【神渡】
冬も終わる、1月下旬から2月中旬にかけては寒さも本気を出すようで
残った全力を出して寒くする。
そんな夜に耳を澄ましていると池の方でミキミキ、ガリッと音がするんだ
鉄砲魚は冬眠すらしないが、冬は静かにしているはずなので彼の仕業ではない。
「わぁっ、旦那様旦那様、見て下さいよぅ」
「何だい朝から騒々しい…まだ6時を回ったばかりじゃあないか」
太陽もまだ起きかけ、といった時刻である。
「池が真っ二つですよぅ」
何を騒いでいるのかと縁側に出てみれば、久々に見かける本の虫と女中が池のそばではしゃいでいた。
「こりゃあ……懐かしいものを…」
神渡だった。
元々は私の地元にある湖で起こる現象である。
冬の湖に綺麗に氷が張った時、湖を挟んで建つ二つの神社の間に
まるで神様が移動した後のように亀裂が走るのだ。
それは単純に氷の膨張や気温の変化による気象現象でしかないのだが、朝の湖に美しく神渡が出来た時などは感動モノの光景である。
上京してきて8年、そろそろ家に顔を出してもいい頃なんじゃないだろうか。
私の記憶の中の故郷はあの頃のまま、劣化していない。
暇が出来たら一度帰ってみよう。