「お、なんかイイ匂い」
なにやってんだよ。気持ち悪いな。
「お前の髪、すげえ良い匂いする。整髪料か?コレ」
ちがうちがう。
シャンプーが切れたんだよ。奥さんの使ったんだ。
「ひっ、氷室さんのっ!?」
あぁ。なんだっけ、ハー●ルエッセンス?とかいうやつ。
「…ハァ、ハァ」
…ん?
「ってコトは、氷室さんのあの美しい髪と、同じ香りっ…!すれちがう度にフワリと香る、あの…!!」
おい、田中。人の女房で不埒な妄想してんじゃねーぞ。
「るせぇ!お前は毎晩チチクリあってイイ思いしてんだろ!氷室さんはなぁっ、美しく仕事一直線で、他の女みたいに金持ちの男にも振り向かず…っ、謂わば非モテ独身男達の最後のオアシスだったんだ!そっ、それを…お前はぁ!!」
声デカイ。見ろ、新人がビビってるぞ。
「…付き合って、半年でゴールインなんて…!」
聞いてないし。
…確かに。結婚の旨を周囲に明かしたとき、俺は社内の男どもの有り難い『制裁』を受けた。
正直、よく生きて帰れたと思う。今でも武藤みたいな奴からはチクチク嫌味を言われるし。
ま、鏡子さんが全部やり返すけど。
「分かるのかよォ、グズッ…お前にっ、新妻モノのAVを会社帰りに借りて、店員の女に白い目で見られる気持ちがぁっ…」
分からん。というか、マジ泣きはやめろ。
「『おかえりなさい。お風呂?ご飯?そ・れ・と・も…』とか言って裸エプロンで迫る新妻萌え…!」
もう何言ってんだ、お前は。
でも、…裸エプロンか。
「氷室さんはしないのか?してるとか抜かしたらお前を殺すけどな」
…しねーよ。想像したことも無かった。
でも考えてみりゃ、新婚生活における最大の夢(?)じゃないか!
「してほしーんだろ?ケッ、このムッツリ野郎」
そろそろしばくぞ。
…しかし、イメージ云々は別として、本音を言えば…。
―して欲しい、かな。
つい、こぼれた一言。
俺は気付かなかった。
このアホらしい会話を、通りかかった鏡子さんが…陰で一部始終聞いていたことに…。
ーーーーーーーーー 本編に続く