突然の出張命令から1週間。やっと家に帰ってきた。
家には優秀なメイドがいるので、留守にすること自体は不安は無いのだが
なんせ、寂しがり屋だからなぁ……。ロボの癖に。
感情機能も高性能化するのはいいが、寂しさが募って仕事に支障をきたすのは本末転倒だろうに……
愚痴めいたことを思い浮かべながら家路を急ぐ。
やっと玄関の扉に手が掛かる。……が、何だ? 扉の向こうに気配が……。
ええい、ままよ――
「おかえりなさいませ、マスター。お帰りをお待ちしておりました」
待ってたって……まさか……
「交通機関の時刻表から帰宅時刻を推定しました。2分前からここで待機しておりました。
ああ、マスター、とても会いたかった……」
フルパワーで抱きしめられる……クッ、さすがに息が苦しい……ガハッ!
しまった! 声もだせない……顔の毛細血管が破裂する……肋骨が軋む……
「も、申し訳ございません。私ったら……」
「あ、ああ、まだ……生きてるからいいよ……もう少し手加減してくれると助かる」
「申し訳ございません、だって……1週間も会えなかったんですもの……」
「あー、分かった分かった。それより、腹が減った。飯は出来てるか?」
「はいっ! 腕を増設して目いっぱい頑張りました。さすがにマニュピレーター16本の同時作業は難しかったです。
目と耳も増やすべきでした」
「いや、想像するだけで怖いから止してくれ……寒気がする」
脱いだ上着を預け、居間へ向かう。いい匂いが漂っている。ふむ、中華かな。
ダイニングへ入ると、そこにはテーブル一杯に並ぶ料理の数々。
これって……満漢全席……
「ここまで気張ることはないだろう」
「何をおっしゃいますか。私の気持ちはこれだけでも足りないくらいです。貴方に私の料理を食べてもらえない間……
私が、どんな気持ちで過ごしていたか……マスターにはご理解いただけないのですか?」
「上目使いで見上げるな。分かってやってるだろ。……ああ、拗ねるな拗ねるな。お前の気持ちも分かるよ。
俺が言い過ぎた。とにかく、美味そうな料理が冷めてしまってはいかん。食うぞ」
「はいっ!」
技巧を凝らした数々の料理。確かに美味い。
「量がありますから、全て召し上がるのは無理ですよ。でも、全てに箸をつけていただけると嬉しいです」
そんな目で見られたら、全部喰いたくなるだろうに……計算してやってねぇか?
俺が食う姿を嬉しそうに目を細めて眺めるメイドロボ。
かいがいしく主人の世話を焼くことに喜びと存在意義を感じるように作られた。
男の理想の姿、そのままに……
「あーー、喰った喰った。さすがに腹が苦しい。ちょっと喰いすぎたか」
「本当に、食べすぎですよ」
と、言いながらも嬉しそうな顔をするなよ。こっちまで嬉しくなる。
「美味かったよ。ご馳走さん」
「はい。お粗末さまでした。お風呂の支度ができています。お先にどうぞ」
「お先にって?」
「片付けたら、お背中を流しに行きます。ゆっくり温まっていてくださいね」
「おいおい」
「お風呂が済んだら就寝前にマッサージをしますね。お疲れでしょうから」
「いやいや、そこまでは――」
「よろしいですね、マスター」
「はい」