―――ナ――――メ、――――――ツメ、ナツメ……!  
 
「う……うぅ……。だ、誰……?」  
 
朦朧とする意識の中、遠くで誰かに呼ばれている。  
 
「ナツメ!しっかりして、ナツメ!!」  
 
頭に掛かる靄が晴れるに連れ、馴染み深いその響きは徐々に近づいてきた。  
ボヤけた視界の焦点が定まるにつれ、声の主の姿がハッキリしてくる。  
心配そうに覗き込んで来る友人の顔。その目の淵には涙が湛えられていた。  
 
「エミィ……ちゃん?」  
 
「ナツメ!無事なのね!?………良かったぁ……」  
 
安堵の笑みを浮かべるエミリア。どうやら、最後の一撃は成功したらしい。  
ナツメは仰向けの姿勢からゆっくり身体を起こそうとする。  
 
「………あ………うくッ!?」  
 
ズクリと、股間を突き上げるような痛みが走る。  
太腿と太腿の間に何かが挟まっているようだ。  
 
「あ、待ってナツメ。動いちゃダメ!いい?全身の力を抜いて」  
 
言われなくとも力が入らない。その身を再び横たえるナツメ。  
エミリアの手がボロボロになって殆ど原形を留めていないナツメのスカートの中へと伸びる。  
襲ってきたのはグイっと、何かが引っ張られる強烈な感触。  
 
「あうッ!」  
 
ナツメの股間から、残っていた触手がズルリと引き抜かれた。  
本体から既に千切れていたソレは、さしたる抵抗も見せずに排除される。  
手の内で力無く垂れ下がる異物をエミリアは憎しみの籠った眼差しで爪を食い込ませると、  
ベチャリと床に叩きつけるようにして壁際に放り捨てた。  
 
「大丈夫、もう大丈夫よ」  
 
「エミィちゃんも……無事……だったんだ」  
 
「――――――――え?」  
 
「良かったぁ…。だってエミィちゃん……………、  
 どっか遠くに行っちゃいそうな感じだったから」  
 
「………な、何言ってるのよ!このお馬鹿!!」  
 
「えへへへへ……」  
 
「……ま、まあ、その前にデスパイアごと殴られた時は正直死ぬかと思ったけど。  
 今回は結果オーライって事にしてあげるわ。…………もちろん二度とゴメンよ」  
 
相方の鋭さに内心エミリアは動揺を隠せなかった。  
自分が今無傷で……いや裸だが……ここにいられるのが不思議なくらいだ。  
なぜあそこまでナツメの魔力に介入できたのか、エミリア自身にもよくわからない。  
 
「ふふ、エミィちゃん……なんかとっても温かかったよ」  
 
考えられるとしたらひとつ。最後の一撃を放った際の状況。  
デスパイアの触手で二人が繋がっていたからだろう。  
エミリアは自身すら気づかぬ内に、互いの性器に差し込まれた触手を通してナツメの魔力をコントロールし、  
単なる暴発に終わるハズだった<クロイツァー>のオーバーロードを、必殺の一撃へと昇華していたのだ。  
まさかこんな形で勝利を拾うハメになるとは。まさに奇跡と冗談の産物である。  
もう一度やって見せろと言われてもまず成功しまい。……と言うか願い下げだ。  
 
「気持ち悪いこと言わない!変な趣味にでも目覚めたの?」  
 
ナツメの言葉にその場は怒りを取り繕って、転がっていた<クロイツァー>を拾い上げる。  
膨大な魔力の媒介にされたエミリアの武器は至る所にヒビが走っていたが、  
この程度ならまだ修復可能だ。不幸中の幸いと言えよう。  
ナツメの<フロムヘヴン>も回収しようとしたのだが………、  
残念ながらエミリアの力では持ち上げる事すら叶わなかった。  
魔力の助けを借りているとはいえ、このモンスターウェポンを軽々振り回していたとは。  
今更ながら舌を巻く。  
 
「とりあえず、ここを出るわよ。着る物も何か探さないと」  
 
周囲にはデスパイアの肉片がこれでもかと散乱している。  
他の犠牲者も助け出さねばならないが、いずれにせよ、  
このままここで救護班を待つのは少々カンベンして欲しいところだ。  
 
「あ、うん。分かった」  
 
露出していた胸を衣装の残骸で何とか隠しながら返事するナツメ。  
今度こそ起き上がり、エミリアの後に続く。  
だが、数歩と歩き出さぬうちに、彼女はその場にヘタリ込んでしまった。  
 
「……ナツメ?」  
 
白くて柔らかそうなお尻がペタンと床に張り付いている。  
何をしているのか最初は判らなかった。  
そのままの姿勢でナツメは………震えていたのだ。  
 
「――――――……たい」  
 
「……え?」  
 
「――――――――痛い」  
 
「……ナツメ……」  
 
座り込んだままナツメの視線は自分の太腿に注がれている。  
そこにこびり付いているのは真っ赤な斑点。  
他の何物でもない―――――破瓜の爪跡だ。  
 
虚ろな表情で膝まで降ろされたショーツを穿き直そうと持ち上げるが、  
既に溶解液に浸蝕されていたピンクの下着はその僅かな負荷が引き鉄になり、  
両サイドからビチっと千切れてタダの布切れとなった。  
 
「大丈夫……もう……大丈夫なはずなのに」  
 
頬を伝わる大粒の涙。  
 
「ゴメン。お、おかしいよね、私。だってさ、デスパイアに捕まって  
 助かっただけでも十分ラッキーなのに……なのに………わたし……」  
 
処女を散らされた証の上に、ポタポタと雫が落ちる。  
それに連動するかのように、ナツメのスカートの中から真っ白な何かが流れ始めた。  
間違いない。これは………、デスパイアの子種がたっぷりと溶けた白濁液。  
なんて事だ。断末魔の瞬間、そのショックでヤツは溜まっていたモノを噴射していたのだ。  
それも、よりにもよってナツメの方に。最悪の最後っ屁だ。  
 
「……ナツメ……」  
 
目の前で繰り広げられる陵辱劇に耐え、追い詰められても歯を食い縛って戦い、  
遂に自分が嬲られる番になっても決して希望を見失わなかった少女。  
そんなナツメに、どこまで酷い仕打ちをすれば気が済んだのか。  
いっその事、自分に注ぎ込んで欲しかった。  
しかし今となってはエミリアにはどうしてやる事も出来ない。  
 
「だ、ダメだよね。ちゃんと勝ったのに、私、なんでこんなに……悲しんでるんだろ………。  
 エンジェルなんだからさ、これっくらい……へっちゃらじゃなきゃ……いけないのに……」  
 
助かってからようやく反芻される陵辱の記憶。  
あの時はただエミリアを助けたくて、無我夢中で気に留める余裕など無かった。  
自分の身体にモゾモゾと異物が分け入って来るあの感触。  
忘れられない。そのままこの身が乗っ取られてしまうかと思った。  
 
「なんで……こんなに悲しいの……?……ねえ?」  
 
駄目だ、震えが止まらない。真っ赤に腫れた陰部の疼きが今も彼女を苛ませている。  
自分の腰が別人の物の様にグラインドしてしまうあの突き上げ。この世にあんな恐ろしい攻撃が存在したとは。  
その身を貪られる。今まで何度も目の当たりにしてきたその責め苦が如何なるものなのか、  
とうとうナツメは自分の身体で知ってしまった。  
もう、ここにいるのは先程までデスパイアと死闘を繰り広げていた天使ではない。  
心の奥底まで刻み込まれた、残酷なロストバージンに咽び泣くひとりの少女だ。  
 
「……ナツメ、もう大丈夫。我慢しろなんて言わない。あなたは本当に頑張ったもの」  
 
永遠に勝利を収め続けられる戦士なんてこの世にいない。  
デスパイアとの戦いに明け暮れていれば、いつかは負ってしまう傷だ。  
自分だって今日は手酷く犯られてしまった。  
2、3日は満足に腰掛けることさえ出来ないだろう。  
ただ、ナツメには少しだけ早過ぎた。  
出来る事なら………永久に訪れて欲しくなかったが。  
 
だから、今はただもう一度、彼女を抱き締めてやる。  
同じ悲しみを共有する友人として、これからも共に戦い続ける戦友として。  
 
「今日は貴方に助けられちゃったわね。今ここに私がいられるのはナツメのおかげ。  
 改めてお礼を言うわ。ありがとう、……………ナツメ」  
 
「……ひっく……えぐっ、………ひく……」  
 
あれだけ巨大なハンマーを振り回していたとはとても思えないか細い腕が、  
ギュッとエミリアの身体を抱き締め返してきた。  
 
 
 
 
 
ただひとつだけ、今回の事件、エミリアは引っ掛かっている。  
来る途中の道筋は一直線。見落とすほどの分岐路も無し。  
捕まっていた女性たちは恐らくこれで全部。  
取りこぼしがあったとしても程度は知れている。  
 
(――――――――少な過ぎる……)  
 
数ヶ月前から続く若い女性ばかりの連続失踪事件。  
その行方不明者の数には到底、いや米粒ほども届かない。  
これらの事実から導き出される結論はたったひとつ。  
ホントにタダの失踪でした、なんて希望的観測はこの業界では通用しないのだ。  
 
(間違いない。この街、………何かトンデモ無いのがいる!)  
 
 
 
 
「あ〜らあら、残念ね。あなたのペット、ボカ〜ンって負けちゃったわよ?」  
 
ガラスのスクリーンに映し出される抱き合う二人の姿を眺めていた女が、  
さも愉快そうに声を張り上げた。いい気味だと言わんばかりの態である。  
肩で切り揃えられた黒髪にボッカリと空間に開いた穴のような漆黒の瞳。  
夏も本場だというのに厚手のナイトガウンを羽織り、それでいてその顔には汗ひとつ掻いていない  
 
「ペット?ああ、アレはね、とっくに捨てたんだ。  
 可愛かったのは小さい内だけだったよ、まったく」  
 
返って来たのは男の声。話題への関心の無さを、遠慮など一切無しに声色に滲ませている。  
 
「あっきれた。モラルの低い飼い主の見本ね」  
 
「ハハハ、仕方がないさ。なにせ僕の大事な大事な荘園に手を出したんだ。  
 それを追放で済ませてあげただけでもこの胸の内の深さが分かるだろう?」  
 
ここは街外れ、港湾施設からそう離れない場所に立つ植物園の跡地。  
合併前に隣接していた大型焼却炉の移転に伴い、温室効果の供給先を失いあえなく閉園。  
解体のメドも立たずに数年が経ち、園内はかつて首都圏最大規模と称された華やかさを忘れて久しい。  
巨大なガラスドームは立ち枯れした南国の木々や花々で満たされ、  
さながらドライフラワーの摩天楼、まさに琥珀色の庭園である。  
 
「ハイハイ、そりゃもう心中お察ししますよ、ご愁傷様」  
 
「だが収穫はあったさ。………君も見ただろう、あの二人を!  
 僕もあんな上玉は久しぶりだよ。この身の内なる昂ぶりが止まらない!  
 だって想像してごらんよ!あの二人を妻に迎えるその夜を!!  
 真新しいシーツの上にシワを刻みながら組み敷くその瞬間を!!!  
 一体どんな瞳で見返してくるのだろう!どんな言葉で抗うのだろう!  
 あぁ………、白い毛並みと黒い毛並み。純朴な猫と拗ねた猫。  
 月明かりの下、この二匹が僕の腕の中で鳴くんだよ!?何て事だ!  
 それはもう、もう――――ハハッ!駄ァ目だ!言葉は無力!言語化不能だ!!」  
 
庭園の中央に鎮座していたのは――――――この世の物とは思えぬ巨大な花。  
ラフレシアが路肩のタンポポに見えてしまうような真っ赤な怪物が、  
無数の触手が絡み合って作る数メートルもある本体の天辺に咲き誇っているのだ。  
そして五枚の花弁が結合する花の中心部から生えているのは人間の上体。  
燃え盛る炎のような髪を背中まで振り乱し、切れ長の両目は狂喜に見開かれ、  
鋭い爪の生えた両腕を限界まで広げ、ケタケタと興奮気味にまくし立てている青年。  
 
演説は留まる所を知らない。  
 
「………熱くなるのはいいけど、足元もとい根元をすくわれても知らないわよ」  
 
「ああ、もちろん抜かりは無いさ。じきにこの街に住む全ての娘は僕の妾だ。  
 ここら一帯はこの僕の後宮と化し、彼女たちはただひたすらその恩寵に浴す。  
 そして僕はあの二人をそこに迎える。もう他のケダモノに怯える必要も無い。  
 嗚呼、しかしどちらを正妻に取れと言うのか。助けてくれ。悩ましくて気が狂いそうだ」  
 
芝居がかった動作で頭を抱え、男がジュルリと舌を濡らす。  
体中から伸びた触手がズクリと脈打った。  
 
「あらあら、そりゃ可愛そうに。しっかし、まあ―――――――――、  
 古い記憶を辿って訪ねてみたけれど、相変わらず殺風景な王宮にお住まいなのね。  
 客人を迎えるに当たってマトモな花のひとつも飾ってみたらどうかしら?  
 ………こんな寂れたお城じゃ<茨の王>の名が廃るわよ?」  
 
そのフレーズに反応したのか、俯き加減の真っ赤な眼球がジロリと女に向けられる。  
 
「赤の他人が勝手に呼び出した名だ。何の愛着も湧かない。廃りたくば勝手に廃れろ。  
 そもそもだ、僕らにとって固有名詞など無味乾燥な文字と俗な発音の羅列に過ぎない。  
 僕自身、その時代、その時代で一体どれほど多くの呼称を使い古されて来たことか」  
 
貪るアルラウネ、極彩色のロトス、真紅のアンブロシア、千年紀の花、弟切草――――――。  
今となっては思い出すのも煩わしい。およそ数え切れたものではない。  
そして自分はどうやら今、デスパイアと呼ばれる一群の中に放り込まれているらしい。  
崇めたり貶めたり………人間とは本当に忙しい奴らだ。典雅さが足りない。  
 
「それにおかしな事を言うね。花なら用意したじゃないか。  
 それはもう飛び切り上等のヤツを。こんなに沢山、ねぇ」  
 
先程とは打って変わった優雅な挙動で男は天を仰ぐ。  
ドーム状の天井に網目の如く張り巡らされた無数の触手。  
そこには数え切れないほどの女性たちが、その身を緑の蔓に戒められ、拘束されている。  
どの女性もまだ若い。中にはまだ、あどけない顔の少女まで見られる。  
 
「降ろして…ねぇ、お願い、……ここから、降ろしてってばぁ……、あぁんッ!」  
 
「んふ……はぁ……んっ…!もぅ……、こんなの……、嫌ぁぁぁ、……ひぅ!!」」  
 
「やめて…、やめて…、やめて……あ……あぁ、……あ……、いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」  
 
いずれも身に着けていた衣類はクシャクシャに乱されて手足の末端に集められ、  
起伏に富んだカラダを惜し気も無く曝け出したまま、無造作に吊るされているのだ。  
今や護る物など何も無い下半身は、剥き出しのまま前後の穴を触手に制圧されている。  
深く深く突き刺さった異物は、中に入り切らなかった部分がベットリと広がって、  
出口のすぐ外で肉腫となり、その傍らの性感帯までも巻き添えにして吸い付いている。  
蹂躙者が時折ビクンと震えると、そのたびに哀れな女囚の身体は宙を踊り、  
胸板の上の白桃がふたつ、たぷんと蠱惑的に跳ねて波間に揺れるのだ。  
 
「素敵だろう。そうだ、なんなら再開を祝して今夜は二人で食事でもどうだい?  
 みんな美味しそうな子たちだろう。君にも半ダースくらいプレゼントするよ?  
 あー、そうそう。殺すのはナシだ、やめてくれ。結構集めるの苦労してるんだ。  
 その代わりに、気に入った服があったら好きなだけ脱がして持って行っていい。  
 下着はちょっと汚れてるのが多いかもしれないけど、まぁ、そこはご愛嬌さ。  
 その後は―――――――――、………そうだな………、うん。  
 一緒にここに転がって星空を眺めよう。君が一体どんな声で鳴くのか、  
 その綺麗な口が紡ぐ夜想曲を是非、…………僕に教えてくれないか?」  
 
「あらあら、どこで覚えた誘い文句かは知らないけど。  
 貴方、あまりレディに優しいタイプには見えなくてよ。  
 ………………少なくとも上のアレで判断する限りはね」  
 
抵抗ひとつ許されず犯され続ける娘たちの悲鳴は、会話の最中も遠慮なく入り込んでいる。  
 
「何を言っているんだい?酷いな君は。僕は紳士さ。現にご覧よ。  
 あそこの彼女たちにもね、健康と美貌の維持に必要な栄養素は  
 余す事無くたっぷりと分け与えているんだよ。主にお尻からね」  
 
男は自らの行為の人道性を軽やかに主張。  
言っている傍から吊るされている一人の身体がビクンと震え、  
吸収しきれずに股間から溢れ出た白濁液が滝のように流れ出し、  
語り合う二人の近くにビチャビチャと落ちて水溜りを作った。  
 
「彼女たちは僕と繋がる事で楽園の住人となっているんだ。  
 ここには禁断の果実をどれだけ貪ろうと咎める神はいない」  
 
「あー、悪いけどまたの機会にさせて貰うわ」  
 
疲れた顔で女は踵を返し、背後に控える魔王にヒラヒラと手を振る。  
ペットは飼い主に似る。良く言ったものだ。どのみち用件は済んだ。  
暇を持て余している訳でも無し、これ以上この男と絡む気には到底なれない。  
この化け物がエミリアに興味を持ったとなれば残された時間も僅かだ。  
見初めた娘が他人の手に墜ちる事ほど腹立たしい現象は他に無い。  
そう………、あの子は私のモノだ。私“だけ”のモノだ。  
ああ、口の中が熱い。唾を飲み込むノドが忙しい。  
 
「それは残念。生娘の腰をどれだけ振らせられるか競い合いたかった」  
 
その後姿を見送る化け物は自嘲気味に笑う。  
 
「野暮用あって暫くこの街に留まるから、何か美味しい話があったら呼んで頂戴な。  
 その時はお礼にさっきのお誘い、………………ちょっとは考えてあげるわよ?」  
 
「そうさせて貰うよ」  
 
枯れ草を踏み抜く足音と共に遠ざかっていく声へ返事を返しながら、  
ゆったりと腕組みをして巨大な植物は天井を仰ぎ見る。  
徐々に夕闇に染まり行く空をバックに並ぶ自慢のコレクション。  
艶かしく波打つボディラインは眺めているだけでも心躍る。  
夕日に映える剥き出しの白い肌たちは最高に感慨深く美しい。  
その中から適当に、今宵の枕となる相手を選び抜く。  
 
「―――――――――ふむ。野暮用、ね。ハハハハ。  
 いやはや困ったものだ。相も変わらず一途な女め」  
 
ジュルリと触手が躍動し、瞬時の内に数人の女性が彼の眼前へと手繰り寄せられる。  
並べられた不揃いの果実たち。  
皆が皆、思い思いの髪型、表情、体型なのだが、二つの共通項だけは決して揺るがない。  
それは愛する者を受け入れる為の穴と排泄口を陣取る触手。そして剥き出しの肌。  
 
拘束から逃れようと身を捩り、ボリュームのある乳房をひたすら躍らせる女。  
全身にスペルマの化粧を塗りたくられ、ひたすら泣きじゃくる少女。  
触手の突き上げから逃れようと、扇情的に腰で円を描き続ける娘。  
その身に起こっている現実を理解できず、放心したように涙を流す人形。  
 
誰一人、その努力で事態を好転させている娘はいなかった。  
そして化け物の視線はその中の一人に注がれたまま逸れようとしない。  
必死の形相で身を屈め、足首まで下ろされた水色の下着とデニムのスカートを掴もうとしている。  
その両腕は伸ばす度に触手に引き戻され、それまでの努力を無に帰すのだが、  
それでも彼女は諦める気配が無い。止めゴムが緩み、ほつれかけたポニーテールを更に振り乱し、  
性器に収まった触手の乱暴に頬を高潮させて耐え、尚も懸命に衣服に手を伸ばす。  
 
「ま、何はともあれ。まずは今夜のお供だ」  
 
その光景を、彼は花びらの上で頬杖を突きながら観察していた。  
まるでそれが退屈凌ぎとでも言いたげな気だるい表情。  
スカートはともかく、触手を差し込まれたままで、一体どうすれば下着が穿けるのか。  
錯乱してそんな事も分からなくなっている獲物をつまらなそうに見つめる。  
捲り上げられた半袖Tシャツのすぐ下で揺れている膨らみがふたつ。まあまあの大きさか。  
その両脇で連動して動くブラジャーは少々滑稽だ。フロントホックは脱がし易過ぎて戴けない。  
しばしの沈黙の後、彼はようやくその口を開いた。  
 
「そもそもヒトはなぜ衣服を纏うのか。生まれたままの姿を隠そうとするのか。  
 ささやかな疑問ではあるが、これまで多くの学者を惹きつけてきた議題だ」  
 
その声に恐れおののき、娘の抵抗は止まる。  
視線を合わせたまま、彼は続けた。  
 
「それは今に至っても多くの仮定と憶測が縺れ解れに混在し連綿と続いている。中には見るべき点も多い。  
 思わず女を抱くことも忘れ夜通し本をめくって過ごすハメになった事も一回や二回じゃない。  
 目の下を腫らせたままの光合成は正直ツラかったよ。ハハハハハハ……………。  
 しかし結論は、だ。残念ながら僕を頭の天辺から根の先端に至るまで納得させる説は  
 とうとう現れず仕舞いだ。……………なぜだか分かるかい?」  
 
彼女は首を縦にも横にも振らない。蛇に睨まれた蛙のように、  
絶対的上位捕食者を前にした動物は震えるままだ。  
 
「それは既に無意識下の結論が僕の中に存在していたからだ。  
 半ば宗教的なニュアンスを以って、それは僕の頭の中に陣取り、  
 次々と侵入する新説たちをテリトリーから随時駆逐していたんだ。  
 いやはや歳は食いたくないものだ。……気が付くのが遅すぎたよ」  
 
そこまで語ったところで、彼の瞳はクワっと、嗜虐の色を帯びて見開かれる。  
ズクリと、膣に挿し込まれていた触手が一段膨れ上がった。  
 
「つまり、だ。衣服とは神が我々に与えたもうたプレゼントを包む、  
 タダの包装紙に過ぎない、――――――――――――とね!!!」  
 
たわんでいた触手がビンと張り詰め、哀れな少女の身体は大の字に開かれる。  
その勢いに筋肉は悲鳴を上げ、長い髪は弧を描き、ふたつの乳房はブルンと揺れた。  
 
「恥ずかしがる事は無い。せっかくの贈り物を包み紙の中に押し込めておくなんて失礼な事だよ」  
 
「や………やだ。もう……やだ。ねぇ、私はもういいでしょ。お願い……ここから出して……」  
 
か細く痙攣する喉が僅かに意味を成した言葉を紡いだ。震える瞳からは大粒の涙が流れ落ちる。  
その様子を<茨の王>は肌さえも犯すような視線を以って舐め回す。  
今宵の添い寝の一番手。多少の抵抗こそ程良い余興だ。物言わぬ人形ではこの昂ぶりは鎮められない。  
 
「さて。そうだな―――――――――うん」  
 
軽く頷くと彼の下半身から新たな触手の群れが伸びる。  
その内の一束を彼は手に取り、真っ赤に裂けた口で優しく告げるのだ。  
 
「何やら頑張ってたみたいだし、ご褒美だ。今夜は五本、追加してみようか」  
 
「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!」  
 
唸る触手。ドームの天蓋に悲鳴は響き渡った。  
 

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