「武田君誕生日何時なの〜?」  
「8/13です。」  
「家は何処に住んでるの?」  
「三丁目の坂上った所です。」  
「好きな女優さんとかいる?」  
「ごめんなさい、そういうのにあんまり興味ないんです。」  
優祐は周囲の女の子達から繰り出される有像無像の質問に律義に答えていた。  
「武田君、藤崎綾芽ちゃんとはどういう関係かな〜?」  
「藤崎綾芽さんって?」  
「綾ちゃんからすると ゆう君 って呼ぶ位親しかったらしいよ〜。」  
優祐はそれを聞くと少し考え込む。  
「すいません、え〜っと」  
「私は武田鈴菜だよ〜。苗字同じだから、鈴菜でいいよ〜」  
「わかりました。鈴菜さん、その藤崎さんの所に連れてってもらえます?」  
「もちろんだよ〜。あと呼び捨てで良いよ〜。」  
「お願いしますね。」  
優祐は非常に礼儀正しかった。  
完璧に同級生に向かって、ですます調で喋っていた。  
 
「あやちゃん、武田君が喋りたいってさ〜。」  
鈴菜が優祐を綾芽の机の前に立たせる。  
「武田優祐……ゆう君だよね?」  
綾芽は優祐に万感の想いを感じていた。  
「あや……藤崎さん、お久しぶりです。これからよろしくお願いしますね。」  
 
優祐はそう言って頭を下げる。  
その態度は綾芽に冷たさを感じさせた。  
「ゆうすけ?」  
「すいません、ちょっと先生に呼ばれているので。」  
優祐は更にもう一度頭を下げ、教室を出ていく。  
「あ、武田君、職員室まで案内してあげるよ〜。」  
その後ろを鈴菜が追い掛けていく。  
残された綾芽はただ一人呆然としていた。  
「今日は色々と大変だな」  
その綾芽にくっくっくっと笑いながら凜が話し掛ける。  
「しかし私が綾芽から聞いていた限りでは彼があんなに礼儀正しいとは思わなかったんだがな。私が受けたイメージはいつもは悪ガキで悪戯っ子だが、いざという時は凄く優しい子というイメージなんだが。」  
「うん。昔はあんなじゃなかった。あんなの……優祐じゃない。」  
「まあ10年も経てば人も変わる。そう落ち込むな。」  
「そう……だよね。」  
「もしくは単純にもう綾芽が嫌いなのかもしれないね。だから振ろうとしてるのかも。」  
挑発的な口調で綾芽をやゆする。  
「なっ、優祐はそんな子じゃない。」  
綾芽は表情や口調が明らかにムッとしていた。  
「わからないよ。確かめるためにデートにでも誘ってみたらどうだい?嫌なら断られると思うよ。」  
「いいわよ。次の日曜にでもやってやろうじゃない。」  
 
「おぉ〜頑張れ〜。振られても泣くなよ。」  
「誰が泣くか!」  
綾芽は完璧に凜に乗せられていた。  
 
 
「あれ〜何処に行っちゃったのかな〜。」  
優祐を追い掛けていた鈴菜は彼を見失っていた。  
単純に考えれば先生に呼ばれているそうだから、職員室に居るはずなのだ。  
しかし優祐は職員室にはおらず、行方が知れなかった。  
「裏庭にでも迷い込んじゃったかな〜。」  
鈴菜は独りごちて裏庭へと行く。  
 
綾芽達の学校は、都市の中央部からかなり離れた所にある。  
また立地的に丘の上に建っている事もあり見晴らしがよかった。  
また整備された校舎と校庭とは違いほぼ未開の地と言っていい程の裏庭もあり、そちらもかなりの広さを誇っていた。  
 
「あ〜武田君居た〜。何処に行ってたの〜?」  
その裏庭へと続く廊下に優祐が一人立っていた。  
「すいません、迷っちゃいまして。」  
優祐は一瞬驚いた顔をするも、すかさずそれを隠そうとする。  
「ふ〜ん。その手はどうしたの〜?」  
優祐の右手の甲には血が滲んでいた。  
何か固い物を殴った時に出来るような傷だった。  
「あの……え〜っと」  
「武田君、無理して自分を押さえ付けない方が良いよ。」  
 
鈴菜は一瞬だけ真面目な声で優祐を諭す。  
「さっ、先生の所に行こうか〜。」  
しかしすぐに元の柔らかい声に戻る。  
「いや……あの、すいません。」  
「あは〜やっぱり呼ばれてる訳じゃなかったんだね〜。」  
「ごめんなさい。」  
「別に良いよ〜。でもどうしてそんな嘘ついたのかな〜?」  
鈴菜は優しそうに見えて容赦なく優祐を追求していく。  
 
「それは……あの……」  
「言いたくなかったら言わなくてもいいよ〜。」  
「すいません。」  
「も〜、武田君謝り過ぎ〜。しかも謝り方が単調なんだよね〜。」  
「ごめんなさあっ……」  
「あはは〜。ま、言いたくなったら言えば良いさ。それじゃあね〜」  
鈴菜は優祐を教室の前まで連れていくと何処かへ走り去っていった。  
一人残された優祐はその姿を見送った後、とぼとぼと教室に戻って行く。  
 
「優祐、今週の日曜暇?暇なら遊びに行こ、」  
教室に戻った優祐を待っていたのは、肩を怒らした綾芽と綾芽から出された提案だった。  
「日曜ですか?お昼からならなんとかなりますけど、どうかしましたか?」  
優祐は下から綾芽の顔を覗き込む。  
「ベ、別にどうもしてないわよ。」  
綾芽は必死に取り繕おうとするが。  
 
「でもあやちゃん顔赤いよ〜。」  
しかし、いつの間にか戻って来ていた鈴菜が茶々を入れ、  
「そりゃデートのお誘いをしてるんだから赤くなるさ。」  
凜がとどめを刺す。  
「なっ……凜なに言ってんのよ!別にデートなんかじゃなくて、ただ街を案内してあげるだけだからデートなんかじゃ……。」  
元々赤かった顔を更に真っ赤にして釈明という名の墓穴を掘り続ける。  
 
「あやちゃん、墓穴掘ってるってわかってるかな〜?」  
「なっ。」  
慌ただしく動いていた綾芽の動きが止まる。  
「ホントに凄いな。」  
「今どき中々いないよね〜」  
それを見て二人はけらけらと笑っていた。  
「藤崎さん、大丈夫ですよ。誰もそんなこと考えませんから。そもそも僕と藤崎さんじゃ釣り合わなさ過ぎてありえませんよ、デートなんて事は。」  
只独り状況を良く把握していない少年が全くフォローになってないフォローを入れようとする。  
「そうだよね〜。ごめんちょっとお手洗いに行ってくる。」  
綾芽は小走りにトイレへと走っていく。  
 
はぁ  
凜が一際大きなため息をつき優祐に問う。  
「あれだ、君は昔虐待されてたとか、いじめられてた、とかいう体験の持ち主じゃないかな?」  
「え?なんでですか?」  
「いやいや、気を悪くしないでくれよ。君の言動と性格がそういう事をされてしまった人々に酷似してたからさ。」  
「ああ、いいですよそんな事気にしなくても。そうですね、昔捨てられちゃったってのはありますけどそれ以外でそんな経験はありませんね。」  
「そうか、なら良いんだ。でも、それならば尚更自虐的な言葉遣いとその敬語はやめた方がいいぞ。」  
「そうですか?」  
「うむ。」  
「わかりました気をつけます。」  
「授業始まるよ〜。」  
優祐は慌てて自分の席に戻る。  
 
「その言葉は他人も自分も傷つけるだけだからな。」  
最後の凜の呟きは誰にも聞こえていなかった  
 

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