〜The Kingdom Of The Phallus〜  
 
「くちゅ・・・…ん、むは!……ぷはっ!!」  
 
「あ・・・んっ、ぬん、んっ…」  
 
「嫌ぁ・・・、むふっ!あ、あ、あ、あぁぁぁ……」  
 
レディースデーのレインボーランド。  
本来であれば束の間の行楽を満喫する人々で賑わうこの場所も、今は凄惨な陵辱の舞台と化していた。  
黄色い歓声の代わりに響き渡っているのは、淫らな喘ぎ声とヌメった摩擦音。  
見渡す限りの園内には、赤黒い表皮に包まれた無数の触手がひしめき合い、  
うら若い女性たちを絡め捕り、亀頭状に発達したその先端を、各々の股間へと乱暴にねじ込んでいる。  
 
一体何が起こったというのか?  
 
最初の異変は地鳴りだった。アスファルトの舗装の下から聞こえてくる不気味な響きに来園客達が気づき始めた次の瞬間、  
唐突に遊園地全体を襲った強烈な揺れ。あちこちから悲鳴が上がり、立っていられず地面にうずくまる者も少なくない。  
 
誰もが最初は地震だと思っただろう。  
 
だが、異変の本番はここからだった。  
ベキベキという破砕音と共にこの遊園地のシンボルでもある時計塔が傾き始め、スローモーションで横倒しになっていく。  
その光景を呆然と見つめる観衆の前で、その下から盛り上がってくる巨大な“何か”。  
赤黒い肉塊としか形容しようがない物体は、タイルを完全に突き破っても尚止まらず、  
まるでキノコが成長してく映像を、数倍速で再生しているかのように、天へと向かって伸びていく。  
そして数十秒後、その物体は観覧車を微かに見下ろす高さまで伸び切り、ようやく隆起が停止した。  
 
揺れが収まり、やっとの思いで顔を上げだした来園者たちは、ただ呆気に取られていた。  
誰もが口を半開きにしながらも、ソレから視線を離せずに居る。  
大地を突き破って現れたのは巨大な肉の柱。  
先端部は花のつぼみの様に膨れ上がり、頭頂部ですぼんでいる。  
そう、そのシルエットはまるで理科の教科書に載っていたプラナリアのような―――――――――。  
否、回りくどい言い方を廃して述べるなら、その物体は間違いなく巨大な男性器であった。  
世界遺産級の巨木にも勝る太さを持ち、天をも突かんばかりのマラである。  
その巨大な男根が白昼突然、遊園地の中心にそそり立ったのだ。  
 
園内にアナウンスは流れない。  
来園者もスタッフも呆然したまま、この世のものとは思えぬ巨大な一物を見上げている。  
そう間を置かずして変化は巨根の方から現れた。  
つぼみ状にすぼんでいた頭頂部が、微かに震え始めたかと思うと、  
亀頭にあたる部分を包んでいた包皮がゆっくりとズリ下がっていく。  
やがて剥け始めた皮膚組織が反転し裏返ると、  
その内側に斑紋状にこびりついた黄色い汚れが露になる。すると・・・・。  
 
「……きゃ!何このニオイ!?」  
「うわ、臭っ!!」  
「……や、やだ。一体何なのよコレ〜!?」  
 
風下にいた人々は思わず顔をしかめ、手の平やハンカチを鼻に当てる。  
無論、植物や化学薬品等の匂いではない。  
これは強烈な代謝により発せられる類の悪臭だ。  
その匂いでようやく我に返った客も多かったようだ。  
 
「オ、オイ!あれは!?」  
 
「……うわ!」  
 
時を同じくして根元に一番近かった一団は別の異変を察知していた。  
自らが砕いた舗装の破片に包まれた根元付近から、ワサワサと活動的にぬたくる物体が群生している。  
人間で例えるならば男性器周辺の毛群、つまり陰毛にあたるソレは、  
下界を睥睨している巨根をそのまま縮小した、そのもの正にペニスの群れであった。  
そのペニスがあたかもイソギンチャクの触手のように波打っているのである。  
 
観衆達はその威容と臭気に気圧されて、誰が合図した訳でもなく、  
無言の内に恐る恐ると輪を広め、そそり立つ男根から徐々に距離を取り始めた。  
 
―――――――――だが。時既に遅かった。  
小さな地鳴りと共に巨大男性器はブルッとその巨躯を振動させる。  
剥き出しの先端部が緩やかな動作で徐々に曲がり、蛇のような鎌首の姿勢で地上の一点に亀頭の裂け目を向ける。  
その先にはOLと思しき若い女性数名のグループ。  
 
「―――――――――え!?」  
 
その中の一人が何か言葉を発しようとしたその瞬間。  
巨大男性器がググッと膨張したかに見え……。  
 
ブパッ―――――――――、ドチャリ!  
 
ホワイトアウトした視界。  
何が起こったのか、一瞬わからなかった。  
 
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」  
 
「嫌ぁぁぁあッ!!」  
 
巨根の先端から発射された液体は、見事OLの一団に命中していた。  
真新しいスーツに大量の白濁した粘液がドロリ張り付き、栗の花がすえたような悪臭を放つ。  
ハイヒールはストッキングに包まれた脚と一緒に液体に飲まれ、身動きもままならない。  
まるで強力なトリモチで地面に磔にされてしまったかのようだ。  
 
ブブパッ―――――――――、グチュ!  
 
「きゃっ!!」  
 
「あ、彩ちゃん!きゃあッ!!」  
 
男根が次に選んだのはベンチの付近に居た女子高生ふたり。  
頭から盛大に液体を被った少女たちは舗装の上に倒された。  
制服のミニスカートは捲くれ上がり、そこからスラリと伸びた脚は白濁液に汚され、  
紺のハイソックスとローファーはベッチョリと敷石に繋ぎ留められる。  
肩まで伸びる整った黒髪は一瞬にしてベタベタだ。  
 
2組目の犠牲者が引き金となったか、園内は遂にパニック状態に陥る。  
人々は恐慌に駆られ思い思いの方角にドッと走りだす。  
そして混乱の元凶はその光景を遥か下界に望みながら、悠然とした佇まいで次なる獲物を物色し始める。  
その先端から体液が放たれる度に、逃げ遅れた犠牲者が地べたに貼り付き捕らえられる。  
陽の光を受けて銀色に輝く糸を引きながら、雨アラレと降り注ぐ白い半透明の塊。  
捕縛された人々は水滴に閉じ込められた蟻のように、ただもがく事しか許されない。  
 
不幸な事にこのレインボーランドは出入り口が一箇所しかなかった。  
10分と経たない内に園内は、巨大男性器の吐き出す粘液に捕縛された女性たちで埋め尽くされ、  
助けを求める無数の声が響き渡る。その数は軽く3桁に上るだろう。  
 
「―――――――――あ、正浩!」  
 
「由紀!探したぞ!!」  
 
その中の一人が駆け寄ってくるキャンパスメイトの姿を認め声を上げる。  
彼女はまるで腰を抜かしてヘタリ込んだような姿勢で地面に捕えられていた。  
 
「ちっくしょ!んだよコレはよ!?」  
 
「わ、わかんないよ!聞かれたって!!」  
 
「とにかくコレ解いて逃げるぞ!」  
 
正浩と呼ばれた青年は、由紀を捕らえている物体を引き剥がそうとする。  
が、凄まじい粘着性を誇るその液体は容易に彼女の体から離れそうにない。  
男性の力で多少無理をすれば幾らか引き剥がせるレベル。  
少量なら女性でも対処できるだろうから、顔に掛かったとしても窒息の心配は無いと見て良いか。  
だが、下半身中心にこうもドッペり塗りたくられては、お手上げに違いない。  
ふと気になり、正浩はその粘着物に触れていた自分の手を引き剥がし、自分の鼻に近付けてみた。  
 
「……コレって」  
 
「どうしたの!?」  
 
自分の力ではどうにも出来ず、手持ち無沙汰になった両手で  
髪にへばり着いた粘液を剥がしていた由紀も、釣られて顔を曇らせる。  
綺麗に切り揃えられた黒髪のショートカットもコレでは台無しだ。  
 
「いや…、何でもない。でも急いで此処から離れよう」  
 
「…う、うん」  
 
由紀の不安を煽らない為に、正浩は自らの疑念を喉の奥で噛み殺した。  
この匂い、男ならまぁ覚えがあるだろう。間違いなくアレだ。  
ザーメン。なにせ吐き出した元が元だし。  
 
(ってか捕まってるの若い女ばかりじゃねえか!?)  
 
そう、目に見える範囲でも粘液を吐き掛けられたのはざっと9割方が女性。  
男性は他の女性の傍で巻き添えを喰らった者や、女を庇ったり突き飛ばしたような者だけ。  
これに適当な理由を探すなら、誤爆という結論だ妥当だ。  
 
「ちょっとヤバイかもしれない」  
 
「―――――――――え?」  
 
「いいから、早く!」  
 
「早くって言ったて!」  
 
「このジーパン、脱げないか?」  
 
「え、いや、ちょっと正浩ってば!?」  
 
確かにこの液体、高い粘性のせいか浸透性が低い様子で、  
ベトベトにされているジーンズさえ脱いでしまえばスルリと抜けられそうだ。  
ちょっと前のモンスター映画で似たようなシーンがあったような。  
 
「早く!」  
 
由紀の無駄な逡巡を断ち切るように正浩が急かす。  
このままでは埒が明かない。  
 
「あー、その、でもさ……」  
 
「見やしないから!出口んトコの売店で腰に巻ける物くらいパクってきゃいいだろ!」  
 
「わ、わかった!わかったてば!!脱ぐから裾の方、押さえてて」  
 
正浩の剣幕に押された事も手伝って、彼女はジーンズのベルトに手を伸ばす。  
そのバックルをカチャリと外し終えた瞬間―――――――――。  
 
「―――――――――うわッ!!」  
 
「ま、正浩!?」  
 
向かい合って由紀のズボンを抑えていた正浩が、短い呻き声と共に倒れこんで来た。  
そのまま正浩はもたれ掛かった由紀の身体から滑り落ち、彼女のすぐ隣にべちゃりと横倒しになる。  
 
「正浩!正浩ってば!!」  
 
「うぅ……、ぅ…」  
 
正浩は再度小さく呻き、失神してしまった。  
首の後ろには赤く真新しい打撲のような後。  
息はあるが、一体何が?  
 
「―――――――――なっ?」  
 
何者かが蠢く気配に、由紀は数瞬前まで正浩が居た場所へと視線を戻す。  
その先には―――――――――。  
 
「キャァァァァァァアッ!!!」  
 
赤黒い触手が数本、鎌首をもたげて由紀を狙っていた。  
 
「―――――――――がっ!!」  
 
「な、何だよコイツ!?あうっ!!」  
 
それまで巨大男性器の根元でただ波打っていた無数の男根、いや触手の群れが、  
突如目覚めたかのように活動を開始し、園内を覆い尽くさんばかりにその身を伸ばし始めたのだ。  
そして愕くべき事に、その触手たちは、囚われの身になっている連れの者やガールフレンド、  
或いは他の女性客たちを助け出そうとしていた男性客や、スタッフを襲撃し始めたのだ。  
 
「く、くそ!…あがッ!!」  
 
ヒュンと風を切る音と共に触手がしなり、一閃する度に、男性客が殴り倒され、或るいは突き飛ばされて昏倒し、  
警備員が張り倒され、締め上げられ、放り投げられてアスファルトの上に力なく横たわっていくのだ。  
咄嗟の武器になるような物が園内に転がっている筈もなく、  
四方八方から襲来する触手の軍勢に彼らは為す術もなかった。  
物の数分と経たずして、園内で救助活動に当たっていた男性は、軒並み大地に伸びてしまったのだ。  
動きを封じられていた女の子たちは、眼前に繰り広げられる惨劇を、ただ震えながら眺めている事しか許されなかった。  
そして―――――――――。  
 
全ての前菜が駆逐された事を確かめると、触手たちは遂にメインディッシュへと迫る。  
 
「やだ!う、……嘘でしょ!?」  
 
「こ、こ、来ないで!来ないでってば!!」  
 
哀願の言葉が通じる相手ではない。  
赤黒い肉の蛇たちは、その身を撓ませ、狙いを定めると、  
哀れな獲物たち目掛けて一斉に―――――――――殺到した。  
 
「嫌ぁぁぁあッ!!!」  
 
「助けっ、たすっ、たすけ、…やぁあっ!!」  
 
「お母さぁぁぁぁあん!!」  
 
飛び掛ってきた触手は精密機器のような正確さで手首と脹脛に巻きつく。  
そしてそのまま螺旋階段を駆け上がるようにして、二の腕と太腿まで絡み付いてきた。  
万が一、獲物が粘液による拘束から逃れた際の逃走手段を、まずは確実に押さえるのだ。  
迫り来る脅威に恐慌状態で身を捩り、束縛の主を振り払おうとする女性たちに新手の触手が差し向けられる。  
ゴム細工のように伸びてやってきたソレは、僅かの間、彼女達の胸元を生地の上から探るような仕草を見せると、  
次の瞬間、衣服の中へスルリと潜り込んできたのだ。  
 
「やだ!やだ!やだってばぁぁあ!!」  
 
「やめて、やめ、やめ、やっ…!」  
 
季節柄、薄着の女性が多かっただけに、彼女たちの衣類は容易に潜入を許してしまう。  
そしておぞましい侵入者達は、休む間も無く、獲物の服を捲り上げだしたのだ。  
キャミソールが肩まで持ち上がり、ベージュのワイヤレスブラに包まれた乳房は隠れる場所を失った。  
薄地のTシャツは手繰り上げられ、布地一枚隔てながらもその大きさを主張していたバストラインがでんと現れる。  
ワンピースが容赦なく首元までめくられ、上下揃って暴かれる淡いピンクの刺繍が施された下着。  
制服のYシャツはボタンを次々と飛ばしながら左右に開き、純白のブラジャーを白日の下に晒す。  
ひっきりなしの悲鳴と共に、露わにさせられていく白い肌と色とりどりの下着たち。  
 
続いて動きを見せたのは、脚に巻き付き動きを封じていた先遣隊の触手たち。  
待機していた位置からそのまま太腿を登り詰め、女性たちの下腹部への侵攻を開始する。  
その攻勢を前にスカートの類は余りにも無力で、触手の勢いを一片たりとも削ぐ事無く内股からの侵入を許し、  
或いは腰の位置まで捲り上げられ、着用者たちの羞恥心と絶望感を掻き立てた。  
ジーンズやスラックスを穿いていた女の子たちも状況に大差は無い。  
触手たちはベルトとウエストの隙間をぐいぐい押し広げ、自らが纏う粘液を潤滑油に強引な武装解除を試みる。  
ヘソの下から聴こえてくるヌチャヌチャという響きは、犠牲者達の平常心を根こそぎ奪い去るのには十分過ぎた。  
 
「嫌ぁ!放してっ!放してっ!放してぇっ!!」  
 
後者の中でも由紀の置かれていた状況は相当悪い部類に入った。  
先刻、彼女はベルトの金具を外してしまっていたのだ。  
彼女を担当した触手は、ズボンを膝下までズリ降ろす仕事を労せず成し遂げた。  
その下に由紀が穿いていたのは、丈の短いスカイブルーのショーツ。  
少々窮屈でスポーティーなデザインのそれは、昨今の流行からこそ外れていたものの、  
久々の休講日を気の合う男友達と存分に満喫し、  
狭い講堂に閉じ込められた平日の分も遊び倒そうという、彼女の抱負が為させたチョイスであった。  
そのショーツに包まれた下腹部を、まるで品定めするかの様に下から上へと触手がなぞる。  
スズランの花のように僅かに剥けた先っぽからは、先走る体液が糸を引きながら滴り、  
薄いポリエステルの生地にひときわ濃い滲みを作っていった。  
やがてその触手は、ヘソより僅か下の位置で一旦動きを止めると、  
その先端を上手に傾斜させてショーツのゴムに引っ掛け、クイクイと持ち上げ始める。  
そして遂に…………。  
 
「あ、あ、あ……っ!やぁぁぁぁぁぁぁあ!!」  
 
軟体生物のようにニュルンとひと度その身を伸縮させると、触手は滑り込むようにショーツの内側へと侵入を果たした。  
由紀の絶叫に前後して、至る所からひときわ甲高い悲鳴が上がり始める。  
狂ったかのようにその身を捩り、髪を振り乱して足掻く女性たち。  
その下腹部を守る下着の薄い生地には、内部に潜り込んだ招かれざる客の姿が見事に浮き出て蠢いていた。  
侵入を果たした肉棒たちは布地の砦の中を迷う事無く、お目当ての位置へとひた走する。  
平野を駆け抜け、黒い森を掻き分け、なだらかな丘を下り、本能の指し示すランデブーポイントへと一直線。  
その軌跡は粘液が描く滲みとなってショーツの表層に浮き出ている。  
 
一方、彼女達の衣服を両サイドから捲り上げた状態で保持していた触手は、  
拘束役を担っていた仲間が下穿きの中へと侵入成功したのを確認すると、次なる役目に取り掛かる。  
2本の触手はその先端からゆっくり絡み合い、その身をネジのように捩り合わせ束ねると、  
外気に晒されて震える胸の谷間へと潜り込んでいったのだ。  
柔らかな脂肪の房の間を粘液を利用しながら掻き分け進み、やがてアンダーバストのベルトへと行き当たると、  
絡み合っていた肉棒は再度2本に別れ、左右のカップの中へと侵入を果たした。  
 
こうして触手たちの宴の準備は整った。  
 
「…駄目っ!あぁ、だ、駄目ぇぇぇえ!!」  
 
「や、あ、あ、あぁぁぁぁあ…!」  
 
「やめ、やめて、ひ、やぁぁあーっ」  
 
まずはショーツの中の触手が、亀頭部の包皮をすぼめて吸盤を作り上げ、  
その突端をクレヴァス上部の肉芽にあてがうと、容赦無く吸い付く。  
吸い付いては吐き、また吸い付いては吐き、緩やかで絶妙な間隔を持たせる人外の愛撫。  
そして先端の裂け目からはヌチャヌチャした液体が止め処なく溢れ、  
本来ならば愛する者しか触れる事の赦されない秘部を盛大に汚していく。  
 
強烈な愛撫に耐えかねて、海老のようにその身を反らす女性たち。  
だが、今度は突き出された乳房がブラジャーの中に身を潜めていた触手によって締め上げられる。  
下着に収まっていたバストは、揉みしだかれる水風船のように変形し、その姿を痛ましいほど歪められたまま踊る。  
あまりに暴力的なペッティングの前に、ブラのカップは十秒と持たずに膨らみからズレて乳房は丸出しになる。  
中には背中のホックが外れる者や、フロントホックが弾け跳ぶ悲惨な女性まで居た。  
そして、触手たちはその頭頂部の露出を発見するや否や、下を責めている仲間と同じように包皮をすぼめ、  
ヤツメウナギ状の吸盤を即興で形成すると、遠慮なく乳首へと吸い付いて来たのだ。  
 
「う、あ、あ…。ま、正浩…、正ひっ、ろぉ……」  
 
気が振れてしまいそうな行為のさなか、由紀の口はすぐ隣で倒れているボーイフレンドの名を紡いでいた。  
それが何を意味するのか、自分でも理解出来ない。  
彼氏彼女というほどの仲ではまだなかった。  
ただとにかく、これ以上この状態が続けば……、セックスの経験がない自分なんか真っ先に持たなくなる。  
何が持たなくなるのか?そもそも持たなくなるとどうなるのか?  
そんな事は良く判らない。ただ漠然とそう感じるのだ。  
 
「正ひ……ろっ…むぅッ!!」  
 
靄の掛かった思考は、頬に押しあてられた異物により中断を余儀なくさせられる。  
右の頬にその身を擦り付ける新たな触手は、半開きだった唇の端から、口の中へと入り込もうとしていたのだ。  
慌てた由紀は歯を食い縛り、その侵入を断固拒否する。  
 
「え、あ、……むぐぅぅぅ!?」  
 
くぐもった悲鳴がすぐ近くから上がった。  
思わず目線をその方角に走らせる由紀。  
視界に飛び込んで来たのは、ひとりのOLらしき女性が口に触手を含まされるその瞬間だった。  
彼女のタイトスカートはウエストの位置まで捲くれ上がり、パンティストッキングの中は完全に触手に占領されていた。  
ベージュ色のショーツの中で、モコモコと異物が蠢いている様子が此処からでもハッキリ見て取れる。  
その傍では別の女性が膝立ちの姿勢で嬲られている。年の瀬は自分と同じ位だろうか。  
スキャンティーと思われるピンクの下着は、膝の辺りまで力なくズリ落ちて丸まっている。  
暴れまわる触手にゴムが切れてしまったのだろう。  
 
知らず知らずの内にそんな細部まで観察している自分に由紀は内心苦笑した。  
自分だって……、同じ姿だ。  
それを忘れて正気を保つために、他の女性が責められている様を眺め、他人事だと思おうとしていたのか。  
よく見れば向こうの二人も、涙を浮かべながら由紀の姿をまじまじと観ている。  
案外、追い詰められた人間の心理とは似通っているのかもしれない。  
 
そんな無駄な思索の中を彷徨っている最中だった。  
 
「あ、……ひぁっ!!」  
 
これまでにない強烈な吸着がクリトリスを襲った。そして……。  
 
「むぐ!?……ぐむぅぅぅぅぅう!!!」  
 
僅か一瞬の隙を突いて、開いた由紀の口腔に触手がネジ込まれる。  
 
股間と胸への愛撫に続いて、園内の女性たちの口には次々と触手が挿し込まれていた。  
苛烈な圧迫感とセットになった異物感。呼吸する度に鼻腔へと昇ってくる凄まじい臭気。  
飲み込む直前に一瞬見えた触手の先端部は、包皮が完全に裏返り、その所々に黄色い汚物がこびり付いていた。  
それが今、自分達の舌の上で踊っているのだ。  
恐るべき汚濁感に何とか侵入者を吐き出そうと試みるが、ささやかな抵抗の意思を圧し潰すように触手はグイッと前進してくる。  
その動作が一度きりで止む事は無く、やがて触手は口腔内で緩やかなピストン運動を開始した。  
やがてストロークは徐々に速さを増し、時折ビクンビクンと震えているのが伝わってくる。  
とてつもなく嫌な予感がしていた。  
だが、自分達が出来得る全ての抵抗がソレを阻止するには至らない事も、  
恐らくは徒労に終わるであろう事も由紀には分かっていた。  
 
「んん―――――――――っ!んー、んーっ!!」  
 
「むぅぅぅう、むぅぅぅう!」  
 
「ふむん、むはっ!ふむぅぅぅう!!」  
 
他の女性たちも同じようだ。しきりに口の中でこもった悲鳴を発しながら首を振っている。  
 
「ん…!?んんん―――――――――!!!」  
 
口の中で圧迫感の主が膨れた様な気がした。  
 
ググググググ―――――――――ッ!!………どぱッ!!!  
 
「むぐっ!?ごぼぼ…ぼ、んぐ…んぐ…んぐ……、ぬぅ、ごぷ、ごぽっ!!」  
 
触手はドクンドクン脈動しながら、とてつもない量のドロついた体液を口内に放った。  
予想の遥か上を行くおびただしい量に呼吸を圧迫され、由紀は必死にその塊を飲み下す。  
しかし触手は尚も放出を続け、由紀の喉の運動量はとてもそれに追い縋ることが出来ない。  
 
「ぶはッ、―――――――――う……ゲホっ、ゲホっ!けほッ!!」  
 
遂に限界かと思われたその瞬間、口腔内の圧力の高まりに耐え切れなくなった触手がロケットのように由紀の口から飛び出した。  
銀のアーチを描いて吐き出された異物は地面の上にぐったりと伸び、  
微かにヒクつきながら余った粘液を垂れ流している。  
由紀の唇からは触手の白濁液と自らの唾液の混合物が滴り落ち、  
鎖骨の辺りまで捲り上げられていたキャミソールをヨダレ掛けのように汚した。  
 
相当な量を飲み干す羽目になったのが自分だけでない事はすぐに理解できた。  
あちらこちらから女性の咽せた咳が聴こえて来る。  
中には耐え切れず、嘔吐に至った犠牲者もいたようだ。  
甲高かった女性たちの悲鳴は既に消え入りそうなか細さとなり、  
鳴り止まぬヌチャヌチャという粘着音には、微かな嗚咽やすすり泣きが混じり始めていた。  
ここまで来たら残すところは一つだけだ。  
 
先ほど口腔から飛び出し、動かなくなっていた触手がゆっくりと起き上がった。  
それに応えるように、クリトリスを弄り続けていた触手が放れ、下着の中を下へ下へと降りていく。  
暴れ回った侵入者のお陰でお尻の半分が露出するほどズリ落ちていたショーツは、  
触手に引っ張られ太腿を静かに滑り落ちていく。  
股間と股布の間に引いている銀色の糸は、触手から吐き出されたものではない。  
いつの間にやら、止め処なく滴り落ちるようになっていた由紀の膣分泌液だ。  
やがてグショグショのショーツは膝の辺りまで下ろされると、  
自らの重みでジーンズの中へと落下、グチャリと最後の音を立てた。  
 
ゆっくりと、フルフル震えながら、その触手は由紀の股の下までやってきた。  
股間から滴り落ちる一筋の愛液を、触手は一身に浴びている。  
もう、どうすれば分泌が止まるのか。それは由紀自身にも分からない。  
両脚を拘束していた触手が、軽く左右に開いた。  
先ほどまで堅く閉じられていた由紀の秘部は、酸欠に喘ぐ金魚の口のように見事にほころんでいる。  
ゆっくりと、老人のような動作で由紀の股間まで登り詰めた触手が、  
過剰なまでに潤ったそのクレヴァスの入り口に先端をあてがう。  
そして―――――――――。  
 
「や…あぁ…ぁ…ぁ……」  
 
その歪な姿は由紀の胎内へと沈んでいった。  
 
「く、ハァ、駄目……ひぃぃぃぃ」  
 
「い…あああああああっ!」  
 
「やだ…、やだってばぁ…ぁ…」  
 
次々と開始される挿入。  
愛液を滴らせながらヒクつく下の口は、もはや彼女達の意思に関わらず貪欲に異物を咥え込み、  
拒絶されるべき侵入者を甘えるように優しく締め上げ奉仕し始める。  
この日は近隣の高校や大学のテスト期間後明けという事も手伝ってか、  
平日の午後にもかかわらず多くの学生たちで賑わっていた。  
それだけに、これが“初めて”となった哀れな女の子も少なくない。  
中には一連の愛撫だけで絶頂を迎えてしまい、既に力無く横たわっている者も居る。  
だが、そんな少女の秘部にまで容赦なく触手はその身を埋めていく。  
一方でなおも健気な抵抗を続ける女性には、再度その口腔に触手が押し込まれ、  
股間への挿入と平行して本日2度目となる口内射精の洗礼が浴びせられる。  
自らを貫く異物から少しでも逃れようと浮かせていた腰は、  
やがて開始された緩やかな伸縮運動に合わせて艶やかに動き始めていた。  
 
「ハァ…、ん、ん、あ、ハァ…ん、あ…」  
 
喉から漏れる切なげな喘ぎはとても自分のものとは思えなかった。  
メリメリという抵抗感はホンの一瞬だけ。  
数秒と要さず、由紀の秘裂は荒れ狂うモンスターを綺麗に受け入れていた。  
彼女の膣は、初めからその為だけにあつらえられた物であるかのように侵入者にフィットし、  
無駄肉の付いていない腰はひとたび張り詰めたかと思うと、  
その後は動き始めた男根に従い、大きな楕円形を描くようにして躍動しているのだ。  
そんな下半身にもう一本、今度は後ろから触手がヒタリと添えられる。  
新たな役者はそのままゆっくりと尻と呼ばれるふたつの山を掻き分け、  
自らが腰を据えるべき特等席を探り当てる。  
平時なら括約筋によりキツく閉ざされている筈の菊門は、短時間で積もりに積もった疲労により緩み果て、  
ヒクヒクとすぼんだ出口をわななかせていた。  
その物欲しげな表情に満足すると、触手は自らの突端で軽いキスを施し―――――――――。  
 
「…あッ!!…あ…あァァ……、ァ…」  
 
ズブリズブリと潜り込む。  
こうして由紀の股間は躍動する肉腫の蛇に前後とも制圧されてしまった。  
 
「あぁん…、あん…、あん…、ひゃっ!!」  
 
「誰か…、ねぇ…誰か…ぁ。抜いて…、これ、抜いてってば…ぁ……」  
 
「ふ、はぁ…、んふッ!…ふ、…くぅう!」  
 
「あぁ、…あ、熱い…。あ…ふぅ…、み、みず……、水を……」  
 
「…どうし、て?…ねえ、…なんで……こんな……」  
 
嬌声ともうわ言ともつかぬ魂の混声合唱。  
涙と白濁液にまみれた顔をすっかり上気させ、女性たちはリズミカルに腰を波打たせる。  
一方で、その伴奏を務める触手には僅かな変化が見られていた。  
それまで目立った装飾の見当たらなかった外皮に、数本の血管のような物がハッキリと浮き出ている。  
やがて触手たちは、伸縮運動を続けながらも、ズリ剥けた亀頭部の皮を精一杯広げ、  
その皮ヒダを巧みに律動させ、迸る愛液をジュルジュルと啜り始めたのだ。  
収穫されたポタージュは浮き出たパイプラインを介して、彼らの大元である巨大男性器へと滞りなく送られていく。  
園内から集められた選りすぐりの愛液を根元から吸収し、下界を睥睨する巨根はビクビクッと歓喜にその身を震わせる。  
そして更なる搾取を欲っした暴君は、最高の督促状を自らの尖兵たちの中に走らせた。  
 
「ん…、あ、あ、……な?」  
 
由紀は異変を察知した。遥か彼方、時計塔広場の方角から伸びている無数の触手に、  
ぷっくりと膨らんだ部位が出来ているのだ。  
距離は此処から十数メートルほどだろうか。  
動いているようにも見えるが、涙に濡れ焦点の定まらぬ瞳では詳細は掴めない。  
まるで飲み込まれた獲物が蛇の腹の中を移動するように、その奇妙なコブはこちらへとやってくる。  
その中の一本を選び目線で辿った瞬間……彼女は戦慄した。  
問題の触手は自分の股間に挿し込まれて踊っているのだ。  
暫し表情というものを忘れていた由紀の顔が恐怖に引きつった次の瞬間、  
前後の穴が咥え込む触手たちはそれまでの甘いピストン運動が嘘だったかのように激しく動き出した。  
 
「あっ!やっ!やめ…、やめっ!!ひっ・・・ひぁあ!!」  
 
激しさを増す行為にスレンダーな躯は悩ましく反り返り、  
手の平はありったけの力で肩から落ちたパーカーを握り締める。  
太腿を閉じよとしても下半身はもはや命令を受け付けず、  
足の指がスニーカーの中でただプルプルと張り詰めるだけだ。  
振り乱されるベタベタの黒髪。冷める暇も無くひたすら朱に染まる頬。  
喉が搾り出す言語は既に文章の態を成していない。  
仰け反った胸板の上で、さほど大きい訳でもない乳房はブルンブルンと揃って波打つ。  
その先端部に吸い付いた触手たちは振り落とされまいと必死だ。  
鼓膜に届くのは全身の筋肉が発する悲鳴と盛り狂う触手たちの行軍歌。  
嗅覚はとうの昔に充満する悪臭にやられ、機能不全に陥っている。  
秘裂から溢れ出る分泌液は既に需要を上回り、  
吸い尽くせなかった余剰品がボタボタとこぼれ落ちて、その飛沫が傍で昏倒している正浩の顔に跳ねた。  
 
身体の奥底から得体の知れない何かが込み上げて来ている。  
触手の中の膨らみと自分の膣を隔てる距離はもう数メートルとない。  
身体が熱い。頭の天辺から爪先まで。まるで脊髄が放電しているようだ。  
触手と身体のドッキングポイントから、喩えようも無い悦びが広がってくる。  
 
「―――――――――ひっ!!!」  
 
ズンという衝撃。触手がこれまでに無いほどのストロークで由紀の股座を突き上げた。  
彼女の身体はベリベリと粘液の拘束から開放されると、胸を反らしたまま爪先立ちになるほど持ち上がる。  
その放物線が最高々度に到達したその瞬間!  
 
「は、はぁっぁぁあ!ひあぁぁぁぁぁあ―――――――――!!!!!」  
 
十九歳の初夏。白昼、彼女は人生で初めての絶頂を体験した。  
 
ドクン!ゴポゴポゴポ…………ゴボボボボボボボボッ!!ドクン、ドクン、ドクン、ドク………  
 
一拍遅れで触手の中を走っていたモノが彼女の前後の穴へと到着。  
長旅を終えて配送されて来たにも拘らず、吐き出された塊は煮え滾らんばかりの熱さが保たれている。  
オルガスムスに震え硬直した身体は、胎内に注がれる液体が許容量をオーバーしても触手をガッチリ保持し続け、  
亀頭の栓は外部空間に逃れんとする煮え湯を一滴漏らさず閉じ込め続けた。  
閉鎖空間の注ぎ込まれ、行く宛をなくした粘液は、音も無く膣壁を透過し、生贄の身体へと摂取されていく。  
 
(コレが…絶頂って…………言うんだ……………)  
 
その感想を形にするのに、言葉は余りにも役不足だった。  
全身の力がガクンと抜け、糸の途切れたマリオネットのように、由紀は膝から崩れ落ちる。  
横たわると同時に肉栓が緩み、穴の両サイドから大量の不良在庫がゴプゴプと流れ出していく。  
虚ろな瞳の淵から大粒の涙が筋を描き零れ落ちた。  
 
「う………あ………ぁ………」  
 
疲れ果て伸び切った筋肉を酷使し、彼女は利き腕を伸ばす。  
その方角には空を仰いで半開きになっている正浩の手の平。  
何故だか判らない。ただとにかく、その手の平を握りたかった。  
そうすれば握り返してくれるような気がした。  
 
「ふ……うく、あ…………」  
 
股間に挿し込まれたままの触手が時折ビクンと躍動する。  
それでも、彼女の右手は這いつくばるようにして、粘液の上を前進していく。  
その人差し指が求める温もりに僅かに触れようとした刹那、  
 
ズルリ―――――――――ズル………  
 
由紀の身体が引っ張られ大きく後退した。  
振り返るとそこには新たに数本の触手。  
彼女のフクラハギからフトモモにかけて絡みつき、  
水溜りのようになった体液で摩擦を殺しながら由紀を引きずり、  
どこかに連れ去ろうとしているのだ。  
 
辛うじて筋力を取り戻し始めた両脚をバタつかせ、何とか振り解こうと試みるが、  
足首まで下ろされたジーンズとショーツが枷の役割を果たし、その努力も徒労に終わる。  
 
「ひ………ひっく、ひっく…。ふえぇぇぇぇぇえん」  
 
由紀は泣いた。赤ん坊のように泣きじゃくった。  
 
ズルリ、ズルリ、グチュグチュ…………  
 
ズルリ、ズルリ、グチュグチュ…………  
 
時計塔広場、巨大男性器の根元。  
園内各所から帰還した触手たちは、一様に、その身に戦果を絡め取っていた。  
そこここにブチ撒けられた粘液を潤滑油に使い、アスファルトや石畳の上を奮闘しながら、  
女性たちを引っ張ってきたのだ。  
彼女たちの股間は先刻の中出しで大量の粘液を注ぎ込まれてからというもの、  
まるで栓が壊れてしまったかのように、ドクドクと止め処なく愛液が湧き出している。  
穴に収まっている触手たちは一滴も逃すまいと大わらわだ。  
その仕打ちに抵抗の意思を表明する犠牲者は、もはや一人もいない。  
仮にいたとすれば、もう一度、その胎の中に一発くれてやればいいだけだ。  
 
一方でマラの根元から出撃せずに待機していた触手たちは、  
自らの身体を目一杯伸ばすと互いにその身を絡み付けあい、毛玉のような物体を構築し始める。  
程なくしてそれは、巨大男性器の根元に広がる赤黒い肉のドームとして形を成した。  
そして―――――――――。  
 
どれぐらいの距離を引き廻しにされたのだろうか。  
由紀は今、そそり立つ巨根のすぐ下にいる。  
周りには自分度同じ状況に置かれた沢山の女性たち。  
 
今、自分の背中は、触手同士が絡み合って形成された巨大な半球対の外壁に押し当てられている。  
現在もなお占拠され続けている前後の穴は、既にその周囲が真っ赤に腫れて久しく、  
もはや感覚と呼べるほどのものは残っていない。  
首を少し右にひねると、今まさに、このドームの中に取り込まれていく女の子の姿が見えた。  
ネクタイつきの半袖Yシャツという出で立ちから女子高生だろうと推測する。  
紺色のソックスとローファーに包まれた足首には、白い無地のショーツがしどしどに濡れてぶら下がっていた。  
スカートを失い、シャツの裾から伸びる太腿は必要以上に扇情的だ。  
その付け根には勿論、2本の触手が挿し込まれている。  
やがて彼女はズブズブと、触手の塊の中へと沈んでいった。  
次はきっと………由紀の番だ。  
最後の光景をその目に焼き付けようと、彼女は涙の跡が残る顔を上げる。  
倒壊した時計塔は横倒しになった今でもその機能を停止せず、懸命に時を刻み続けている。  
ふと、由紀の視線はその長針と短針に吸い寄せられた。  
正浩との待ち合わせの時間。愕くべき事に、その時刻からまだ30分も経過していなかったのだ。  
今までの、そして今も続く永劫とも思えた責め苦の時間。それがこんなにも短い間だったとは。  
 
これから自分はどうなる。この触手のドームに取り込まれ、中で何をされる。  
 
考えるまでもない。犯され続けるのだ。みんな一緒に。  
狂ったように滴り落ちる愛液を吸い取られ、その泉が枯れて果てそうになれば白濁液を注ぎ込まれ、そしてまた吸われ…………。  
それはきっと、今までの陵辱が前戯でさえなかったのではと疑うほどの、長く醒めない悪夢となるのだろう。  
もう、外には出られないのかもしれない。だからもっと、今まで自分が生きてきた世界をふたつの目に焼き付けておきたい。  
だが、その瞳に飛び込んで来るのは……、四方から触手に引きずられ向かってくる女性ばかりだった。  
最後の思い出として収めるには、その光景は余りにも―――――――――。  
 
ペチャリ。  
 
一本の触手がうなじを撫でた。  
それを皮切りに何本もの触手が彼女を背後から抱きすくめる。  
 
「あ―――――――――」  
 
太腿に巻きついている触手、彼女を此処まで運んできた功労者にグイと下半身が引っ張られる。  
最後に聞こえたのは遠くから向かってくるサイレンの音。  
 
由紀の身体は…………幾重にも重なり絡み合う触手の塊の中に沈んでいった。  
 
 
駅のロータリーから延びる大通り。左右には大小のビルや商店が林立し、多くの人々が左右の歩道を行き交う。  
その通りは幾つかのアーケード街の入り口を跨いで600メートルほど伸び、やがて国道に合流する。  
後は道なりに進み小高い丘を越えれば右手にレインボーランドを望むことが出来る寸法だ。子供の足でも十分歩ける距離である。  
 
パトカー、消防車、救急車……。思いつく限りの緊急車両がその大通りを抜けて行く。尋常な数ではない。  
隣接するビル2階の喫茶店から、その様子を眺めていた女子高生3人組は、テーブルを挟んでを見合わせた。  
 
「あっちってホラ、虹ランド……だよねぇ」  
 
「事故かな?」  
 
「あれホラ……、テロとか?」  
 
「いや、ここ狙うくらいなら他にあるっしょ」  
 
肩まで伸びた栗毛色の髪を掻き揚げ、ひとりが笑う。  
 
「あ、……そういやミッチと彩ッチ、今日の放課後とかサマーランド行くって言ってなかったけ?」  
 
「さっきケータイかけたけど繋がんなかったし。もっぺんかけてみよっか?」  
 
窓際の一人が鞄のポケットを探り始めようとしたその時―――――――――。  
 
 
 
カタカタカタ…………。  
 
 
 
「あれ…………、地震!?」  
 

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