「……。少しは僕に話かけてくれてもいいんじゃないんですか?」  
「………。」  
 
晴子は俯いたまま沈黙を破らない。軽く唇をかんで無言の抗議を相手に投げつける。  
 
「僕は貴女の伴侶となる男なのだから。」  
(なんと図々しいことを。)  
 
そう、目の前にいるやたらくつろいだ表情で悠然とかまえてる男ははれて彼女の夫となったはずだった。  
しかし先例を辿る長い婚礼の儀式の後、やっと静寂な密室で二人きりとなったはずなのに互いの距離は実在のより遠すぎた。  
部屋には燭台が一つ所在なさげに置かれており薄暗い。  
そして障子ごしの闇夜で主張し続ける月光が今日の晴子にはいつもより明るく見えた。  
対峙しあってそろそろ半刻。意地で押し黙る春子に辟易してきた男は苛立ちを隠せなくなり、言葉に棘が見え隠れし始めた。  
 
「御自分が不幸だと嘆き悲しんでいるつもりですか?家の為に好意をよせていない僕のもとへ嫁がれたのですからね。」  
(そうです。憂いて当たり前だわ。)  
 
「それとも、僕が貴女方を食い物にしてきた新興財閥の成金野郎だから華族のお嬢様には自尊心を傷つけられるんでしょうか?」  
(何をいまさら。)  
 
男の言った通りだ。晴子の家は徳川時代から続く旧公卿の血筋である名のしれた名門華族だ。  
しかし維新後社会的身分は保証されたものの収入は少なく、更に両親は体裁を保ち続けるために園芸会や衣食住にお金を使い込む。  
晴子の節約も説得もむなしく借金と見栄だけが膨れ上がってしまった。  
 
(この男はそんな私たちの弱味をつけこんで…‥‥。なんて恥知らずなのかしら。)  
 
落ちぶれたといえども身分は身分。  
彼女の血統と肩書きはそれだけで箔がつく。  
この男も父と母と同様、表面上の薄っぺらいものしか見えてないのだ。  
 
「…………。」  
 
晴子には彼らに対して一つのささやかな復讐があった。その切り札が今胸元に押し込められ時期を待ち静かに潜んでいる。  
それは水牛の角でできた小刀で、目の前の男が自分を抱いた時斬りつけてやるために用意したのだ。  
若干罪悪感はあったが利用された事実と比べれば正当化されてもおかしくないと言い聞かせる。  
 
(殺しはしないわ。ただ、飼い猫に噛まれた愚かな船成金という風評をばらまいてやるのです。)  
 
大胆なその作戦を頭の中で反芻している内に自然と肩が強張る。  
自分にそんな大それたことが果たしてできるのだろうか。  
 
「!?」  
 
突然腕を引き寄せられあっと言う間に世界が反転した。彼女は組みしかれ口から生暖かい何かが春子の中を無理やりこじ開け侵入してくる。  
「…っ!?」  
 
男は容赦なく晴子の舌を絡ませてきた。  
大量の唾液が混ざりあって くちゅ、くちゅ と卑猥な音をたてて晴子の口内を濡らし侵す。  
歯茎の裏側を舐められるとむずがゆくてたまらない。  
「んっ…!っ…!!」(気持ち悪い――!!)  
 
晴子は男の舌を噛み千切ってやろうかと思った。  
その侵入者を押し出そうと舌で応戦するが男を興奮させるだけだ。  
自分の今置かれてる状況にようやく気づきあわてて男から離れようとするが、両手はがっちりと掴まれて容易ではない。  
忍ばせた小刀には勿論届くはずもなかった。  
そしてじたばたもがこうと足を動かそうにも幾重に重ねられた着物が拘束し邪魔をするのでよじるのが精一杯だ。  
「…っっ!〜やっ…あんっ!」(――苦しい!)  
 
晴子と同様に男の息の音も激しくなってゆき、その荒々しさに目眩がしそうになる。  
純粋な嫌悪感。  
異性を受け入れる準備ができていない。  
(こ、こんなの予定外だわっ!!)  
 
そして晴子が暴れようとすればするほど抑えつける男の手に力が入る。  
晴子の拒絶反応が男の興奮の着火点になっていることを知る由もない。  
 
「……っ!!はぁっ…はぁっ…。なっ、何を…はぁっ、はぁっ…なさるのですかっ!!」  
 
ようやくいとおしむようにゆっくりと顔だけ離されたが呼吸の音だけがやたら目立つ。  
羞恥心と怒りのあまり晴子の頭は真っ白になり自分の言動がいかにそぐわず場違いであることに気づくはずもなくキッ、と相手を睨みつけた。  
凛とした気丈さは失っていないものの体のあちこちが震えている。  
 
男は少し笑って晴子の耳元でぐんと音域を落とした声で囁く。  
「お戯れを。」  
「ひゃあっ?!」  
 
熱い吐息がかかり首を反射的にすくめた。男はそのまま無言に耳元を甘噛みする。  
「いっ……!!」  
思わずぎゅっと瞼を閉じる。そんな晴子の様子を楽しむかのように男は耳朶を攻め続け、その舌のいやらしい動きから逃れようと顔を背けるものの今度はもう片方を舐めとられるという始末。  
「っああっっ…!…あんっ…やだっっ…!……っ、やめてっ!!」  
(――こんなの嫌っ!)  
 
顔を左右に振り乱して男の容赦ないしつこい舌から逃れようとする。  
長く艶やかな黒髪が畳の上で花開くかのように広がった。  
合間合間にちらりと見える晴子の少し汗ばんだうなじに、振り乱れる髪の毛がかかる。  
男はその溶けてしまいそうな白い柔らかい肌をしゃぶりつくように舐めまわしはじめた。  
べっとりとした感触、男の強引な動き。  
 
「………っつ!!!」  
(不愉快!!不愉快だわっ!!)  
 
男は胸元に手を伸ばそうとする。  
 
(!!もしも私が小刀を所持していたことを知られてしまったら……!!)  
我に帰った晴子は別の恐怖を覚えた。  
できもしないことを企んでた自分の愚かさと男を甘く見ていた無知加減に涙がでてきそうだったが、迷わずあいて自由になった晴子の手は男の頬をピシャリと叩きつける。  
小気味良い音が辺りの空気に響き、ようやく男の動きが止まった。  
「お止めなさいっっ……!!」  
 
自分の声が痛いほどに震えていることがわかった。  
しかし男は表情すら変えない。真っ直ぐ淡々と晴子を見つめる。  
「どうやら貴女は結婚の意味すら分かってないようだね。」  
 
冷徹な声。  
そして春子は男の真意にもまだ気づいていない。ただ荒ぐ息と震える身体を懸命に押し殺そうと必死で、反論したくてもできない。  
例の小刀に手を伸ばす余裕もなかった。  
「僕に話かけてくれるためにはどうやら貴女の体と対話しなくちゃいけないようだ。」  
(――どうしよう。気づかれてしまうわ。)  
 
男の皮肉交じりの発言に冷静さを失った晴子はまるで子供のように暴れ始めた。  
「嫌です、嫌です、嫌ですっっっ!!」  
 
再び捕らえられてしまった憐れな細いたおやかな両手はいうまでもなく、まだ男の支配下に置かれていない両足で蹴りあげようと動かせば動かすほど着物の褄から生足が露呈してしまい逆に襲ってくれといわんばかりの風体を演出させてしまう。  
 
「………晴子さん。」  
 
「やだ、やだ、やだっっっ!!」  
 
有無を言わさず晴子は男の言葉を遮った。  
心なしか男の力が緩んだ気がする。  
それに気づき更に全身をつかって男から逃れようとあがく。  
 
「はあっ、はっ…はあっ、はあっっ!!」  
 
自分を見下ろす男の目、疲弊してゆく体、着崩れてゆく着物、胸元に秘められた刃物。  
状況は全く変わっていない。むしろ悪化している。  
(どうしよう・・・・・。体が痺れて・・・。)  
 
晴子の息が更にあがり体力が消耗しきったところを見計らって、男はまるで蛇のようにねっとりとその陶器のようにやわで白い足をなぞるように、そして秘所へと近づいていく。  
背筋まで這い上がってくる直情的な感覚。  
「・・・・・・いっっ!!」  
 
最後の力を振り絞って彼女は無礼な男の頬を叩こうとしたが逆にはたかれてしまう。  
「・・・・・・はあっ、・・・・はぁっ・・・。」  
 
欲情に駆られて充血した目と視線が合う。晴子の心拍数は跳ね上がった。  
本能的な恐怖を悟り、晴子は自分の胸元に手を伸ばそうとしたがだるく痺れてもう動かせなかった。  
 
「そろそろ疲れてきましたか。…では本題にうつりましょう。」  
 
(なんて卑怯な人なの?!弱らせてから喰らう捕食者・・・・・・。)  
 
男の節ばった大きな手が胸元へと急ぐ。  
「だっ・・・・駄目ですっ!!!」  
 
静止するわけがなく至極簡単にゆるゆると真っ赤な帯紐を解き、それを晴子の手に鬱血しそうなくらいきつく縛る。  
「痛っ――!!は、放しなさい!!」  
 
男は晴子の胸下にある着物を乱暴にも力任せに引っ張り剥がす。  
幸い小刀は小袿の奥に紛れ男は気づかなかったようだがほっとする間もない。  
はだけて露わになった小ぶりだが形の美しい胸に思わず男は見とれてしまう。十七年間もの間、ひっそりと人目にさらされることなく大切にしまわれていたのだ。  
縛られている自分と見られている自分に晴子は顔を真っ赤にして背けた。  
「美しい。」  
 
(・・・・・屈辱的だわ・・・・。)  
 
そして再び男は彼女を覆った。  
縛られて汗ばんだ腕を先ほどと同じようにべっとりと愛撫をしながら鎖骨のちょうど下あたりを強く吸われる。  
 
「!!!いたいっ!!」  
次々と桃色の花弁が散らばってゆく。  
「痛いですって…!っ!!」  
 
(皮下出血してしまうわ・・・。一体何を考えているの?)  
男は弱弱しい呼吸に連動して上下する胸を掴み揉みしだき始めた。  
ただなされるがままでむにゅむにゅと男の手の中で自在に形を変えられてゆく。  
 
「!!!!」  
そして固くなってきた敏感な先端部分に親指でしごくように刺激を与え始めた。  
我慢できず自分を弄ぶ男の動きに矯声なのか悲鳴なのか分からない声をだしながら身体の芯が疼くような未知の感情に戸惑う。  
「…っああっ、あっ…!……お止めなさいっっ!……んああっ!!!」  
 
「感じてくれているのですね。・・・ほら、立っていますよ。」  
男は晴子の顎を引かせて見せつけた。  
 
(ち、違うわ。こんなの構造上における生理現象よ。)  
晴子はあくまでも否定する。だが下半身がずきずきと騒ぐのを止められない。  
その突出して存在を主張しはじめた乳首を男は口にふくんだ。乳輪辺りを舌がつくかつかないかの微妙な距離で撫でられる。  
「はあっ…っはあん…!」  
 
しばらくして震える吐息に混じり始めた喘ぎ声を確認し男は舌先でゆっくりと焦らすように薄桃色の芽を転がす。  
「あっ…ん…ああん…っ…はあっ、はあっ」  
 
自分でもよく分からないほどの快感に晴子は耐えきれず甘い声が漏れてしまう。下はもうぐちょぐちょに濡れていることが分かり、耐え切れず太ももをこすりあわせてよがった。  
男がわざと卑猥な水音をさせながら強く吸うたび晴子の身体は電流が駆け巡り腰を浮かせた状態で仰け反る。  
「はあっ、はあっ…んんっ…っく」  
 
晴子は目を瞑って声が漏れないように頭の上に押し上げられている腕に唇を抑えつけた。  
かろうじて残る理性があの男に反応してる自分を消そうとする。  
「んんっ・・・うっ・・・・あんんっ・・・」  
 
いつのまにか男の上半身ははだけていて、そこから発せられる獣の匂いが鼻につく。  
背中に手が回りなぜられるが、お互いの汗でべたべたに吸い付く感触が心地よく感じてしまう。  
晴子の股にすでに入りこんでいる男の体を無意識に求めて膝で強く挟み込んだ。動くにつれて中の布が晴子の濡れた一番敏感な部分にあたり反応してしまう。  
(もうやめ・・・・て・・・っ!!お・・・おかしくなりそう!!)  
 
いつのまにか晴子は自身の腕を噛んで耐えていたため、そこから少し血が流れていた。  
それに気づき男は晴子の胸から体を離す。離した瞬間から晴子の乳首へと糸をひいた唾液がねばりとまとわりついた。  
「貴女という人は往生際の悪い。・・・・隠しても無駄なんですよ。」  
 
晴子はどきっとする。小刀のことも自分の今の感情も全部見透かされていたような錯覚がした。  
「遅かれ早かれどの道こうなる。貴女は逃げられないんだ。」  
 
まるで義務づけられた行為かのように淡々と述べた男に不在した感情を改めて気づかされた晴子は全身から生気が抜けたような感覚に支配された。  
男は先ほどの続きをしようとするが晴子の異変に気付き動揺してやめる。  
春子はしくしくと泣き始めたのだった。  
「…っく。…ひっく。…うっ…。」  
 
しゃくりあげる音はあまりにも切なげで男は耐えきれず晴子を解放して身支度をする。傍らでは縛られた腕のままで顔を覆って遠慮なしに泣き続けた。  
それは晴子の男への屈服と深い絶望の意味を示し、彼の良心に入り込むに充分すぎるほどだった。  
「……。興をそがれました。」  
 
男はそう言って晴子を縛るきつくからまった帯紐を解いて、哀れな姿の彼女の上に自分の打掛をかける。  
それは晴子に対する男なりの精一杯の償いだったがおそらく身勝手な振る舞いとしてとらえられただろう。  
 
 
「正二郎様…。」  
罪悪感からか無意識の内に甘えたような声が正二郎の背中越しから聞こえてきたが、構わず障子の戸を強くピシャリと閉めてそのまま床にへたりとしばし座りこんで後悔をした。  
右手にはしっかりと二人きりになってから感じた晴子の挙動不審な振る舞いの原因である小刀を握り締めている。  
実は最初に晴子の胸に触れた瞬間に気づき、最中に晴子自身が傷つかぬようわざとああして情事に紛れて保護しようとしたのだ。  
 
しかし半ばからは晴子に対して思いが止まらなくなったことは否めない。  
そして初めて男の名を呼んでくれた嬉しさよりもひどく殺したいほど憎まれていたことが正二郎の胸を痛めた。  
(あんな小さく可愛らしいお方をそこまで僕は追い詰めていたのか・・・・。)  
 
聡明な彼女のことだ。自分を切りつけることができたとしてもそれは致命傷にはならないことを知っていたはずだ。だとしたら・・・・。  
恐らく自害して果てようとしていたのではないのだろうか。  
今度は正二郎が押し殺した声で泣き始める番だった。  
 
(私…何やってるんだろ。)  
ぽつねんと一人置き去りにされた彼女は汗なのか涙なのか彼の唾液のせいなのか、濡れた体を隠すように乱された着物を胸元にたくしあげる。  
似つかわしくない生なましい帯紐の跡を残したまま白くほっそりした貴族特有の綺麗な手でそっと外に繋がる襖障子を開けた。  
(あの人は確かに私を陥れて無理やり借金の立替として娶ったわ。)  
しかし晴子を無理やり抱こうとしたとき、口づけしたとき、震えていた彼の手を逃さなかった。  
まだ月は明るい。  
その光がやはり今日の春子には明るすぎるように感じる。  
 
(私、どうしてこんなに悲しいんだろう。)  
眩しそうに細めた瞳からは涙がほろほろとこぼれた。  
夜はしかしまだまだ長い。  
 
 

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