暖冬とは云うものの、一月の寒さは優しいものではない。
窓の外は鉛色の曇天。ぱらぱらと、雨が降り出している。
氷のように、冷たい雨。
マンションの一室の仕事場で、冬目景はソファに寝転がり、
見るともなしに窓の外を見ていた。
雨、冷たい雨。
描けない。漫画が描けない。
さきほど飲んだ1.0mgのエチゾラムも、果てしなく落ち込む気分を救ってはくれない。
私が。
私が生きている価値は、どこにある?
大学を卒業して飛び込んだ漫画の世界。
それしか無かった。
私を生かす道は、それしか。
しかしその道で、今、私は。
果てなく落ち込み続ける気分を紛らわすのは、いつも、万年筆の柄で自らを慰めることだった。
景は、自分の作品を取り上げたスレッドを時おり見ている。
そこで自分が、あろうことか萌えられていることも、知っている。
景が脳裏に浮かべるのは、遅筆ぶりを罵倒されながら、ファンの男たちに陵辱の限りを尽くされる……自虐的な妄想。
罵られ、嬲られ、若い男たちに荒々しく犯され。
何度も屈辱的に絶頂を迎えさせられ。
その様子を写真に撮られ、動画に撮られ、それを脅しのネタに、次もまた呼び出される。
なんて、なんて、なんて陳腐な妄想だろう。
才能が無い、私には才能が無い。妄想する能力すら。
自虐と興奮の渦の中、景の体は少しずつ昂ぶってゆく。
だらしなく涎が垂れる。
声が漏れる。
誰か、本当にこの場面を目撃してくれたらいいのに。
そんな思いも、洪水のような快楽に押し流される。
そして幾度も、絶頂を。
しばらくして、シャワーを浴びる景の姿。
……これで、また、少し描ける。
景はこのようにして、危ういラインで創作意欲を保つ。
これが、彼女の方法。