肝試しをしようという話になった。  
 なんでそんな話になったのかは、いまいち思い出せない。その場のノリというヤツだ。ここが学校であり、今が夏であることも、その要因の一つだろう。  
 まあ、とにかく。肝試しをすることとなったのだが。  
「意外とつまらないね」  
 あたしのともだちであるユーコが呟いた。人気のない廊下にその声が反響する。  
「そうかな」  
 腕を組んで、考えてみた。でも  
「たのしいよ。かくれんぼよりは」  
「えーっ、かくれんぼの方が楽しいよ」  
「だって、あたしたち以外にかくれんぼなんて、してる子いないよ。もう」  
 ユーコはフフンと鼻を鳴らした。  
「だからいいんじゃない。まいのれてーってやつよ」  
 指をくるくる振る。その仕草は、ユーコお得意の、オトナのヨユー。でも  
「まいのれてーじゃなくて、マイノリティーだよ」  
 舌っ足らずなユーコは、いつになっても、いくら教えてあげても横文字が言えないのだ。  
 ユーコはぽっと赤らむと。  
「うるさい、うるさい、うるさいっ。知ってるわよ。まいのれて、まいのれていーでしょ。まいのれていー」  
 きゃんきゃん騒ぐユーコを適当にやり過ごしていると。  
「あ、来たよ」  
 廊下の向こうから懐中電灯のビーム浴びせられた。その向こうに、あたしたちと同年代の二人の少女。あたしはユーコの口を塞いだ。  
 二人の少女は口々に  
「ねぇ、だ、大丈夫だよね」  
「だいじょうぶだよ、へーきだよ」  
「でも、さっき、みきちゃんの悲鳴が聞こえたよ」  
「みきちゃんは、ほら、怖がりだから」  
 言い合いながら、暗い廊下を進んでいく。  
 あたしたちは天井から床に降りると、二人の背後に忍び寄り。肩を叩いた。  
「え」「ひゃっ」  
 二人は同時に、バネじかけの玩具のように振り返った。  
「い、いま」  
 だけど  
「う、うん。……でも」  
 彼女たちには  
「誰もいないよ」  
 わたしたちは、見えない。何故なら――  
 二人の少女が顔を見合わせる、その顔が恐怖に歪み。  
『きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』  
 絹を裂いたような悲鳴がをあげて、走り去っていく。  
「ね、楽しいじゃん」あたしが言う。  
 ユーコはつまんなさそうに口をすぼめると  
「つまんないよ、人を驚かせるのなんて。かくれんぼのほうがたのしいよ」  
「またいってる」  
 あたしはくすくす笑うと。  
「ほら、次の子が来るよ」  
 
 
 そういって、次の子たちを待って、二人のおばけの少女たちは言い争いを止めた。  
 
おしまい  
 

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