「痛っ…!」  
 俺が押し倒したことで妹はフローリングの床に背中を強く打った。  
 妹の眉が痛みで歪む。  
 やった後で気付く「俺はなにをしてるんだ」と、酔いが一気に醒め妹の顔に目をやると、目の端には涙が滲んでいた。血の気が引く。  
「お兄…ちゃん、どうしたの?」  
 目を開けた妹は、心配そうに俺のことを呼ぶ。  
「ごめん、…痛かったか」  
「え…」  
 さっきまであれだけ邪険に扱われ、あまつさえ押し倒されたのに妹は怒るどころか妹は俺の心配をする。  
 それに俺は居た堪れなくなりすぐに立ち上がろうとした。  
「む…お兄ちゃん!」  
「なっ!?」  
 だが、起き上がろうとした途端、俺の頭は妹に掴まれて抱き寄せられた。  
「…ぇ」  
 あまりに唐突なことで俺は少しの間思考がフリーズした。  
 そしてさらにギュっと抱きしめられ顔の両端に柔らかい物があたった。フリーズが解ける。  
 
「お、おい奈津美!? なにやってんだ!」  
「あれじゃあ、さっきとおんなじだよ。抱え込むと解決するまで誰にも話さないのはお兄ちゃんの悪い癖、だからこうやって強引に聞き出さなきゃ」  
「強引にって…これは、む、胸が…!」  
 離れようとジタバタするが腕が完全に俺の頭を掴んで離さない。  
 こうなったら妹の肩を掴んで────  
 ムニュ  
「あれ…?」  
「お兄ちゃん…けっこう大胆だね」  
 ムニュムニュ  
 この柔らかいのは…  
「あ、ああああああっ! いや違うんだよコレはその…」  
「どう? 柔らかかった?」  
「うん、…じゃなくてだな!!」  
「最近またブラがきつくなったんだよね、だから今日はノー…」  
「言うなぁ! てか離せ!」」  
 何言ってんのコイツ、バカじゃねぇの! バッカじゃねぇの!? それかアホだ!  
 兄に何はずかしめも無く爆弾発言してんだよ。いや、らしいといえばらしいんだけど。  
 
「それはダメ」  
 
「はぁ…?」  
 さっきまでふざけていた妹の声が、真剣になった。  
「離す前に、今悩んでること言って?」  
「………」  
 言葉に詰まる。  
 妹と目が合うが、さっきの声と同様に真剣な眼差しで俺の目を見つめる。  
 言いづらい。彼女が外国に行くのが寂しいから自棄酒してたなんて、とてもじゃないが言えない。  
 なにかいい言い訳は無いかと口篭りながら考えていると、それを悟ったように妹が先に口を開いた。  
「…私はさ、お兄ちゃんのこと好きだよ。男の人として大好き…」  
「奈津美…」  
 それは知っている。いつもいつも冗談のように言ってるけど冗談じゃない、妹の本音。  
「でもさ、兄妹としても好きなんだ。だから、今のお兄ちゃんはほっとけない」  
 俺の顔に妹の両手が添えられる。  
「あ…う…」  
 なんでだろう。今だけは妹が姉に思えた。  
 今思えば、俺は妹の好意に気付いた時から妹ととのコミュニケーションを避けていたような気がする。それこそ兄弟としてのソレも。  
 「そんなに言えないこと? お母さんにもお父さんにも言えないことなの?」  
 「そんなことは、ないけど…」  
 「私には?」  
 でも妹は、そんな邪険に扱う俺にめげずに慕ってくれた。  
 やりすぎなことも多々あったけど、今も俺を心配してくれる。  
 
「ごめん…。少しだけこのままでいいか」  
 妹の胸に顔をうずめる。  
「…いいよ。お兄ちゃん」  
 覆うように頭を抱かれて、どれくらいの時間かはわからないけど、妹の温かみを感じた。  
「ん」  
 いい加減離れようと頭を上げると、すぐに妹の腕が離れる。さっきまでとは大違いだ。  
 外は夕暮れ、最後に見たときは朝だったような気がするがきっと気のせいだ。  
「その悩みなんだけどさ、笑うなよ」  
「笑わないよ」  
「絶対だぞ」  
「絶対笑わない」  
「言ったな?」  
「言った」  
「…」  
「んふふ♪」  
 面倒だから割愛するが全部話した。ほんとに全部。  
 彼女の留学とか、そのせいで寂しいとかetc  
 で、その結果が  
「あははは! お兄ちゃんってほんと可愛い〜」  
 コレ。  
 
 最初の口約束なんかどこへやら、妹は俺の目の前で爆笑している。  
「なんだよ、悪いか」  
「そんな寂しがりやなら家に帰って来たらいいじゃん。私は歓迎だよ。大歓迎!」  
「自分から一人暮らしするって言ったのに、今更そんなことできるか」  
 やっぱり言うんじゃ無かったとつくづく思う。後の祭りだけど。  
「お父さんお母さんには私から言っといてあげるからさ、一緒にまた暮らそうよ」  
「できるか。というか時間も遅いしそろそろ帰れ」  
「しかたないなぁ、今日は泊まっていってあげるよ」  
「なんでそうなる」  
 妹の口端が歪む。  
「お兄ちゃん寂しがり屋だし、誰かが傍に居ないと死んじゃうよ?」  
「おまえなぁ…」  
 俺が拒絶してもなんやかんや言って泊まるんだろうな。  
 そう思いつつ俺は無駄な抵抗を続けた。  
 
また来年。  
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル