〜粉砕天使ナツメ 第五話 中編〜  
 
唸る大地。裂けるアスファルト。誰もが最初は地震だと思った。  
雛菊市の北口ロータリーから伸びる大通りが、幅数メートルに渡って円形に陥没し、間欠泉のように土煙を吹  
 
き上げている。危うく崩落に巻き込まれかけたタクシー運転手が、転がるように座席から飛び出してきた。  
ある者は悲鳴を上げてしゃがみ込み、ある者は呆然としたまま携帯のカメラをかざし、超常現象にも似たその  
 
模様を眺めている。  
 
ズクン…、ズクン…、ボコボコ…ズクン…。  
 
やがてその大穴からゆっくりと、その“巨大な何か”は姿を現し始めた。まるで積乱雲が発生する映像を高速  
 
再生しているような光景。現実味を欠いた現象に、居合わせた人々は言葉を忘れ息を呑む。  
ガスタンクのように丸々とした、赤黒い、湿った脂身の集合体。膨張する肉の塊は電柱を何本も押し倒し、あ  
 
れよという間に周囲のビルと肩を並べるほどの背丈にまで膨れ上がっていく。  
目も口も鼻もない完熟果実のような体躯から伸びるのは、青黒い血管の浮き出た締め縄ほどの太さもある十数  
 
本の肉の触手。そして、その極太の捕獲器官を囲むように配置された無数の小さな捕獲器官。  
 
「こ、これって…まさか…」  
 
揺れは収まった。おそるおそる、ジリジリと輪を広げ、突如現れたその肉塊から距離を取り始める人々。  
居合わせた市民達はようやく気が付いた。この物体が何なのか。そして…これから何をするつもりなのか。  
 
「まさか…。デスパイ…ア?」  
 
誰かがそう呟いたその瞬間だった。  
 
『ヌゥゥゥウ、バァァァア〜〜〜!!』  
 
雄叫びがビルの硝子窓がビリビリ振動させ…。  
 
「ひっ、きゃぁぁぁあーーー!!」  
 
「やぁぁあーーーッ!!」  
 
二本の触手が交互に風を切り、群衆の中から一人づつ若い女性を掠め捕り、あっと言う間に宙吊りにしてしま  
 
ったのだ。  
 
「うわッ!に、逃げろーーーっ!!」  
 
「いやーッ!早く!早くぅ!!」  
 
グロテスクな威容によって抑え付けられていた恐怖が、限界水量を超えたダムの如く決壊した。  
 
「ひィっ!や、やめ…っ!!」  
 
「助けてぇ!たっ、たす――――…いやあーーーッ!!」  
 
荒れ狂う人の波。大通りを我先にと逃げ惑う人々。  
そんな彼らの頭上で、触手に捕まった二人は早くもその躰を触手によってまさぐられ始める。  
 
『さァて、選り取り見取りだこと。ウフフ…ッ。目移りしちゃうわ』  
 
ブツっという音と共にホットパンツの留め金具が外され、その下に隠れていたショーツが丸出しになる。隣で  
 
は、もう片方の女性がスカートの中から、ローライズのパンティを引きずり下ろされていた。  
薄手の夏着は容易に触手の侵入を許し、たわわに実ったふたつの果実はドロドロのペッティングで汚されてゆ  
 
く。  
怒張したイチモツで秘部をなぞられ、死に物狂いで身を捩る犠牲者たち。白昼の市街地のド真ん中で、身も心  
 
も破壊し尽くす公開陵辱の幕が上がった。  
 
『まだまだ可愛い子が一杯いるじゃない。恥ずかしがらずにこっちにいらっしゃい。それっ』  
 
ビュンと、別の肉縄が空を走る。  
 
「きゃっ、きゃあぁぁぁぁぁあッ!!」  
 
「恭子っ!?」  
 
第二陣の触手が人混みから引っこ抜いたのは、ボーイフレンドに腕を引かれ逃げていた少女。  
振り返った青年が恋人の名を呼んだ時、彼女の身は既に信号機よりも高い位置に持ち上げられ、懸命に閉じよ  
 
うとする脚を力ずくで開かされているところだった。  
 
「嫌あああ!厚志、厚志ィーーー!!」  
 
「畜生っ!恭子!恭子ォ!!」  
 
もがく恭子のスカートの中に次々と肉欲の化身が潜り込んでゆく。  
彼女の両脚を背中から抱え込むようにしてVの字に開かせ、露になったパンティのサイドリボンをしゅるっと  
 
解く触手たち。  
押し寄せる人波を掻き分けながら絶叫する厚志の前に、恭子の履いていたパンツがハラリと落ちてきた。  
彼女の秘部は恋人の目の前で剥き出しにされ、その背後に極太のペニスがジリジリとにじり寄る。厚志は堪ら  
 
ず、持っていた鞄で自分の何十倍もある肉塊へと殴りかかる。しかし…。  
 
「くそッ!この、このォ!!バケモンめ、恭子を放しやが――――…ぐあッ!」  
 
「あっ、厚志ぃ!!」  
 
恭子の悲鳴と同時に厚志の体がほぼ水平に吹き飛ぶ。愛する者を化け物の凌辱から守ろうとした青年は、触手  
 
の横薙ぎをマトモに喰らい、道路脇のゴミ置き場へと頭から突っ込んだ。  
 
『ふふっ。こんなヤサ男のモノなんか咥えたってアナタも嬉しくないでしょ。私が今から人生最高の思い出を  
 
あげるから、たっぷりと堪能しなさい』  
 
「ひ、ひぃ!いや、お願い。や、やめ…きゃあぁぁぁぁーーーっ!!」  
 
くちゅり…。ビクビクと脈打つ一物が恭子の秘所に押し当てられる。そして…。  
 
「やめろ!!頼む、やめてくれぇーっ!!」  
 
ぐちゅ。ずぶずぶずぶ……。  
 
「いや、い…あ、あっ!嫌あああァーーーーーッ!!」  
 
行為の中止を懇願する厚志の頭上で、恭子の純潔はローパーの触手により踏みにじられた。  
 
『さァ、もっともっと。貪るように腰を振りなさい。すぐに気持ち良くなるわ。ほらほらほらァ〜』  
 
「んあ、あ…、あ、あぁッ!やめ、やめぇ…んぐ!う、動かないで!うごっ、かないでぇ!!」  
 
まだロクに湿ってもいないヴァギナの中へ、自身の粘液を頼りに極太の一物は潜って行く。結合部から滴る赤  
 
い軌跡。彼女の躰が乙女から女へと無理やり開発された証である。  
悪夢のような光景に呆然となるボーイフレンドの真ん前で、恭子の身はユッサユッサと揺すぶられマリオネッ  
 
トのように踊る。  
新しくやって来たミドルサイズの触手が夏物のキャミソールをブラジャーごと捲り上げ、下に隠れていた双つ  
 
の丘を豪快に揉みしだいた。  
だが、その愛撫に感じ入る余裕など今の彼女にはない。秘部に潜り行く触手の侵攻を前に、恭子はもう半ば正  
 
気を失いかけていた。  
 
『まったく仕方ないわねぇ。これだからバージンは…。もっともっと他の人たちに“お手本”を見せて貰うと  
 
しましょうか』  
 
「ひ…っ!?きゃあぁーーーァ!!」  
 
靴のヒールが折れ転倒したOLが、起き上がる間もなく捕縛され逆さ吊りになった。彼女を皮切りに、逃げ遅  
 
れた女性達を次々と捕まえては逃亡不可能な高さにまで攫って行く触手たち。  
建物に逃げ込もうとした学生が…。転んだ我が子を抱き起こそうとした母親が…。容赦なく生きた拘束具で戒  
 
められ、下着を降ろされ、抗う術もなく脚を開かされていく。  
 
居合わせた人々の大方がビルの合間や建造物に退避し終えた時、巨大ローパーの体には既に二十人以上の女性  
 
が吊るされ口々に助けを求めていた。  
彼女らはまるで母親に抱えられて小用を足す幼児のような姿勢で拘束され、自らの秘部を見世物にさせられて  
 
いる。  
パニックに極地に達し狂ったように喚き散らす生贄たちの下には、ビクビクとはち切れんばかりに怒張した亀  
 
頭が配置され、その照準は剥き出しのクレヴァスに合わせられている。そして…。  
 
「ひ、ひぃぃい!」  
 
くちゅ。湿った音と共に生まれる異物感。  
 
「いやァ!いやいやいやっ!お母さんあーーーん!!」  
 
ずぶッ。ずぶずぶずぶ…。深く深く、柔土に突き立てられた杭のように、触手は大切な場所へと沈んでゆく。  
 
「や、やめ…っ!おお、お、お願…っ!!きゃ!?きゃあぁぁぁぁ!!!」  
 
海老反りになる隣の学生を見て哀願の言葉を発したOLの陰部にも、腐臭を放つ穂先が挿し込まれた。  
 
「あ、あ、あ…ひぁぁあぁあ!!」  
 
「いっ、痛ァーーーっ!!いやぁぁぁぁああ!!は、はいっ、入って来ないでぇッ!!」  
 
「は、はぅッ!ぅうぅぁぁぁぁあッ!!!」  
 
貞操を踏みにじられる女達の混声合唱が始まる。  
ローパーの体からクリスマスツリーの飾りよろしく吊るされている女性達。そのクレヴァスに赤黒い触手が次  
 
々と潜り込んでいった。  
湿った肉壷を内側から掻き回すグチャグチャという音をBGMに、悲鳴が悲鳴を上塗りする。  
髪を振り乱し、声を涸らせ、生贄たちはひたすら救いを求める。その下半身を襲うのは未体験の痛みとめくる  
 
めく官能。逃げ遅れた雌羊は一人残らず、ぬたくる触手を挿入され肉塊と接続されてしまった。  
 
「う…うそ…。嘘よ…。お姉ちゃん…、お姉ちゃぁーーーん!!」  
 
「ああ…。なっ、なんて事…」  
 
「嫌ぁーーー!誰か、誰かウチの娘を…っ!」  
 
ビルの谷間や裏路地に逃げおおせた人々は、デスパイアの玩具にされてしまった者達の中に家族や友人の姿を  
 
見つけ悲痛な叫び上げる。  
だが…。この蠢く欲望の集合体は、そんな彼らにさえ惨劇の傍観者でいることを許さない。  
 
『隠れたって無駄よ。喜びは大勢で分かち合ってこそ真の悦びたりえるの。さァ…。アナタたちも、ホラ…』  
 
ぷしゅー…。ガス管の破裂するような音と共に、巨大ローパーの全身のイボから紫色の気体が噴き出した。  
肉塊のいたる所から放出されるガスは、それ自体がまるで意志を持った生き物であるかのように這い進み、瞬  
 
く間にオフィス街を桃色のベールで覆い尽くす。  
 
「うわっ!なんだこれ!?」  
 
「やっ、なによこのニオイ!?」  
 
隠れていた人々は口々に驚きの声を上げた。  
女性用の香料を思わせる甘ったるい匂い。手を伸ばせば掴めそうなほどの濃密な気体が、軟体生物のようにゆ  
 
っくりと、ビルの谷間や裏路地へと流れ込み、難を逃れていた住人達を包み込んだ。  
 
「…う」  
 
「ちくしょ…。お、おかしいぞ」  
 
先に異変を察知したのはいずれも男性だった。彼らの股間の一物は急激に盛り狂い、ズボンの上からでもその  
 
様子が認められるほどそそり勃っていた。  
焼け付く喉。早鐘を打つ心臓。急上昇する脈に併せてビクビクと脈打つ男性器は、鈍い痛みを伴うまでに勃起  
 
している。  
 
「うそ。ちょっと…」  
 
「や、やだ…。なんかヘン…」  
 
前屈みになる男達に続いて今度は女性達が何やらソワソワと落ち着きなく身じろぎし始めた。  
仄かに赤みを差す頬。胸の奥の切ない疼き。彼女達の乳首はブラジャーの中で硬くシコり、両の太腿は物欲しげに互いを擦り合わせ始める。  
 
「あっ!」  
 
「ちょ、ちょっと!?なんなのよこれ!?」  
 
ジワリと生暖かい感触が股間に広がる。確かめようと手で触れた女達は、口々に驚きと戸惑いの声を上げ真っ赤になった。  
彼女達の穿いていたショーツが愛液によってグショグショに染まり出していたのだ。  
思わずその場にしゃがみ込めば、今度は濡れた生地がそそり勃つクリトリスを包むように撫で、危うくおかしな声を上げてしまいそうになる。  
デスパイアの魔の手からに逃れたかに見えた人々は、彼のの吐く催淫ガスにより、性的興奮にその身を乗っ取られつつあたっのだ。そして…。  
 
『さァ、これで互いの求める物は一致したわね。もう誰の目を気にする必要もないわ。神様から授かったこの  
 
悦びを存分に分かち合いましょ。ふふ…、ふふふァは…。アーッハハハハハハッ!!』  
 
ドバッと肉の弾ける音と共に、ローパーの胴体から新たな触手が一斉に飛び出した。  
長くしなやかなその捕獲器官は、穴倉のネズミを探る蛇のように、次々と細い通りや建物の中へと入り込んでゆく。  
 
「きゃあぁぁぁぁ!!」  
 
「う、嘘でしょっ!?」  
 
「いやーーーーー!!!」  
 
『アーッハッハッハッハ!隠れたって無駄よ!ニオイでわかるわ、ニオイで!』  
 
途切れることなく沸き起こる悲鳴。ローパーの巨体が通れぬ場所まで退避していた女性たち目掛け、触手が次々と襲い掛かった。  
視線の届かぬ建物内だろうと、どんなに入り組んだ路地だろうと、触手は愛液の臭いを頼りに獲物の居場所を探り当て絡め捕っていく。  
安堵から絶望へと突き落とされた犠牲者は、次々とシェルターから引きずり出され、一足先に犯されていた者達同様デスパイアの体に吊り下げられていった。  
半狂乱になって喚く彼女らの服の中にはすかさず触手が潜り込み、愛撫を待つまでもなくしどしどになっていた下着は銀の糸を引きながら下ろさる。  
 
「や、やや、や…あぁぁぁぁあああああーーーーーっ!!!」  
 
悲鳴と喘ぎに混じって慈悲を乞う台詞が行き交う中、脱がされ終わった娘たちから順に野太い肉棒が挿し込まれる。  
心が拒絶してもどうにもならない。肉欲の虜となっていた下半身は怒張した触手を何の抵抗も無しに飲み込んでいった。  
 
『いいわ、いいわ、いいわよぉ〜。もっともっと感じなさい。歓喜に打ち震えなさい。貴女達は聖母よ。選ばれし女よ。この穢れた世界を祓える嬰児達を孕む、神聖なる母体なのよ!おーほほほほほッ!!』  
 
「く、くぁぁぁああ!誰か止めてえ!!」  
 
「ひぃぃぃい!抜い、抜いてぇーーー!!い、やぁぁぁぁぁぁあーーー!!」  
 
勝ち誇るローパーの高笑いが女達の悲鳴を掻き消していたその時――――。  
 
 
「クロイツァー、最大出力!征きなさいッ!!」  
 
 
凛と響く鬨の声。  
次の瞬間、鉄塔ほどの太さの蒼い閃光がデスパイアの巨体を貫いた。  
 
 
「追加でブラチーノの弾もしこたまどうぞ!!」  
 
 
続いて爆音が反響し、巨大な質量弾が怪物の頭頂部を根こそぎ抉り飛ばす。  
 
――――ザザザ…。  
 
天を突く魔物の前に降り立つ三つの影。三者三様の衣装に身を包むその姿は、いずれも線が弱々しく、一目で女性と判別できる。  
だが、その瞳に宿した闘志はそこいらの男たちが比肩し得る物ではなく、むしろ人間そのものを超越した存在であるかのようだ。  
 
『ぬ…ぬぅふふふ…フフッ。現れたわねぇー…、エンジェルども』  
 
♯  
 
ひどい。およそこの世の物とは思えぬ光景だ。  
最新の特撮技術を駆使した怪獣映画だって、目の前のバケモノが放つ迫力には到底及ぶまい。  
立て続けに叩き込んだ波状攻撃も大した成果を上げていないようだ。傷口はみるみる内に塞がっていく。  
 
「…むごい…」  
 
「…ったく。なんてえ食欲のそそらない霜降り肉だよ」  
 
大通りには逃げ惑った市民が落として行った物に混じって、引き裂かれた衣類や下着が散らばっている。  
信号機には無造作に放られたブラジャーが引っ掛かり、遥か頭上からポタポタ滴り落ちる被害者たちの愛液がアスファルトを点々と染めていた。  
 
「厚志…い…ぃ。たす…け…、助けて…ぇ…」  
 
「あ…あぁ…。うあ…ぁ。お願い…ぃ…、もうダメぇ…」  
 
彼氏の名を呟きながら凌辱さていれる女子学生。並んで犯される互いを必死になって呼び合う母と娘。捕まっている女性はざっと見渡しただけで三十、いや四十人はいる。  
背中側にも嬲られている人たちがいるとすれば、その数は倍近くになるかもしれない。  
彼女らはその責め苦に耐えることに必死で、眼下に現れたエンジェルたちに気がづく気配もない。無我夢中で暴れる度に、足首に絡まったショーツが降参の白旗のように振られた。  
太腿の間から大量の白濁液が溢れ出している者もいる。既にオルガスムスが始まっているようだ。  
 
『フフ…、エンジェルの皆さん。ようこそ悦びのサバトへ。参加をご希望かしら?』  
 
巨体に不釣合いな女の声で、ローパーは三人に語りかけた。  
 
「合点がいったわ。異常発生の原因はコイツね」  
 
「ああ。大物だ。つくづく運のない街だよここも」  
 
「…二人とも、このおっきいデスパイア知ってるの?」  
 
納得する先輩たちに粉砕天使が尋ねる。  
 
「ローパータイプデスパイアの首魁『ヒルバーツ』。絶倫で名の通ったゲテモノだよ。あんまり一人でヤり過ぎるんで、他のデス公どもからも鼻つまみモン扱いされてるクチだ」  
 
「通り名は伯爵夫人。以前、大掛かりな討伐作戦が決行されたけど、結局トドメを刺すには至らなかったわ」  
 
「ンでご覧の通りというワケだ。ちなみに綺麗な声してるけどオスな、こいつ」  
 
「うわぁ…ちょっとゲンナリかも…」  
 
絶倫で夫人でオカマのデスパイア。混沌とした肩書きの並ぶ強敵を前に少女達は各々の武器を構える。  
 
『自己紹介は要らないみたいね。それじゃ早速、あなた達もパンツ脱いで脚開いて貰えるかしら?とびきり上等なのを挿入れてあげるわよ?』  
 
「ノーサンキューだよ。ゲイはゲイらしくガチムチ兄貴のケツでも追っかけてろ、肉ダルマ」  
 
『あらァーん、残念。交渉決裂ね』  
 
「初めっから交渉なんてしてません!」  
 
この光景を前にマルーシャのような悪態をつける余裕はナツメにない。ふざけた口調のまま犠牲者を嬲り続けるヒルバーツに彼女は怒りを隠さず食いかかる。  
 
『やだわ、やだわー。最近の女の子ってホント野蛮。仕方ないわねぇ…。親御さんに代わって折檻してあげる!!』  
 
左右の触手に太い血管がミシリと浮き出る。そして次の瞬間、極太の肉縄は唸りを上げ、街路樹を薙ぎ倒しながら、三人目掛けて真横から襲い掛かる。  
 
「っと、危ない!」  
 
渾身の一撃を体操選手顔負けの後転で回避するナツメとマルーシャ。上空に跳び上がったエミリアは洋弓の弦を空中で引き絞り、柔肉の中心線を狙って閃光を見舞う。  
敵は避けようともしなかった。触手への攻撃命中に同時にフロムヘヴンを振りかざし、突進攻撃を仕掛けるクラッシャーエンジェル。  
だが、ローパーの体表から飛び出した無数の触手が投網のように花開き、危うく捕獲されそうになった彼女は急遽後退を余儀なくされる。  
体勢を崩した天使を打ち据えようと更に数本の肉縄が放たれるが、その追撃はナツメに届く事無く、マルーシャの神聖徹甲弾で根こそぎ爆ぜて路上に四散した。  
 
『ふん…。ネズミのくせにチョコマカと…』  
 
千切れた触手の傷口はゴボゴボと泡立ち、溢れた血液の凝固で皮膚組織を構成。僅か数秒で元の姿へと復元される。  
 
「ぬ〜ん。あのガタイじゃ二、三発ぶち込んだとこでビクともしないか…。ガリバーに特攻かます小人ってこんな気分かね」  
 
「ええ。それに…」  
 
頷きながらエミリアは苦渋の色を浮かべ敵の巨躯を見渡した。  
 
「ひァ!あ、あァ…!もう…ゆ、ゆるし…あぁぁぁぁあーーーっ!!」  
 
本来これだけ背丈のあるマトならば、あらゆる角度方角から撃ちたい放題、アドバンテージはこちら側にあるはずだった。  
しかし、今この巨体には至るところに一般人の女性が磔にされており、現在進行形で秘所を蹂躙されている。彼女らを巻き添えにしないよう攻撃できるポジションを探すのは骨の折れる仕事だ。  
効果範囲の広い大技を使う訳にも行かず、かと言ってちょっとやそっとの攻撃で沈む相手でもない。  
 
『ほらほらどうしたの?早くしないと、他の子たちが気持ち良過ぎておかしくなっちゃうわよ〜?』  
 
「ふあッ!?や、やめ…―――きゃぁぁぁぁあっ!!」  
 
伯爵夫人がその身をぶるぶるッと震わせる。人質達の陰部に頭を埋めていた肉棒はゴボゴボと不気味な音を立てながら青筋を浮かべ膨張し、ぶぢゅっと膣内に大量の精液を放った。  
注ぎ込まれた命の素の熱さに感極まった声を洩らす被害者たち。同時に、全身のイボからも水風船が破裂したようにスペルマが放たれ、周囲の建物はことごとく青臭いクリームで汚染されていく。  
 
「ちっきしょう!汚ねえにも限度がある」  
 
危うく白濁液を被りそうになり、射程外まで距離まで跳び退くマルーシャ。これでは満足に近づく事さえできない。懐に潜り込んで巨体の死角を突く戦法も機能しそうにない。  
 
「エミィちゃん!早く何とかしないと、捕まってる人たちが…!」  
 
「ええ…。でも焦れば相手の思う壺よ」  
 
「水を差すようで悪いがエミィさんや。今回ばかしはあんま悠長にも構えてらんないぜ」  
 
そう。この一帯はデスパイアの吐き出す桃色ガスに包まれているのだ。エンジェルとはいえ長期戦に持ち込まれたらどうなるか判らない。  
 
『ちょォこまか逃げ回ってンじゃないわよォ〜!!』  
 
「―――――ッ!!」  
 
安全距離にいた彼女ら目掛け、一際太い触手がブンッと唸る。大蛇のようなその肉縄が放り投げた物体はなんと、路肩に乗り捨てられていた乗用車だった。  
怪獣映画のミニチュアのように半回転しながら飛んでくる1tの鉄塊。エミリアとマルーシャは左右に分かれ回避しようとするが―――――。  
 
「ええーーーーーいッ!!」  
 
気合一閃。ゴシャアという破砕音と共に、ナツメのフロムヘヴンが自動車を押し潰しながら振り抜かれる。  
 
『な…ぐばァ!?』  
 
ズズゥン…。粉砕天使に見事打ち返された車は、火花を盛大に散らしながら路面を滑り、伯爵夫人の胴体を直撃したのだった。  
 
「凄ぇ。ナッちゃん王貞治みてえ」  
 
『こ…この、小娘ぇ…ッ!』  
 
ヒルバーツは余裕綽々の態度を一変させた。呆れ返る灼熱天使の目の前で、デスパイアが触手を伸ばした次なる弾は…。  
 
「ええーーー!?」  
 
「…冗談でしょ」  
 
大型タンクローリーだった。  
 
「待てこら早まンな、霜降り肉!!」  
 
『ぬぅぅぅう、ばぁぁぁあ〜〜〜ッ!!!』  
 
マルーシャの制止に耳も貸さず、化石燃料を満載した大型車輌が放られる。流石に打ち返せる代物ではない。あわやというタイミングで跳躍し、三人娘は上空へと逃れる。…直後。  
 
ゴ…ッズゥゥゥゥゥゥゥゥウン…!!  
 
空間がひしゃげそうな轟音と共に火柱が立ち昇り、炎の絨毯が大通りに敷かれた。  
迫り来る絶壁のような凄まじい風圧に揉まれながら、天使達は辛うじてビルの屋上に着地する。  
 
「この特大ミートボール!テンパるのも大概にしろっての!」  
 
「エミィちゃん、マルーシャさん。無事!?」  
 
「ええ。…ホント見境無いわね…」  
 
路面の残り火をジュージュー押し潰しながら、もうもうと黒煙の立ち込めるコンクリートジャングルを尚も突き進む伯爵夫人。  
電線と接触するたびに散る火花も、怒り狂った巨大デスパイアの進攻を止める事はできない。  
 
「ナツメ、捕まってる人達は無事!?」  
 
「えーっと、ここから見える限りは…」  
 
「お二人さん、他人の心配してる場合じゃナッシングだぜ」  
 
ガソリン臭い大気を真っ二つに切り裂きながら、真横からの一撃がエンジェル一行目掛け放たれる。  
 
「散って!!」  
 
リーダーであるエミリアの合図に三人は散開。空振りした触手は屋上の貯水槽やアンテナを根こそぎ薙ぎ払い、建物を丸坊主にする。  
 
『ぬうぅぅぅ、はぁぁぁあ〜〜〜!!潰れておしまいエンジェルどもォ!!』  
 
全方位に向かって無差別に叩き付けられる猛攻を掻い潜りながらビルの合間を飛び交うナツメ達。  
こちらの方が地上より動きの制約が少ない分、彼女らの展開は迅速だった。時折フェイントを混ぜながら鈍重な敵を翻弄し、ヒルバーツを包囲する陣形を作り上げる。とりあえず、これで五分五分だ。  
 
「エミィ!何とかしてやっこさんに隙を作ってくれ!あたしとナッちゃんの波状攻撃で一気に畳む」  
 
「了解。NGシーンは要らないわよ」  
 
高純度の魔力で蒼白い光の矢を具現化し、エミリアは大通りを一望できる放送局屋上からデスパイアを窺う。  
狙うは敵の頭部。感覚器官と思しき瘤が無数に並ぶ戦闘の要だ。戦いの最重要器官だけに再生が早いのは先ほど見た通り。駄目押しに数本の巨大な触手が周囲を取り囲むようにウネっている。  
 
(…ま。一筋縄じゃいかないのはいつものことよね)  
 
呼吸を整え膝立ちになり、クロイツァーの弦を引き絞るエミリア。灰色の瞳から放たれる冷たい照準は真っ直ぐ標的へと伸び、伯爵夫人の頭部へと結ばれる。  
囮役のマルーシャ目掛けた触手攻撃が空振りに終わった。続けざまに他の触手たちが追撃に放たれ、巨大ローパーの頭部はガラ空きになる。  
 
(―――――いける!!)  
 
クロイツァーにノッキングされた矢が、今まさにエミリアの指から離れようとした瞬間だった。  
 
―――――ドクン。  
 
鈍痛にも似た胸の鼓動。敵襲を告げるクリスタルの振動である。  
 
「エミィちゃん、今のって…!」  
 
ナツメも感じたということは間違いない。新手が近場に出現したという事だ。  
 
「どうすンだエミィ!?戦力を二分できるような相手じゃないぞ、こいつァ!」  
 
「って言うか、そもそも敵はどこに―――――」  
 
チャッチャラチャラララ、チャッチャ♪チャッチャラチャラララ、チャッチャ♪  
 
「…あ」  
 
言いかけたナツメの言葉がご長寿お笑い番組のテーマで中断される。  
鳴り出したのは彼女の携帯電話だ。デスパイアを含め、全員の挙動が一瞬フリーズした。  
 
「こんなとこで漫談やっても座布団あげないわよ…」  
 
「つーかナッちゃんよー…、戦闘中はせめてマナーモードにしとけって学校で教わらなかったかい?」  
 
二人の目線がやたら冷たい。だが…ナツメの返事は無い。  
彼女はどこか青ざめた表情で、携帯のディスプレイに映る相手の名前を見詰めていた。  
 
『藤沢ハルカ』  
 
とてつもなく…嫌な予感がした。  
 
「も…もしもし…?ハル――――…」  
 
『お姉ちゃん!!助けてっ!病院にデスパイアが出て、みんなが―――…!!』  
 
呼びかけが終わるのも待たずに聞こえてきたのは、泣き叫ぶような妹の声。電話の向こうでは、別の女性の悲鳴が引っ切り無しに響き渡っている。  
合間に混じって聞こえるのドスンドスンという壁を殴りつけるような音。間違いない。襲われているのは、ハルカの入院している中央病院。しかも、デスパイアに襲われた被害者たちが搬送される特別病棟だ。  
 
「お、落ち着いてハルカ!とにかくそこから離れてっ!!」  
 
『無理だよ!もう部屋の前まで来てるもんっ!!ベッドでドア押さえてるんだけど、もう…!!』  
 
乱闘音の正体は、今まさにバリケードを押し破ろうとするデスパイアだった。破滅へのカウントダウンはもう目前にまで迫っている。  
 
「ハルカ!大丈夫だから、とにかくどこかに隠れて!!今、お姉ちゃんが―――…」  
 
『え…っ、きゃぁぁぁぁあーーー!!!』  
 
悲鳴の後に騒音が響き渡り、通話は途切れた。ツーツーと単調な電子音を発する携帯電話をナツメは呆然としたまま眺める。  
まるで魂がこぼれるかのように、震える手の平からその携帯が滑り落ちた。  
 
「聞いたかエミィ!?襲われてんのは例のホスピタルだ!!」  
 
「謀られたわね…。まんまと陽動に引っ掛かったみたい」  
 
『アーッハッハッハッハッハ!!今頃気づいたのかしら。揃いも揃っておバカさんたち。三人揃ってもお猿の知恵だわ!』  
 
神経を逆撫でするゲテモノの高笑い。伯爵夫人の狙いは最初から中央病院だったのだ。嫌でも目立つヒルバーツ自身が人通りの多い場所で暴れエンジェルを引き付け、別働隊が本命を突く。  
単純と言えばそこまでだが、石器時代から近現代まで時代を選ばず通じてきた戦法である。  
このローパー達は、犠牲者に宿らせた自身の子孫を堕胎させる施設を、片っ端から潰していくつもりなのだ。加えて病院ならば行きがけの駄賃もたんまり拾える。  
 
「エミィ!ここはあたしとナッちゃんで食い止めるッ!!アンタは速攻で盗人どもに天罰百ダース食らわして来い!!」  
 
絶望に呑まれかけていた空気を反転させるような怒号が轟き渡った。マルーシャだ。  
高火力型の二人で大ボスを足止めし、機動力のあるエミリアで新手どもを叩く。確かに、弱小なローパーであれば手数に長けたエミリアなら短時間で殲滅できる。  
このような局面で的確な指示が出せるのは最年長者の彼女を置いて他に無かった。しかし…。  
 
『もう手遅れよ。さっき電話してきた子なんて今頃きっと大喜びで腰振ってる最中ね。せっかくのお楽しみを邪魔しちゃうのも無粋だし、こっちはこっちで大人の遊びと洒落込みましょうよ。ね?』  
 
伯爵夫人の嬉々とした台詞にナツメの顔は引きつる。  
 
『そう言えば今の子、妹さんなんだっけ。それならホラ、子供ができたら私たち家族になるのかしら。うふッ』  
 
子供?ハルカに…ローパーの子供が?  
二人が両親を失ったあの晩、命がけの思いで助け出したハルカ。病院の個室で泣きじゃくりながら、必死の思いでリハビリに打ち込んできた最愛の妹。  
そんな彼女に…デスパイアが子供を…?  
 
(う…嘘…。嘘よ…そんなの…)  
 
凄惨な凌辱の傷痕からようやく立ち直ろうとしている彼女が、またしても奴らの触手で。  
嫌だ。悪夢だ。いくらなんでも酷すぎる。神様は一体何をしているのだ。  
 
「おい、ナッちゃん!?」  
 
ナツメの異変に気づいたマルーシャが彼女の傍らまで跳んで来た。  
だが、ナツメは反応しない。彼女の視線は宙を彷徨い、強張った顔は小刻みに震えている。  
 
(マズイ、…仕出かすかも!)  
 
そう直感した時にはもう遅かった。ナツメの腕を掴もうとしたマルーシャン手は空振りする。  
 
「ハルカァーーーーーーーーーっ!!!」  
 
蹴り込まれた屋上のタイルが蜘蛛の巣のようにヒビ割れた。  
まるで隕石がバウンドするように、魔力のバックスラストを放ちながらナツメは飛んで行く。  
彼女の目指す先は言うまでも無く、雛菊市中央病院。妹の入院している特別病棟だ。  
 
「な…っ!?」  
 
「あんの馬鹿ァ…」  
 
取り残されたエミリアとマルーシャ。彼女らは呆然としたまま、みるみる内に小さくなるナツメの姿を見送っていた。  
 
『ん〜ふふふふッ♪ほーんと妹想いな天使サンね』  
 
心底楽しそうなマダムの声が、あっさり作戦を破綻させられたエンジェル達を嘲笑う。  
参ったものだ。こんな初歩的な揺さぶりに乗っかってしまうとは。新米の致命的な脆さを物の見事に突かれてしまった。  
 
「…どーするよ。エミィさんや?」  
 
「どうするもこうするも…」  
 
応戦するしかないだろう。目頭を押さえている場合ではない。敵の狙いはどのみち病院だ。このまま大通りを突っ切って、別働隊と合流する腹積もりなのだろう。  
ならばナツメが病棟内のローパーを殲滅するまで、伯爵夫人の侵攻をなんとか押し止めておく他にない。  
 
『なんならあなた達も行っていいのよ?私ならはホラ、遊んでくれる子が一杯いることだし』  
 
弄くり回され悲鳴を上げる人質たちを見せびらかすように、ヒルバーツは居残り組を嘲笑う。  
勿論、挑発だ。巨体の頭上では鬼の金棒のように膨張した触手が間合いに飛び込んでくる敵を待ち侘びている。  
 
「とりあえず、帰ったらお説教ね」  
 
「ウチらが玩具にされずに済んだらの話だけどな…」  
 
溜め息混じりに、二人は各々の武器を構えた。  
 
♯  
 
「きゃぁぁあーーーーーッ!!」  
 
絹を引き裂くような悲鳴が狭い病室に反響する。  
ベッドの下に潜り頭から布団を被っていたハルカは恐る恐る外の様子を窺う。  
バリケードごとドアを打ち破り室内に踏み込んで来たローパーは、伸縮自在の触手でもって早くも一人の女性を捕らえる。ハルカを担当していたナースの和美だ。  
襲撃時、ハルカの305号室に居合わせた彼女は、内線で階下がデスパイアに占拠された事を知ると、驚くほどの冷静さで手際よく余っていたベッドや棚を倒し、即興のバリケードを築き上げた。  
そしてハルカを寝台の下に押し込み、自身はモップを手に息を殺しひたすら救援を待ちつづけていたのだ。  
 
「やっ、やめっ、やぁぁぁぁあ!!」  
 
だが…。彼女の賢明な判断によって稼がれた時間も遂に底を突いた。  
他の病室にいた女性患者やナースは次々と餌食になり、遅れて上って来たローパーたちは、防火シャッターやバリケードの向こうに避難している女達を漁り始めたのだ。  
 
ビリビリ…ぶちっ。  
 
モップなど何の役にも立たなかった。気休め以下の武器は虚しく床に転がり、その後を追うように千切れたボタンが白いタイルの上を跳ねる。  
扉をこじ開けるのに手間取った陵辱者は容赦なかった。焦らされた分のお返しとばかりに乱雑に和美の衣服を乱していく。  
胸元が開け放たれ、ブラジャーの留め金具は破損し、スカートの中に殺到した触手は力ずくでショーツを下ろしにかかる。  
 
「な…っ!す、須藤さん…!?須藤さん!!」  
 
全身をまさぐられる和美は、ローパーに対面位で抱きかかえられるようにして犯されているもう一人の看護婦を見つける。彼女に一期送れて着任してきた須藤蛍子だった。  
 
「はむ…ん…うん…。むは…っ、ん…ん…、あふ…っ」  
 
襲撃の一番最初に捕獲され、地下のサンプル室から犯されながらここまで運ばれてきた彼女はもう完璧にセックス漬けにされ、見事に出来上がってしまっていた。  
無理強いされている訳でもなく艶かしい挙動で腰を動かし、顔の前でユラユラ揺れる肉棒の裏スジを恍惚の表情で舐め回している。  
火照った身体が上下する度に、結合部から溢れ出るスペルマがふたつの尻肉を伝い床へ滴り落ちていた。  
 
「そんな…」  
 
変わり果てた後輩の姿に言葉を失う和美。だがそれも束の間。次この姿になるのは彼女の番なのだから。  
 
「えっ、あ、やっ!?やだっ、待って!!」  
 
閉じていた両脚がグイとガニ股に割られ、剥き出しの割れ目に亀頭があてがわれる。  
彼女の秘部まだ十分に湿っていない。だが、それを待っていればこのローパーは仲間達に獲物を根こそぎ持って行かれてしまう。だから…。  
 
「い、いい、ひっ!いやぁぁぁあぁあぁーーーーーッ!!!」  
 
グチュリ、と。自身を包む粘液に任せて、力ずくで和美の下の口をこじ開けた。  
 
(あ…ぁ…。和美…さん…)  
 
目を覆いたくなるようなその光景を、ハルカはベッドの下から余さず見ていた。  
しなやかにくびれた和美の腰がユッサユッサと上下に揺すられ始める。彼女はまるで駄々をこねる幼児のように、両脚を出鱈目に動かし拒絶の意思を表明していた。  
 
(あ…)  
 
ハルカの目線がふともう一人の看護婦と重なる。ハルカは蛍子の名を知らなかったが、和美の代わりに時々薬を持って来てくれてた人だと覚えていた。  
果たして彼女は隠れているハルカに気づいていたのだろうか?少なくともハルカには、その視線が自分を誘っているように感じられた。思わず背筋を走る冷たい感触に、ハルカは小さく身震いする。  
 
「んはっ…!やあ…っ、やめて…、やめ…っ!!くァっ!!」  
 
触手に貫かれた和美の悲鳴には、一種のリズムが生まれ始めていた。そうだ…。自分はあの感触を知っている。  
 
(最初はとっても痛くって…死んじゃうのかもって思って。…でも…)  
 
その内だんだん頭がぼんやりしてきて、触手を挿し込まれた場所からツーンと切ない感じが込み上げてきて、それが身体中に広がって。  
 
(お湯みたいなすごく熱いのを流し込まれて、身体中がムズムズしてきて、それから…それから…)  
 
ハルカはその先を知っている。幾度となく夢にまで見てうなされ、そのたびに下着を駄目にして、とうとうオムツまで付ける羽目になったあの感触。  
あれほど怖かったのに。あれほど死んでしまいたかったのに。…なぜだろう、二人の犯されている姿を見ていると、なんだか無性にドキドキしてくる。興奮してくる。  
まるで胸の奥に自分じゃない自分がいるみたいだ。  
 
「ん…んん…」  
 
ずっと同じ姿勢で眺めているのが辛くて、狭いスペースで少しだけ身体を捩る。  
すると…微かに生暖かく湿った感触が股間でした。布団の隙間から洩れ出てくる匂い…。そうだ、これはあの夜さんざん嗅いだ自分のニオイ…。  
 
「あ…!」  
 
気が付けば、ローパーの動きが止まっていた。両手の華を味わっていた肉塊は、ゆっくりとこちらを振り返る。  
気付かれたのだ。理由は多分このニオイ。愛液の芳香だ。  
 
(やだ…こ、来ないで…)  
 
触手がゆっくりと這い進んでくる。なのに身体は動かない。怖くて足が竦んでいるのではなかった。  
なぜだかは自分でも分からない。どうせ逃げ道など無いのだし、それに…。  
 
「……………」  
 
彼女自身は気付いていなかったが…逃げてしまうのが何だかほどく勿体無い気がしていたのだ。  
 
♯  
 
「でぇぇぇーーーいッ!!」  
 
怒声と共に振り抜かれるフロムヘヴンに半身を抉られ、一体のローパーが崩れ落ちる。  
 
「はぁ…はぁ…はぁ…。…くっ」  
 
待合室は正に地獄と化していた。院内は大小様々なサイズのローパー達がひしめき合い、逃げ遅れた患者やその家族、若い女性スタッフらを思うが侭に犯している。  
運び込まれる患者の性質上、職員も女性の割合が大きかった事が悲劇に拍車を掛けていた。  
リノリウムの床は怪しげな粘液や白濁液、更には失禁した犠牲者の尿にまみれ、気をつけなければ転んでしまうところだ。充満する異臭は十秒で人間の嗅覚をオシャカにしてしまう。  
 
「ぜいッ!!」  
 
通路のど真ん中に陣取り患者たちを弄っていた肉塊をナツメは一撃で叩き伏せる。  
地べたに投げ出された被害者達の様子は、今まで見てきた犠牲者の中でもとりわけ酷いものだった。  
赤子のように泣き喚く者に、死んだ魚のような目で床に転がる者。中には亡骸と化したローパーに詰め寄り、狂ったようにその触手を頬張りだす娘もいる。  
デスパイアにその身を蹂躙された過去から立ち直ろうとしていた彼女らの心は、二度目の凌辱により完全にへし折られ、精神の平衡を失っていた。  
 
「…いけないっ」  
 
酸鼻を極めるその光景に思わず見入っていたナツメは首を振る。彼女には何としてでも助け出さなければならない者がいるのだ。  
ハルカの部屋は3Fの5号室。エレベーターは使えないだろう。現在地からの最短ルートを頭の中で描き上げると、ナツメは脇目も振らずに走り出した。  
途中、通路で出くわしたローパーにはすれ違いざまの一撃を見舞い沈黙させていく。後ろ髪を引かれる思いだが、今は被害者達の手当をしている余裕は無い。  
 
「でやーーーっ!!」  
 
幸いな事に、獲物との行為に夢中になっているローパーは容易に撃破できる相手だった。  
不埒な陵辱者どもは何が起きたのかすら分からぬまま、出会い頭に裁きの鉄槌を喰らい挽肉へ変わり果てていく。  
非常階段を突風のように駆け上がり、踊り場に居た敵を横殴りの一撃で転げ落とし、ナツメは一気に三階に到着。  
 
「…うっ!!」  
 
廊下は既にローパーで溢れ返っていた。敵の侵攻は思っていた以上に早い。病室からも女性の喘ぎ声がひっきりなしに洩れてくる。  
眩暈にも似た絶望感を何とか打ち払い、長い廊下を一直線に駆け出すナツメ。窓から外を見れば、駐車場に警察車両が集まっている。ようやく封鎖が始まったようだ。  
 
(…ここまで来れば、あと少し!)  
 
行く手を塞ぎながら女医たちを嬲っていた三匹に、強烈な水平スイングをナツメは放つ。  
色事にご執心だったローパーたちは、まるで蒸気機関車にはねられた豚のように仲良く宙を舞い、天井の蛍光管を粉々に砕いて落下した。  
三穴責めから開放された女性達は悩まし気な呻きを残して床に伸びる。触手の抜けた陰部からはザーメンと愛液の混合物がごぽりと音を立て溢れ出した。  
急がなければならない。間に合わなければハルカもこんな姿に…。  
 
「…っ!?ハルカ!!」  
 
305号室。辿り着いた部屋の入り口を前にナツメは息を呑む。病室の扉は発破でも掛けたかの如く破壊され、室内からは複数の女の嬌声が聞こえていたのだ。  
最悪の事態が脳裏を掠める。だが…立ち竦んでいる暇は無い。今は一秒だって惜しい。  
滑りそうなほど汗の滲んだ手でフロムヘヴンの柄を握り直し、ナツメは室内へ踏み込む。そこでは…。  
 
「んむぅ…むぅ…、はむ…んちゅ…ぷはっ。ん…、むぅん…むは…」  
 
「や、やめぇ…。も…もうダメぇ…。もうできない…。できないからァ…」  
 
セミのようにローパーにしがみ付きながら、一心不乱にその一物をしゃぶるナース。  
もう一人の同僚は言葉で拒絶の意思を表明しながらも、涙の光る目元を恍惚に緩ませ下半身をグラインドさせている。  
そしてその二人の向こうに…。  
 
「あ…や…。やめてぇ…」  
 
ローパーに捕獲された少女がひとり。真っ白なパンツをパジャマのズボンと一緒に足首まで下ろされ、小さなクリトリスを触手の亀頭でグリグリ撫で回されているところだった。  
 
「ハルカァーーーーー!!」  
 
自分でも驚くほどの疾さで粉砕天使の体は敵の間合いに踏み込んでいた。仰天したローパーは振り返ろうした瞬間にはもう肉片と化し、スプラッターな効果音付きで病室の壁に飛び散っていた。  
素股を開帳させられたまま宙吊り状態だったハルカは、戒めを解かれベッドの上へ落下する。  
 
「ハルカ!!」  
 
最愛の妹に駆け寄り、その小さな体を力一杯抱き締めるナツメ。無事だった。間に合ったのだ。  
一方のハルカは突然の出来事に頭が付いてゆかず、ただ目を丸くして万力のような抱擁にどう対処すればよいのか戸惑っていた。  
 
「えー…えっと…。クラッシャー…エンジェル…?」  
 
その名で呼ばれ、ナツメはハッと我に返る。そうだった。ハルカは姉の正体を知らない。エンジェルは変身中、カモフラージュの魔法が発動している。  
どんなに容姿がそっくりでも、その姿を見る者は自分の知っている人物と目の前にいるエンジェルとを結びつける事ができないのだ。  
 
「あっ…ご、ごめんなさい。そのー…えーっとね…。ほっ、ホラ。今日この病院で初めて無事な人に逢えたから、お姉さん嬉しくなちゃってつい…ね」  
 
嬉し涙を湛えた瞳を慌てて逸らし、しどろもどろの弁解に奔走するナツメ。横目でチラリと窺うと、ハルカは怪訝そうな顔つきでこちらを凝視していた。  
さっき自分の名前呼んでなかった?とか、毎回無事だった人と抱き合ってるの?とでも訊きたそうな丁度そんな表情。  
 
「あのさっ、とりあえずパンツ穿こうよ。うん」  
 
咄嗟の機転でそう告げるナツメ。指摘された妹はハッと我に返り、真っ赤になりながら下着とズボンをいそいそ持ち上げる。とりあえずこの場は誤魔化すことに成功したようだ。  
せっかくなら万が一の弁解方も例のマニュアルに載せとくべきだとナツメは心の隅で愚痴る。  
 
♯  
 
「ん…はぁ…。むちゅ…」  
 
静寂を取り戻した室内は、蛍子の発する淫らな声だけがやたらと生々しく響いていた。  
ローパーの凌辱から開放された後も、彼女はその死骸に覆い被さり、ピクリとも動かない触手に細やかな舌使いで奉仕し続けている。  
そんな彼女のお楽しみも、もう終わりが近い。絶命したデスパイアの体は末端から静かに光へ返り始めていた。  
もう一人の被害者、和美の方は意識があるのか無いのか、半目のまま床に寝転がり時折甘いうわ言を繰り返している。  
 
「……………」  
 
ナツメは部屋の入り口から片目だけを覗かせ、廊下の様子を窺う。敵の姿は見当たらない。残っているデスパイアはどうやら各自他の病室でお楽しみ中のようだ。  
どの部屋にいるのかは廊下からなら喘ぎ声で一発で分かる。手間は掛かるが、戸別訪問で一匹づつ潰していくのには好都合だ。なにせ集団が自分から勝手に寸断されてくれてるのだから。  
蹂躙されている人々を囮にするようで後ろめたいが、ナツメ一人ではこれが精一杯である。  
 
「いい?非常階段の敵は全部やっつけたから、もうじき警察の人たちが来るわ。私はこれから他のデスパイアを片付に行くけど、絶対に動いちゃ駄目よ」  
 
「う、うん…」  
 
「とりあえずこの階のデスパイアから倒していくから、もし何かあったら大声で私に知らせて。いいわね?」  
 
早くこの病院を掃討して戻らなくては。あの時は気が動転していたが、思い起こせば自分はエミリア達の決定をご破算にしてしまったのだ。帰ったら何と言われる事やら。  
 
みし…っ。  
 
ハルカのベッドに背を向け、病室から一歩踏み出そうとしたその時だった。窓ガラスの向こうに取り付けられていた自殺防止用の格子が不気味な音を立てて歪む。そして次の瞬間――――――。  
 
ガシャァーーーーーン。  
 
砕け散る硝子に掻き消されるハルカの悲鳴。  
予想だにしなかった事態にナツメが振り返った時にはもう、最愛の妹は極太の触手で巻き取られ、窓枠から外に引きずり出されていくところだった。  
 
『ほーっほっほっほっほ!獲ッたわァ!!!』  
 
「…なっ!?」  
 
声の主は伯爵夫人ヒルバーツだ。  
 
「くっ、ハルカ!!」  
 
弾けるように病室を飛び出し、脇目も振らずに全力疾走。  
喉が焼け付く感触もお構い無しに階段を駆け上がり、屋上へと飛び出たナツメ。彼女の前にそびえていたのは、先ほどまで交戦していた巨大な肉の塊。  
瘤だらけの皮膚は至るところに焦げ付いたような傷痕が刻まれ、吊るしている人質の数も半分以下にまで減っていた。相当な激戦を繰り広げたらしい。  
地上では機動隊員たちが巨体めがけてひっきりなしに射撃を続けている。  
 
「無事だったか、ナッちゃん!?」  
 
「マルーシャさん、エミィちゃん!ハルカが、ハルカがぁ!!」  
 
屋上に降り立った二人に駆け寄り訴えかけるナツメ。彼女らも無傷では済まなかったらしい。打撲を受けたのか、エミリアは右肩を庇うように抑えている。  
マルーシャは助けた直後と思しき一般人の少女を抱きかかえていた。  
 
『なかなかやってくれたじゃない貴女たち。ま、どの道この病院はしばらく使い物にならないでしょうから、今日は一旦お暇させて貰おうかしら。お土産も頂いた事ですしね。うふ♪』  
 
「…………っ!!」  
 
マダムがそう告げると、彼の鎮座していた国道の舗装がベキベキとひび割れ陥没していく。周囲をぐるり取り囲み、銃撃を続けていた機動隊員たちは蜘蛛の子を散らすように距離を取る。  
 
「ハルカを返してっ!!」  
 
「危ない!!」  
 
駆け出そうとしたナツメにエミリアが当て身を食らわせ、もつれ込むように倒れる。二人の頭上すれすれを、極太触手の横薙ぎが通過していった。  
 
『それでは皆さん、またお逢いできる日まで。御機嫌よう』  
 
その一言を最後に大量の土砂が巻き上がり、伯爵夫人の巨体は地中へと沈んでいく。気化爆弾で空けたような大穴だけを、街のど真ん中に残しながら…。  
 
♯  
 
「…何人ぐらい連れて行かれた?」  
 
長い沈黙を破ったのは、マルーシャのそんな一言だった。  
 
「二十人弱ね。建物の中にいた子分達も撤収したみたいだから、それに連れてかれた人も含めると結構な数になるわ」  
 
「そうかい」  
 
抑揚の無い声で、二人は淡々とやりとりしていた。当然、ナツメはその会話に加わっていない。彼女はただ黙って、妹の連れ去られた大穴を見詰めていた。  
 
「どうする、機動隊には挨拶してくのかい?顔見知りの署長サンに根回して貰ったんだろう?」  
 
「そうね…」  
 
そこまで言って、二人はようやくナツメの傍らにやってくる。エミリアの顔は険しかった。マルーシャはというと、何かをしきりに警戒しているような素振りだ。  
 
「殺されは…しないわよ」  
 
「――――――!!」  
 
先に口を開いたのはエミリアだった。その一言にナツメの顔が引きつる。  
 
「…あなたの妹だもの…」  
 
並んで大穴を覗き込みながらエミリアは言葉を続けた。  
彼女の言わんとする事は理解できる。エンジェルの血縁者ともなれば、エネルギー源としては申し分ない。使い捨てになどは絶対にされないはずだ。  
飢えぬよう、乾かぬよう、最上級の待遇が与えられ…そして、犯され続ける。つまるところ、そういう事だ。  
 
「とにかく、奴の討伐は今後の最優先課題よ。あらゆる情報網を使ってアジトを突き止めるから、少しの間―――――…」  
 
そこまで言いかけたところで…。  
 
「エミィ!とめろッ!!」  
 
背後からマルーシャの絶叫が響き渡った。ハッとしたエミリアが隣を見ると…。  
 
「ごめんなさい」  
 
ポツリとそう一言残し、フロムヘヴンを握り締めたナツメは宙を舞い…そして、穴の中へと飛び込み消えていった。  
 
「なッ!?」  
 
エミリアはナツメの消えていった闇へと力無く手を伸ばしたまま固まっていた。  
馬鹿な。ありえない。連戦で消耗した体で、敵が手ぐすね引いているであろう場所へ、何の作戦も無しに、単独でナツメは飛び込んでいったのだ。  
常識的に考えても、この大穴が本命の居場所まで一直線に繋がっているとは思えない。そもそも下に何があるのかすら分かっていないのだ。今ならまだ追いつけるかもしれないが、それこそ飛んで火に入るなんとやらである。  
あまりの出来事にエミリアは二の句も継げずにいる。そこへマルーシャが大股で詰め寄り、火薬臭にまみれたグローブで襟首を掴み上げた。  
 
「このド阿呆っ!!煽ってどーすんだよっ!?顔見て気付けよ察しろよ!!学習能力ナツメとドッコイじゃないかよ、ええ!?」  
 
いつも見せる余裕も全部捨てて地金で怒鳴るマルーシャ。彼女の言う通りだった。さっきのナツメは、お約束の『何を言っても無駄』の状態だ。  
彼女がどんな挙に出るかは容易に想像がついたはずだ。あの場はふん縛ってでも一旦連れて帰らなければならなかったのだ。疲労と敗北感の所為だろうか。エミリアも相当鈍っていたらしい。  
 
「ご、ごめんなさい…」  
 
結局、彼女の喉が振り絞ったのは、力ない謝罪の言葉だった。  
 
「かーっ、もうっ。その台詞まで一緒かよ」  
 
金髪をクシャクシャと掻き乱しながらマルーシャは地団駄を踏んだ。ナツメの仲間入りに難色を示した彼女の懸念が、物の見事に的中してしまったのだから。  
しかし、これ以上ここで戦友をなじっていても始まらない。事は一刻を争う。  
 
「ハーァ…どーすんだよ。このままじゃ姉妹どんぶり確定だぞ」  
 
大きく溜め息を付いたマルーシャは、何とか普段の調子を取り戻して頭を捻る。  
彼女の言う通り、ナツメ一人で太刀打ちできる相手じゃない。オマケに今度は妹を人質に取られている。  
 
「マルー…。弾、あと何発残ってる?」  
 
「ラスト一発ポッキリ。延長も二次会も無し」  
 
彼女はそう言ってブラチーノの機関部をコツンと指で弾く。  
二人の間に長い静寂が流れた。騒ぎが収まったのを知り、演奏を再開しだした蝉が鬱陶しい。  
蒸し暑く重苦しい沈黙を破ったのは、静かで良く通るエミリアの一言だった。  
 
「付き合って…貰える?」  
 
少しの間を置いて、マルーシャの溜め息交じりの返事が。  
 
「隊長はアンタだよエミィ。あたしからそれ以上言うつもりは無い」  
 
その言葉にエミリアはふーっと大きく息を吐く。  
 
「悪いわね。もしもの時は貴女だけでも何とか逃がすから…後のことは頼むわ」  
 
「やですね。やり残した事があるなら自分でやんな」  
 
二人の天使は冥界の入り口のような闇の前に立つ。  
深い。中の様子はまるで窺えない。梯子やロープになりそうな物も見当たらなかった。突入したら最後、別の出口を捜さなければ脱出は叶わないだろう。  
作戦目標は藤沢姉妹の奪還。余り考えたくはないが…どちらか一方は諦めなければならない局面もありえるだろう。  
 
「ホント…世話の焼ける天使サマだよ…ったく」  
 
「ごめんなさい。やっぱりマルーが正しかったみたい」  
 
「その話はもう無しだ。…行くぜ」  
 
エミリアが黙って頷く。そして、二人の踵は揃ってアスファルトを蹴った。激戦で埃にまみれた衣装を翻しながら、天使達は夜よりも深い暗黒の中へと飛び降りていく。  
遥か頭上へと遠ざかっていく、真夏の太陽を望みながら。  
 

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