「ね、姉ちゃん!!」  
 
今こそ…  
今こそ!  
想いを伝える時だ!  
 
 心の中で一大決心をした彼の名はヒロシ、一人の姉を持つ平凡な男子校生である。  
 姉の名はヒロミ、ヒロシの実の姉で、おっとりとした性格の女子高生である。  
 
 弟は姉に恋をしてしまった。  
 
何故なのか?  
 その理由は『最も長い時間を一緒にいるから』ただ、それだけである。  
 他の姉弟は彼等とは違うかもしれない。だが、彼等は想い想われる関係になってしまったのだ。  
 
 当初、ヒロシはその禁忌といえる感情を否定し、必死に心の奥に封じ込めた。  
 だが、姉が自分の世話を焼いてくれるたびに  
制服姿で一緒に下校するたびに  
エプロン姿で台所に立つたびに  
着替えを偶然覗いてしまった時に  
姉への想いが身体中を駆け巡ってしまうのであった。  
 
 そして、ある一夜の出来事が弟の心を強く揺り動かす。  
 
 
「ン、んふっ!あぁっ!んんっ!」  
「ん?」  
「ンッ!あふっ!あふぁ…あっ…あぁ…」  
「姉ちゃん…か?」  
 
 某日深夜、ヒロシがトイレに起きた時だった。  
 姉を起こさない様にと静かに部屋に戻るヒロシの耳に、姉の部屋からくぐもった異様な声が聞こえてきた。  
 
 ソロリソロリと姉の部屋に近付く。  
 ヒロシの理性が姉の部屋を覗く行為を糾弾したが、姉への想いと好奇心、そして、少しの予感が理性をねじ伏せた。  
 
 風通しを良くする為か、少しだけ開かれたドアから明かりの点いた姉の部屋を覗き見る。  
 そこでは姉が大きめの白いYシャツ一枚の姿で自慰行為にふけっていた。  
 一度、達した後なのか姉は汗だくで、前髪が額に張り付き、汗で胸部が透けている。左手は喘ぎ声を最小限に押さえようと口に当てている。  
 
「あふっ!!んふっ!あぁぁぁ…」  
 
 ヒロシは初めて見た姉の痴態に衝撃を受けながらも、かつてない興奮にかられていた。  
 しばらくは瞬きもせず、姉の行為を凝視していたヒロシだったが、いつの間にか自らのモノに手を伸ばしてしまっていた。  
 
「あああっ!!」  
 
 より一層声が大きくなった。口を押さえていた左手を外し、左胸をいじり始めている。白いYシャツから形の良い胸がこぼれ、更に色っぽく乱れた姉の姿にヒロシは更に興奮した。  
 
「あぁっ!ま、またイキそう…んあっ!!」  
 
 姉はより深く右手の指を秘所に出し入れ、動きを激しくした。絶頂を迎える前により強い快楽を得ようと必死になっている。  
 ヒロシも、自分のモノを握る手の動きを早めていた。  
 
「ヒ…シぃ…イクッ!イッちゃうよぉ!!」  
「うっ…」  
 姉弟はドア一枚を隔てて、同時に絶頂を迎えた。  
 
 姉が何かを言ったようだが、絶頂を迎えたヒロシには聞こえはしなかった。  
 汗びっしょりのYシャツをはだけさせ、ビクビクと軽い痙攣をしながら絶頂の余韻を楽しんでいる姉を見ていたかった。が、性欲を吐き出した為か、ヒロシは理性を取り戻し、静かに部屋に戻っていった。  
 
 ヒロシは部屋に戻るなり、ベッドに突っ伏した。  
 家族でしかないと思い込もうとした姉に対する性欲の高ぶりは何とも言えない感情となって心に渦巻いていき、ヒロシは姉への想いを改めて確信し、肯定した。  
 
「眠れねぇよ…姉ちゃん」  
 
 
ここで話は冒頭に戻る―  
 
 あの夜から数日後の日曜の夕方の事、夕日に照らされた庭で、姉は午前に干した洗濯物を取り込み、ヒロシは縁側で取り込まれた洗濯物を畳んでいる。  
 ベッドのシーツの洗濯バサミを外すエプロン姿のヒロミは、背を向けながら弟の呼び掛けに答えた。「ん〜?なあに?」  
 
「ね、姉ちゃんって、き、気になる人とかいるのかい?」  
 どもってしまうのは仕方ないだろう、ヒロシは実の姉に想いを伝えようとしているのだから。  
 
「何よ、突然!?」  
 驚きの声が上がったが、少し思考した後、  
 
「ん〜それは〜ひ・み・つ・よ〜うふふ」  
 微笑みつつ、こちらを振り返りながら姉はそう言った。  
 悪戯っぽいこの微笑みは、ヒロシの心にある、禁忌の恋への罪悪感やためらいをかき消した。  
 
「そ、そうなんだ〜」  
 再び背を向けた姉にそう言いながら、ヒロシは立ち上がり姉に近付いていった。  
 
「最近なんかおかしいわね〜大丈夫?」  
 ヒロシはその質問に答えず、大声で叫んでいた。  
「ヒロミ姉ちゃん!!」  
 
「は、はいっ!!」  
 すぐ近くで聞こえた大声に姉は反射的に直立不動の体勢になってしまう。  
 
「姉ちゃん、大声出してゴメン、こんな事言ってゴメン、でも耐えられないんだ!」  
 姉はヒロシの真剣な様子を察し、黙って耳を傾けていた。そして、ヒロシは想いを告げる。  
 
「ヒロミさん!好きだ!姉としても女性としても好きだ!大好きだっ!!」  
 
 しばしの静寂が場を支配する。  
 
 その静寂を破ったのは姉の笑い声だった。  
 姉は夕日を眩しそうに眺めながら声を出して少し笑った。  
「アハハッ」  
「ね、姉ちゃん?」  
 
 とまどうヒロシをよそに、姉は先程と一緒の微笑みを携えながらゆっくりとこちらを振り向いた。  
 
「私はね…私もね…」  
 
 夕日が眩しくて見えずらかったが、姉の目は少しだけ潤んでいたようだった。  
 
 
おしまい  

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