(あち〜。とっとと終わろうよ、このみ)
午後一の授業。高校生にとって、非常に重要な時間だ。
「休息」という名の睡眠。
なんとか俺は睡魔を打ち払いながら、授業に聞き入っていたつもりだった。
でも、実際はうたた寝してしまっていたらしい。
「じゃあねえ…今日は3日だから、3番。飯島君」
ん?
「飯島君?あれ、休みだったっけ?」
「はい、います!」
「昼ごはんの後だし、眠いのはわかるけど、ちゃんと授業聞いててね。
寝てるから質問に来るなら、答えるのやめちゃおっかな〜」
クラスに笑いが起こる。
(ちぇっ…つまんねえの)
その日の夜。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい……どうしたの?」
思わず俺は固まっていた。
バスローブ姿でくるっと一回転した先生。いや、妻か。
「どうしたの、って……その格好こそ、どうしたの?」
「え?あ、これ?」
そこでちょっと照れくさそうにはにかんで見せる。
「純くん、最近最後の大会に向けて疲れて帰ってきてるし……。
さみしくって、もてあましちゃって……。疲れてるだろうな、ってわかってるのに……ごめんね、ダメな奥さんで……」
「そんなこと……」
目の前のけなげな女性を抱き締めずにはいられなかった。
「ごめんね、寂しかったよね。
俺も、せんせ……このみと甘い生活が満喫できなくてつらかったけど……
でも頑張らなきゃ、って思って。とりあえず、お風呂入ってもいいかな?」
「あ、そうだよね、ごめんね。用意できてるから…洗濯物、ちょうだい」
俺はカバンを渡すと、風呂に向かった。
全ては、その後のため――。
俺の奥さんのこのみは、通っている高校の先生。
去年教育実習でやって来たと思ったら、実習期間が終わっても講師としてずっと通っていた。
質問のために職員室によく出入りしていた俺は、このみ「先生」に教えを請ううちにいつの間にか恋愛感情を抱いていた。
そして、嬉しいことに彼女も俺のことを好きになってくれたらしい。
そうして、友達はもちろん、学校にも内緒で恋人として付き合い始めて、一気に気持ちが燃え上がっちゃって…というわけだ。
幸い?、俺は4月上旬の生まれ。3年生に上がってすぐに結婚できる年齢になった。そして、周りには知らせずに籍を入れた。
もちろん、このみの姓が変わったらばれかねないし、大問題になっちゃいそうなので、学校では旧姓のままだ。
末っ子の俺を高大エスカレーターのこの学校に放り込んだ両親は、今は海外勤務の真っ最中。兄貴はとうに独立していない。
だから…二人きりのラブラブ生活が満喫し放題、ってわけだ。
生活費も、このみに頼りきりではなく、親から支給されている分もあるので、完全なるヒモにはなってない……つもりだ。
まあ、やっぱり頼っちゃう部分はあるんだけど。
ちなみに、両親はこのみと「付き合っている」ことまでは知っているが、「籍を入れた」とまでは知らないはず。
一応兄貴には念押ししてあるが、知っているのは兄貴だけだ。
「ふー、いいお湯だぁ」
湯船でぐっと身体を伸ばす。
部室にもシャワーはあるけど、家の風呂でのんびりできるのはやっぱり気持ちいい。
そうやって疲れを癒していると、浴室のドアを叩く音が。
「……純くん、背中ながそっか?」
「い、いいよ、今は……そんなことされちゃったら……」
このみの気持ちはものすごく嬉しい。
でも、このみも溜まっちゃってて、俺も久しぶりなだけに、抑えきれなくなる恐れも高い。
「いいよ、我慢しないで……?私のこと、めちゃくちゃにして……。好きなようにして……」
思わず振り返ると、静かにドアを開けて―彼女が姿を現した。無論、全裸だ。
それに反応してしまう我がシンボル。ちょっとだけ情けない。
我ながらちょっと照れくさいが、このみは女性として非常に魅力的だ。
性格がいい、とか、美人のお姉さんな雰囲気だ、とか、スタイルがいい、とかいろいろあるが、まあそんなところにしておこう。
月並みな言葉でしか表わせない自分がちょっと悔しい。
「ね、背中洗ってあげるから、湯船から出ない?」
「う、うん、わかった…」
ドキドキしている雰囲気は俺の背中からたっぷりにじみでているのだろう。
でも、それにはあえて触れないのもこのみの優しさだ。
今日の練習はどうだったの、とか、授業でわかんないこととかない?とか。
お互いに性欲が高まっているのは承知しつつも、そんな落ち着いた何気ない会話で、ドキドキが収まっていくのが分かった。
「はい、これで終わったよ」
「ありがと……このみ」
ぎゅっと抱きつき―柔らかな乳房が当たる感触。
「今日はごめんね?授業中にからかっちゃって」
「あ、ああ」
「お詫びにいっぱい気持ちよくさせてあげるから……いっぱい、しよ?」
その言葉で、俺の臨戦体勢が整ったのは言うまでもない。