〜The Kingdom Of The Phallus〜  
 
「……すっかり明けちまったなぁ」  
 
男はそう呟くと咥えていたタバコを足元に放り、革靴でグリグリと踏み消した。  
昨夜はマトモな仮眠など取れていない。  
ずんぐりとした目の下と、本日何十回目ともつかぬ欠伸がその左証。  
ボンネットの埃が目立つセダンのドアが、バタンと閉じられる。  
レインボーランド。つい昨日まで、ここはありがちな娯楽施設だった。  
観覧車が回り、メリーゴーランドが回り、ジェットコースターが回り…、  
他にも色々あった気がするがパッと出てこない。  
最後に来たのは確か香澄が小5の時か。恐らくそれ以来だ。  
 
「そりゃ忘れもするさな」  
 
テーマパーク建設ラッシュに煽られて誕生した遊園地。  
バブル崩壊以降、多分に漏れず財政は芳しくなかったが、  
それでも新興ベットタウンのすぐ外れという立地に助けられてか今までやってこれたのだ。  
 
「ま、どの道それもオシャカだわな。お気の毒に」  
 
そう付け加えると、タバコの男は起き抜けの熊のように背中を揺すり、  
立ち入り禁止を表す黄色いテープの下をくぐって行った。  
国道を飛ばしてた頃から漂っていた臭気は、現場に近づくにつれ一段と強くなる。  
 
「あ、笹原さーん。こっちです、こっち」  
 
「……んあ?」  
 
笹原と呼ばれた小太りの男は、同じ署に勤める新米の姿を声の方角に見つける。  
 
「おう、水野か。いつからだ?」  
 
「昨日の夜から入ってます。そんな事よりアレを」  
 
水野の指差す方角に笹原は顔を向ける。  
 
「あのテープ。赤いテープから内側には近づかないで下さい。  
 あそこが奴の攻撃範囲の外周部にあたります」  
 
「……なるほど」  
 
先程の黄色いテープからさらに50メートルほど進んだ辺りだろうか。  
これ見よがしに真っ赤な反射テープが数メートル間隔で設置されたポーンの間に張り巡らされていた。  
笹原はさらにその向こう側に視線をやる。  
テープから園の中心部に向かうにつれて、敷石の表面をキラキラ輝く物体が覆っているのが目に付きだす。  
まるで馬鹿でかいナメクジでも這い回った後のようだ。  
そしてそのさらに向こうを見やれば……………、  
この位置からだと広葉樹の人工林に遮られて時計塔広場こそ望めないが、  
その中心からそそり立つ例の物体は木々の遥か頭上に、それはもう嫌になるくらい拝むことが出来た。  
 
「ほぉお…………。こいつぁまた立派なモンだな」  
 
「ええ、そりゃもう」  
 
「でもアレだな。仮性ってヤツか?」  
 
「ええ、かもしれませんね」  
 
「俺の高校時代のダチがよぉ、ああ群馬のな、そいつが丁度アレがトラウマだったんだよ。  
 んでどうやらそいつ真性だったらしくてな、皮切りにわざわざ新幹線乗って―――――」  
 
「あー、スミマセン。そっから先リアクションに困りますから」  
 
「んだよ、こっからが面白ぇってのに」  
 
「なんかもう十回くらい聞いたような気がするんで」  
 
「アレ、……そうだったか?」  
 
笹原は短い髪をボリボリと掻く。  
ぼちぼちもう一本くらい吸いたくなって来たが、いかんせん、  
隣の新人はタバコにトコトンうるさい。禁煙ブームの申し子だ。  
このままでは健全な不良青少年の育成に悪影響が出てしまう。  
元ガキ大将代表としては実に憂うべき昨今の風潮である。  
が、流石にこの年で世間様とタイマン張る気にはなれない。  
中年男は涙を呑んで二本目を我慢した。  
 
「笹原。来てたのか?」  
 
「あ、署長―――――!」  
 
すぐさま水野が居住まいを正す。  
声の主は定年も真際かと思われる初老の男性。  
髪は既に総白髪で頭の天辺は禿げ上がっていたが、  
その背筋は一直線に伸び、彫りの深い顔を実際より高い位置に錯覚させた。  
 
「どうだ笹原、とりあえず感想を聞こうか?」  
 
「んー。まぁ、大したヤッコさんでございますねえ、と。  
 でもモスクワ辺りなら凍傷で勃たなくなるんじゃないですかね、多分」  
 
「その手の冗談は国際電話で頼む。それで、外に人は集まってたか?」  
 
「あー、思ってたより……、んーいや、かなり少ない方ですかね」  
 
「報道各社には通達が出ています。被害者のプライバシーを考慮して」  
 
ボソボソとした笹原の返答に脇から水野が付け加える。  
 
「………ふん。となると残るは近所のヤジ馬だな」  
 
要領を得たのか得なかったのか。署長と呼ばれた男、小波蔵は鼻を鳴らす。  
 
「まあ、時間帯が時間帯だ。近くのコンビニに朝飯でも買いに行ってるのかもしれん。  
 引き続き警戒に当たってくれ。内も外もな。何かあったらまた知らせろ」  
 
「了解しました」  
 
「へい、りょーかい、と」  
 
そう言い含めると小波蔵は踵を返し、警察車両の方角へと戻っていった。  
ナマぬるい初夏の早朝に二人は取り残される。  
 
「署長………なんか機嫌悪くねぇか?」  
 
「笹原さん、聞いてないんですか?」  
 
疑問系に疑問系が返ってくる。  
 
「………何がだよ?」  
 
もう一度問い返すと、水野は声を潜めて耳打ちしてきた。  
 
「事件発生直後に駆けつけた隣の署の婦警が二人、アレに捕まってるんですよ」  
 
「………マジかよ………」  
 
前の署長がチョットした不祥事をやらかしたお陰で、  
小波蔵は隣の署から穴埋め人事異動でやって来た。  
務めていた年月を勘定に入れれば、知り合いは笹原や水野よりも断然多いだろう。  
その心中は察するに余りある。  
 
「一人は捕獲される所を同僚が目撃しています。  
 救出を試みたそうですが、触手の反撃に遭い負傷者も出ています」  
 
水野は続ける。  
 
「残る一人は粘液の付着した上着が噴水の前に落ちていました。  
 前の一人と同様、園内で倒れていた男性を救助しようとしていた模様です。  
 あの時点では近付くと攻撃してくる事が判明していなかった為か、彼女は単独行動だったようで」  
 
「ンならまだそうと決まったワケじゃ………」  
 
「いえ、それが……。その後、ここの警護室で防犯カメラの映像を解析したところ、  
 彼女も映っていたそうです。暴行を受けた後、取り込まれたものと思われます」  
 
笹原は下を向きながら、大きく息をつき首を振った。  
自分にも年頃の娘が二人いる。  
妹の方にもようやく縁談が持ち上がってきたトコだってのに、なんて気の滅入る話題だ。  
 
「捕まってるガイ者たちの家族は?」  
 
「えー、警戒線の周辺に詰め掛けて来られた方々は全員署の方にお集まり頂きました。  
 そこで対策室長から経過の説明が行ってる筈です。これが昨日の夜半ですね」  
 
「取り込まれずに残されていた連中は?」  
 
「男性は昨夜までには大方救助された模様です。  
 皆さん割と軽症ですが、打ち所が悪かった方々は中央病院へ搬送されてます。  
 救出の際に負傷した隊員も同様でしょう」  
 
「あい分かった」  
 
何時の間にやら笹原は二本目のタバコを咥えている。  
水野はチラリと横目で見るが、いつものお小言は飛んで来なかった。  
それもそのハズ。園内に漂う悪臭は半端なモノではない。  
栗の花に似た香りと生臭い干物のような匂い。  
愛煙家ならずとも、何でもいいから焚いて誤魔化さなければやっていられなくなる。  
 
「―――――で、本題だな。今後の手筈はどうなってる?」  
 
「えぇ、それですが………」  
 
水野は一息置いて手元の資料をパラリと一枚めくる。  
 
「本日付で陸自に出動要請が下ってます。―――――が、  
 首都圏近郊だけでもあの物体は十数ヶ所の隆起が確認されています。  
 実際、ここからすぐそこの駅前にも、もう一ヶ所。  
 山間部など人目につきにくい場所を入れれば、この数は今後も増えると踏んで正解でしょう。  
 ここの本格的な救出活動に取り掛かれる時期は今の所メドが立っておりません」  
 
「………続けてくれ」  
 
「とりあえず、あと小一時間ほどで警視庁のNBCが到着するそうです。  
 あ、それと向こうに保健所の所長が見えてますので、  
 挨拶だけで結構ですので後でお願いします」  
 
「いよいよゴッチャになってきたな………」  
 
「えぇ、まぁ……。標的が動物なのか植物なのかも、  
 現時点では判明していませんので」  
 
「アレだホラ、バイオテロってヤツの可能性は?」  
 
笹原の質問に水野はパラパラと書類をめくって首をかしげる。  
そんな事訊ねられても困るといった態だ。  
 
「ふー………。動物だったら、そうだな、猟友会でも呼ぶか?」  
 
「熊には見えませんね。まあ、野鳥の会よりは役に立つかもしれません」  
 
珍しく水野が冗談に付き合ってきた。しかし真顔で。  
 
「ま、要するに俺たちの当面の仕事は警戒線の維持ってこった」  
 
「そうなりますね。昨日はヤジ馬のひとりがケータイ片手に警戒線を超えて侵入しましたし」  
 
「ハァ?そんでどうなったよ?」  
 
「お約束ですよ。触手に殴り倒されて機動隊の仕事を増やしてくれたそうです」  
 
「チッ、B級映画だな。んな馬鹿こそガッツリ掘られちまえばいいのによ」  
 
「同感ですね。今後、付近の病院のベッドも足りるかどうか怪しいらしいですし」  
 
水野が相槌を打つのと同時に笹原は二本目のタバコを足元に落とし踏み潰した。  
長身の後輩と並んでいるせいか、足の短さばかりがやたらと目立つ。  
 
「どれ、ちょっくら一周してみっぞ」  
 
ノソノソと歩みを進める中年の後に新米が続く。  
遥か上空に佇む巨大なシロモノは、歩けど歩けど視界から外れそうに無い。  
どうやら今日は丸一日、こいつを下から拝み続けるハメになるらしい。  
 
―――――――――ったく、嫌な仕事になっちまったぜ。  
 
 
隙間から差し込む仄かな光が、冬の湖面の如く静まり返っていた意識にさざ波を呼び込む。  
もう何も聞きたくない。見たくもない。  
いっそこのまま永遠に意識が戻らねばどれほど幸せだったのことか。  
などと願ったところで人間の身体は時が来れば覚醒し、やがてまた睡魔に襲われる。  
望もうと望まざるとそうできているのだ。呪いたくなる。  
 
「ぁ………うぅ…。あ…………あ…ぁ」  
 
「あ……ぁ………あん………」  
 
「…………ひぅ、……あふぅ…………」  
 
ここは閑静な住宅街の一角ではない。自分の部屋でもないし、ましてやベッドの中でもない。  
その証拠にホラ、毎朝庭の椿の枝にやって来るスズメの一団のさえずりも聞こえない。  
耳に届くのは肺腑を絞るような掠れた喘ぎと、か細く消える嗚咽の尾。  
重い目蓋を持ち上げた先に映し出される予想通りの光景に、一縷の希望は儚く散る。  
夢ではなかった。解り切っていた事だが、それでも彼女はその望みに縋ってみたかった。  
由紀の置かれている状況を鑑みれば、誰もそれを責めはしないだろう。  
そう、―――――――――ここはレインボーランドだ。  
 
無数の猛り狂う逸物で編まれた鳥籠の中、そこで由紀たちは飼われている。  
互いに絡み合い、外壁を構成する肉蔓の僅かな隙間から太陽の光が届き、  
半球体の内部はダウンライトを灯したベッドルームのような明るさが保たれている。  
天蓋を仰げば、そこには数え切れないほどの宙吊りの女性たち。  
皆一様に、はだけた胸元から瑞々しく張りのある乳房を振り出し、  
下半身の衣類はすべて膝下から足首に集められ、  
ぬたくる異物を咥え込んだ局部が剥き出しになっている。  
まるで艶やかな女体を晒し物にする為のプラネタリウム。  
 
この人数の割りに響き渡る嬌声のボリュームは控え目だ。  
無理もない。彼女たちは一晩中、嬲られ続けたのだ。  
多くの者が肉体の酷使に耐え切れず、ブレーカーが作動したように昏睡状態に陥っている。  
由紀自身、昨日は一体どこまで意識があったのか。  
まだ半分まどろんでいた彼女の脳が、ゆっくりと記憶の断片を噛み合わせ始める。  
触れてはいけなかった気もするが、磨耗した精神の元、一度動き出した思考は容易に止められない。  
触手の監獄に囚われて迎えた初めての夜。  
その忌まわしき悪夢のひと時が、由紀の中で鮮明に蘇る―――――――――。  
 
 
 
 
 
暗い―――――――――。何も見えない―――――――――。  
果たして取り込まれてからどれぐらい経過したのだろうか。  
平衡感覚が狂っていなければ、由紀の吊るされている姿勢は仰向け。  
ドームの中は闇に閉ざされ、陽が落ちた事だけは漠然と察知できた。  
取り込まれる直前に見た時計塔から逆算すれば、どんなに見積もってもまだ数時間か。  
 
半ば絶望と恐怖に押し潰されかけながらも、  
闇の中を反響するアラレもない呻き声と、  
滴る蜜の二重奏から、由紀は五感の全てを逸らそう懸命に努力していた。  
だが、どれだけその響きを頭から打ち払おうと奮闘しても、  
その都度、彼女の意識は股間をしゃくり上げる異物に引きずり戻され、現実を直視させられる。  
そう、他でもない由紀の下半身もその演奏に参加しているのだ。  
感覚がどれだけ磨り減り麻痺しても、肉壷の内側だけはしっかりと現在を捉え続ける。  
ポタポタと、大粒の涙が彼女の頬を走った。  
 
いっそのこと―――――――――もう外に出られなくても構わない。  
開放する気が無い事くらい、私は分かっている。  
自分がこのドームの外に出される時。  
それは即ち、由紀がスープの供給源として用を成さなくなった瞬間、事切れた時に他ならない。  
だから一度でいい。せめて一度でいいから、  
この二つの穴を征服している赤銅色のデロリとした物体を引き抜いて欲しい。  
そして半日、いや、一時間でいい。  
お願いだから休ませて欲しい。一人で思いっきり泣かせて欲しい。  
今日の出来事を受け入れる為の時間。そんなものは初めから望んでいない。  
由紀はただ疲れたのだ。  
 
だって……、私もう―――――――――限界。  
 
滴る愛液の量は明らかに昼間より少なくなってきている。枯れ果てるのも既に時間の問題。  
触手と秘裂の間の摩擦係数は次第に上昇し、腫れぼったい感触は強まる一方。  
蹂躙者のお目当てのモノは、もうじき私の身体からは出なくなる。  
ギブアップが許されてもいい頃合の筈だ。  
いっそ“処分”してくれてもいい。  
このままずっと、こんな姿にされてまで………私は生きていたくなんか無い。  
 
 
 
だが……………。  
 
 
 
「―――――――――っ!?」  
 
ズクリと、由紀の膣内で触手が蠕動した。  
やけに荒々しい。まるで怒っているようだ。  
 
「きゃ……!あぅッ………」  
 
二度目の蠕動。今度はお尻の異物だ。  
肛門を基点にグイっと由紀の体を持ち上げる。  
久しく堪えていたみっともない声が漏れてしまった。  
 
続いてまた前の触手。そして後ろの触手。  
先程までの緩やかな律動とは明らかに異なっている。  
それを裏付けるように、徐々にその動作間隔は狭まり出した。  
 
ズクリ………………、ズクリ……………、ズクリ…………、  
 
ズクリ………、ズクリ……、ズクリ…。ズクリ。  
 
どうやらそう簡単には赦されはしないようだ。  
 
使えなくなったのなら、使えるようにしてやればいい。  
もう何をされても感じる事はないだろうと、  
そう思い込んでいた由紀の下腹部に、小さな疼きが芽生え始める。  
熱い。そして甘い。とてつもなく妖しい高ぶり。  
その感触はヒタリ…、ヒタリ…と忍び足で上半身に登り詰めてくる。  
頬の火照りに思わず唾を飲み込む事さえ忘れた。  
 
何だろう。乳房の根元がムズがゆい。  
即座に両胸を縛る触手がバストを揉みほぐし、そのニーズは満たされる。  
普段ブラジャーに押し付けられて日の目を見なかった膨らみは、  
ここぞとばかりにその先端を尖らせ自己主張をするのだ。  
 
喉の奥がだんだん熱く乾いて来た。由紀の中で黒い炎が盛り始めている。  
 
―――――――――駄目っ!  
 
由紀は半ば折れかけていた自分自身を叱咤する。  
ここで流されてしまえば、また、同じ事の繰り返しだ。  
耐えられっこない。このまま永遠に犯され続けるのなんて御免だ。  
ならどんな結末でもいい。もう終わりにしたい。  
 
―――――――――でも……、  
 
込み上げてくる愉悦を抑える術を由紀は知らない。  
膣分泌液が自分の意思で止まるハズもない。  
肉壷は彼女の気持ちなど知らず優しげに侵入者を揉みほぐす。  
どう足掻いても、つまるところ膣とはそそり立つ陰茎を受け入れ、  
性的快感を存分に与え、射精を促す器官なのだ。  
背すじが痺れるような快感が、腰のあたりから一本走り出した。  
先刻、植えつけられたオルガスムスの苗木が再び枝を伸ばす。  
………………これは二度目が近い。  
 
ズクリ!  
 
「い………い…や…、んうッ!」  
 
先刻の倍はあろうかという強烈な衝き上げがお尻から襲う。  
僅か半日前までタダの一排泄器官に過ぎなかったアナルは、  
陽が沈むまでの数時間で容赦なく開発し尽くされ、  
今や立派な性感帯の一翼を担うまでに変貌を遂げていた。  
肛門の運動を一手に引き受けていた括約筋は既にその役目を放棄し、  
無作法な侵入者との戯れにご執心だ。  
自分の身体がどんどん由紀を裏切っていく。  
 
「や……あ、……あ、……あ、……あン」  
 
ふつふつと、額に浮き上がる玉の汗。  
苦しい。このまま俯いて歯を食い縛っていては息が止まりそうだ。  
上を向いて口を開き、喉を広げ気道を確保すると、  
そこからリズミカルな官能の喘ぎがタダ漏れになる。  
強くなる一方の眩暈。指先がチリチリ焼ける。  
魂が全て下半身に引きずられていくような誘惑。  
まるで脳が溶けているようだ。  
由紀の理性は狭い盤上を逃げ回るチェスの駒の如く追い込まれ、  
一欠片、また一欠片と奪われていく。  
 
フラッシュバックする昼間の記憶。  
口に挿し込まれた恥垢まみれの亀頭。  
人目すら避けさせて貰えない白昼の絶頂。  
そして―――――――――初体験で迎えた膣内射精。  
その傍らで、囚われの身の女性たちの股間からゴプゴプと溢れ出るクリーム。  
 
そうだ、と彼女は思い出した。  
 
触手の中を運ばれてくる体液の塊、アレは今どこまで近づいているのか?  
分からない。昼間とは違う。辺りは何一つ見えない。  
 
先程から支えを欲した両腕がしきりに宙を切る。  
だがそこには組み敷かれた女が掴むべきシーツも、握るべき手の平も無い。  
 
(―――――――――え?)  
 
無意識の内に、彼女の両手は一本の触手を抱え込むようにして掴んでいた。  
その肉の管は丁度ぶっくりと膨らんでいる。  
なんたる偶然か。暗闇の中、由紀の手の平は今まさに触手の中を進んで来る白濁液のコブを捕捉したのだ。  
 
「………ひっ!」  
 
半ば脊髄反射のように、彼女は両腕にありったけの力を込める。  
指と指の隙間を粘液が満たす感触も今はお構いなしだ。  
 
想定外の妨害行為に遭い抽送の停滞を余儀なくされる肉のポンプ。  
ビクン、ビクン、とその身を躍動させ、  
締め上げられて溜まった白い汚泥を無理やり関門の向こう側へ滑り込まそうと奮起する。  
 
(嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だッ!!)  
 
一方の由紀。歯をギチギチ食いしばり、両腕の筋が上げる悲鳴にも耳を貸さず、  
親の仇でも絞め殺すかのように爪を食い込ませる。  
あれだけ長時間に渡り嬲られ続けて、尚もこれほどの力が残っていようとは。  
一番驚くべきは彼女自身に他ならないが、当の本人にそんな余裕は無い。  
ここで少しでも手を緩めれば、今握っているチューブの中で滾っているモノが、  
余す事無く自分の胎内へと注ぎ込まれるのだ。  
残りの人生で使う予定の全握力を叩き込んでも構わない。  
それだけは止めなくては。例え既に一度流し込まれた身であったとしても。  
 
しかしこんな抵抗、長続きするハズは無い。  
だが今の由紀にはそれに気付く余裕もまた無いのだ。  
故に彼女を正気に戻したのは、秘裂を突き上げた触手の一撃だった。  
 
「あ―――――――――……」  
 
ツゥンと股間に広がった甘い快感に由紀の手が緩む。  
次の瞬間には、触手の中の膨らみは何事も無かったかのように  
彼女の手の平の下をゴクリと通過していた。  
 
(そんな―――――――――……)  
 
失意に消え入りそうになる由紀の意識に反比例して、  
彼女の股間を突く肉棒がいよいよ盛りを増す。  
血液をギチギチと先端に集めて怒張し、  
自らが頭を埋める粘膜の原野へと砲撃体制を整えた。  
 
「あ……あッ……ぁ……ぁッ…」  
 
今にもフェードアウトしてしまいそうな彼女の音色。  
ブルブルっと触手が小刻みに震え、由紀の腰がハイテンポなエクスタシーにのたうつ。  
ボトルの中身をぶち撒けるように下半身から全身に広がる甘い蠱惑。  
決壊寸前のダムにトドメの亀裂が入る。  
キュッ、と由紀の膣がぬたくる相方を締め上げ合図した。  
その抱擁が決定打だったようだ。  
 
トリガーが引かれた。  
 
由紀の身体がグイっと弓なりに仰け反り、全身に付着した粘液を虚空に振り撒く。  
 
「ひ、ひ、いぁっ!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ……!!!」  
 
ごぷごぷ、ブパっ!―――――――――ビクン、ビクン、ビクン………  
 
彼女の中で触手が爆ぜた。  
先程のお返しとばかりに、真っ白なヘドロで由紀の湾内を汚し尽くす。  
燃え盛る欲望のコロイド溶液。  
膣壁を緩やかに揺らす射精後の律動。  
焦点の定まらない瞳から滴る涙。  
またひとつ、由紀の身体は汚染されてしまった。  
 
「ふ……ぁ……ぁ…」  
 
頭の天辺まで上り詰めた快感が、荒波に洗われた後のように引いていく。  
張り詰めていた物がようやく緩み始めると、  
彼女の前後の穴に注ぎ込まれたモノがドクドクと吐き出され、  
内股を伝いながらゆっくりと落ちていった。  
 
(あ………そうか……………)  
 
呆けたままの頭で由紀は独り納得する。  
 
(お尻も……されてたんだ………)  
 
なのに一本だけを必死になって握り締めていた自分。まるで道化だ。  
 
(もう……なんなんだろ………私って……)  
 
化け物との強制合体は未だ解除されず。  
代わりにズルリと、頭の中から精神が滑り落ちていくような感覚。  
滴り落ちる銀の糸と一緒に、由紀の意識はここで途切れたのだった………。  
 
 
 
これが彼女の昨夜の全てである。  
 
もう、このまま目覚める事が無ければ良かった。  
悲痛な思いに疲れ切った顔が歪む。  
綺麗な黒髪は吐き掛けられたモノが乾いてパリパリだ。  
この白濁液、乾燥するとイカのような臭気を発するところまで一緒なのである。  
 
(やっぱ………、妊娠とか……させられるのかな……)  
 
若い女性ばかりを捕らえる理由とは他になんだろう。  
逆に湧出物だけが目的だとすれば、それはそれであんまりだ。  
愛液なんかの為に、自分は嬲り倒され、辱められ、今も拘束されている事になるのだから。  
レイプされるくらいなら、下り物ぐらい自分から差し出した方が幾らもマシだった。  
いずれにせよ、今そんな事に思いを馳せてもどうにもならない。  
由紀はこれから、この二日目を乗り切らなければならないのだから。  
 
取り込まれている女性たちで、今、覚醒しているのは由紀を含めて少数のようだ。  
手近なところにいる女性はみな、グッタリとして動き出す気配は無い。  
けれども、その下半身だけは触手の動きに合わせてテンポ良く腰を振りたて、甘美なウネリを見せている。  
自分とて例外ではない。由紀の腰は彼女の意思から独立しているかの如くグラインドし、  
休む事無く大きな“の”の字を描き続けているのだ。  
こんな腰使い、由紀は知らない。当然だ。つい昨日まで処女だったのだから。  
なのにこの動き。まるで下半身が別の生き物になってしまったかのようだ。  
 
口の中は酷く粘ついている。  
無理も無い。昨日の口内陵辱から一度も濯いでいないのだから。  
充満する悪臭にやられた嗅覚をもってしても、  
呼吸をする度にチーズのようなニオイが吐き出されているのが分かる。  
 
顔のすぐ下でフルフル揺れている胸が目に付いた。  
初日はずっと乳房に巻きついていた触手、それが両方とも見当たらない。  
慎ましやかに収まっていた白桃は強烈な愛撫に晒され続け、  
今やその突端は別人のモノのようにそそり勃ち天を睨んでいる。  
果たしてこれは………………本当に自分の身体なのだろうか。  
 
双つの丘を優しく包み込んでいたブラジャーは、  
その下で触手が行った嗜虐的行為によって乱され、  
ヘソのやや上までズリ落ち斜めに引っ掛かっていた。  
見方によっては盛り狂った乳房が暴れて押し退けられたようでさえある。  
よくもまあ、ハタチにも満たない少女をここまで酷たらしい姿にできたものだ。  
 
ズズズ―――――――――じゅるッ!!  
 
朝の味噌汁を啜るような音が立ち、ギョっと由紀は首を持ち上げて自分の下半身に目を走らせた。  
視線の先に居を構えていたのは寝苦しさの正体。  
挿入時から一度も引き抜かれることもなく、ジクジク絞り出される樹液を貪っている男根である。  
ずり剥けた包皮のヒダで由紀の愛液を掻き集める際、どうやら空気を一緒に吸い込んだらしい。  
 
さらにその先には昨日まで彼女の下半身を覆っていたジーンズ。  
くるぶしの辺りまで降ろされているソレは、この一両日で触手の放った白濁液と、  
持ち主の愛液の両方を存分に滲み込まされ、随分と酷い重さになっていた。  
お陰で足首が痛い。腰が持ち上がる度に金具同士がカチ合う音も耳障りだ。  
他の女性たちが目を覚ませば、この音で皆の視線が自分に集まってしまうのでは。  
そんな心配までしてしまう。いっそ勝手に脱げてくれればとも思ったが、  
スニーカーの踵に引っ掛かっている現在の状態からは、当面ズリ落ちてくれそうにもない。  
瞳を凝らせば、その青黒いテカったデニムの上に、僅かではあるが小さな赤茶色の斑紋が見てとれる。  
錯乱状態だった昨日は、殆ど気に留める余裕すらなかった。  
それは紛れも無く……………………純潔を散らされた証である。  
 
バージンに特別拘っていた訳ではない。  
気の好い相手さえ見つかれば、早々に受け入れてしまっても構わない。  
そんな風に考えていた時期さえあった。  
今の世の中、奥手だと思われてしまう方が損だ。  
だが、やれ地区予選だ大学受験だと追われている内に、幾度かあった機会は流れていった。  
だったらもう少し、自分を大事にしてみようか。そんな事を考えていた矢先の出来事である。  
由紀の身体を女にしたのは、どう呼べばいいのかすら分からない肉の塊。  
その圧倒的かつ仮借なき暴力を以って彼女は今も隷属させられているのだ。  
僅か十九年の人生は一体なんだったのだろう………。  
 
心を空っぽにしようと努力すればする程、様々な思念が尽きる事無く脳裏を掠めるの。  
部活仲間の顔、予備校仲間の顔、サークル仲間の顔、  
姉の部屋に勝手に入り込んで洋楽のCDを持ち出す弟の顔。  
正浩………、彼は果たして無事だったのだろうか?  
こんな格好をさせられている由紀を見たら、パパとママはどうなってしまうのだろうか?  
冷たくなった私が、汚し尽くされた姿で運び出されてきたら、みんなは―――――――――。  
 
駄目だ。考えたくない。  
でも………、思考の糸は止まる事を知らず勝手に紡がれて行く。  
それはきっと、彼女に出来る事が他に何も残されていないからだ。  
辛い。頭の中が無限ループしそうだ。  
ここまでしたならもういっそ壊して欲しい。  
そうすればもう何も―――――――――。  
 
ズズズ―――――――――じゅるッ!!  
 
思考を断ち切ってくれたのは二度目の嫌な音。  
まただ。どうやら漏出液の量が再び減ってきたらしい。  
そうなれば待っているのは三度目となるカンフル剤投入である。  
ゆうべの悪夢を省みれば、抵抗は無意味であろう。  
まあ……運が良ければ、絶頂には至らずに済むかもしれない。  
なにせ今日の自分は悲しいくらい凪いでしまっている。  
ドッキングポイントから込み上げる疼きも無い。  
心と呼ばれているものが半分死んでしまったかのようだ。  
 
………ベチャリ。  
 
唐突に、何か湿った物がジーンズの上に落下してきた。  
自然と由紀の視線はその申し訳なさそうに乗っかっている物体へと注がれる。  
咄嗟には出てこないが、見覚えがあった。  
つい最近、目にしたような気がする何かを、由紀は頭の中で検索する。  
 
思い出した。それはよじれて縄のようになった純白のショーツ。  
 
面を上げ、肉の天井を仰ぎ見る由紀。そこには無数の女性たち。  
程なくして彼女は、その中に落とし主の姿を見つける。  
間違いない。あれは由紀より一足先に肉塊に沈んでいった女子高生だ。  
この落し物のは昨日、ズリ下ろされて彼女の片足に引っ掛かっていた下着。  
雪原のような白一色の木綿の生地には、赤い斑点が所々染み付いている。  
由紀は自分と同じ喪失を体験した犠牲者に、切ない同情を寄せずには居られなかった。  
 
「……ぁ……ィ…ィ……ァ、ァ―――――――――」  
 
距離がある。ここからでは彼女の声を細部に渡って聞き取る事は叶わなかったが、  
それでも僅かに漏れてくる旋律から、置かれている状況だけは伝わってくる。  
宙吊りのまま、その子は全身を大の字に開き、四肢を遮二無二ばたつかせ足掻いているのだ。  
その若々しく均衡の取れた身体には、周囲の女性を遥かに上回る数の触手が押し掛け、  
玩弄の限りを尽くしているのが遠目にも見て取れる。  
そうして眺めている内にもその陵辱器具は次々と数を増し、今や彼女の肢体を芯に全て覆い尽くし、  
まるで触手の集合体を創り上げんばかりの様相を呈していた。  
 
(なんであの子だけ………、あんなに?)  
 
流石にそこまでは出てこない。  
傍で宙吊りにされている他の女性たちとは何かが決定的に違うのだろうか?  
何か鍵にが、手掛かりがあればと思ったか、  
ふと、由紀はジーンズの上の落下物に再度目をやる。  
 
彼女の運命はどこまで皮肉に出来ていたのか。  
先程も見たソレに、由紀はある自分との共通点を見つけてしまった。  
それは、汚れたクロッチにこびり付く朱色の刻印―――――――――。  
 
(ま………まさか―――――――――!?)  
 
ヒュン、と何かが由紀のすぐ傍で蠢いた気配。  
半ば確信しつつもそれを確かめる為に、彼女は恐る恐る首を横に向けずにいられなかった。  
そう、彼女の震える瞳が捕らえた物は………。  
 
(嘘……でしょ。ねぇ、嘘だって言ってよ………。ねぇ……)  
 
宙ぶらりんの由紀を包囲している多数の触手。  
その包皮が裏返って現れたのは丸い亀頭ではなく、  
数えるのも嫌になるイソギンチャクのようなおびただしい触手の群生体。  
彼らは皆、その口から垂れ下がる子機をクチャクチャ鳴らし、  
じっくりと由紀の身体を鑑賞していた。  
 
(私―――――――――やっぱ狂っちゃうんだ………)  
 
自分はこれからこの一団に嬲られる。  
彼女の頭を掠めた思念を肯定するかのように、ピクピクと触手が縦に揺れた。  
そうだよ。さァどうだろうね。そう言わずガンバッテみれば。  
そんな風に笑っているようにさえ見える。  
出来ることなら今すぐ狂いたい。むしろ死んでしまいたい。  
 
そこら辺に拳銃は落ちていないか。  
睡眠薬は。青酸カリは。  
屋上から飛び降りるのが一番手っ取り早いか。  
 
駄目だ。もう、由紀の頭の中は完全に混乱している。  
叶いっこない選択肢が遮二無二駆け巡る。  
 
絶頂には至らずに済むかも知れない―――――――――。  
今日の自分は凪いでいる―――――――――。  
 
そんな甘い考えを抱いていたのは一体何処の誰だったか。  
恐怖と焦燥に飲み込まれかけていた由紀の心臓は、  
なんとか彼女をその迫り来る脅威と張り合わせようと、  
半ば反射的に声帯を突き動かした。  
 
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ―――――――――!!!」  
 
由紀の絶叫と触手の殺到は、ほぼ同時だった。  
 
最初に狙われたのは乳房。続いてうなじ。  
形の良い張りの上を無数の触胞が這いずり回り、快感の突出部をクチャリと包み込む。  
首から滴る粘液は鎖骨との間に張った皮膚に溜まり、静かに溢れて胸の谷間を滑った。  
 
「いやぁぁぁぁあ!嫌ッ、嫌ッ、嫌あッ、いや…………むぶ!!」  
 
信じられないほど繊細で、細やかで、それでいて大胆なペッティング。  
初日に浴びせられた吸盤の愛撫など、これに比べれば児戯に等しい。  
首筋から顎を撫でるように上ってきた一本が、由紀の唇をそっと撫で、その中へと進入する。  
異物を押し出そうと伸ばした舌は軽やかな挙動で絡み取られ、  
由紀の味覚器官は無数の突起が蠢く触手の内側へと引き込まれた。  
フレンチキス。そんな生易しい物ではない。  
まるで口の中に放火されたようだ。下顎がガクガク震える。  
 
別の一群が内股をなぞる。無数の濡れた筆で絵画を洗い流すように。  
ゆっくりと、膝の内側から鼠径線まで濃厚な愛を塗りたくる。  
由紀の下半身は弾け飛ぶように踊り狂い、  
ズボンの上に乗っかっていた例のショーツは呆気なく振り落とされていった。  
ガッチリとホールドされている太腿を震わせ、必死に両脚を閉じようと試みるが、  
後ろの穴に潜り込んだ異物が尻の肉をグイっと広げる度に、その抵抗はふりだしへと戻される。  
 
「むぅ……ぐむむぅ……むちゅ………、ブハァっ!!!」  
 
一方の口腔に潜り込んだ触手は、ようやく由紀の舌をその抱擁から解放すると、  
白一色の細い虹を描きながら唇を離れ、彼女の鎖骨を撫でながら下へ下へと向かう。  
お目当ては胸板の上で揺れるふっくらとした温もり。  
既に陣取っている先客と意気投合し、先端から飛び出した何十本もの小径触手を用いて、  
夕陽の色に染まった双つの果実を下から上に、ゆっくりと舐め上げる。  
その頭頂部で充血して直立する突起が弾かれるその度、哀れな獲物は愉悦と拒絶の悲鳴を同時に上げるのだ。  
 
「や、や、や………ハフっ。お、お願い。おおお願いもう止めて、……やや止めて。  
 も、もう。いいでしょ。い、い、い、いうことききき聞くから。何でもするから。  
 ねえ。いいでしょ。だ、だ、だから。ねえ、ねえ、ねえ、ねえってばぁぁぁあ!!」  
 
およそ人語の通じる相手には見えない物体に、わななきながら由紀は懇願する。  
崖っぷちの精神状態で紡がれる日本語は、一体誰に向けられているのか。  
もはや本人にさえ分からない。  
あるいは単に唇が震えるままに、肺から送り出されるガスを細切れにしているだけなのかもしれない。  
 
素人が見せる人形劇のように、由紀の身体は宙吊りのまま波打ち続ける。  
その姿に惹かれたかのように際限なく集まってくる触手たち。  
激しい痴態は遠目にもわかるのか、他の女囚たちの視線もいつの間にか由紀に注がれていた。  
みな揃って腰を躍動させながらも、壊れたように喚き散らす少女の姿に見入っている。  
上気して潤んだその瞳は、次の犠牲者は自分なのでは、という恐怖に捕われている様だ。  
 
(やだ……見ないで………っ。見ないでってばぁ……ぁっ!!)  
 
自分が晒し者にされている。まるで公開陵辱だ。  
こんな事が許されていいのか。涙が止まらない。  
どんなに由紀が抗おうとも、訴えようとも、ここは肉蔓の王国。  
赤黒い閉鎖領域の中で触手が全ての支配権を握っていた。  
 
塩っぽい液体が止め処なく由紀の顔から滴る。  
増援の触手は肉の付いていない腹部をベロっと一舐めすると、  
とっくにズリ落ちて用を為さなくなっているブラジャーを絡め捕った。  
腹を撫で回すのに邪魔になったらしい。  
キャミソールのアウターに響かないストラップレスタイプ。淡い空色はショーツとお揃いだった。  
充血した肉蔓がグイっとひとたび力を込めると、背中のホックはブチリと外れ、  
最後まで由紀の胴周りにしがみ付いていた下着は、ベルトを躍らせながら巻き上げられる。  
こうして駅前のモールで購入したお気に入りは、無造作に虚空へと放り捨てられた。  
 
「う、うぅぅぅぅあぁぁあ、ひぅッ!!こ、こここ殺して!誰かッ!!ねぇッ、殺してぇ!!!」  
 
肌の上で光る液体の主は触手なのか、はたまた由紀なのか。  
高純度のアルコールを塗布されたように彼女の皮膚は紅潮し、  
粘液と汗の混合物が滝の如く流れる。  
内股を舐めていた一本は、同志が潜り込んでいる秘裂を見咎めると、  
その上部で手持ち無沙汰のまま震えている肉芽を探り当てた。  
逃れる術など無い。容赦なく敢行されるクリトリスへの愛撫。  
哀れな突起を無数の触手で舐め回し、転がし、弾き、包み込む。  
もはや性感帯の集合とも呼べる由紀の身体はその都度悲鳴を上げ、  
ポーズを変え、決壊した水瓶のように愛液を放つのだ。  
 
「あぁぁぁぁあ、あぁぁぁぁぁあ、やめてぇえ!!やめてえぇぇぇえ!!!」  
 
余りの量にズビズビと音を立てて吸い上げられる分泌液。  
性器に突き立てられた輸送管が歓喜の悲鳴を上げる。  
強烈なスピードでズクズクと突き上げられる下半身。  
腰は靭帯が破断してしまうのではと思われる勢いでスイングする。  
股間から、内股から、下腹から、乳房から、脇の下から、  
背筋から、うなじから、絶望と恍惚に染まり行く少女。  
 
「ひ、ひぁぁぁぁぁぁあ―――――――――!!  
 や、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ―――――――――ッ!!」  
 
天と地がひっくり返るような錯覚が全身を駆け巡る。  
果たしてこれは絶頂なのだろうか。  
この地獄の二日間ですら未体験の感覚。  
自分は悦んでいるのか、それとも苦しんでいるのか、  
もはや由紀自身にソレが判断できないのだ。  
身体がのたうつ。触手と一緒にのたうつ。  
触手と一体化したようにのたうって……。  
 
―――――――――ブツン。  
 
「……………………………あ」  
 
ホワイトアウト。意識はここまでだった。  
 
ゆっくりと、やさしげに、そして厳かに。  
磔にされた贄を包む聖骸衣のように、  
身動きひとつしない由紀の身体は触手の大群に包まれて行く。  
 
 
 
 
どれくらいの時間が経過したのか。  
 
(私……。生き………て……る…?)  
 
触手の監獄に差し込む光はどこまでも紅く、疲れ切った網膜を照らす。  
天国がやってくる光ではない。これはきっと……………西陽だ。  
外は夕刻、二日目の太陽が沈もうとしている。  
 
「う………ぁぁ…………ぅ……」  
 
筋肉は鉛のように重く、もはや声も満足に出ない。  
酷い頭痛がする。頭の中で割れ鐘を敲いている様だ。  
 
これは一体何だろう。身体が水の中に浮いているような感触。  
違和感の正体を確かめるべく、視線を自分の身体にと落とす。  
 
(なに……これ………)  
 
そこにあったのは控えめな乳房でもスレンダーなお腹でもない。  
真っ赤な、真っ赤な―――――――――触手の塊。  
 
(なんか……もう………笑っちゃいそ……)  
 
由紀の身体は余す事無く触手に包み込まれ、まるでミノムシのようになっていたのだ。  
楕円形の繭の外に首から上だけだ突き出され、辛うじて呼吸を保てている。  
 
何となく飲み込めてきた。  
 
意識が途切れる直前まで彼女の全身を嬲っていた触手。  
アレが多数の集合体を形成し、由紀の身体を包み込んでいるのだろう。  
その証拠に繭の内壁、由紀の肌に触れている部分は先程の触手の先端部、  
無数の小さな触手が余さず押し当てられ、絶えず蠢き続けていた。  
五感は殆ど死に掛けていたが、顔から絶えず流れ出る汗に今も陵辱が続いている事を悟る。  
 
ガクン、と。由紀の首が振り子のように揺れた。  
 
どうやら限界が来ているようだ。  
何時果ててもおかしくない首の筋肉を酷使し、焦点の定まらない目で周囲を見渡す。  
おおよそ三分の一ぐらいか。他の女性たちも由紀と同じような姿にさせられている。  
皆、意識は無いようだ。時折微かに震える様子から息があるのだけは分かる。  
精神の方は………………保証できない。  
 
燃え尽きる寸前の流れ星。地に墜ちる寸前の線香花火。  
由紀の心は恐らく今、そんな状態に置かれているのだろう。  
もう、今日までの自分が明日の朝を迎える事は無さそうだ。  
次に目を覚ました時、由紀はそこにいない。  
求められるがままに愛液を垂れ流す、かつて由紀と呼ばれていた物に、  
化け物のための壊れた生き餌に成り果てているに違いない。  
 
夜がやって来る。地獄さえ陳腐に見える夜が。  
檻の隙間から差す光は正気の自分が眺める最期の光景。  
それは眩し過ぎて正視には堪えない。  
残りの人生は余りにも遠いところへ行ってしまった。  
長かったといえば長かったが、  
思いのほか早く楽になれた気もする。  
 
目蓋がゆっくりと降ろされていく。  
静かに狭まり始める視界。  
 
 
 
パパ、ママ。私の事―――――――――絶対見つけないで。  
正浩、遊園地には一人で行ったって言って。  
こんなの………家族にだけは見られたくないから。  
 
―――――――――でも。  
 
もし。もしもの話ね、私が助け出されたらさ。  
もう壊れちゃっててもさ、一度でいいから。  
 
思いっ切り………抱き締めてくれない……かな。  
 
頑張ったな。  
 
良く耐えたな―――――――――って。  
 
ねぇ………………お願い………。  
 
 
 
 
 
 
切除――――――………完了!  
 
担架―――――――――早く!  
 
(………………誰?)  
 
遠くで大勢の人の声がする。  
聞いたことも無い人たちの声。  
天国?それともこれは―――――――――。  
 
「佐々木班長、こちらにも一名」  
 
「大島!カッターこっち回せ、大島ァ!!」  
 
「樫葉さん!手ぇ空いたら次はこっちに!!」  
 
湿った肌を撫でる空気が酷く生温い。  
目蓋の隙間から差し込む光が眩しかった。  
網膜がなかなか慣れてくれない。  
太陽の光ではない。もっと人工的な………。  
 
「……あ、ぅ……。だ、……誰……?」  
 
「あります!樫葉さんッ!意識、あります!!」  
 
「わかったから。川上隊員、そこ、どいて頂戴!」  
 
逆光の中、誰かが由紀を覗き込んで来る。  
 
「大丈夫!?よく頑張ったわね。待ってて、今すぐ出してあげるから!」  
 
防護服の中から聞こえて来たのは年季の入った女性の声。  
ブチ、ブチ、と何かを切断するような音と共に、由紀の腕が自由になる。  
声の主はその両腕を手に取ると、的確な動作で、恰幅のある自らの肩までその手を導いた。  
 
樫葉と呼ばれたていた女性はそう告げると、由紀の膝を左手でしっかりと抑える。  
残る右手は……………由紀の下腹部へ。  
何かがグッと掴まれた感触。  
そして―――――――――。  
 
ズリュ。  
 
「………ひぁうッ!!」  
 
長らく由紀の股間が咥えていた物体は遂に引き抜かれた。  
思わず背筋を仰け反らせ、防護服に爪を食い込ませる由紀。  
 
「大丈夫、大丈夫よ!あと一回、一回だけ我慢して。いいわね?」  
 
大きな手がなだめるように由紀の頬を撫でる。  
覗き窓の向こうの表情は、こちらから窺い知る事は出来ない。  
由紀はただ下半身を強張らせ、二度目の衝撃に備える。  
 
ズリュ。  
 
「………あぁーッ!!」  
 
前と後ろ。先に引き抜かれたのはどちらだったか、由紀には分からない。  
開発し尽くされた性感帯は、その摩擦だけで耐え難い官能を生み出す。  
ひょっとすると、もう軽く達してしまったのかもしれない。  
 
「もう大丈夫。いい子よ。頑張ったわね」  
 
引き抜かれた血の巡りの悪そうな異物が放り捨てられる。  
あれほど激しく暴れていた逸物はピクリとも動かない。  
 
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ………、ハフっ」  
 
真っ赤に充血した目の淵から涙を一筋流し、由紀は肩で大きな息をつく。  
蹂躙者から解放された秘裂は、まるでおしゃぶりを取り上げられた赤ん坊のように  
ヨダレを垂れ流し、名残惜しそうに今も震えているのだ。  
本当に自分の身体なのか、心底疑いたくなる。  
信じたくないといった方が正しいか。  
 
「川上隊員。この子、お願いします」  
 
先程の防護服の女性はそう告げると視界から消える。  
代わって現れたのは別の二人組。  
ずっと大きな背格好から男性と思われる。  
 
「大島、お前は足の方持ち上げろ」  
 
「ラジャー。いつでどーぞ」  
 
「よし。イチ、ニィ、せぇの………っと!」  
 
由紀の身体は合図と共に宙に浮き、次の瞬間には担架の上。  
すぐさま救急用の毛布が掛けられ、剥き出しの肌が隠される。  
 
「佐々木班長、陸自の豊浜隊長から通達です。  
 今から二十分後、午前三時きっかりに麻酔弾の第三波を撃つそうです。  
 救出活動を一時中断し退避するよう要請が」  
 
「よぅし、あい分かった。各自、現在取り掛かっている被捕獲者を  
 救出したら一旦下がれ。機器も再度洗浄しろ。他の班にも伝わってるな。  
 あー、それと、野崎と山根に連絡取れるか?」  
 
どうやら助かったらしい。  
官能の引き潮が始まると、ようやく由紀の頭は周囲の状況を捉え始めた。  
倒れた時計塔は二時半過ぎを指している。恐らくは午前の。  
周囲には照明機器が張り巡らされ、真夜中のレインボーランドを妖しげに照らす。  
その中を行き来する無数の白い影。救急隊員たちだろうか。  
皆一様に防護服と顔一面を覆うヘルメット状のマスクを身に着けており、  
その表情はおろか人相さえも窺い知れない。  
 
そして運び出されているのは………、  
大勢の粘液まみれとなった女性たち。  
 
喧騒の中、担架に乗せられた由紀は運ばれて行く。  
隊員たちが一歩踏み出すごとにヌチャリ、ズボリと嫌な音が聞こえる。  
巨大なドームを象っていた無数の触手は崩壊し、辺り一面は膝の高さまで肉蔓の海だ。  
その奥には力無く横たわる巨大な肉の塊。  
そう、一番最初に現れたこの陵辱劇の元凶。触手達の親玉だ。  
投光機器に照らされ、その赤黒い姿を夜の園内に浮かべている。  
倒れた時に突っ込んだのか、亀頭の下には半壊状態のメリーゴーランド。  
余りにもミスマッチな組み合わせというか、シュールにも程があるというものだ。  
両者とも今の所その機能を停止し、動き出す気配は全く無い。  
 
担架が揺れる度に、ベトベトの身体と毛布が擦れる。  
たっぷりと塗りたくられたジャムが乾いた生地に吸収され、  
僅かに生じた気泡がクチュ、プチュ、と妙な音を立てた。  
 
(やだ……なんか……カラダおかしい……)  
 
耳たぶが熱い。心臓の音が聞こえる。  
肌を撫でる優しげな摩擦に由紀の瞳は早くも潤みだしている。  
 
(どうしよう………。なんなのよ……これ)  
 
ピンと尖ったままの乳首が毛布に撫でられる度にますます元気になる。  
何とかしたい。しかし止められない。  
股間はズクズクという感触が強まる一方。  
間違いない。さっきより濡れている。  
 
(………………)  
 
とにかく、肌と毛布が直にこすれ合っている現状を解決しなければ。  
しかし気づかれたくない。誰にも。  
間に合わせでいい。来るとき着ていた物は今どこに。  
毛布の中でモゾモゾと、疲弊しきった両腕に鞭打ち、  
由紀は降ろされたジーンズを探す。  
 
乱れた服装が直されなかったのは、多分、  
濡れた衣服で体温を奪われないようにする為なのだろう。  
しかし、このままではちょっと耐えられそうに無い。  
触手の粘液以外のもので担架を汚してしまいそうだ。  
 
あった。最初の陵辱の時とそのままの位置に、目当ての物は絡み付いている。  
ゆっくりと指を折りそれを捉えると、腕を曲げ、  
慎重に、隊員たちの視線を横目で伺いつつ、足首からズボンを引き上げる。  
ベトベト荒い生地が太腿を撫でる快感には無表情を装いながら、歯を食い縛って耐える。  
なんとかお尻の位置まで持ち上げた。あと少し、あと少しだ。  
 
ペチャリ。  
 
「………あぅ…っ」  
 
「あ、痛みますか?おい大島、もう少しペースを―――――――――」  
 
思わず漏れてしまった嬌声を気遣って覗き込んできた隊員に、  
由紀は慌てて首を振り、大丈夫だとジェスチャーを送る。  
なんだか………人目を盗んで自慰に耽っている様な罪悪感が沸く。  
 
秘部に触れた冷たい感触の正体はショーツ。  
そういえば脱がされてジーンズと一緒にされていたのだ。  
思わぬ感触に危うい所まで行き掛けたが、  
とりあえず、隠したい場所は隠せた。  
 
残るは上か。  
鎖骨の位置まで捲り上げられていたキャミソールを、  
下からゆっくりと引っ張って乳房の上に乗せる。  
背中側はめくれ上がったままだが、この際贅沢は言えない。  
唇をギュッと結び、突起の上を滑る布地の感触に、  
込み上げて来るモノを押し殺す。  
こんな薄い衣服一枚ではどうしようもない気もするが、  
ブラジャーは剥ぎ取られてしまったのだ。いまさら探し出せる筈も無い。  
今はこれで我慢だ。  
 
―――――――――ゴトン!  
 
由紀が作業を終えた頃、タイミング良く金属質の振動が担架を揺らす。  
即座にバタンと閉められるドアの音。唸りを上げるエンジン音。  
中から聞くと思ったより小さいサイレンが鳴り出した。  
 
救急車だ。  
 
「中央病院は?」  
 
「それがもう手ぇ一杯だそうで……」  
 
「となると次はだな……。あーなんつったか、あれ。  
 とにかくナントカ大学の付属だな。次の搬送先は」  
 
そんな隊員たちのやり取りが前方の座席から聞こえてくる。  
夢ではないようだ。どうやら本当に助かったらしい。  
ステアリングを軋ませ、駐車場から滑るように発進する緊急車両の中で、  
ようやく由紀は安堵の息をつく。  
だが―――――――――。  
 
「………………う」  
 
下半身をズクリと走る鈍い痛み。車内が揺れる度に疼く身体。  
こちらの方が夢であってくれれば、どんなにありがたい事か。  
何事も無かったかのようにベッドの中で目を覚まし、  
朝食を頬張り混み合う電車に揺られ、面白くも無い講義の中を睡魔と格闘する。  
そんな日常は…………もうどこかに行ってしまった。  
酷く粘つく白濁液で、何もかも洗い流されてしまった。  
 
抑えていても昂ぶる下腹。疼く下半身。  
気を確かに持っていないと、腰は今にも動き出してしまいそうだ。  
目を閉じれば反芻される酷たらしい光景。  
蹂躙される女性たちの悲鳴。ショーツの中で暴れる触手。太陽の下で踊る乳房。  
そして――――――真っ赤な異物が由紀の性器に頭をうずめたあの瞬間。  
注ぎ込まれた真っ白な液体は、たぶん………、今も私の中に……………。  
 
 
 
駄目だ。今は忘れよう。今だけは。  
 
 
 
でも―――――――――。  
 
 
 
これから私は一体……………どうすればいい?  
 

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