものたちで大混乱だった。  
 侵入した俺達はそんな研究員を二人気絶させて服を奪った。  
 
「ふっふっふ。知的美女の服も俺が…いた!やめろ冗談だ。ベル!」  
 まあそんなこんなで、首尾よく資料だけでなく様々な魔法の道具や重要書類さえ  
も回収することができた。が…あまりに、抵抗のないのに思わず首をかしげる。  
 誰もいない倉庫らしき部屋で相談していた俺達はこれからどうするか決めあぐねていた。  
 
「……………」(お兄様これだけ証拠が在れば今回は)  
「うーん。何が起こったのかは確認しよう。」  
「……………」(危険です。)  
「わかってる。だが、ここまで手薄にするような事故だってのが気になる。」  
 誰もいない倉庫らしき部屋で相談していた俺達はこれからどうするか決めあぐねていた。  
 そんなときだ。  
 
 
 俺たちの潜んでいた部屋に何かが飛び込んできた。  
 年の頃十二、三歳…ちょっと守備範囲外だな…長い髪は漆黒に輝き、勝気そうに輝く瞳  
も黒。肌は透き通るように白く背はちょっと低い。  
…四、五年先にはお付き合いいただきたい美少女が全裸で立っていた。  
 そして、今の状況の場違いさから考えて…。  
 
「よう、そこの美人なお嬢さん。この騒ぎはあんたが原因か?」  
「む、わらわが美人であるということは当然として、お主何故このようなところに…。」  
「……………」(美人は否定しないんですね…)  
 ベルが呆れながら研究員から奪い取った白衣を、女の子に掛けてあげている。  
 全裸でも堂々と仁王立ちしていたが。  
 
「俺達は馬鹿な研究をしてる馬鹿を破滅させるために来たんだ。」  
「ほほぅ……では、わらわの敵とお主の敵は一致しておる。下僕として協力することを  
 許してやろう。」  
 とりあえず俺は無言で無意味に偉そうな黒髪の少女の頬を俺は両手で引っ張った。  
 
「ひらひ、らりをするー」  
「あほなこというからだ。俺様が推理するにこんな人の来ないところに逃げてきたと  
 いうことは、お前一人じゃどうしょうもないってことだろが。」  
 手を離すと生意気少女はなみだ目で上目遣いをして睨みつけてくる。ちょっと、  
可愛いかも…おにいちゃん変な気になってきたぞ!  
 
「……………」  
 ベルがジト目で見つめてきていたので…心読めるのかこいつ。とりあえず、話しを聞く。  
 生意気少女は全裸に白衣一枚というちょっとそそる格好でも堂々としながら話し始めた。  
 俺を睨みつけたまま。こいつは怒らせたほうが萌えるな。うん。  
 
「馬鹿者が。わらわも本来の力が出せれば逃げたりせぬ。人間の分際で幾重にも強力な  
結界を張り巡らせておったからその拘束を破壊するのに魔力が尽きたのだ。」  
「ということは、お前さんは人間じゃないわけだ。」  
 ふふん、と偉そうに鼻で笑って目の前の黒髪美少女は自信満々に言った。  
 
「わらわは魔王じゃ。」  
「……………」(お兄様…さっさと帰りましょう。)  
「そうだな。」  
 俺達は帰ることにした。  
 
「こらこらこら!信じてないなおまえら!」  
「魔王は五百年に一度、現れるんだろ。まだ二百年しか経っていない。」  
 そう、世界には魔王という存在が周期的に発生する。五百年に一度恐ろしい損害を  
巻き起こす、災害のような存在だ。何故周期的にしか現れないのか不明だが、過去、  
ずっとそうであったらしい。軍隊でも討伐できないような代物らしいから、間違っても  
目の前の偉そうな生意気少女ではないだろう。  
 
「そもそも魔王は元人間じゃ。五百年に一度、その年で最も不幸になったものを依代と  
 して魔王は前世の記憶とともに転生する。特殊な魔法装置を使われ、時を勘違い  
 させられたのだろう。中途半端な目覚めだからわらわの力も中途半端なのじゃ。」  
「じゃあ、もし今おまえ倒したらどうなるんだ?」  
 ベルがこちらに驚きの視線を向けている。  
 
「恐らく五百年、眠ることになる。まあそれもよかろう。わらわを殺すか?」  
 俺は苦笑して首を横に振った。  
 
「三百年後までお前の力は不安定なんだろ。なら、そいつらへの宿題にするさ。  
 俺好みに成長しそうな女を殺すのは性にあわん。後聞きたいのは…他に生きてる  
 実験台はいるか?」  
「実験台か…お主わかっておるようじゃな。わらわが復活したときに皆不要として処分された。  
 そのときには力が無くてな…。わらわの依代の少女も魔法による無限の悪夢で  
魂が死んでしまった。かわいそうなことをした。」  
「そうか…今回も助けられなかったか…。しかし、お前いいやつだな。」  
「魔王の記憶は最悪の不幸の記憶だ。自分のようなものと思えば同情もする。」  
 俺は泣きそうな目をしながらも、胸を張って威張る少女の頭を撫でた。ベルも  
いつもどおりの無表情で少女を抱きしめる。  
 
「さて、じゃあ…逃げるとするか。」  
「まて、わらわはここの人間どもに仕返しがしたい。」  
「……………」(どうやって?)  
「わらわの魔力を回復させれば…。一撃で全て破壊してくれる。」  
 自称魔王の少女がベルのほうを向くと、あっさりとベルが寝息を立てた。  
 
「案ずるな睡眠の魔眼じゃ。力はあまり戻っておらぬが数種の魔眼も使うことはできる。  
 さて、お主からはなかなか強力な魔力が感じられるが…。死なない程度に頂くことに  
 しようではないか。」  
 魔力を得るには複数の手段がある。こいつまさか…。ベルを連れて逃げようとも  
考えたが、どうやら体が動かない。目の前の少女は、年相応ではない妖艶な笑みで俺を  
見つめていた。  
 
「麻痺の魔眼じゃ。わらわはお主が気に入った…顔も悪くない、馬鹿だが頭も悪くないし  
 懐もなかなか深そうじゃ。ふふ…この体ではわらわもはじめてじゃ…光栄に思え。」  
 俺は身動きもできず、床に倒れ付した。どう考えてもまな板の上の鯉だった。  
 
 
 魔力を補充するためにはいくつか手段がある。  
 まずは、睡眠。これが普通の回復方法だ。  
 次に、魔力補充アイテムによる回復…だが、これは費用がかかる上にあまり  
高い効果を望めない。  
 そして、最後に魔法で直接吸い取る方法だ。魔力をもっとも精気の集まる場所から  
吸収する…。ようはあれだ。女を抱くことで相手から精気を吸収するのだ。  
 この場合、魔力の強いものへと魔力は流れてしまう。  
 
 まあ、何がいいたいかというと。  
 俺は今非常にピンチだった。こ、このままではっ!  
 
「まてこら、話し合おうぜっ!」  
 唯一動く口を使って俺は何とか説得を試みるが、自称魔王の少女は黒い髪を書き上げて  
勝ちきそうな瞳を光らせてにやりと笑った。  
 
「ふふ…わらわには歴代の魔王の記憶があるのじゃ。すぐに正直になる。」  
 勘違いしてる勘違いしてるっ!  
 
「あのな…俺はお前の年齢は恋愛対象外なのだ!自慢じゃないが女は好きだが  
 ロリコンじゃないんだ。三年後に出直してくれ!」  
 必死だった。今まで色んな悲劇が俺を襲ったが…まさか、全く凹凸のない少女に  
逆レイプされることになるとは思わなかったぜ…。目の前の魔王様(?)はいじわるそうな  
目で俺を眺めている。やばい、こいつSだ。俺と一緒だ。  
 
「ろりこん?なんじゃそれは。まあなんでもいい。嫌がられるとぜひともしたくなってきた。  
責任を取ってもらわなければな。可愛い声で鳴いてくれよ?」  
 魔眼で縛られて動けない俺のズボンを目の前のつり目の美少女はためらいもなく  
脱がせていく。俺のモノはまだ、ぴくりとも反応していない。  
 
「むむ、わらわが裸でいるのに…。もしや不能か?」  
「だからいってるだろうが。対象外だと。」  
「ふふ、まあよい。いつまでそういう強気な言葉を言えるか楽しみじゃ。こういうやつを  
 屈服させるのが一番楽しい。」  
 この世のものとは思えないほど端正な綺麗な顔が俺に近づいてくる。俺の唇を奪うと、  
そのまま舌を進入させてくる。  
 
ぴちゃ……ちゅ…く………  
 
的確に俺の弱いところを責め、体が火照り始める。俺のモノが一気に反応し、  
そそり立った。く…。上手い…魔王の唇が一度ゆっくりと離れ、口に銀色の橋ができた。  
 
「くっく…。キス一つでお主のものは元気になったようじゃの。まるで女子のように全身  
 を震わせて感じよって…どうじゃ…わらわの下僕になる決心は付いたか?」  
「だれが、なるかっ!」  
「ふふ……ますます、気に入ったな。」  
 ない胸を反らせて勝ち誇る魔王に俺は強気で睨み返した。だが彼女は愉快そうに  
笑うだけだ。楽しい玩具を見つけたかのように。  
 暫く艶かしい視線で俺のモノを眺めていたが、優美な手つきで一撫でした。  
 痺れるような快感が全身を走る。  
 
「それほど物欲しそうにせずともわらわがこれからたっぷりと可愛がってやる。」  
 動けない俺には抵抗することもできない。小さい少女に弄ばれる屈辱と、  
そんな少女に奉仕させる背徳感が俺を苛んだ。  
 魔王の可憐な花びらのような唇が俺のモノに口付けした。小さい舌で焦らすように  
ちろちろと舐める。そのたびに俺の意思とは関係なく体が撥ねる。  
 
「お主は敏感だな…。愛い奴。」  
 焦らされ、先走りで濡れてきた俺のモノを彼女は口にくわえた。  
 
 あむ…ぴちゃ…ん…  
 
 卑猥な音が倉庫に流れる。限界はすぐに来た。  
 
「うっ!でるっ!!」  
「くっく、どうじゃ。気持ちよかったか?」  
 邪気のない、だけど挑戦的な笑顔で俺を見つめる。俺はこの場での抵抗は無駄だと判断し、  
あっさりと降伏した。あくまでこの場だけだ!  
 
「ああ、気持ちよかった。」  
「ならば、次はわらわの番じゃな。ふふ…ぬしのものは美味しすぎて濡れてきたわ。」  
「初めてだろ…無理するな。」  
 俺は魔法を詠唱した。以前に習得したルーンを唱える。それが終わると急激に先ほどまで  
余裕の表情だった彼女の表情が紅く染まっていく。  
 
「お主…わらわになにをした。」  
「ふん。俺だけじゃ不公平だろう。少し動いた指でルーンを書いて気持ちよくなる  
 魔法を唱えただけだ。」  
「まあよい。ではお主を頂くとするか…。」  
 彼女は俺の上に乗り、モノを自分の子供のような秘所に固定すると一気に腰を下ろした。膜を感じる  
間もなく、一気に奥まで突き入れられる。彼女の顔が苦痛に染まった。  
 
「くっ……いっ…ぁぁぁぁぁぁ!」  
 魔王は荒い息をつき、痛みに顔を少しゆがめながらも顔を紅く火照らせて微笑んだ。  
 そして、徐々に動き始める。彼女の中は年相応に狭く、俺のモノを締め付けた。  
 
「お、おい、無茶すんな。」  
「…っ…心配…あっ…するな。……気持ちいい…か…?」  
「ああ。」  
 彼女は頷くとリズムよく、腰を動かし始めた。魔法が聞いているらしく、潤滑油が  
次から次へと溢れその声には少しずつ艶っぽい響きが現れている。魔眼がまだ効いていて  
体が自由に動かないがそれでも腰をあわせるようにぎこちなく俺も動いた。  
 彼女の幼い肢体を汗の光で輝かせながら上下にうごめく。  
 
「う…あ……気持ち…気持ちいいっ…止まらない…止まらないよっ!」  
「いいぞっ…俺も気持ちいい。」  
 魔王の眼の焦点が少しずつ合わなくなってきたが、腰は強く、激しく動き続ける。  
 
「俺はもう……我慢できない!」  
「わらわも一緒に…一緒にっ…いくっあああっいくっ!!!」  
 最後に奥まで着いたとき、俺の上に乗っていた彼女の体が大きくそり、モノを締め上げた。  
俺も、自分の分身を彼女の中に解き放った。  
 
 
 暫く、放心したように二人とも息を切らせていたが、やがて、魔眼を解除してくれた。  
 体が自由に動くようになる。  
 
「ああ、俺は道を踏み外してしまった…。ついにロリコンに…」  
「ふむ…あの状態から魔法を掛けるとは。わらわも驚いたが気持ちよかったぞ。  
 やはりそなたはわらわの奴隷に相応しい。」  
 体を重ね合わせても、黒髪と勝気な瞳のその少女は全く変っていなかった。清楚と  
妖艶さとを兼ね備えた笑みを浮かべている。俺は魔力をかなり奪われ、体はかなり  
きつかった。  
 
「……………」(お兄様からこの子の匂いが…)  
 ベルが起きた…ちょ、その木刀を下ろして!!  
 
「娘よ。おぬしの兄はわらわの下僕に決まった。傷つけると許さぬぞ?」  
 魔王の少女がベルを睨み付けた。それもやばいよ魔王様。ベルも敵だと認識したのか  
険悪な空気が流れ始める。  
 
「……………」(お兄様、どういうことですか?)  
「よし、とりあえずここから脱出するぞ。」  
 俺は問題を先送りにすることにした。  
 
「ふむ…わらわが本気を出せばぬしから奪った魔力で壊滅させることはできる。  
 だが、生き埋めになってしまうな。」  
「俺の仲間が、ある場所の地下で待っている。お前が壊滅させるのと同時に地下への  
 穴を開けてそっから脱出する。問題ない。」  
「……………」(お兄様、後で説明してもらうから。)  
 俺たちは、初めに侵入した場所へと戻り、計画を実行した。  
 
 そして俺は、この生意気な少女が本当に魔王なのだということを悟らずにはいられなかった。  
 研究所はその八割が瓦礫へと変り、壊滅した。  
 
 
「っと、まあそういうわけでだ…シルビア。この子を保護せねばならんわけだ。」  
 俺たちはおやっさんの店へと戻っていた。勿論魔王も一緒だ。彼女は今、ベルの  
替えの服を着ているが…だぼだぼで不機嫌そうにシルビアの膝の上に座っている。  
 シルビアは表情は真剣だが、魔王の頭を撫でてみたり、抱きしめてみたり忙しい。  
 暫く無言で黙っていたが…金髪縦ロールは突如乱心した。  
 
「か、か、かわあいいいいいいいいい!!!何この子、かわいいよかわいいわよ!!!  
 うううう、持って帰りたい。美少女よ!超美少女よ!!!」  
 流石の魔王も困惑して嫌がって、じたばたしている。だが、シルビアの力は  
俺より遥かに強いため、抱きすくめられて拘束されている。  
 魔王は結局俺たちと同じで宿に住み込むことになった。立場的にはベルと同じで  
俺の助手だ。部屋も一部屋借り、俺が支払っている。  
 
「あ、こら!人間!!わらわに気安く触るな!撫でるな!抱きしめるなっ!!!」  
「で、カイ。この子なんて名前なの?」  
 そーいや…自己紹介もしてなかったな。  
 
「なんて名前なんだ?」  
「わらわには名前はない。魔王とは現象でありそういうものだ。」  
「だけどなあ。折角だしあったほうが。」  
「そうか………ならば下僕よ、お主に任せよう。光栄に思えっ!」  
 えばったその姿はシルビアの膝の上では全く威厳もなかったが、無駄に偉そうだった。  
 
「魔王………じゃ、マオだ!」  
「……………」(お兄様………あまりにも…)  
 若干ベルは呆れていたが、性格の悪い金髪縦ロールは大喜びだった。  
 
「マオっ!!まおっ!可愛すぎるわ。カイもたまにはいいことするわね。」  
「ふむ…マオか…。よし、それで。大事にしよう…。ありがとう。」  
 年頃の少女らしい、笑顔を俺は始めてみた気がする。その笑顔は可愛くて綺麗な  
笑顔だった。いつもこーならいいのにな。  
 
「小難しい問題はこっちに任せて…マオちゃんの歓迎パーティをしましょう。  
 おじさまお酒と料理いっぱい持ってきて!!  
 ああ、後…公爵の手から守るために、うちの養子で侯爵一族ってことにしとくから。」  
 どれほど浮かれていてもシルビアは為政者だった。おそらく、これも施設のことも  
武器にして戦っていくのだろう。そして俺にできることは…。  
 
「よっしゃー!!俺たちの新しい同居人、マオに乾杯だ!!」  
 明るく楽しく、友人たちと過ごせるように環境を作ってやることだけなのだ。絶望を  
背負った魔王にも、国を背負った悪友にもひと時の休息を与えることができるように。  
 

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