ようやく寝付けたと思ったら、鼻や耳をくすぐられているのが鬱陶しくて目が覚めてしまった。  
 「ねえ、起きてる?」  
 薄目を開けると、妻の智子が自分の髪を摘んで俺の鼻やらをくすぐってる。  
 それを手で払いのける。  
 「……勘弁してくれ。 明日も朝早いんだよ」  
 「もう、最近そればっかり。   
  なんか眠れないんだよねぇ……、ちょっと付き合ってくれない?」  
 「電気つけても怒らないからゲームでもしててよ……」  
 「じゃあ一緒にやろうよ」  
 彼女に背を向けるように寝返りをうって、毛布を肩までたぐり寄せる。  
 「お願いだから、寝かせて……」  
   
 再びうとうとしかけていたとき、また耳に変な感触を感じた。  
 なにやら軟らかくて湿っぽいような肌触り。  
 「な、何をしているの……?」  
 「何だと思う?」  
 「耳、噛んでるよね? 唇で……」  
 「ピンポ〜ン!」  
 「“ピンポ〜ン”じゃなくて…」  
 上体を起こし、智子の方を向いて少し真面目な顔で話しかける。  
 「お願いだから今日は寝かせて……」  
 智子と結婚してそろそろ半年、高校時代の先輩だった彼女に未だに頭が上がらない。  
 とは言っても学生時代にお互いに面識はなく、  
 社会人になってから好きになった人が、たまたま同じ学校の出身だっただけ。  
 彼女は意識していないようだが、一学年上だった智子は  
 普段の考え方やしゃべり方なんかが、俺には大人っぽく映る。  
 でも時々垣間見せる、妙に子供っぽい部分があって、それがたまらなく好きだった。   
 
 「じゃあ、新しい指輪買って?」  
 付き合い始めて一月くらい経った頃だろうか、彼女を年上と知ってしまい  
 おまけに自分の先輩だったと知ったときから、おねだりにはほとんど首を縦に振ってきた。  
 「うん、次のボーナスでたら優先的に買わせていただきますから」  
 しかし智子は、依然として面白くないといった表情をしている。  
 これではこっちも気持ちよく寝れない。  
 「違う! ホントは指輪なんていらないの! バカ……」  
   
 本当はもっと高い物が欲しいとか言い出すんじゃないだろうな…。  
 「もういいよ。 勝手にしな」  
 もう一度毛布をかぶりなおし、無理矢理目を瞑る。  
 しばらくは彼女も黙ったまま。  
 多少気になるが、『これでいいんだ』と自分に言い聞かせながらさっさと眠りにつきたかった。  
 けど余計なことを考えてしまったせいでだんだん眠れなくなってくる。  
 
 「ねえ、怒っちゃった……?」  
 しばらく黙っていた俺に智子が声をかけてきた。  
 「怒ってないから」  
 「ならこっち向いてお話しない?」  
 さらに深く毛布をかぶり意図的に彼女から遠ざかるように寝返りをうつ。  
 「ごめん、また明日ね。 本気で今日は寝ないとやばいんだ……」  
 「ケチ!」  
   
 またしばらくの静寂。  
 ――寝たのかな?  
 一方の俺はもう眠くなくなってきた。  
 寝なきゃ寝なきゃと考えれば考えるほど、目が冴えてくる。  
 「…こちょこちょこちょ〜」  
 大人しくなったと思ったのもつかの間、また耳を髪の毛でくすぐられてる……。  
 「おいっ! こちょこちょじゃねーだろ! いい加減にしてく……れ……よ……」  
 ぶわっと毛布を跳ね除け、智子の方を向いて怒鳴りつけようとした。  
 「あ、あの……、いつから裸なの……?」  
 だが俺の目の前には一糸纏わぬ姿で、毛布で胸元を色っぽく隠している智子がいて固まってしまった。  
 「エヘッ…、ついさっき。 もっと見たい?」  
 「い、いや、あのね……、本当に申し訳ないんだけど、明日朝早いんだよ、俺。  
  何してても文句言わないから、そっちでやってくれるかな……」  
 俺はそう言いながら部屋の端にあるテレビを指差す。  
 智子は頬を膨らませながら、毛布を肩から羽織ってテレビの方へ這って行った。  
 
 しばらくはガサゴソとテレビの辺りを漁る音だけ聞こえてくる。  
 大人しくゲームでもしてくれる気になったのかな?  
 そんなことを考えながら俺も、少しずつだがまたうとうとし始めてきた。  
 だが突然代爆音の喘ぎ声が聞こえ現実に戻されてしまう。  
 慌てて振り返ってテレビの方に目をやる。  
 「うっわ〜、カゲキ……」  
 智子が膝を抱えて座りながら見つめるブラウン管の先には  
 俺のお気に入りのAV女優と名も知らないの男優の絡みが映し出されていた。  
   
 「あ、え!? こ、これ……? ちょ、な、何見てんだよ……」  
 吹き出る冷や汗を腕の甲で拭いながらなんとか声を搾り出す。  
 寝たふりをしていた方が良かったのかもしれないが  
 この大音量で再生しているところをみると、明らかに俺への当てつけだろう。  
 「ん? この前とったドラマ見ようと思って探してたら  
  なんかラベルが付いてないビデオがあってさー、  
  何かな〜って思って見てみたら………ね」  
 独り暮らしの時に見ていた物である事は確か。  
 おそらく引っ越す時に紛れ込んで、あそこに放置されていたみたいだ。  
 「ねえ、こんなのいつ見てるの? 私が寝た後とか?」  
 「い、いや、最近は見てないよ。  
  ほ、本当だって…、というかなんでそんなとこにあるのか俺にも……」  
 「どうしたの? べつに私怒ってないよ?」  
 しかしこんな状況で平常心でいられるわけがない。  
 「ねえ、やっぱりこういうので覚えたコト、私に試したりしてるの?」  
 「いや、その…………」  
 なんとも例えようのない後ろめたさが俺の中で膨れ上がる。  
 
 「ねえねえ、私もこんなに大きな声で喘いでる?」  
 いつの間にか智子は隣で寝そべりながら、頬杖をついて俺の顔を覗き込んでくる。  
 さながら蛇に睨まれた蛙状態。  
 「さ、さあ……、あんまり注意して聞いてたことないから……」  
 「じゃあ今から確かめてみる?」  
 やばい、変な誘導尋問と、テレビから漏れる声で、こっちも立ってきた……。  
 でも、もう日付が変わるし、早いとこ話を元に戻して誤魔化そう。  
 「あ、あのさ、休みの日は一日付き合うから今はちょっと……」  
 ついでに枕元にあるリモコンに手を伸ばし、どさくさに紛れてテレビを消す。  
 「その気ないの?」  
 「わ、悪いけど今日は……」  
 とは言うものの下半身はやる気満々。  
 頭だけがまだ少し冷静だった。  
 「ホントかな〜? どれどれ…」  
 智子の手が、少し緩めの俺のパジャマのズボンの間から忍び込んでくる。  
 いきなりしなやかな指先が俺のモノに纏わり付く感触。  
 背筋が一瞬ゾクッとする。  
 「あらあら、これはどういうことかな〜?」  
 智子の顔が耳元まで近づいてきて悪戯な笑みを浮かべている。  
 
 「気持ちいい?」  
 彼女がゆっくり手を動かしながら、また耳元でささやいてくる。  
 その口から漏れるかすかな吐息が耳をかすめ、無意識のうちにただコクコクと頷いてしまう。  
 「フフッ…、正直でよろしい」  
 智子が空いている方の手でそっと頭を撫でてくる。  
   
 もうわずかに残った俺の理性もなくなりかけて  
 彼女を押し倒し体位を変えようと腕を伸ばしかけた。  
 しかし指先が彼女の体に触れる前に、唇が重ねられて、動きが止まってしまう。  
 「ありがと。 ホントは疲れてるのんだよね。  
  でも最後は私のわがまま聞いてくれる、そういうとこ好き…」  
 唇を離しても、まだ体温が感じられるくらい近くに智子の瞳が映る。  
 「なんだよそれ。 どっちが本音だよ…?」  
 「こっちは妻としての本音。 あっちはオンナとしての本音……かな」  
 思わず苦笑いがこみ上げる。  
 頭の片隅には、明日の朝、遅刻しそうになり慌てる俺の姿が…。  
 「今の私は、オンナの私かな」  
 智子が俺の鼻の頭に浮かぶ冷や汗を、そっと人差し指で拭ってくる。  
 「バレてないと思ってた?   
  ちゃんと毎日お掃除してるんだから、あんなとこに隠してもバレバレだよ」  
 「いや…、べつに隠してたわけじゃなくて……」  
 言い訳の途中で、智子に頬を軽く摘まれる。  
 「あんなので発散するくらいなら、女房の私を使えばいいでしょ?」  
 そう言うとまた智子が唇を重ねてくる。  
 今度は舌がゆっくりと侵入してきた。  
 
 そっと唇を離した智子が、糸を引く口元を手の甲で拭いながら熱っぽい視線を向けてくる。  
 なんか凄い勘違いされてるけど、もうこれはこれでいいや……。  
 「な、なあ、ちょいタンマ! 出そう……」  
 「ん?」  
 ようやく智子がさっきから動かしっぱなしの左手を休め、ズボンから引き抜く。  
 また両手で頬杖をついて俺を見下ろしてくる。  
 「ねえ、焦らされて焦らされて、朝まで焦らされっぱなしなのと、  
  朝まで何回もイキまくるのと、どっちがいい?」  
 もう朝まで付き合うことは決定してるのか…。  
 「い、いや、普通にやろうよ。 いつもみたいに」  
 「やーよ、私すぐイッちゃうから、いっつも途中からおもちゃにされてるもん…」  
 まあ、それが面白いというか、可愛いからいいんだけど。  
 「もしかして嫌だった?」  
 智子が首を左右に振って俺に答える。  
 「ううん、どっちかって言うとそっちの方が好き。  
  こんなにも私のこと求めてくれてるんだ――って思えて嬉しくなるし……。  
  だけど、たまにはいいじゃない? 逆でも」  
 
 目が慣れてきたせいか、薄暗い部屋でも彼女の顔がよく見えるようになってきた。  
 年齢の割には幼く見える顔立ち。  
 彼女自身も嫌いではないらしく、そのことを褒めると喜んでくれる。  
 けど胸も幼いとか言ってからかうと、かなり怒られる。  
 「もう、黙ってそんなに見つめないでよ…」  
 智子も、恥ずかしそうな笑みを浮かべながら俺の目を見つめ返してくる。  
 逆にこっちが彼女を見つめていたことを意識させられてしまい、  
 照れ隠しで、とっさに彼女の胸に両手を伸ばす。  
 「あっ…、ちょ、ちょっと」  
 掌に収まるくらいの大きさの彼女の胸は、敏感に反応して乳首の先は固さを増してくる。  
 そのまま左の胸にしゃぶりつくように口づけする。  
 「あうっんん!!  
  コ、コラ! だめだってば…」  
 手を払いのけられ、また仰向けでベットに押し倒されてしまう。  
 「たまには、おねーさんの言うことききなさい」  
 智子がスッと伸ばした人差し指の先で俺の唇を抑えてくる。  
 そんなこと言われなくても、いつも言いなりな気がするけど。  
   
 突然智子が枕元にあったタオルを取ると、それで俺の両手を縛り上げてきた。  
 「これでよし!」  
 俺はその縛られた手を目の前まで持ってきてしばし凝視してしまう。  
 簡単に縛ったくせに意外と解けそうにない。  
 「お、おい、これでよし、じゃないって! なんのマネだよ? もしかして酔ってんのかよ?」  
 「今日は飲んでませんよー」  
 彼女の手がそっと下に伸び、ズボンがゆっくり脱がされていく。  
 「でもその手じゃ、上は脱げないねぇ…」  
 「笑ってないでこれ解いてくれよ」  
 「ま、男の人だから上は脱がなくてもいっか」  
 そのまま手際よくトランクスまで剥ぎ取られてしまう。  
 
 「さ〜て、どうしてほしいのかな?」  
 彼女の目の前で、恥ずかしくも俺のモノは張り裂けんばかりに硬直している。  
 智子はそれを両手でそっと包み込むように掴むと、舌を出して先の方を一舐めしてきた。  
 また背筋がゾクッとして、一瞬の快感が全身を駆ける。  
 「お、今ピクッときたねぇ。 もっとして欲しいのかなぁ?」  
 こみ上げてくる恥ずかしさを紛らわすように  
 縛られた腕で、上目遣いに見上げる彼女の頭をポンポンと叩く。  
 「ど、どこだっていきなり舐められたらびっくりするだろ…。  
  てか、なんのつもりだよ? なんかあったのかよ?」  
 「いいじゃない。 何もなくても、こういうことするのが夫婦ってもんでしょ?」  
 「ま、まあそうかもしれないけど…」  
   
 また智子が俺の顔に自分の顔を近づけてくる。  
 「なら、遠慮することなんてないでしょ」  
 耳元でナイショ話でもするみたいに吐息混じりの声でささやきかけてくる。  
 「べ、べつに遠慮してるわけでは…」  
 「……まだ明日のこと考えてるんだ?  
  じゃあ、そんなこと忘れるくらいめちゃくちゃにしてあげよっかな…」  
 また耳に息を吹きかけられ、軽く噛まれる。  
 それに思わず体が反応してしまう。  
 「耳、弱いんだね」  
 「よ、弱いとかじゃなくて、髪の毛当たってくすぐったいんだよ」  
 智子が「そっか」と呟きながら、体を起こし、両手で髪をかき上げる。  
 「なんか私も汗かいてきちゃった…」  
   
 彼女の舌がまた、俺の首筋に降りてくる。  
 そのまま鎖骨の辺りまで、ゆっくり舌を這わせては、俺の反応を楽しんでいるようだった。  
 「ここからは、パジャマ着てるので通過しまーす」  
 ここまで来て一旦顔を上げると、また俺の腰の辺りに顔を移し、今度は根元まで深く咥え込んできた。  
 わざとらしくチュパチュパと音を立てられ、自然と体が強張ってくる。  
 しばらくされるがままに寝そべっていると、智子が口を離して、顔を覗き込んできた。  
 「このまま口に出したい?」  
 「い、いや、結構不味いらしいから止したほうが…」  
 俺の戸惑っている顔を見ながら、智子が笑みを浮かべる。  
 「じゃあ、私の顔にかけたいのかな?」  
 そんなことやったことも、やらせろって言ったこともないんだけど…。  
 「そ、それも後で洗うの大変だろうから止めた方がいいかと……」  
 「フフ…、その戸惑ってる顔、カワイイ……」  
 彼女の為を思って結構真面目に言ったつもりなのに、また笑われて頭を撫でられた。  
 「それはやっぱり、私の中に入りたいってことだよね?」  
 そのまま智子に頬の辺りも優しく撫でられ、何も反応できない。  
 
 両手をタオルで縛られて、下半身だけ裸で、ベットの上に横たわる。  
 マヌケな格好すぎて他の人には見せられない。  
 「正直に言ってごらん。 私の中でイキたいんだよね?」  
 「あ、いや…、その……」  
 この前は真逆の立場でこれと同じようなことを智子に言わせてたっけ。  
 泣きそうな顔で困ってるのが面白くてつい調子にのっちゃたけど  
 かなり恥ずかしいなこれ…、反省しよう……。  
 「ほら、我慢しないで言ってごらん。 早く中に入りたいですって…」  
 また頬を摘まれて、軽く引っ張ってイタズラされてる。  
 「は、はやふらかにはいりたいでふ……」  
 ようやく頬を摘んでいた手を離した智子が、その指で髪の毛を耳の後ろへかきあげる。  
   
 「よく出来ました。 じゃあ今から入れてあげるから、動かないでね…」  
 智子が仰向けの俺の上に、そっと自分の腰を落とす。  
 彼女の中に深く突き刺さっていく感触。  
 中は既に思いのほか濡れていて、まとわりつくように締め付けてくる。  
 智子は全てすっぽり飲み込むまで腰を下ろした後、俺の胸に両手をついてじっとしている。  
 もうこっちは焦らされっぱなしでいつでもイキそうだ。  
 「か、勝手に動いちゃダメだからね!」  
 「うん、わかったから早くしてよ」  
 彼女の悶えるような表情が目に入り、少し意地悪く催促する。  
 「早くしてくんないと萎えちゃうだろ?」  
 ここまでされたらそう簡単には萎えたりはしないけど、さっきのお返しとばかりに言葉をかけ続ける。  
 それに対して智子が顔を伏せながらパジャマの襟の辺りをギュッと握り締めてくる。  
   
 智子がようやく腰を上下に動かし始めた。  
 だけどちょっとゆっくりすぎて物足りない。  
 じれったくなって、智子が腰を落とすタイミングに合わせてこちらから突き上げるように腰を浮かせる。  
 「ああっ!!」  
 軽く喘ぎ声をあげた彼女に、また苦しいくらいパジャマの襟元を掴まれてしまう。  
 「こらぁ、勝手に動いちゃダメって言ったでしょ…」  
 「い、いや手伝ってやろうと思っただけだよ」  
 「もう、また私が先にイッちゃうじゃない……」  
 「それになにか問題でも…?」  
 それを聞いた智子が、俺の胸を軽く叩いてくる。  
 「だ、だって、退屈な女だって……思われたくないもん…」  
 「退屈な女?」  
 さらに智子が、恥ずかしそうにしながら続ける。  
 「だってさ、この頃いっつもさっさと寝ちゃうし…。  
  私ってされるがままだったから、退屈な女だと思われてると思って……。  
  もう私に飽きちゃって、捨てられるんじゃないかと……」  
 明らかに変な誤解されてる。  
 というか、結構ひどい自己嫌悪だな……。  
 あの変な態度はこのせいだったのかと思うと、爆笑して転げまわりそうになる。  
 
 「黙ってないでなんかしゃべってよぉ……」  
 真っ暗な部屋でも彼女の顔色や気持ちがわかる。  
 思わず、智子を抱きしめてあげたくなるけど、この手じゃ無理。  
 「アホか!? そんな軽い気持ちで結婚なんかしないっての!  
  どうせ俺たちこれから死ぬまでずっと一緒で、  
  その間何百回もやるんだから、一週間ご無沙汰になったくらいで騒ぐなって…。  
  それに毎日寄り道しないで帰ってくるし、休みの日はいつも一緒にいるだろ?  
  ちゃんとおまえのこと大切にしてるって」  
 それを聞いても、智子は黙ったまま俯いている。  
 何考えてるんだかと呆れる一方で、こっちまで不安になってくる。  
 
 だけど、突然智子が満面の笑顔で、俺の鼻の頭に口づけをしてきた。  
 「よかった。 じゃ続きやろっか?  
  今から寝たら寝坊しちゃうから、朝までやろうね―――」  
 
 
 
 
 「―――やべ、変な属性に目覚めそうだ……」  
 まもなく6時を指す時計と、赤くなった手首を交互に見ながら、  
 自分の中で新たな性癖が開拓されそうなのに、身震いする。  
 タバコに火を点けてひと吸いだけして、灰皿の上に放置し、立ち昇る煙だけ眺める。  
 一応1時間くらいは寝たみたいだ。  
 「あなた、起きた? コーヒー入ったわよ」  
 寝室のドアが開き、さっきまで一緒のベットに入っていたはずの智子が起しに来てくれた。  
 
 頭から冷水のシャワーを浴びて、熱めのコーヒーを口に含むと  
 頭は働かないまでも、眠くはなくなってきた。  
 「ごめんね、朝簡単なのでいい?」  
 智子が一言断り、俺の前にトーストと目玉焼きを並べる。  
 これから他人と同じ一日を送るのかと思うと疲れがどっと出てくる。  
 「でも、お弁当は豪華にするからね!」  
   
 さっき鏡を見たとき、俺の目元にはクマが浮き出てたけど智子はいつもと同じ笑顔。  
 ノーメイクの素肌が意外とキレイだと改めて気づき、またドキッとしてしまう。  
 「…おまえ、元気だな……」  
 トーストの耳をもさもさとかじりながら呟く。  
 「そんなことないよ、風邪とか普通にひくし…」  
 「ハハ……、相変わらずだな…」  
 イッた回数だけで言えば、智子の方が多いはずなのに。  
 そんなことを考えながら、カレンダーに目をやる。  
 まだ火曜日かと思うと、つい溜め息が漏れる。  
   
 
 玄関先でいつものように弁当とゴミ袋を渡される。  
 腕時計に目を落とすと、7時ちょうど。  
 どうやら遅刻はしないで済みそうだった。  
 いきなり智子が両手を俺の襟元に近づけてくる。  
 思わず後ずさりして身構えてしまう。  
 「なによぉ、ネクタイ直してあげるだけだってば…」  
 「こ、こんぐらい自分でできるからいいって」  
 「ハイハイ、外ではシャキっとね!  
  今夜も早く帰ってきてね!」  
   
 ボーっとしながら駅までの道を独り歩く。  
 彼女の最後の一言の意味を考えながら――――  
   
 
 

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