-もみの木-  
 
昼に薄緑の半纏を着た岸上さんがもみの木を持ってきた。  
今日は25日。  
この所仕事が忙しく部屋に籠もりっきりで気付かなかったが、そういえば世間ではクリスマスである。  
「岸上さんは…その、クリスマスの予定は…もしよければ、うちでパーティなど」  
どうでしょうか、と言いかけたが  
「私はちょっと…色々あって」  
先に返されてしまった。  
 
「…岸上さんみたいな綺麗な女性ならクリスマスに予定が入ってても仕方ないよね」  
「家にこんなにかわいい女中がいるのに無視ですかそうですか」  
相変わらず私が作っている夕飯を―今夜は特に腕を振るった―囲みながら軽く落ち込んでいた。  
「大体、もみの木を渡されたんでしょう?それって喪中って事じゃないですかぁ?」  
「…何だって?」  
「喪中ですよ、喪中。旦那さんの命日か何かですかねぇ」  
どうやら岸上さんの地元の方では、身内の喪中には近所の人にもみの木を渡す事になっているらしい。  
喪見、というわけか。  
「岸上さん、私が空気の読めない人間だとか思ってないだろうか  
 
一晩明けて12月26日、朝から岸上さんが訪ねてきた。  
「昨日はどうもすみませんでした…もみの木の事、私は存じませんで…」  
「いえいえ、いいんですよう」  
と、岸上さんがはにかみながら箱を出した。  
「あの……1日遅れで良かったら…クリスマス、しませんか?」  
 
…今年もいい年で終わりそうだ。  
 
 
 

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