時を越えた想い。  
 
 
 
09:A Seclet Letter  
 
 
 
「正宗」  
 昼の休み時間。ジュースを買いに一人、廊下に出た彼に声をかけてきたのは、塩崎忍だった。  
「ん?」  
「あ……うん」  
 振り返った正宗は、いつも通りの顔をしていたつもりだったが、何故か、忍は口ごもる素振りを見せる。  
呼びかける時に挙げたのだろう右の手を、グーパーグーパーと繰り返して、そのまま彼女は下げてし  
まった。  
「……? どうかしたか?」  
 訝しく思いながら問いかけた彼は、彼女が左の手に本を一冊、持っていることに気付く。タイトルまでは  
わからなかったが、表紙に描かれた主人公の絵から、つい先日、忍が勧めてきた本だろうと見て取る。  
確か、『私』というだけで名前のわからない少女を主人公に据えた、短編ミステリー集と言っていたか。  
「いや、その、ね……今日も、美幸と一緒に帰ったりする?」  
 そんな彼の様子に気付かなかったのか、しばしの逡巡を見せた後、思い切って彼女は口を開く。  
 なんだろう。ふと、正宗は思った。忍の素振りが、いつもと違って見えたのだ。どこかおずおずとして  
いて、距離を置かれているような。  
「ああ、そのつもりだけど。忍も久しぶりに、一緒に来ないか? 美幸も、寂しがってたし」  
 違和感を払拭すべく、いつもより柔和な表情を心掛けるが、忍は一瞬、目を見開いた後、軽く顔を伏せた。  
「……そっか。ありがと。でも、今日は無理。ごめん」  
 次に顔を上げた時には、彼が知るいつもの彼女の表情だった。つまり、あまり愛想の無い無表情。  
「元気なんでしょ? 美幸」  
「ああ、勿論。余計なことに首を突っ込んで、張り切ってるけどな」  
「正宗も大変だね、振り回されて」  
 シニカルに笑む忍に、正宗は肩をすくめる。声音も、言葉も、その内容も、いつも通り。だから彼は、  
先ほど感じた違和感は、何かの勘違いだったかと思う。  
「で、忍は何の用だったんだ?」  
「大したことじゃないよ。ちょっと手伝ってもらおうかと思ってたけど、美幸の方に付き合ってあげて」  
「何だよ? 別に、両方だって……」  
「いいよ、ホント、つまんないことだったからさ。呼び止めてゴメン」  
 この話はもう終わり、とばかりに身を翻して教室に戻る彼女に、正宗は首をかしげながら、ジュースを  
買いに向かったのだった。  
 
 放課後の図書室には、まだ誰も来ていなかった。  
 鞄をいつもの場所に降ろして、席に座る。そして忍は、ノートに挟んであった紙切れをもう一度、広げて  
みた。  
 かなり黄ばんでいて、時の流れを感じさせる紙に書かれているのは、シンプルな、しかしまるで意味が  
わからない言葉の羅列。  
 
『H.TからR.Iへ  
 亀な嫁産め なほ産めかごめ 粉舐めると難』  
   
 紙の横に置かれるのは、正宗に話しかけた時に持っていた本。昨日、彼女が借りた北村薫の『六の  
宮の姫君』という本。貸し出しカードと一緒に挟まれていた紙切れだった。  
 手紙、であることは間違いないだろう。H.TとR.Iというのは、恐らくイニシャルのことだ。  
 書いたのは、恐らく男だと忍は思う。丁寧に書かれているが、角ばっていて、女性らしさは感じられない  
文字だったから。  
 後は……よくわからなかった。いや、よくどころではない。何もわからなかった。  
「亀な嫁産め、なほ産めかごめ、粉舐めると難」  
 口に出して呟いてみる。韻を踏んでいるようにも思えるが、歌や詩というわけではなさそうだ。少なくとも  
彼女は見たことも聞いたこともない。第一、響きの収まりが悪い。  
 そもそも、この文章に意味があるのだろうか。忍はこめかみをトントンと人差し指で叩きながら、眉間に  
皺を寄せて考え込む。  
 手紙であるならば、意味はあるはずだ。伝えたい内容が。  
 それを知ってどうしようと言うのだろう。彼女の中の冷静な部分が囁く。人の手紙を盗み見るのは、  
倫理的にまずいのではないか。  
 けど恐らく、この手紙を送った人も、送られた人も、この学校にはいない。何しろ、この紙の黄ばみ具合を  
見るに、一年や二年前というわけではないだろう。だから、構わない。もう一つの声がそう反論する。  
 それは昨日から何度も、彼女の頭の中で繰り返されている議論だったが、優勢なのは後者の方だった。  
 もしかしたら、届けられなかった相手を探し出して、渡すことが出来るかもしれないし。  
 苦しい言い訳だと自覚しながらも、忍はそう思うことで自分の行為を正当化していた。  
 逆に言えば、彼女はそれだけ、この謎が気になって仕方なかったのだ。謎そのものもそうだが、図書  
カードに入れて伝えようとしたその手段に、一体どんな人が考えたのだろう、という興味が湧いていた  
からだった。  
 とはいえ、いかんせん、一人では糸口すら見つからない。忍は推理小説を愛読していたが、それと  
自分が推理するのとではまた別物だということを、改めて彼女は感じる。  
 だからこそ、相談がしたくて正宗に声をかけたのだが。  
「…………」  
 知らずこぼれる溜息、胸の奥には微かな痛み。  
 元より、三人で謎を解こうと言うつもりだった。なのに、いざとなるとその言葉は出てこなくて。  
 何故かは、彼女自身にもわからない。ただ、正宗が美幸の名前を口にした時、表情を柔らかくした  
ことが辛かったのかもしれない。  
 以前より、二人の距離は近付いているんじゃないだろうか。そんな風に想像してしまう。ただの妄想だと  
わかっていても、なお。  
 忍は、軽く頭を振って、短い前髪をかきあげる。気持ちを切り替えよう。今はこの暗号の手紙のことだけを  
考えよう。そんな風に自分に言い聞かせる。  
 何より、恐らく正宗達よりも、相談に乗ってくれそうな人がいるのだから。  
「相変わらず、早いな」  
 少女一人きりの図書室の沈黙。それ破って声をかけてきたのは、ちょうど彼女が考えていた人物だった。  
扉の方を見て、小さく頭を下げながら、忍は小さく微笑み、そして言った。  
「こんにちは、吉川先輩。ちょっと相談があるんですけど」  
 
「じゃあ、静香。待ち合わせは明日の十一時、駅前でいいかな?」  
「うん。いいよ」  
 長い黒髪に手をやりながらはにかむ少女の様子に、美幸の顔にも自然と笑みが浮かぶ。頬をほんのりと  
染めた彼女は、確かに可愛くて仕方ないものだった。  
「楽しみだね」  
「うん、楽しみ」  
 自然と口をついて出てきた言葉にも、少女は素直に頷いて返してきた。美幸は笑みを深くすると同時に、  
思う。きっと、うまくいく、と。  
 今頃、正宗もまた同じように、友人と明日の予定を確かめ合っていることだろう。  
 そう、明日は、以前から計画していたダブルデートの日だった。無論、建前は皆で遊びに行くだけだ。  
だが始まれば、正宗と美幸と残り二人、という風に自然に分かれることになるだろう。  
 後は、いなくなるタイミングかな。  
 明日の服を考える少女、静香の嬉しそうな横顔に目を細めながら、美幸は思う。予定ではカラオケの頃  
なのだが、もしかしたらもっと早くなるかもしれない。なにしろ、思った以上に静香は乗り気で、楽しそう  
なのだ。カップル成立は確かだろう。  
 美幸が、まったく寂しさを感じないと言えば、嘘になるだろう。正宗と共に来る少年は、ひとときとはいえ、  
彼女が想いを寄せた男なのだから。  
 それでも美幸は、彼が想いを寄せた少女もまた、彼を好きだと言う事実が嬉しい。  
 好きな人には笑顔でいて欲しい。幸せであって欲しい。それは立花美幸の、偽らざる本音だったから。  
「そういえば、明日は九条君も来るんだよね?」  
「正宗? 来るよ。それがどうかした?」  
「ううん、別に。ただ、九条君の私服姿って、あんまり見たことないなぁ、って、ちょっと思って」  
 彼の私服姿を想像しているのだろうか、わずかに視線をあげて静香は天井を見ながら小さく笑う。  
「すごく、カッコいいんだろうね」  
「んー。そうかな? 普通だと思うけどね」  
「それは美幸ちゃんが見慣れてるからだと思うな」  
 言われて、彼女は首を傾げる。否定しているわけではない。カッコいいとは思っているが、すごくと言う  
ほどではない気がしたのだ。  
「じゃあ、美幸ちゃんは目が肥えてるってことで」  
「それも違うと思うんだけどなぁ……っ」  
 やや途方に暮れたように言葉を継いだ美幸だったが、廊下の向こうから近付いてきていた現国の教師、  
佐野の存在に気付いて言葉に詰まる。  
 冷ややかな光を目に浮かべながら近付いてきた彼女は、チラリと二人を睥睨してから、  
「また、男の子達と遊ぶ相談かしら?」  
「えぇ、まぁ。男友達と、出かけようって話です」  
 咄嗟に出た一言は、美幸の苛立ちがストレートに現われたものだった。以前から彼女に対して感じて  
いた反感が、この瞬間にピークに達したのだ。  
 彼女の鋭い言葉を、しかし、佐野はそう、と頷いただけで受け流す。それでも、美幸を見つめる視線は、  
決して緩んだわけではなかった。一人、静香だけが、二人の間に漂う異様な空気に戸惑っている。  
 
「まぁ、あんまり楽しみ過ぎて、羽目を外さないように。それから勉強もしっかりとね」  
 先にそう譲ったのは、佐野だった。捨て台詞のように言い残して、彼女は廊下を再び、歩いて行く。背筋の  
ピンと伸びた、いかにもな女教師の後ろ姿に、美幸は顔をしかめる。完璧だからこそ、嫌味に思えたのだ。  
「何かあったの? サノセンと」  
 不思議そうに尋ねてくる静香に、少女は肩をすくめた。たいしたことじゃないんだけどね、と前置きをして、  
つい先日に呼び出された時の話をする。  
「別に私達がどんな風に過ごそうと、勝手だよね」  
 女子高生なんて期間限定なんだから、と口を尖らせる美幸に、静香は困ったように笑いながら、そうだね、  
と言って首を縦に振る。  
「でも、もしかしたら、あの噂のせいかも」  
「ん? 噂って?」  
「サノセン、最近、恋人とうまくいってないだって。別れるとか、電話で話してるのを聞いちゃった子がいる  
とか」  
 噂だけどね、とさらに声を潜める静香に、彼女は渋い顔をした。  
「何それ。八つ当たり? ひっどいなぁ」  
 私なら絶対に、そんなことしないのに。  
 美幸は心の中で言う。  
 例え好きな人に好きな人がいても。その相談を受けて、協力して、カップル成立まで導いても。  
 辛いと思わないわけじゃない。  
 それでも、耐えてる。恋愛の、自分の痛みは、自分にしかわからないもの。  
 八つ当たりなんてしない。そんなのは、醜いだけだから。  
「美幸ちゃん?」  
 沸々と沸く苛立ちを、美幸は首を振って一掃した。次の瞬間には、明るい笑顔になる。  
「なんでもないよ。それより、明日のこと、しっかり考えとかなきゃ」  
 つまらない人のことは、忘れよう。そう決めて、佐野のことを頭の片隅に追いやって彼女は、楽しい明日の  
計画を決めるのに没頭し始めたのだった。  
 
「なるほどな」  
 手紙を手に取って、亮太は眉を顰めていた。  
 図書室には、いつもの二人。吉川亮太と、塩崎忍。だがその様子は、いつもとは違う。  
 肩を寄せて覗き込んでいるのは、一枚の紙。そう、忍が見つけた手紙だ。  
 
『H.TからR.Iへ  
 亀な嫁産め なほ産めかごめ 粉舐めると難』  
 
 図書室に後から現われた彼も、すぐにこの謎が気になり始めたらしい。穴が開くかというほど、じっと  
その紙を見続けている。  
「意味がわからんな」  
「近いものとかでも、知りませんか?」  
「俺の記憶にはないな、こんな変な文章は」  
「じゃあ、見たままの文章に意味はないんですかね」  
 二人揃って、眉間に皺を寄せる。何か解く鍵はないかと、手紙をひっくり返しながら表も裏も調べるが、  
全くそのようなものは見つからなかった。  
「手紙、だと思いますか?」  
「だろうな。H.Tとか、R.Iってのは、イニシャルだろうし」  
 忍が口にした疑問に、亮太が答える。と、突然、彼女は小さく声を出して笑う。  
「ん? なにかわかったのか?」  
「あ、いえ」  
 やはり微笑みながら、忍は首を横に振る。  
「昨日からずっと考えてたんですけど、一人だと煮詰まっちゃったから。やっぱり、誰か応えてくれる人が  
いる方が楽だな、と」  
「そんなもんかね」  
 怪訝そうに答える亮太に、彼女は深く頷く。そうか、とだけ呟いて、彼は再び視線を手紙へと落とす。  
さして興味の湧く話題ではなかったのだろう。忍もまた、それ以上、続ける気はなかったので、再び疑問を  
口にする。  
「手紙だとしたら、内容があるんでしょうけど……どんな内容だったと思います?」  
「さぁな。けど、内容より先に、考えなきゃいけないことがあるだろ」  
 亮太の言葉に、忍は目を瞬かせる。内容より先に、考えなきゃいけないこと? そんなこと、あっただろうか。  
 
「あのな、手紙ってのは、届くように送るもんだろ、普通。目当ての人と全く違う奴に届いたってどうしよう  
もねぇんだから」  
「はぁ」  
 そうですね、と頷いてから、首を傾げる。  
「でも、これはそうじゃないですよね」  
 紙の黄ばみから見ても、おそらく随分と長い間、貸し出しカードの裏に挟まっていた筈だ。そしてたまたま、  
忍が手に取らなければ、きっとまだずっと気付かれることがなかっただろう。  
 つまりこれは、届かなかった手紙なのだ。  
 それを彼女が指摘すると、亮太は小さく頷いて答える。  
「確かにな。けど、送り主になって考えてみろよ。届くはず、と思ってそこに入れたんだろ? でなきゃ、  
なんでそんなとこに手紙を入れるんだ」  
「……あ」  
 なるほど、と忍は深く頷く。必ずこのR.Iに読まれると思ったからこそ、この送り主H.Tは、貸し出しカードの  
裏なんて場所に隠したのだろう。そうでなければ、ここに入っていた説明が付かない。  
 
「つまり、送り主は確信があったわけだ。相手がこれを借りて読む、っていうな」  
「そうして見つけてもらおうと思ってた、と」  
 ありうる話だと思って、彼女は深く頷いた。少し無茶な気がするが、そんな無茶をしても渡したいと思った  
ものなのだろう。  
 
「だとしたら、送り主は簡単だな」  
「ですね」  
 
 言いながら、二人は『六の宮の姫君』の貸し出しカードを手に取る。一番新しい借り手は塩崎忍。そして  
その一つ上に書かれた名前は。  
「戸塚秀人……こいつがH.Tだろうな」  
 彼の言葉に、忍は頷いて、時を経て変色した彼のサインに思いを馳せる。一体、何を願いながら、彼は  
この手紙を残したのだろう。  
 きっとロマンチストだったのだろうな。彼女はまだ見ぬ男の人影を心に描く。純粋な思いで、書いたの  
だろう。この手紙を。  
 
「本当なら、ここに一人、間に挟まってるはずだったんだろうな」  
 取り出したルーズリーフに戸塚秀人、塩崎忍と縦に並べて書き、その間に亮太はR.Iというイニシャルを  
矢印で挿入する。一つ、謎が解けたというのに、彼の顔は曇ったままだ。  
「ただ、なんでこの本だったか、が問題なんだよな」  
 彼が訝しく思うのは、何故、この『六の宮の姫君』という本だったのか、というところなのだ。図書館には  
他にも、たくさんの本がある。  
 その中で、この戸塚秀人という男が、どうしてこの本を選んだのか。  
 逆に言えば、どうしてこの本を相手が読むと思ったのか。そこがわからなかったのだ。  
 
「ああ、それなら私、わかりますよ。どうしてこの本だったのか」  
 
 事もなげにあっさりと言った忍の声に、彼は思わず勢い良く顔を上げた。  
「マジでか!?」  
「ええ。って、その前に吉川先輩、この本、読んだことないんですか?」  
「芥川龍之介の書いた『六の宮の姫君』なら読んだことあるんだけどな」  
 負け惜しみのように亮太は言ってみるが、彼女は、  
「じゃあ、仕方ないですね」  
 とあっさりと言って取り合わなかった。そして忍は、席を立って本棚の方へと歩いていった。つられて  
亮太も立ち上がり、彼女の後を追う。  
「この北村薫の『六の宮の姫君』って、芥川の書いた『六の宮の姫君』の謎を追うストーリーなんですよ」  
「謎なんてあったのか?」  
「読んだらわかりますよ」  
 笑いながらそういなして、彼女は北村薫の本が並ぶ棚の前に立った。  
「で、これの主人公が『私』ってだけで、名前が出てこない女の子なんですけど」  
「ネームレス主人公、って奴だな」  
「そうそう。で、彼女が出てくるのは、この本だけじゃないんですよ」  
 言いながら忍が手に取ったのは、『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』と題打たれた三冊の本。  
「ナンバリングがされてないし、全部、タイトルが違うから気づきにくいですけど、これ、『私』と探偵役の  
〈円紫師匠〉が出てくるシリーズものなんです。『六の宮の姫君』は、その四巻目」  
 私も、順に読みました。そう言いながら、彼女は三枚の貸し出しカードを取り出した。それぞれ、一番、  
新しい名前は塩崎忍。二つ上には、戸塚秀人の名前。  
 
「この戸塚って人は、こう考えたんじゃないでしょうか。自分と同じように、順番に読んでいっているなら、  
きっとこの人……この女の子も、『六の宮の姫君』を読むだろう、って」  
 
 塩崎忍と、戸塚秀人。二人の間に挟まっている名前は。  
 
「井上玲子……イニシャルR.Iか」  
「きっと彼女が、戸塚って人が手紙を届けたかった相手でしょうね」  
 
「届け主と、送りたい相手はわかりましたね」  
「ああ」  
 席に戻った二人は、机の上に三冊の本を新たに重ねて置く。  
 一歩前進、と言ったところなのだろう。まずは一つ目の山を越えた。  
 だが、と彼女達はまた、頭を寄せ合って手紙を覗き込む。  
「問題は、この手紙の内容だな」  
「暗号……ですよね、多分」  
「解けるもんなのかね、こいつは」  
 溜息混じりに言う亮太に、忍は小さく笑って答えた。  
「大丈夫ですよ、きっと」  
「自信あるみたいだな。何かヒントでも見つけたのか?」  
「いえ。でも」  
 根拠はないですけど、と前置きをして、忍は前髪をかきあげながら言った。  
「私一人じゃ、全く意味がわからなかったけれど、吉川先輩が一緒に考えてくれたおかげで、少しは謎が  
解けましたから」  
 だからきっと、大丈夫です。そう言う忍に、亮太は苦笑を返す。  
「俺が考えたことなんて、たいしたことじゃないだろ」  
「それでも、一人よりは二人ですから」  
 チラリと、正宗の影が頭の片隅を過ぎる。彼に相談していたら、一緒に考えてくれただろうか?  
 きっと考えてくれていただろう。忍はそう思う。  
 先輩のようにあっさりと答えへの道筋を見つけはしなかっただろうけれど、それでも考えてくれていた  
はずだ。  
 彼女は、そう信じることにした。  
「後は、本文だけですし。考えましょう」  
 だから忍は、余計なことを考えるのは後回しにして、目の前の暗号を解くことだけに集中しようとしたの  
だった。  
 

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