【火鼠の毛皮】  
―19XX年、僕の家はボヤの炎に包まれた!―  
 
"火鼠の毛皮"、というものをご存知だろうか。  
竹取物語とか言う大昔の作品内でかぐや姫が彼女に言い寄る色男に持ってくるように命じた、架空の産物であるとされているものだ。  
それは火にくべても燃え上がる事は無いという。  
作中では、偽物をそれと気付かず持って行った男は目の前で毛皮に火を放たれている。  
 
祖父が言うには、あれは架空の産物などでは無いと言う。  
現に私も小さい頃に現物を見ている。  
その頃祖父は親戚一同を集めては自慢げに古びた桐の箱から出し、さぞ大事そうに見せびらかしていたのだ。  
―現物、と呼ぶには疑わしい事はみんなわかっていたが。  
 
ある冬の日、軽く火を付けてみようよ、と祖父に言うと  
「燃えたらどうする!」  
と言ってお蔵の奥に持っていってしまった。  
 
と、そこは好奇心旺盛な年齢であるからして、  
私は祖父の留守中に蔵の奥へ行き、桐の箱を引っ張り出して火を放ったのだ。  
冬の乾燥した空気はよく火を育て上げ、やがて火は炎となって当時の私の実家を優しく包み込んだ。  
 
翌日、半壊した実家の前ででビクついていた私のもとに祖父がこっそりやってきて当時私が大変欲しがっていた外国の貨幣を何十枚と差し出し、  
絶対に自首しないように、と釘を刺した。  
私は欲しかった外国の綺麗な硬貨に夢中で何も不思議に思わなかったが、何か祖父に都合の悪いものでも燃えてしまったのだろうか。  
 
犯人探しもうやむやになった頃、祖父が大事そうに桐の箱を抱えて蔵に入るのを見ているが、箱の中身はわからないままである。  
 
実家の方とは言うと、その頃流行っていた洋風建築を取り入れて改築、増築したために今のようなきっかり半々の奇妙な建物になってしまった。  
 
【火鼠の毛皮-後日談】  
さて、今回の話がつまらないと感じたのはあなただけではない。  
…私も今回の話はつまらないと思う。  
 
普段私は身近に起こる不思議な出来事を物語にし、コラムとして大衆雑誌に定期的に投稿している。  
その不思議な出来事の殆どは岸上さんが持ってくる事が多いのだが、今回は締切直前になってもいいネタを仕入れられなかったのだ。  
以前書いた戯画を投稿した時は担当の人からも読者からも割と好評だったので、調子に乗って自前のネタを元に物語を書いてみたらこれである。  
 
担当の人からは、  
"今回は調子が悪いようですね"  
と言われ  
女中でからも  
"自前のネタじゃ面白くない"  
というなかなかに厳しい言葉を貰い  
縁側で落ち込んでいる所に鉄砲魚から水を掛けられる始末である。  
 
…岸上さんに日頃のお礼をしなければなぁ  
 

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