少女はベッドに仰向けになりながらぼんやりと虚空を見つめていた。  
親しくなった少年が逝ってしまった。  
退屈な入院生活を紛らわせてくれた、快活な優しい少年だったのに。  
友情とほんの少しの憧れを抱いていたのに、その気持ちが成長する前に彼はいなくなってしまった。  
悲しくはあるが、涙は出なかった。ただやりきれない想いだけが胸に渦巻いて、少女の気力を奪う。  
一日中そんな調子で過ごし、いつしか時刻は夜を示していた。  
味気のない夕食をとり、消灯時間になる前にさっさと寝てしまうことにした。  
どうせ起きていても面白いことなどないのだ。だって少年はもういないから。  
 
不意に目が覚める。普段より早く寝たせいで、中途半端な時間に目が覚めてしまったのだろうか。あたりはまだ真っ暗だ。  
もう一度寝直そうと目を閉じたものの、妙に目が冴えてしまってなかなか寝付けない。  
尿意を覚えて個室のトイレで用を足す。  
再びベッドに戻ろうとして、少女は違和感に気づいた。  
静かすぎる。  
いくら夜半とはいえ、物音一つ聞こえないのはいくらなんでもおかしい。虫の声も、鳥の声も、風の音さえも。  
言いようのない不安に襲われて、彼女は病室の扉をそっと開けて外の様子を窺った。  
 
やはり静かすぎる。そして暗すぎる。  
ナースステーションも、非常口の灯りさえも、光を点しているところは一つもなかった。  
急に一人でいることが怖くなって、人の気配を求めて廊下を歩き始めた。けれど半ば確信に近い予感が脳裏をよぎる。  
案の定、誰の姿も見つけられなかった。本来いるはずの夜勤の職員も見あたらない。  
それでも少女は急かされるように足を動かした。誰か、誰でもいいからいないだろうかと。  
視界が涙で滲んだ。片っ端から扉という扉に手をかけてみるも、どれもビクともしない。  
まるで世界中から彼女だけが孤立してしまったかのようだ。  
孤独感がそのまま恐怖となって彼女にのし掛かる。少女は半狂乱になりながら病院中を駆け回った。  
 
どれほどの時が過ぎただろうか。永遠にも思える時間をさまよった末、ようやく開く扉を見つけた。  
そこが何の部屋かも確認せぬまま、勢い込んで中に飛び込む。  
室内は外にも増して暗かった。手探りで部屋の中を進む。しかし何も見つけられないまま、どうやら角に着いてしまう。  
引き返そうと一歩後ろに下がった途端、背中が何かにぶつかった。  
ぶつかったモノの正体を確認しようと振り返った瞬間、肩を掴まれて押し倒された。  
しかしそれでぶつかったモノが人であると気づく。  
壁際に背をつける格好になり、座り込んだ状態で相手を見上げる。  
ようやく見つけた人の気配だというのに、少女の胸には安堵の気持ちは湧かなかった。それどころか、更なる恐怖心が支配する。  
 
誰、と問おうとして失敗した。声が掠れてしまって言葉にならない。  
逃げなければ。明確な理由はわからないが頭に警鐘が鳴り響く。  
けれど身体はいうことを聞かず、小刻みに震えるばかりで身動きがとれなかった。  
その人影は、動けぬ少女の脚をおもむろに掴み、思い切り割り開いた。その間に己の身を滑り込ませる。  
少女はとっさに脚を閉じようとするが、それよりも早く相手の手が膝を押さえて彼女の動きを阻害する。  
もう片方の手で少女の寝間着のズボンを勢いよく引き下げた。途端に露わになる少女の下着。  
次の行動の予想がついて、少女は下着を手で押さえようとするが、それよりも相手の動きの方が早かった。  
 
あっという間に下着が膝まで下ろされる。  
悲鳴を上げながら腕を振り回して身を守ろうとする彼女に構わず、その人影は両膝の裏をぐいと持ち上げ、壁際に押しつけるようにする。  
あられもない格好をさせられ、秘部を晒された彼女は羞恥以上に恐怖した。  
このままでは犯される。  
ひきつるのどを必死で奮い立たせ、精一杯の大声を上げて助けを求めた。けれど誰もやってはこない。それでも彼女は叫んだ。  
助けて、誰か助けて――脳裏には一人の少年の顔が浮かぶ。もう、この世にはいない少年。  
どうして死んでしまったの、お願い助けて。私を助けてよ――。  
いつしか暗闇に目が慣れて、あたりにあるものの形が捉えられるようになっていた。  
そして彼女は気づいた。気づいてしまった。  
今まさに自分の脚を押し広げている相手。その人物こそ、彼女が脳裏に思い浮かべていたその人であるということに。  
 
少年の瞼は固く閉ざされたままで、何も見てはいなかった。当然だ、彼にはもう、魂は宿っていないのだから。  
しかし何故か彼の肉体だけは動いている。何の表情もなく、ただ機械的に自分のズボンを下ろし股間をさらけ出していた。  
息を飲む彼女の裂け目に、己の肉棒を押しつけた。  
血の通わぬそれは吃立も硬くなりもしない。ただ脚の間にぶら下がっているだけのモノ。  
柔らかい感触に吐き気すら催した。少女はどうにか身を捩ってそれから逃れようとするが、脚を固定する彼の腕はビクともしない。  
死した彼の肉体では筋肉だってろくに機能しないはずだろうに、どこからこんな力が湧いてくるのか。  
硬くならない肉棒に手を添えて秘唇にあてがい、凄い勢いをつけて腰を少女に押しつけた。  
圧力でもって彼女の膣に少年の自身を突き入れる。  
馴らしもせずに侵入された激痛に、少女は絶叫する。けれど少年は構わず腰を前後に揺すり始めた。  
そこには情も優しさの欠片もなかった。  
一切の力加減もなく、ただただ肉棒を突き入れてはぎりぎりまで引き抜き、また突き入れて膣内を掻き回す。  
 
暗くてよくわからなかったが、恐らく出血しているであろう。  
それでも少年は目を固く閉じたまま、黙々と動き続けた。  
まるで、人の肉と皮を纏ったカラクリが一定の動作を機械的に繰り返しているようだった。  
恐らくその表現はそう外れていない。明らかに少年の意志ではなく、何者かが彼の身体を操って少女を襲わせているのだ。だが、今の少女にそんなことを冷静に考える余裕などなかった。恐怖と痛みだけが彼女を支配している。  
蛇がにゅるにゅると出たり入ったりしているような感覚に、嗚咽混じりの悲鳴を上げるしか出来ずにいた。  
闇に閉ざされた部屋の中、腰を打つ音と少女の喉から漏れ出る呻き声が響く。  
そのうち淫らな水の音が混じり始めた。少女の股の間が濡れてくる。  
防御反応から分泌された液体が、少年の肉棒で泡立てられぐちょぐちょと音を立てる。  
決して快楽は感じていないのに、少女は自分が淫乱になったような錯覚に囚われた。そんな自分自身を酷く嫌悪した。  
 
恐ろしく長い時間、少女は少年に体内を蹂躙されていた。  
その行為には何の感情も、人肌の温もりもなかった。冷たい肉体がただ自分を犯す。  
普通はあり得ない状況がたまらなく恐ろしかった。  
だがしばらくするうちに、彼女の身体の芯に熱が点りだした。同時に悪寒にも似た感覚が腰から背筋を這い上がる。  
長い時間をかけて馴らされた彼女の身体が感じ始めたのだ。  
嗚咽から、明らかに色を帯びた歓喜のさえずりに変化する。それを理解したかのように、少年の腰の動きが更に速くなる。  
魂が抜けるような感覚とともに、少女の口から甲高い声が飛び出した。  
それとともに彼女の裂け目から、ぶしっぶしっ、と透明な液体がこぼれた。  
彼女は荒い息をつき口の端からだらしなく涎を垂らして惚けている。  
目は焦点が定まっておらず、夢と現の間をさまよっているようだった。  
 
少年の肉棒がずるりと引き抜かれる。  
相変わらず彼のモノは垂れ下がったままだ。当然である。生きていない肉体が反応を示すはずがないのだ。  
体内から少年が出ていく感覚に、少女の意識が引き戻される。  
ようやく終わってくれた、彼女はそう安堵する。  
しかし、そう判断するのは早計に過ぎた。  
少年が彼女の前から立ち退いて、視界が開ける。  
そして、そこに絶望を見てしまった。  
少年と同じように瞼を閉ざし何の感情も見せない男たちが数人、少女を取り囲んでいたのだ。  
悲鳴は声にならなかった。  
少女はここがどこだか嫌でも気づいた。  
名前だけは知っていたけれど自分には用のない場所。普通は足を踏み入れることのない場所。  
――ここは霊安室だ。  
熱の通わぬ死体たちが少女に群がる。片足を床に押さえつけ、もう片方を高く持ち上げられた。  
少年が少女の肉芽を摘み、潰し、こね回す。  
死体の一人がその冷たい指を秘唇に、更に別の一人が菊門にあてがい、やはり力の加減などしないまま容赦なく指を突き入れた。  
 
死者たちの狂宴は、まだ始まったばかりだった。  
 
 
青年医師は担当の少女の病室を訪れて、その異様な光景に疲れたような溜め息をついた。  
彼はこの病院でもう勤続十年になろうとしていて、こうした状況は初めてのことではなかった。  
目の前の少女は、茫洋とした目で泣きながら懸命な様子でシーツに股間を擦らせ続けていた。  
まるで少しでも摩擦で熱を得ようとするかのように。  
寝間着のズボンは床に打ち捨てられ、下着は右足にかろうじて絡みついている。  
扇情的な光景ではあったが、医師は疲れたような顔をするだけだった。  
この病院には、いるのだ。得体の知れない何かが。  
そいつはどういう手段をもってかは知らないが、時折こうして少女を惑わし、狂わせる。  
そして狂わされた少女は。  
医師はもう一度溜め息をつくと、扉に鍵をかけた。この部屋は個室なので人目を気にすることもない。  
ベッドに近づくと、そっと少女を押し倒した。  
少女の秘部は、擦られ続けて痛々しく充血していた。  
医師はベルトを外し、自身を取り出す。そして少女の中にゆっくりと押し入った。  
少女は体内に入ってくる人の熱を受けて、安堵と歓喜の入り交じった甘い矯声をあげた。  
 
やがて少女は数分と経たぬうちに達し、意識を手放した。  
それからずっと、彼女は眠ったままである。  
これまでの例もそうだった。この病院に巣くう得体の知れない何かは、こうして少女の心を連れ去ってしまう。  
そしてきっと、そう遠くない将来、また同じような被害に遭う者が出てくるのだろう。  
予想は出来ても、くい止める手段はどこにもなかった。  
 

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