さて、嬉し恥ずかし新婚初夜である。  
「さて」なんて切り出したものの、冷静さとは程遠い心境だ。  
先生がシャワー終わるまでに、今夜の流れをシミュレートしておかなければならないのだから。  
何しろ相手は10年も私を待たせたヘタレ眼鏡。リードは期待できない。  
ここは私が頑張らなければ……と思うのだが、  
「……はぁ」  
ひとりで横になるには広すぎるベッドの上で、枕を抱えて溜息を吐く。  
そもそも正座していればいいのか。全裸にシーツ巻きつけてればいいのか。分からない。  
制服を着て待っているという手も考えてみたが、初めなのにさすがにマニアックじゃないかと思って止めておいた。  
倦怠期にやればいいとはマミコのアドバイスだが、先のことを考えている余裕は今の私には無かった。  
交際3カ月の間も私たちは清い関係のままなのだ。もちろん他の相手なんて論外。  
というか、先生は2人の初めてのキスが、私の人生初ちゅーだとは思ってもいないだろう。  
短大に入って頭数合わせの合コンに参加はしたけれど、先生以外の男と付き合ったことは無い。  
念のために言うと、私がもてないわけではない。顔は謙遜しても十人並みであると思っている。  
だいたい『女子大生』なんて肩書きだけで売り手市場なんだから、ちょっと愛想が良くて身嗜みに気をつけていれば、彼氏の1人や2人作るのはそう難しいことではない。実際、告白されたこともある。断ったけど。  
片思いでしかない相手に操を立てた私を褒めてくれるのは、私自身しかいないわけだが、このどうしようもない状況の中で、少しは経験あったほうが良かったかも、と少しだけ悩む。  
初めては全部捧げたいと思う反面、大きな失敗でもして子ども扱いされたら目も当てられない。  
「さすがに向こうも…ってことはないだろうけど、一応いい齢なんだし」  
先生は童貞か否か。さんざんクラス内でネタにされてはいたけれど、真相は定かではない。  
個人的見解としては、キャサリンあたりに押し倒されてるんじゃないかと思う。  
というか、いくら一時とはいえ、あんなフェロモン美女と交際しておいて何事も無かったら逆に心配だ。色々と。  
まさかゲイの隠れ蓑じゃないよな?私との結婚は。―いや大丈夫。大丈夫なはず。確認したことはないが。  
どうして私はこんなことを考えているんだろう。妄想なのに振り回されて馬鹿みたいだ。  
誰かに話したら下らないと一蹴されそうなことを、悶々と考えているうちに寝室の扉が開く音がして、先生がやって来た。  
 
「……先生、似合いませんね」  
ほら、気の利いた言葉を考えつく前に来るから、ついそんなことを言ってしまった。  
先生は私が選んだお揃いのパジャマを着ている。  
世の新婚さんらしいことを少しでもやってみたかったのだが、笑えるくらい似合っていない。歳のせいだろう。  
私の言葉に先生は苦笑して傍まで近づき、「喉乾いているだろう」と飲み物を渡してくれた。  
缶ビールか。せめて私が生まれた年のワインとか。それくらいの演出をして欲しい。  
少女趣味過ぎるかな。どうにもこの手の知識の仕入れどころが偏っているかもしれないと、今更思う。  
しかし緊張で喉がからからだったのは確かだったので、私は素直に受け取ることにした。  
抱えていた枕を間に置いて、二人並んでベッドに腰を降ろす。  
体温が移って皺になった枕を、変に思われないかが心配で、ビールが生ぬるいことにも気づけなかった。  
「…………」  
「…………」  
沈黙が重苦しい。何か言って欲しいのだが、先生も緊張しているのかもしれない。  
やっぱり、私が頑張らなきゃならないと思い、残りのビールを一気に飲み干して、  
「……女房酔わせてどうするつもりですか?」  
つい口走ってしまってから、すぐに後悔した。ベタ過ぎてギャグにしか聞こえないセリフだ。  
緊張しすぎたからって笑いを取ろうとしてどうする私!  
回り始めたアルコールも手伝って、頬が火照るのが分かる。  
空になったはずなのに、両手で握ったビール缶がいやに重くて俯いてしまう。  
いい加減、自分の不甲斐なさに涙が出そうだった。  
いっそ泣いてしまえと思った直後、ふいに空き缶を取り上げられる。  
驚いて顔を上げたところに口付けを落とされた。  
 
触れるだけですぐに離されるだろうと思ったのも束の間、生暖かい感触と共に口の中に苦い味が広がった。  
今の今まで軽いキスしか知らなかった私は、驚いて突き放そうとしたのに、頭の後ろを抱え込まれて逃げられなくなる。  
歯の裏側をなぞられ、舌の先を咬まれた後に吸われる。もがく私を押さえつける腕の力とは逆に、口の動きは優しかった。  
本当はこんなとき、もっとちゃんと答えるつもりだったのに、追いかけられるしかない。  
「……っふ……はっ」  
意識が朦朧としてきた頃に唇を離され、すぐ近くにある顔に心臓が疼いて目が覚めた。何時の間に眼鏡外したんだ、先生。  
「他に何かあるか?」  
「え……」  
それがさっきの問いへの返事だと理解するのに、数秒掛かった。  
質問に質問で答えたらテストは0点でしょう……なんて突っ込んでる場合じゃない。  
これはどういうことだろう。意外に手馴れているじゃないか。照れた様子もない。  
まずい、想定外だ。キャサリンどころの話ではない。  
自分がどうにかすることばかりで、された場合の対処方法を考えていなかった。  
いったいどこの女を相手にしてきたのか、問い詰めたいとも思ったが、だんだん思考が鈍くなってくる。  
いつのまにかベッドに押し倒され、見上げた先の先生が微笑んでいる。  
――初めてこの人の、意地の悪い表情を見た気がした。  
 
終  
 
 
 
腕の中から聞こえてくる微かな寝息に、彼は目を開いた。  
ずいぶんと「先生」の顔を信用しているらしい新妻の寝顔を見下ろし、そっと頬を撫でる。  
扉越しに伝わってくる彼女の緊張感が面白く、ビールが温くなるのも忘れてしばらく焦らしていたこともばれていないようだった。  
これからはたとえ、彼女の知らない自分の姿を知られても簡単には逃げられないだろう。  
新生活を想像して楽しげに小さく笑うと、彼もようやく眠りについた。  
 

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