ああ、これは夢か。  
 
魔法士、魔法技師のエリートとしての名声と賞賛を受けた日々。  
妹も良く懐いた幼馴染との恋の日々。  
上を一緒に目指す親友との切磋琢磨の日々。  
 
浮かんでは消えていく。  
 
ありもしない噂を流され、無実の罪を問われたあの日。  
名声は悪名に。賞賛は罵倒に。  
もう俺には価値がないと去っていった恋をしていたはずの人。  
落ち目のやつには興味がないとばかりに去っていった親友たち。  
 
ようするに俺には見る目がなかったって話だ。子供だった。  
殆ど全てのものを失ったが、それはいい。  
残ったものは少しだけ。  
 
 
がたんっ!!ばたっ!!  
ベッドから落ちて俺は目が覚めた。  
目の前には赤い髪を腰まで伸ばした無表情な少女がいる。  
端正な顔立ち、引き締まった肉食動物を思わせる綺麗な肢体。  
顔は美人というよりはかわいいという感じだろうか。妹のベルだ。  
 
「あったた。朝か。もう少し優しく起こしてくれよ。」  
「………(ぶんぶん)」(起きないから。)  
首を横に振る。俺が作ってやった魔法のボードには、起きないから。と表示されている。  
妹はしゃべることが出来ない。俺は手話が出来るし、雰囲気で大体のことを察することが  
できるのだが、日常生活を楽にするために意識したことを表示することが出来る  
魔法のアイテムを作ったのだ。それをずっと首に下げている。  
起きたばかりでぼーっとしていると、ベルの腕が首に絡みついてくる。そして…  
「…んっ!………ううっ!」  
「……………」(おはようのキス)  
口を離すと口の間を銀の橋ができる。き、気持ちい…いやだめだめしっかりしろ俺。  
完全に目が覚めたので、とりあえずズボンに手を伸ばしているこのちょっと  
やばい妹の頭にチョップを食らわす。  
 
「ズボン脱がそうとするな。それと舌いれるのは兄妹じゃだめっていってるだろ!」  
俺の貞操はいつまで守ることができるのだろうか。  
 
魔法技師…それは、魔法回路を利用したアイテムを作るものの名称で  
日用品から軍需物資にいたるまで作成する技術を持つもののことである。  
また、修理や調整も行う。俺こと、カイ・リスターもそんな技術者の一人だ。  
ハイランド魔法帝国では割とポピュラーな職でもある。  
魔法のつかえない一般人にも扱えるため利便性があるのだ。  
 
とある事情で行き倒れていた俺達は、下町の宿屋兼酒場「真珠亭」のおやっさんに  
拾われて二階に住み着いている。ただで置いてもらうのもなんなので、  
妹はウェイトレスを、俺は魔法技師としておやっさんから仕事を紹介してもらい、  
生計を立てている。  
部屋は二つにしてくれるっていってたんだが、妹が強行に反対したせいで  
一部屋だ。とある事件以降甘えが酷くなってきていて困る。  
いい年だしさっさと男見つけて自立して欲しい。  
 
「おう、カイ!おはよう。あんま妹さんに手をかけさせてるんじゃねえよ!」  
豪快に笑うおやっさん。  
 
「そういうなって。これも兄妹のコミュニケーションなんだ。」  
「…………(こくこく)」(寝顔かわいいです)  
「相変わらず仲いいなあ、お前さんたちは。そうだ、今日は特別な客が来る。  
 今溜まっている修理や調整は待ってもらえるように連絡をいれてあるから、  
 そちらを優先してくれ。おう、早速お出ましだ。」  
入ってきたのは金髪縦ロール美女。下町宿屋のTPOに思いっきり反した  
派手で豪華なドレスの格好をした変な貴族。数少ない昔から続いている悪友のシルビアだ。  
こいつとは昔から悪口を言い合った記憶しかないが何故か今でも付き合いがある。  
 
「あーいかわらず、貧乏くさいですわね。すっかり貧乏が顔にまで染み付いちゃって。  
わたくしは悲しいわね。ま、カイは貧乏くさいけどおじさまの料理はいつも  
最高ですわ。ああ、おはようございます。ベルもおはよう。」  
「あんがとよ。シルビアちゃん。」  
「何で挨拶が最後なんだよ。この変態貴族。態々いやみを言いに来たわけでもないだろ。」  
「……………」(何しにきたの雌狐。お兄様に馴れ馴れしくしないで。)  
「そ、そんなに睨まないでよ。ベル。つまみ食いくらいいいで…ああ、嘘嘘!  
 依頼よい・ら・い。ちょっと事情があって信用できる人にお願いしたいの。ベルにも。」  
「……………」(次笑えない冗談言ったら泥棒猫殺し一号の餌食。)  
俺に頼まないといけないということは普通の技師ではだめなのだ。ということは…  
 
「変な問題があるわけだ。ベルにもってことは危険もあるわけだな。」  
「ええ。女の子の相手もしてもらうから…ベルをほっとくとわたくしに危険があるの。  
 とにかく依頼料は弾むからお願いね。」  
「……………」(賢明。)  
わけがわからなかったが、俺は引き受けることにした。  
この金髪縦ロールは口は悪いがいいやつなのだ。  
 
 
「相変わらずでっかい家だなあ。」  
変態貴族シルビアことシルビア・フォン・シュタインベルグはシュタインベルグ侯爵家の  
一人娘で信じがたいことだがやんごとない身分のご令嬢であり、  
その家は圧倒的で家というよりは城というほうがしっくりくる佇まいである。  
まあ、どんなに偉くとも敬語なんか使わんが。  
 
「わたくしが作ったわけではありませんわ。世襲なんて自慢にもならない。」  
というのが、彼女の口癖であり、やることなすこと貴族の一般からは外れている。  
 
「お前も学院やめたのか。剣と政治、折角トップだったってのに。」  
「……………」(お兄様…)  
「あそこは顔合わせただけで殴りたくなるやつが多すぎましたからね。いい男もいないし、  
 知識は詰め込んだし後は実践だけでいいわ。せいせいする。」  
「……………」(お兄様はだめだからね!)  
「はいはい。ついたわ。そこの離れの2階。ついてきて。」  
 どうやらこの離れは使用人の住んでいる場所のようだ。皆シルビアを見るなり  
端によって頭を下げている。そこに嫌々って雰囲気はなく、本当の敬意が感じられる。  
 
「入るわよ。イリス。」  
二階のその部屋に入ると、ベッドに横たわっている少女がいた。  
 
「え、あ、し、シルビア様!こんな姿で申し訳ありません。こちらから向かいますのに!」  
イリスと呼ばれたおかっぱ頭の15.6歳の少女は真っ赤になって恐縮している。  
会話から察するに使用人らしい。  
 
「馬鹿いってんじゃないの。仕事中の怪我は軍人が怪我するのと同じ、名誉の負傷なのよ。  
 それにこの屋敷の子供は皆わたくしの兄弟も同然。遠慮なんていらないわ。」  
俺はこいつのこういうとこは気に入っている。口には出さないが。  
 
「俺の仕事はその足か。」  
「ひとつはね。ちょっと事故で足に酷い怪我を負ってしまって。すぐに動けるように  
 なるように魔法技師にオーダーメイドしたんだけど、上手く動かないみたいでね。」  
俺はイリスにベッドに腰掛けてもらうと、魔法補助義足の左足のチェックを始めた。  
 
「イリスっていったっけ。俺は魔法技師のカイだ。足治ったら俺とデートし…ぐはっ!」  
「……………」(お・に・い・さ・ま)  
「くすくす…ごめんなさい。私はシルビア様のものですから。」  
「やれやれ。シルビア…お前偽者つかまされたな。これは外は上手くごまかしているが  
 市販品、安物だ。調整もしていないからこれじゃ動くわけもないな。どういうこった。」  
「やっぱり…か。有名な人に頼んだんだけど…最近連絡も取れなくなっておかしいとは  
 思っていたのよ。調べて見ると同じような被害も増えてるみたい。」  
気づいてはいたのか。しかし、おかしい。有名どころのやつならそんなことする必要も  
ないし、侯爵家を謀ろうなどということは考えないはずだ。  
 
「それで俺たちか。ようはそいつらを見つけ出して制裁を加えろってことか。」  
「人員が必要ならわたくしから出すわ。そのときは言って。」  
「了解だ。俺とベルだけでいける程度ならいいんだがな。」  
「……………」(余裕。)  
「まあ、まずは義足の調整だな。二時間もあればできると思う。退屈だけど我慢しろよ?  
 ベルは散歩でもしてろ。」  
「……………(こくり)」  
シルビアはベルが出て行ったのを確認し、  
 
「さて、じゃあ退屈しのぎ…可愛いわたくしのイリス?脱ぎなさい。」  
 
 
調整を終えた後、俺とベルはシルビアの依頼した魔法技師のアトリエに足を運んでいた。  
「……………」(お疲れですねお兄様。それにやな匂いが体から。)  
「んんん!俺はなんでもないぞっ!さあて、なんかいいもの見つかればいいんだがなあ。」  
「……………」(人の気配はない。地下室、隠し扉はない。)  
「お前さんがいうんならそうだろうな。」  
「……………」(血の気配はある。一ヶ月以内)  
「なるほど。よくわかるなー。そんなの。」  
「……………」(お兄様のためだから。)  
「へいへい。残っている魔法のアイテムを見るに、あんなガセを掴ませるような  
 レベルじゃない。丁寧な仕事をしている。さっすがシルビア。見る目あるねー。  
そー考えると考えられるのは…。」  
「……………」(殺してすり代わった。)  
「そんなとこか。荒稼ぎしてばっくれるつもりなんだろうな。あんまもたもたしてると  
 姿を眩ませて、見つかんなくなっちまう。いい方法はないか?」  
「……………」(ないことはない。)  
「きかせろよ。」  
「……………」(ご褒美。)  
無表情で頬を差し出すベル。全くこいつは…と思いつつ頬にキスすると少しだけ  
ほほを赤らめて手話を使って説明を始めた。  
 
「おいシルビア。釣りをするぞ。餌よこせ。」  
俺はトンボ帰りでシルビアのところに戻るとベルの作戦を説明した。  
 
「またこれは金の使いそうな作戦ね。ま、いいか。うちの名前じゃ怪しまれるから  
 親戚の子爵辺りにでも名前を借りるわ。高値の報酬で魔法技師の依頼をだして、  
 相手を釣る…。本人の確認は近所の者を雇うこと、通常の変装はベルが、魔法の  
変装はカイが見破る。間違って本物がきた場合は口封じの迷惑料を渡す。  
…早めに当たりを引くことを祈るわ。ほんと。」  
「ま、代金分は犯人から回収すりゃいいさ。」  
「……………」(シルビアふぁいと。)  
 
こうして始まった巨大資本によるローラー作戦はあっさり三日後に終了を向かえた。  
まったく恐ろしいぜ、金と権力の力は。  
 
「…で、偽者を拷問してアジトは確認したわ。敵の人数は8名。魔法士が1名、  
 スカウトが1名、戦士が5名、剣士が1名ってとこみたいね。ああ、偽者は  
 もう処分しといたから。」  
こいつの恐ろしいところは優秀な上に敵には全く情け容赦のないところだ。  
馬鹿な犯罪組織だ。敵に回す相手を完璧に間違ってやがる。  
とりあえず、周辺諸国はこいつが男に生まれなかったことを泣いて感謝するべきだ。  
 
「……………」(それじゃ、お兄様。)  
「ああ、魔法技師なめてるやつは叩きのめさないとな。シルビアは部下と一緒に  
 包囲を頼む。逃がすわけにはいかないからな。突入は二人でする。万一にも味方に  
 死人を出したくない。」  
「……………」(らぶらぶでーとですね。)  
馬鹿なことを考えてる妹にチョップを食らわると、俺は戦闘の準備を始めた。  
 
そこはスラムにある一軒家だった。既に周辺にはシルビアの部下たちが逃がさないように  
包囲をしている。背後から大きい音を立てて貰って陽動を行い、俺たちがその隙に  
侵入して中の者たちを制圧するという作戦を立てた。後は開始を待つばかりである。  
 
「……………」(久々に泥棒猫殺し一号の出番)  
ベルが嬉しそうに擦っている木刀は俺が設計、製作した魔法の木刀である。  
魔法のボードの要領で意識したことを木刀で話すことができるように作ったのだが、  
何処をどう間違ったのか妖しい失敗作になった代物だ。できれば使わないで欲しい。  
やはり遊び心で木刀にしたのがまずかったのか。禁制品より危険だ。  
 
俺の武器は魔法そのもの。魔法消去の手袋を片手にはめ、片手で魔法の印を作る。  
 
どん!!!と裏手で大きな音があがる。  
 
それと同時にベルが正面のドアを二秒でピッキングする。  
「相変わらずだが…なんでそんな手早いんだ。」  
「……………」(恋の必須スキルです。)  
そんな恋は正直いやだ。  
 
狭い家で大きな部屋はひとつしかない。そこへ向かう。  
「氷は剣となりて貫く」  
片手で印を結び背後からの音に驚いて出てきた戦士の一人の両足を魔法で縫い付け、  
「……………」(邪魔。)  
ベルも相手の顎を正確に砕き行動不能にする。俺には剣筋が全く見えない。  
こいつだけは怒らせないでおこう。  
 
大きな部屋に入ると残りの敵が固まっていた。  
配置から考えてボスはおっさんの魔法士。いかつい剣士がそん次か。  
 
「ベル。ボス以外は任せた。さて、氷は剣となりて敵を貫く!」  
「……………」(了解。)  
 
殺すつもりで放った魔法はあっさりと消去される。腕はそこそこか…。  
俺とおっさんは決め手がないまま膠着する。長い詠唱すれば一撃だが、  
家の耐久が持つか不安だ。ベルは1対4で優勢に戦っている。こっちは  
平気だろう。終わるまで持久戦に持ち込むのも悪くない。  
そう考えたとき相手の手元が光った。頬から血が流れるのを感じる。  
 
「禁制品。軍の魔銃か。てめー、でかい組織が裏にあるな。」  
 
おっさんの顔がゆがんだ笑みを浮かべる。勝利を確信した顔だ。  
だが、その笑みは長くは続かなかった。俺も強烈な恐怖に体をすくませた。  
 
 
フフフ…ウウウウウ…クスクスクスクスクスクスススススス…フフフ…  
フフフフフフフフフ…アハハハハハ…クスクスクスクス…フフフフ…  
 
 
「な、なんだこの不気味な声は!」  
 
おっさんが声をあげる。不快な機械音…人間でないものの不自然な声が部屋に響く。  
この馬鹿!俺の血を見て、木刀発動させやがったな!  
 
 
フフフフフ…オニイサマ…オニイサマ…オニイサマ…アイシテマスアイシテマス  
アイシテマス…コロシタイクライニタベタイクライニメチャクチャニシタイ…  
カラダガアツイ…ホテッテ…フフ…オニイサマガホシイ…アハハ…オニイサマ…  
コロス…オニイサマノチ…イジメタヤツ…コロスコロスコロスコロス!!!  
 
 
あかん、もうとまらないな。これが欠陥。精神のリミッターがはずれ、  
敵と認識するものを全て倒すまでとまらない。  
次の瞬間、おれと対峙している魔銃を持ったボスの頭部から胸までが半分に  
分かれる。胸元にはベルが振り下ろした木刀が埋まっている。  
グロい…トラウマになりそうだ。  
 
 
クスクス…クスクス…フフ…  
 
 
部屋が静まり返る。この惨状をまだ十代後半にしか見えない少女が作ったとは  
思えないのだろう。ベルは返り血で服も肌も髪と同じ赤に染まっている。  
埋まった死体をそのまま持ち上げ、生きている敵に投げつける。  
 
「く、くるなっ化け物!!」  
 
 せいぜい地獄では達者にしておくれと俺は祈った。  
 しまった、俺何の役にも立ってない。  
 
詐欺組織を妹がミンチにした後、俺は強引に木刀の機能を停止させた。  
そして魔法で水を召喚して血を洗い流し背中にベルを背負う。  
この機能は使った後の処理が大変だ。  
頭がいたい…。  
とりあえず、生き残りをシルビアに引渡し禁制品を持っていたことを報告。  
背中にベルを乗せたまま宿屋への帰途についた。  
 
そして今、俺はベルを風呂に入れている。  
あの副作用は人間離れした行動ができる反面、身体に負担がかかる。  
一日は通常生活にも支障が出るほど疲労をしてしまう。  
しかし、ほっとくわけにもいかない。血のにおいは消さなきゃいけないし、  
食事はしなきゃいけない。トイレもいかなきゃいけない。  
妹とはいえ、もう18歳。健全な兄としては拷問のような仕事である。  
 
「……………」(前も洗って。)  
「お前…恥ずかしくないのか。てかちょっとは恥らえ!」  
 
妹の綺麗な赤く長い髪を梳きながら叫ぶ。妹は相変わらずの無表情だ。  
くびれた腰、そこそこボリュームのある胸。あんまり見てると変な気分になりそうで困る。  
なるべく意識を外してリクエスト通り前も洗う。  
 
「…………っ」(気持ちいいもっと触って)  
 
見ない知らない見ない知らない…なんか反応しているが俺は気づいていないんだ。  
 
「……………」(お兄様の意地悪)  
 
そして夜。副作用によって体が火照っていても眠れるように睡眠薬を飲ませ、  
ご褒美にと頼まれたので妹の横で寝ることにした。  
 
「……………ごそごそ」(お兄様いけない人)  
「すーすぅー」  
「……………ちゅっ…っ……っ」(中途半端でとめるから…)  
「んんっ!ううううっ!なんで起きてるんだ!」  
「……………」(睡眠薬は砂糖の塊と入れ替えた)  
「服もいつのまに!ああ胸が気持ちい…じゃなく、上にのる…むぐっ!」  
「……………」(副作用違う。火照るのはお兄様のせい。)  
「や、やめろ…兄妹だぞ。俺たちは。」  
 
妹の端正な顔が俺の顔の上にある。いつも通りの無表情だが顔は赤面し、  
目は欲情に燃えている。甘いものをなめるように顔を舐める。  
 
「……………ぺろっ」(お兄様以外の人に恋はできない。私嫌い?)  
「嫌いとかそんなんじゃなくてだな。お前のためには…」  
「……………」(私のため…女にしてください。)  
「後悔しないな?」  
「……………(こくん)」  
 
俺の理性は飛び、力強く抱きしめる。  
禁忌を犯すことに対する後悔よりも妹に対する愛しさのほうが遥かに  
上回っていた。初めてこちらから奪うように激しくキスをする。  
 
「ベル…。」  
「……………」(幸せ。夢見たい。)  
「体勢を変えるぞ。お前まだ体あんまり動かないだろう。俺に任せろ。ちゃんと気持ちよくしてやる。」  
 
上に乗っているベルと体勢を入れ替え、今度は体の下にいる彼女に優しくキスをする。  
その晩は夜遅くまで二人はお互いを貪っていた。  
 
 
エピローグ  
 
あれから一ヶ月が経った。  
「……………ちゅ」(おはよ)  
「ん…………朝か。おはようベル。」  
「………………」(おじさんがもうすぐシルビアが来るって)  
 
眠い目を擦りながら着替えて一階に下りると、見慣れたドレスの金髪縦ロールが  
優雅に朝食を食べていた。  
「よう。変態貴族。今日は何の用事だ。」  
「……………」(シルビア久しぶり)  
 
俺たちを見つけるとシルビアは朝食の手を止め、こちらを向いて、  
「変態って称号はもうカイに返しますわ。だってイケナイ一線越えちゃったでしょ?」  
「まてまてまてっ!何を根拠に!」  
慌てる俺に軽く頷き、ベルにフォークを向けて  
 
「強いて言うなら…ベルの余裕かな。いつも近寄るな!って感じなのに。それに  
 女っぽくなったしね。幸せオーラが…やっぱり恋する女はいいね。ね、ベル。」  
「……………」(幸せ。でも夜はケダモノ。)  
「いや、まあ、いいだろ!で、実際何しにきたんだ。」  
「んー。事後報告と礼。報酬はおじ様から受け取ってね。まず、詐欺組織のことだけど、  
 裏には魔法武器の密売組織があったわ。内偵で敵対貴族との関係を見つけたから、  
 そこから思いっきりごり押してこちらの立場を強化してあげた。大もうけね。」  
「そうか。よかったな。で、足の調子は?」  
「……………」(大丈夫でしょう?)  
「うん。足は問題ないわね。でも…」  
シルビアはにやりと笑った。何かいやな予感がする。  
 
「二人とも妊娠したから。まだ一ヶ月だけど。」  
「…………は?」  
「やっぱ腕いいわねー。カイは。以前不妊で悩んでる人のために使った薬。よく効くわー。  
 あの時のカイってばほんと素直でかわいかったわね。」  
「………………」(お・に・い・さ・ま?)  
いかん。俺殺されるかもしれん。俺に殺気を向けつつベルはシルビアに泥棒猫殺し二号  
(投げナイフ)を投げつける。シルビアはそれを額の前で二本の指で掴む。  
 
「いやその、なんだ。その…調整中に暇だからってこいつらいきなり目の前でレズプレイ  
 始めやがって、あの頃溜まってたからそのつい…調整が終わってから…二人の  
処女一緒にもらってくれとか我慢が…お前まさか確信犯か!」  
「後継者問題も一安心です。うんうん。きっと優秀な子に育つわ。わたくしは政略結婚  
 でプレゼントされてくるようなもやしには興味がないですからね。責任とか言わない。  
ベル。カイは貴女のもの。取ったりしないから安心して。それに考えても見て。  
子供がカイに似れば、ちっこいカイが二人も貴女に懐くのよ。想像してみなさい。」  
 
想像してるらしい。無表情だけど俺にはわかる。幸せそうだ。  
「……………」(シルビア今回は許す。でもお兄様はおしおき)  
「たすけてくれー!!!」  
「……………」(浮気厳禁。)  
 
「やれやれ。ほんとに仲がいいですわねー。あの兄妹は。あ、おじさまおかわり。」  
 

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