零れる吐息が、次第に乱れていく。  
 胸がどきどきして、苦しくて、切ない。  
 それでも――止まらない。止められない。  
 もう我慢できないほど切ないのに、今すぐにでも求めて欲しいのに……  
 貴女はどうして、私を抱いてくれないのですか?  
 
 
 
 ―Remain―  
 
 
 
「発情期、というやつなのかしら」  
「え?」  
 主の口から突然発せられた言葉に、上条 静流(かみじょう しずる)はどきりとした。  
 静流の一日は主の髪梳きから始まる。メイドである彼女の仕事は色々あるのだけど、  
主なものといったら主である少女、香具山 澪(かぐやま みお)の世話をすることだ。  
彼女は決まって朝食の前にその長い髪を整えることを望むため、これは毎日の日課とな  
っている。  
 しかし、今日の澪は何やら不機嫌な様子だった。メイドの些細な動揺にも気付いた様  
子を見せず、頬杖をついたまま面白くなさそうに続ける。  
「猫よ、猫。どこかで盛っていたのかしらね、にゃぁにゃぁ鳴いてうるさいったらなか  
ったわ。おかげでちっとも眠れなかったもの」  
「……あぁ。猫、ですか」  
 ほんの少しの安堵を感じながら、そこで静流は、おや、と思った。昨日の夜、そんな  
声が聞こえただろうか。  
「おかしいですね。私には聞こえませんでしたが」  
「貴女がそんな時間に寝ていたはずはないわよね。何をしていたの?」  
「……業務日誌を、書いていたと思いますが」  
 ふぅん、と澪は鼻を鳴らす。後ろに立っている為に表情は見えなかったが、その表情  
に変化はなかったはずだ。  
「どうせ誰も読まないのに。ご苦労なことね」  
「いえ、習慣ですから」  
「そう。……静流?」  
「何でしょう、お嬢様」  
「手、止まってるわよ」  
 言われて初めて気付き、静流は「も、申し訳ありません……」と櫛を動かす。しっか  
り者の静流にしては珍しい。  
 気を取り直して澪の髪を取る。腰まで垂らされた銀髪は全く癖が無く、櫛は止まるこ  
となく彼女の髪を梳かしていく。その度にほのかに甘い香りが漂ってくるような気さえ 
した。  
 静流は思う。澪は美しい。恐らくは、この世界の誰よりも。  
 少女と女性の合間にあるそのどこか危ういような美しさも、冷たい眼光をたたえた瞳  
も、その些細な仕草でさえも、見るものを魅了してやまない。まるで誘蛾灯のように人  
を惹きつけ、虜にしてしまう。  
 仮にも契りを結び、その御腕に頬を撫でられた者ならば、尚更……  
 
「――にもいたようね」  
「え?」  
 不意に声がかかり、静流は我に返る。全然気付かなかった。澪は今、何と言ったの  
だろう。  
「……もういいわ静流。貴女ってば全然人の話聞いてないし」  
 美しい銀髪を弄びながら、澪が不機嫌そうに言う。……あくまで不機嫌そう、なので  
あって実際に不機嫌な訳ではないのだが、そんなことは静流には分からない。  
「所詮、私の話など聞くに値しないということね。悲しいわ」  
「そ、そんなこと……っ!!」  
「ふふっ」  
 慌てる静流を見て溜飲が下がったのか、澪の顔に小さな笑みが浮かぶ。  
「冗談よ。けれどもそうね……貴女、最近呆っとしすぎよ。一体そんなにいつも、何を  
考えているの?」  
 かたん、という音がした。  
 それが澪が椅子から立ち上がった音だということに気付くよりも早く、澪の両手が静  
流の頬に伸ばされる。ひやり、と少し冷たい感触。半瞬遅れてそこからじわりと広がっ  
ていく、ほのかな熱。  
「貴女の心を捉えて離さないものは何?知りたいわ……」  
「お、お嬢様……」  
 静流の胸の辺りに澪の頭がある。妖しげに笑い、見上げる澪。たじろぐように見下ろ  
す静流。ふっと吹きかけられる甘い吐息が静流の肌を撫で、桜色に染め上げていく。  
「……ねぇ、静流?」  
 頬から、首筋へ。首筋から、胸元へ。  
 ただなぞるだけの澪の指は、静流が淫らになるスイッチを的確に押していくようで。  
彼女はその衝動を、どうしても抑えることができない。  
 ――それは……それは……っ  
「お嬢、様……」  
 静流は知らずに、その細い澪の体を……  
「……ふふっ」  
 抱きしめようとした。その腕を、すり抜けていった。  
「ダメよ、静流」  
「え……?」  
 おあずけをくらった仔犬のような―実際、状況としてそう間違っている訳ではない―  
顔をして、静流はふぬけた声を出す。  
 その彼女の様子に気付いているだろうに、澪はあくまでも無邪気な笑顔で微笑んだ。  
「だって、ほら。昨夜はとても暑かったでしょう?静流を汗臭くする訳にはいかないわ。 
湯浴みをしてくるから、しばらく待っていなさい」  
「そ、そんな……」  
 澪の体臭はどちらかといえば甘いような香りで、彼女の言うような汗臭さは感じない。  
けれどもそのことについて不平を言おうとした彼女の前で、澪は有無を言わさずにシル  
クのネグリジェを脱いだ。  
 白磁のような肌が外気にさらされる。大きくない両胸につんと自己主張をしている桜色  
の蕾も、毛の一本すらも生えていない秘所も子供そのものである。しかしその裸身は、  
どこか冷たさをまとった彫刻のように美しい。  
 その神々しさすら感じる彼女の裸身に、静流は二句を続けることができない。  
「――それ。不潔だから、もう洗ってしまっても構わないわ」  
 見とれている静流の頬にもう一度手を触れ、澪は囁いた。  
「おあずけよ、静流。貴女は優秀なメイドだもの……このくらい我慢できるわよね?」  
「……はい」  
「……いい子」  
 ちゅ、と頬にキスを一つ残して彼女は踵を返した。さらりと銀色の髪が翻る。  
「あぁ、そう。貴女にわざわざ言うまでも無いことだとは思うけれども。……私の命令は絶  
対よ?おあずけと言った以上、私が湯浴みをしている間、絶対に自分を慰めてはダメ。も  
し破ったら――」  
 女神の微笑みは、あくまで神々しく、慈愛に満ちたように……  
「――お仕置きよ」  
 
 
 澪は行ってしまった。後に静流だけを残して。  
「お嬢様……」  
 静流は泣きそうな顔をしてきゅっと腕を握った。ゴシックタイプのメイド服が、かさりと  
音を立てる。  
 澪が触れていった場所はどこもかしこも火照っていて、熱くてたまらない。特に女陰  
はしとどに濡れて、静流のショーツをぐしょぐしょにしてしまっている……  
「……っ」  
 ダメだ。  
 静流が最後に澪に抱かれてから、もう一週間になる。それからというもの、このような  
疼きには何度と無く襲われてきた。その度に、耐えてきた。  
 今だって、耐えなければならない。  
 自分は香具山澪に仕えるメイドなのだ。その澪の命令なら、従わなければ。  
「もう少し、お嬢様が帰ってくるまでの辛抱だから……」  
 そう自分に言い聞かせて静流は息をついた。澪の湯浴みは長い。その間、何かをして  
気を紛らわしておいたほうが良さそうだ。  
 洗濯でもしようか、と思う。汚れ物はそう多くないし、てきぱきとやってしまえば早く終わ  
るはずだ。  
 そう思い、彼女は澪のネグリジェを拾い上げようと腰をかがめる。指先が触れた。……  
少し温かくて湿っぽい。澪の存在の残滓が、まだ残っている。  
「ぁ……」  
 とくん、と心臓が高鳴るのを感じる。澪がつい先ほどまで着ていたネグリジェ。澪の匂い  
の染み付いた、澪の――  
 気づいたときには静流はそのネグリジェを手繰り寄せ、抱きしめていた。そのままぺたん  
と腰を下ろす。フローリングの床は固くて、冷たい。  
 何だか空しくなってくる。自分だけが焦らされて、本気になって……しかし結局のところ、  
澪は自分のことをどう思っているのだろう。ただのメイドだろうか、それとも遊び相手?  
 一週間。7日、148時間、8880分。澪に抱かれなかった時間はそのまま疑念と切なさ  
になり、静流の上に降り積もる。  
「お嬢、様……」  
 意図してのことではなかった。  
 けれども彼女は無意識のうちに下を向き、そっとネグリジェの匂いをかいでいた。鼻腔を  
くすぐるのは汗の匂い。澪の、匂い。  
「んぅ……っ」  
 めまいにも似たくらくらとした感覚が、静流の脳髄を犯していく。空いている右手が何か  
を求めるかのようにメイド服の胸の膨らみに伸びた。一般的な女性の平均を大きく超えた  
胸の頂にある乳首はすでに痛いほどに尖っている。  
 切なさが静流を突き動かしていた。  
 
「んっ……う……くっ」  
 服の上から乳首を弄び、澪のネグリジェを顔に近づけた。 大きな胸は感度が悪いと  
いうが、静流はその例外である。そのはちきれんばかりの胸は撫でさするだけで熱くな  
り、手のひらでこねれば甘美な快楽を静流へと伝えた。次第にその動作は大胆になり、  
乳房をもみしだく手も荒々しくなってくる。  
  けれども、何かが決定的に足りなかった。どれだけ激しく責め立てても、静流の体は  
足りない『何か』を知っている。求めている。  
「ひぁ……ん、あ……ぁっ」  
『……ふぅん、乳首尖らせちゃって。いやらしいわね、静流?』  
 静流の耳元で、澪がそうささやく。  
 勿論そんなものは幻聴だ。澪はここにはいない。  
 だからこれは静流の願望だ。自分の主人に愛撫されたい、自分よりも幼い少女に虐め  
られたいという――  
『こんな小さな女の子に虐められて感じるだなんて、本当に変態だわ』  
 じゅん、と潤む秘所。手は胸からスカートへと滑る。生地の上から押さえると、微かに湿  
った音がした。  
『ほら、もうこんなに濡れてる』  
「ぁっ、ん……ひ……っ!」  
 こんなことはいけない。よりにもよって自分の主人を使って自慰をするなんて、メイドとし  
て失格だ――そう思っても、いやそう思うからこそ、静流の行為は加速していく。スカート  
をまくり、直にショーツに触れる。ぬるついた糸を手繰り寄せながら、しかしこんなものでは  
足りない。  
 瞳が潤んだ。寂しかった。幻想などでは物足りない。しなやかな澪の手で触って、直に言  
葉をかけてほしい。もっと、もっともっともっと――  
「お嬢様……おじょうさまぁぁっ!!」  
 
 
「呼んだかしら? 静流」  
 
 
 後ろから。  
 くすくすと笑う、澪の声がした。  
 
 
「ひッ!?」  
 その瞬間 、静流は弾かれたように顔を上げた。  
 いつの間にそこにいたのか、静流の目の前に澪が立っている。彼女はもう全裸ではなかった。いつものゴシックロリータのドレスを身にまとい、いつものように悠然とたたずんでいる。  
 一方の静流は頭が真っ白になってしまったのか、主人の前だというのにあられもない姿を改めようともしない。その呆けた様子がおかしかったのか、澪は微笑する。  
「そんなに驚かないで頂戴。お嬢様、って呼んだのは貴女でしょう?」  
「あ……」  
 その言葉を聞き、ようやく静流の時間が動き出した。――見られていた、聞かれていた。自分の淫らな姿と、声。  
「ちっ、違うんです、これは……」  
「何が、違うの?」  
 澪は笑いながら静流に覆いかぶさるように腰を屈めた。  
「静流が一人遊びしてたこと? いいえ違わないわよ、だって……」  
 ふに……  
「ひぁっ!?」  
「ほら。痛そうなくらいに勃起しちゃってる」  
 生地越しに静流の胸に触れる。彼女の言葉どおり、つんつんと突付けば確かな弾力が澪の指を押し返した。その度に静流は甘い喘ぎをあげる。  
「ひぅっ……ぉ、お嬢様ぁ……っ!」  
「……だぁめ」  
 指を噛んで喘ぎ声を抑えようとするが、その手は澪の指に絡めとられてしまった。澪は更に体重を前に倒す。静流の首筋にかかる、澪の熱い吐息。  
 澪も明らかに興奮していた。  
「ふふっ、いい匂いだわ。発情しきっちゃって……言いつけ、破っちゃったのね?」  
「ぁ……あぁっ……申し訳、ありま……んんっ!?」  
「……悪い子」  
 ちゅ、と首筋に口付けられ背筋を反り返らせながらも、静流は瞳を潤ませる。その姿はまるで悪さをした子供のようで、いつもの落ち着きなどまったく無い。  
 赤らんでいる首筋に、頬に、澪はついばむようなキスを繰り返す。  
「ふぁ、あ、あぁ……っ!」  
「相変わらず敏感ね。全身性感帯みたいなものかしら……まぁ、私がそう躾けたんだけど。――はむっ」  
「ひんッ!?」  
 静流の耳朶を甘噛みするとぴくんと痙攣する。口をだらしなく半開きにし、荒く呼吸を繰り返す静流の耳を、澪の囁きが甘く揺らす。  
「言いつけを破って、しかもこんなに感じまくっちゃう子には……お仕置きが必要ねぇ?」  
「ぁ――っ」  
「そこに四つん這いになりなさいな、静流」  
 ぴくん、と肩が震えた。  
 
 何をされるのだろうという恐怖があり、お仕置きをされることへの被虐的な悦びがある。どちらが強いのだろう、今の静流にはよく分からない。  
 ただ頭がぼうっとしていて、何も考えられなくて……  
「はい、お嬢様……」  
 選んだ行動はどこまでも命令に従順だった。のろのろとした動きで床に手を着き、尻を澪の方に向ける。  
「まだよ。……自分でスカートまでめくってもらおうかしら。貴女のいやらしい所が見えるまで、ね」  
「は、はい、失礼します……」  
 震える手で、メイド服のスカート部分をたくし上げていく。もう静流の下半身を隠すものは何も無い。  
 ――見られている。むちむちとした尻も、黒のニーソックスまで垂れてしまった愛液も、濡れて張り付いて本来の役目を果たせなくなってしまったショーツも。  
「こ、これで、いいですか……?」  
「えぇ。なかなかいい眺めだわ」   
「そんな、こと……」  
 反駁の声も聞き取れないほど微かだった。  
 両腕の支えを失った上半身は床に体重を任せ、その豊かな乳房を押しつぶす形になっている。両腕はスカートをたくし上げたまま、尻の上にちょこんと乗っている。  
 その姿は見る者の劣情を誘わずにはいられない。澪は微かに笑みを浮かべると、静かにその傍らに腰を下ろした。澪の目の前にちょうど澪の尻たぶが、そしてぐしょぐしょのショーツをまとった秘所がある。  
「あぁ、こんなに濡らしちゃって……自分で弄ってたのね?」  
「は、はい……」  
「……こんな風に?」  
 ぬちゅ……くちゃっ  
「ふぁぁっ!」  
 ショーツ越しに触れられただけで、静流の体は痙攣してしまう。澪はその愛液まみれの指をぺろりと舐めた。  
「これだけ濡れていれば……だいじょうぶかしら、ね?」  
 しゅる、とショーツが膝まで下ろされる。秘所に触れるひんやりとした空気に、静流の胸は否が応にも期待で高鳴ってしまう。  
 ――これからあそこに、お嬢様の指が……  
 静流は生娘ではない。すでに澪に処女を捧げているし、こうやって彼女の指を迎え入れたことも一度や二度ではなかった。  
 それでも、いざその時が来ると期待と不安で胸がいっぱいになって……  
 ……しかしその次の瞬間。静流の期待は見事に裏切られた。  
「え……ぁっ!?」  
 くに、くに……  
 電気が走ったような気がして、静流はぴんと背筋を伸ばした。  
 澪が触れ、愛撫しているのは秘所ではなく菊門――お尻の穴である。夢から覚めた心地だった。主人に不浄の門を触れられるなんて……!  
「そっ、そこ、違いますっ! やぁっ、だめ、きたな……ぁぁんっ!?」  
「静流ったら純情ぶっちゃって、こっちも好きな癖に……ダメとか違うとか、口答えばっかり……」  
 静流の背に、澪の薄い胸板がのしかかる。衣服ごしに感じる澪の乳首は硬く尖り、彼女の下ではしたなく悶えるメイドに主人の興奮を伝える。  
 静流の瞳に涙が浮かぶ。恥ずかしいのか情けないのか、それとももっと単純に……気持ちいいのか。  
 くすりと笑い、澪は意地悪な言葉を続ける。  
「でも……お尻で感じるなんて、静流も相当に変態さんよねぇ?」  
「っ!? ちっ、違いますっ!! 私、そんなんじゃ……っ」  
 そう言って、しかし静流は言葉を途切れさせた。その原因が澪には分かっている。  
 快楽である。澪に言葉でいじめられること――それが静流にとっては、何よりも嬉しいのだ。  
 その証拠に、静流が言葉を囁く度、触れてもいない静流の秘所からじゅくりと愛液が流れてくる。もっと私をいじめて。もっと私に恥ずかしい思いをさせて、と言うかのよ  
うに。  
 だから……その期待に応えるかのように、澪は静流の耳元でそっと囁いた。  
「じゃぁ、やめちゃう?」  
 
「え……っ」  
 思いもよらなかった言葉に唖然とする静流。その顔を見つめながら、あくまで澪は口元に笑みを湛えて。  
「変態さんじゃないのなら、お尻に指なんて入れられても苦しいでしょう。……貴女、嫌って言っていたものね?」  
「あ、……あぅ……」  
 そんなの勿論嘘に決まっている。だって、澪はまだ静流への愛撫を続けているのだ。あくまで決定的な刺激は与えず、じわじわと快楽の炎で焼くような微妙な愛撫。  
 きっと今頃、静流の思考は理性と欲望が激しくせめぎあっていることだろう。静流だ  
 
って勿論快楽に溺れたいに違いない。けれど、そのためには愛する人の目の前で最も羞恥的な告白をしなければならないのだ。  
「……ねぇ?」  
「ひ……ぁ……ぁぁ……っ」  
 静流には澪の笑みが氷のように見えた。自らの自慰、乳首への愛撫……焦らしに焦らされた快感は菊門責めで高まり、今にも暴発しそうなほどになっている。  
 ――でも……でもぉっ!  
 涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔をふるふると力なく振る。自分は香具山澪のメイドだ、はしたないことはできない、決して……  
 しかし彼女の抵抗も空しく、澪の言葉が静流へと放たれた。  
「私、貴女が嫌がることはしたくないわ……」  
 澪は静流に自らその一歩を進ませるべく、微笑と共に手を少し引く……  
「――っ!!」  
 
 そこまでで。  
 きっと、限界だった。  
 
「お、お嬢様ぁっ!」  
 静流が大きな声を上げ、後ろを振り返った。その顔は熱く火照り、そして瞳は淫欲に  
 
熱く潤んでいる。  
 そして彼女は目に涙をため、搾り出すように。  
「や、やめないで……やめちゃ、いやです……」  
「どうして?」  
 あくまでも白々しく澪が聞き返すと、静流の顔はますます紅潮してしまう。その声が  
 
ますますか細くなってしまう。  
「わ、わた……い、さ……」  
「何て言ってるの?小さくて、よく聞こえないわよ?」  
 ――そうして。  
 静流はきゅうっと目を瞑って、大きな声で言った。  
 
「へっ、変態さんっ!! 私、お尻の穴で感じちゃう変態さんなんですっ!!だから私  
 
のお尻の穴もっとほじってっ!!めちゃくちゃにしてください、おじょうさまぁっ!!」  
 
 ……あぁ。  
 澪は自分のショーツが濡れるのを感じていた。自分は間違いなく、恥ずかしいことを叫ぶ静流の姿に興奮している。静流が愛しい、もっともっといじめたい、気持ちよくしたい……そんな感情で、頭の中がいっぱいになってしまう。  
 勿論、澪はその感情に逆らうつもりはなかった。  
「ほじって、なんて……本当にいやらしいのね、静流……いいわ。貴女の願いを叶えてあげる。貴女のいやらしい穴、めちゃくちゃにしてあげる……!」  
 ずにゅ――っ!  
「んはぁぁあぁぁっ!!」  
 そして、澪は思いっきり静流のお尻の穴に二本の指を挿入した。  
 びくん、びくんと震える体。静流の中はまるで待ち構えていたかのように澪の指をきつく掴んで離さない。それでも澪は無理やり動かし、その狭い腸内を掘削していく。  
 ずにゅっ、じゅぶっ、じゅぶっ!!  
「ひぁぁぅっ!!あ、あぁぁっっ!!こ、これっ、良すぎぃっ!!だっ、ダメっ、すぐにイッちゃいますぅっ!!!」  
 焦らしすぎたのか、それともアナルが感じすぎるのか、早くも静流はギブアップの声を上げる。  
 その必死な声でさえ、言いようもない愛しかった。澪は息を荒げながら静流に声をかける。  
「イクの? お尻の穴ほじられてイッちゃうのね? いいわ、見てあげる。貴女のイく所、全部……っ!」  
 その時、弾かれたように静流は澪を見た。背中から澪の重みを、温もりを感じた。見られている。澪も感じている。自分の痴態を見て、感じている……!!  
 それは『恥ずかしいほど感じてしまう』静流にとっては、この上ない媚薬になった。  
「っ!?や、やぁ、今イッちゃ……あ!あぅっ!でもダメ、イッちゃう、イッちゃう、イッちゃうぅぅぅっ!!」  
「あはっ……ほら、イッちゃえ……!!」  
 くにっ――!  
 
「あぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!」  
 
 びゃくん、びゃくん、びゃくん……  
 澪が指を曲げたのと同時に静流は絶頂に達した。先程までのとは比べ物にならないほどの痙攣が静流を襲い、その体を揺らす。  
 凄まじい快楽物質が脳から溢れたようだった。瞬く間に視界が真っ白に染まっていく。意識がその快楽の波に呑まれていく。  
「……可愛かったわよ、静流」   
 その波の中で。  
 澪の声が、聞こえたような気がした。  
 
 
<エピローグ、もしくは蛇足>  
 
「ん……んぅ……」  
 真っ先に感じたのは、頬に当たるさらさらとした感覚。  
 それはとても柔らかく、静流は思わず微笑んでしまう。  
「……る、静流。まったくもう、この子ったら……」  
 耳元で声が聞こえる。耳朶をくすぐる空気は甘く、静流の元へと届いた。  
 甘いというのは比喩ではない。息を吸い込めば微かに香水の香りがする。香水といっても胸焼けするような艶やかな香りではなく、さわやかで優しい香りである。  
 何の香りだろうかと考えるまでも無く、静流はこの香りを知っていた。澪が好んで身に着ける香水の匂い。そう、これは……  
 澪の、香り。  
「ほら……起きなさいな、静流」  
「ぁ……」  
 そこで静流は、ようやくまどろみから覚めた。  
 見上げれば、そこには自分を覗き込んでいる澪の姿がある。それを見て静流はようやく理解した。頬のさらさらした感触は澪のスカートの生地。柔らかいのは澪の太ももの感触。  
 ……自分は今、主である澪にひざまくらをしてもらっているのだということを。  
「お、お嬢様!? その、これは……!?」  
 慌てて立とうとするが足に力が入らない。どうやら腰が抜けてしまっているようだ。  
「え、どうして……」  
「どうしても何も無いわ。あんなに感じていたんだもの、当然でしょう」  
 その言葉に、初めて自分の醜態を思い出した。主人の着衣を使って自慰を行い、そのお仕置きでアナルを責められ、感じまくった挙句……  
 気絶して主人にひざまくらまでさせてしまう、とは。  
「ぁ、ぁ……」  
 顔が赤くなっていくのが分かる。穴があったら入りたい、とはまさにこのことだろう。  
「も、申し訳ございません……」  
 謝って済むことではない。澪の顔がまともに見れなくなって、静流は顔を背けた。  
 いつもこうだ。メイドである本分を忘れて澪を求めた挙句、主人を満足させることもできず一人ではしたなくイッてしまう。  
 澪に拾われてからの七年間というもの、彼女にふさわしいメイドになるべく励んできた。けれども自分は本当は何も成長できていないのかもしれない。  
 それが分かっているからこそ、澪はこの一週間自分を抱いてくれなかったのではないのだろうか。澪はこんな自分を、嫌いになってはしまわないだろうか……  
 そんな嫌なことばかりを、考えてしまう。  
「静流」  
「……はい」  
「貴女、また難しいことばかり考えているわね?」  
 咎めるような声。  
「……」  
 静流は何も答えられない。頭上から「ふぅ」とため息が聞こえた。その息が静流の頬にかかる。  
 ……少し、近い。  
「静流。こっちを向いて」  
 
「はい……え?」  
 顔を上に向けると、目前に髪をかき上げた澪の姿があって……  
「……んっ」  
 戸惑う暇も驚く暇も無い。  
 視界が遮られた、と思うや否や、唇に柔らかくて温かいものが触れる。時間が止まった気がして、そしてきっと確かに上条静流の時間はこの瞬間に止まっていた。  
「――っ!?」  
 息ができなくて、心臓がバクバクして、けれども決して不快ではなくて、むしろ幸せな感じで、これはその、噂には聞くもののついぞ体験したことの無かった……  
「……嫌いな人間に、こんなことするかしら?」  
 少し顔を上げて、澪が呟く。  
 静流は目を見開いた。それはまさしく先ほど自分が考えていたことだ。どうして……  
「分かるわよ。貴女のことなら、何でも。ずっと見てきたんだもの……貴女が私のことを『お姉さま』って呼んでいたときから」  
「……あ」  
 静流の脳裏に、香具山家に拾われた時のことが浮かぶ。雨の中、差し出された手……凍えた体にその指先は何よりも温かくて。  
『貴女に存在意義をあげる。私は貴女を愛してあげる。……だから貴女も、私を愛して頂戴。私に愛を頂戴』  
 その言葉は、まだ小さかった静流には何よりの福音だった。   
「私の姿がいつまで経っても変わらないように、私の気持ちもあの時から何も変わらない。ねぇ、静流。貴女は……」  
 澪の手が静流の額に触れる。唇と違って冷たいその手は、しかし限りない優しさを以って彼女の頭を撫ぜる。  
 それは母親が娘を慈しむ姿に似ていた。貴女は望まれて生まれてきたのだ、と告げるような。  
「貴女は私のメイドであり、姉であり、母であり、娘であり、妹であり、家族であり、恋人」  
 そっと微笑む。静流を責めていたときの氷のような笑みではなく、それすらも溶かしてしまいそうな柔らかい笑みで。  
「貴女は私にとって一番大切な人よ、静流」  
 ――あぁ。  
 その言葉だけで良かった。何のことは無い、求めていた答えは元から持っていたのだ。澪は静流の額に手を当てたまま、静流は澪の柔らかさを感じたまま、ただそんなゆっくりとした時間だけが流れていく。  
 澪はどこまでも優しく、それがとても心地いい。だからこのままでいても良かったのだけど……  
 今ならなんとなく許される気がして、静流は聞いてしまった。  
「……でも、それならどうして一週間も抱いてくれなかったんです?」  
 自然にすねたような声になってしまうのは避けられなかった。抱いてくれたのなら、自分だって不安になったりすることは無かったのに。  
 ……言ってしまってから、すぐにそれは愚問だと気づいた。主人の性格を考えれば明らかである。  
「それは、だって……」  
 澪の笑みが、少し悪戯っぽくなる。  
「虐めている時の静流って本当に可愛いんだもの。七日間は流石に長かったけど、待ってみてよかったわ。次も意地悪しようかって思うくらい」  
 ……あぁ、やっぱり。  
 予想通りの答えに閉口せざるを得ないけれども、不思議と嫌ではない。焦らされて虐められて、悶えても、それでも結局は許し、許されてしまう。  
 だからつい静流は、メイドにあるまじき甘えた声を出してしまった。  
「でも、私は優しいお嬢様の方が好きです……」  
「そう?」  
 窓から漏れた陽光が二人を差す。長く伸びる影の手が動き、再び髪をかき上げる。  
「それじゃぁ早速、静流ご所望の『優しいお嬢様』を実践してみようかしら……」  
 そうして二つの影は、再びゆっくりと重ねられる。  
 
 彼女たちの時間は始まったばかりだ。そしてこれからも何ら変わりなく続いていく。  
 
きっと、ずっと。  
 
 
                      <『Remain』 is closed>  
 
 
remain{自}  
 1.〜のまま残っている  
 2.〜のままである  
 3.〜と共にある  
 

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