〜粉砕天使ナツメ 前編〜  
 
「い、ひぃッ!嫌ぁぁぁぁぁぁあっ!!」  
 
魂さえも吐き出してしまいそうな悲鳴が薄暗がりに響き渡る。  
白目を剥いた眼差しは虚空を見つめ、細い背筋は体操競技のようにしなり、  
張り詰めた全身の筋肉はあたかも息絶える寸前の虫のように震えていた。  
 
ゴプ…ゴプ…、ゴプ…、ゴプン……………………、ぷしゅ。  
 
間の抜けた音を立てて引き抜かれる肉棒。  
その先端から放たれる余剰物が制服に染みを作る。  
時を置かずにスカートの中から溢れ出る粘性の液体。  
ドサリ、と力なく少女はその身を冷たい床に投げ出した。  
 
「…あっ…あぁ……あ……。か、香奈ちゃん……」  
 
その様子を傍らで眺めていたもう一人の少女は、  
目の前に横たわる友人の名をわななく唇で紡ぐことしか出来ない。  
つい先程、わずか30分前まで、日曜午前の部活を終え一緒に帰宅路を辿っていた親友。  
その彼女は今、変わり果てた姿で仰向けに転がり、股間から真っ白な液体を垂れ流し続けている。  
 
「何で……。ねぇ…、何で香奈ちゃんが………こんな…?」  
 
目の前の光景を受け入れることが出来ず、  
虚ろな表情で恵子の口はただ意味を成さぬ問い掛けを繰り返す。  
 
「ヌゥゥゥハァァァ……。ウマイ…。オンナ……、オンナぁ〜。もっとだぁ…」  
 
帰ってきたのは冥府の主も思わず布団に潜るようなおぞましい響き。  
声の主はブルっとひと度その巨体を震わせると、ゆっくりとその視線を恵子の方へと向け始めた。  
 
「―――――――――ひッ!」  
 
その絶対的捕食者の眼差しに彼女の身体は竦む。  
突如マンホールの蓋を跳ね除けて飛び出して来たあの触手たち。  
疑う余地も無く、目の前に居るのはその本体だ。  
この暗さではその全貌を捉えることは出来ない。  
ただ、その身を揺るがす度に響き渡る地鳴りから、  
およそ生身の人間が立ち向かえる相手でない事だけは動かない。  
闇の中、大人の拳よりも大きな目玉だけがやたらと目立ち、  
その根元から伸びる無数の触手が時折輝いては己の存在を主張する。  
 
「次ぃ〜。お〜ま〜えェ〜」  
 
「や…、やだ。わ、わ、わ、私やだ!や、やめて!おおお、お、お願い…!」  
 
ズルリと左右から伸びてきた触手がミニスカートの中へと消えていく。  
逃げ出すことは叶わない。両腕は頭上で組まされ、何かツタの様な物で縛り上げられているのだ。  
 
「や、嫌っ…。お、お願い、ねぇ。わ、わ、私こんなの駄目。駄目。  
 だからッ、他にホラ。な、何か他のをさ、ね?ね?ねえ……ッ!」  
 
恐怖に蝕まれる心が搾り出す哀願の言葉すら相手は意に介さない。  
スル、スルリ…、と左右交互に引っ張るようにして、恵子の下着が降ろされて行く。  
子供が脱ぎ捨てるように裏返ってズリ落ちていく物体は、  
飾り気の無い灰色一色のスポーツショーツ。  
陸上の練習を終えてまだ取り替えていないソレは、既に彼女の汗を存分に吸って酷く濡れていた。  
外気との隔たりを失った股間は嫌に冷たい。  
太腿をゆっくりと滑り、膝の裏をスルリと抜け、  
紺色のハイソックスに包まれたフクラハギを静かに進み……。  
 
―――――――――ビッ。  
 
名残惜しそうにローファーの踵に引っ掛かっていた下着が、  
ぬたくる触手の内に絡め取られた。  
 
(だ……駄目。私も………やっぱ…犯られちゃうんだ………)  
 
持ち主の身体から離れブラブラと吊るされているショーツに、  
恵子はこれから自分が辿る運命を悟る。  
それは傍らで消え入りそうな息をついている友人と同じものだろう。  
 
だが―――――――――。  
 
(…………………え?)  
 
到達に目の前で繰り広げられる光景が彼女を困惑させた。  
触手たちは恵子から剥ぎ取ったショーツをチリ紙のようにクシャクシャ丸めると、  
自らの頭をその中にうずめだしたのだ。  
 
(何…………やってるの、……これ?)  
 
亀頭部を包む布切れをしきりに前後させている。  
余り気持ちの良い着想ではないが………、  
恵子にはマスタベーションに耽っている様にしか見えない。  
いぶかしむ彼女を置いてけぼりにして行為は続く。  
 
―――――――――ブチュ。  
 
(あ……………)  
 
触手たちが一瞬ビクリと律動したかと思うと、次の瞬間、  
何か狭いスペースに粘ついた物が注ぎ込まれたような音がした。  
程なくして彼女の予想は裏付けられた。  
丸まった下着から引き抜かれた触手の引く白い糸によって。  
 
(う……うわぁ…………)  
 
思わず唇の端が引きつった。  
他にどんな表情を浮かべてよいのやら分からない。  
無理も無い。さっきまで自分の穿いていた下着が、  
化け物の慰み物となり果てたのだ。  
まだ温もりだって消えてはいまい。  
とりあえず……その……吐き気がする。  
 
「ヌプゥゥゥウ、よぉし」  
 
それまで黙って行為に熱中していた化け物が口を開いた。  
 
「オレぇ、これがらまたぁ〜、狩りに出るゥ〜」  
 
「え………あ……はあ?」  
 
どこにあるやも分からぬ口から出てきたのは意外な言葉。  
うっかり間の抜けた返事をしてしまう。  
つまり……この怪物はこれから巣穴を留守にする……と解釈して良いのだろうか。  
とりあえず、差し迫った貞操の危機は回避されたと。  
いや――――――、むしろ隙を突けば逃げ出す事だって……。  
 
「オマエはァ、その後にだっぷりと吸い取るぅ〜」  
 
「…………………」  
 
逃げ出す事だって不可能ではないハズだ。  
残念ながらタイムリミットがつているようだが。  
 
この段階までは恵子はそう思っていた。  
―――――――――しかし、  
 
「そぉ〜れぇ〜まぁ〜でぇ〜にぃ〜……」  
 
怪物は二本の触手で両サイドを引っ張り、  
先程のショーツをベロンと広げたのだ。  
 
「オマエのカラダぁ、コレでトロントロンになるぅ〜!」  
 
「………………え?」  
 
何を言っているのか、最初は理解できなかった。  
化け物の保持する下着には余す事無く塗りたくられた白濁液。  
特にその股布部分の内側にはベットリと、いやドッサリと、  
液体というより半固体状に近い粘着物が盛り付けられている。  
 
(な、何……するつもりなの、コイツ?)  
 
恵子の当惑を打ち払ったのは、化け物の次なる一手だった。  
別の触手が彼女のつま先をクイっと持ち上げると、  
そのベトベトになったショーツが両足首に通されたのだ。  
 
(え、う………うそ………)  
 
恵子の顔が驚愕に引きつる。  
脱がされたシーンを逆再生するように脚を昇り、  
今度は“穿かされて”いくショーツ。  
再着用したとき、丁度その股間に触れる部位には、  
これでもかと塗りつけられている怪物の体液が。  
 
恵子の中で僅か数分前の出来事が回想される。  
それまで気丈に抵抗していた香奈が、  
この液体を内股に吐きかけられたその瞬間。  
彼女は壊れてしまったようによがり、悦び、  
全身を恍惚に打ち震えさせたのだ。そしてそのまま、化け物の……餌食に。  
 
つまり……このままだと……、  
 
その液体が……恵子の股間とショーツにサンドイッチされて……、  
 
されて………………。  
 
グチャ…………って。  
 
………………………。  
 
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」  
 
声帯が切れてしまうのではないか。  
そんな心配までしてしまいそうな絶叫。  
頭をブルンブルン振り回し、拒絶の意思を表明する恵子。  
先程まで彼女の下腹部を覆っていたポリエステルの生地は、  
今や狂気の拷問器具となって元あった場所に迫り来る。  
 
「や、やめて!お願い!分かった!抱いていいから!  
 それだけは待って!ねぇってばぁぁぁぁぁぁぁあ!」  
 
脚を閉じ抵抗しても、汚れた下着はゆっくりと歩みを進めて来る。  
膝という最終コーナーを抜ければ残りは太腿の一直線のみ。  
ゴールテープまでの距離はもう僅かも残っていない。  
 
「やめて、ねえ!ねえってばぁぁぁぁぁあ!!」  
 
触手に持ち上げられながら、丈の短いスカートの中に  
滑り込んでいくショーツ。そして……。  
 
―――――――――クチャリ。  
 
「………あ………」  
 
前袋に大量の粘液を湛えた下着は持ち主へと返却された。  
触手が離れると、伸びていたウエストのゴムがパツンと閉じる。  
 
「あ……あぁ……。あ……やぁぁぁぁぁぁあ!!!」  
 
まるで秘部に湿布でも貼り付けられたかのような感触。  
恵子のクリトリスには化け物のザーメンをジャムのように  
塗りたくった薄布が張り付いて、哀れな肉芽は一瞬にして  
そそり立ち、秘裂はその唇をワナワナと振るわせ始めた。  
 
「いやぁぁぁあ!取って!取って!これ取って!!  
 お願い!脱がして!!もう好きにしていいからさぁぁぁあ!!」  
 
「んぁあ?何言っでるんだぁ〜?オマエのぱんつだろぉ〜?ムフゥ〜」  
 
恵子は目を真っ赤に充血させ、狂ったように腰を振る。  
だが、下腹をぴっちり包む下着はズリ落ちる気配など一行に見せない。  
当然のことだ。そもそも激しい運動でもズレないのが売りのショーツ。  
吸水性も抜群。本来ならば垂れて落ちる運命にある白濁液を完璧な状態で保ち、  
じっくりと、十分な時間を掛けて着用者の恥ずかしい場所へと染み込ませ続ける。  
 
「あう……、ひっく……は……ぁ……んッ」  
 
広がる疼きが止まらない。甘く切ない何かが込み上げてくる。  
未だかつて味わった事の無い未知の悦びが。  
内股から溢れ、太腿を伝わる一筋の光。  
これまで一度も使った事の無い割れ目から、  
脱水症状を起こすのではと思われるほどの愛液が流れ始める。  
 
「ヌゥゥゥ〜ハァァァア〜」  
 
その様子に満足したのか、化け物はゆっくりと百八十度旋回。  
よがり狂う恵子に背中を向けると、ブルドーザーを引きずるような音と共に  
暗闇の中へと消えていった。  
向かう先は先刻語られた通り“狩り”なのだろう。  
だがそんな事を気に留める余裕は今の恵子に残されていない。  
下腹部から広がる愉悦の侵略に呑まれ行く少女。  
 
最後の刹那、その唇は自らと親友の身体を弄んだ蹂躙者の名を紡ぐ。  
 
「デ……デスパイ……ア……ッ!」  
 
 
前線は去り列島の梅雨は明けた。  
入道雲の間から降り注ぐ真夏の太陽光。  
駐車場を埋め尽くす車のボンネットはさながらバーベキューのような熱さ。  
そのフェンスの向こうからはこの季節の到来を待ち侘びていた人々の歓声が聞こえる。  
 
さほど風光明媚という訳でもないこの街でも、つかの間の余暇を愉しむのには難儀せずに済む。  
この公営プールもそんなスポットの一ヶ所なのだ。  
折りしも今日は夏休み最初の休日。  
入場者数は監視員も大わらわと言うほどの大入りである。  
 
だが―――――――――。  
一見しただけでは分からないであろう。  
この近郊型のベッドタウンとして賑わう街で、  
半年ほど前から若い女性の失踪が相次いでいる事を。  
事件は表向き明るい住人たちの心にも暗い影を落としている。  
そう、誰もが口にこそしなかったが、その犯人像を確証していた。  
数年前、世界各地に突如出現した人類の新たなる敵。  
その名は…………………。  
 
「ねぇミッチー!次はホラ、流れるプール行こ!流れるプール!」  
 
「うーん!ちょっと待ってぇ!!」  
 
友人に声を掛けられた一人の女性は、プールの中に落とした髪止めを中腰で探している最中であった。  
そんな後姿をじれったく催促するように、プールサイドからもう一度お声が掛かる。  
 
「だーかーらぁー、待ってってばぁー!」  
 
髪を掻き上げ、再度視線を水中に戻す。  
友人のせっかちにも困ったものだ。  
 
「……………?」  
 
何だろう。その女性はふと思った。  
先程に比べると随分と水の中の見通しが悪い。  
なにやら白く濁ってきたような感じた。  
オマケになんだ、少し妙な匂いがしたような………。  
 
(あーんもぉ!監視員の人に頼もうかな……)  
 
そんな事を考えていた矢先である。  
 
(………………あれ?)  
 
彼女の足に何か動くものが触れたような気がした。  
 
(何か……………居る!?)  
 
刹那の逡巡。そして次の瞬間―――――――――!!!  
 
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」  
 
突如、女性の身体は水面遥か高く、空中へと持ち上がった。  
真っ赤なビキニを身に着けたハリのある身体に絡み付くのは紫色の毒々しい触手。  
 
ゴブゴブゴブ―――――――――ザッバァン  
 
一泊置いて、プールの水が爆発したかのように弾け飛び、  
そのなかから巨大な球体が出現する。  
 
「キャア―――――っ!!!」  
 
「………で、デっ、デスパイアー!!」  
 
誰もが口々にその名を叫ぶ。  
現れたのはこの世のものとは思えないおぞましい化け物。  
巻貝を思わせるその外殻は半径だけでも軽く数メートルを越え、  
楕円形に広がった入り口からは、無数に蠢くツル状の物体、  
つまりはデスパイアの触手が無数に生え揃っている。  
 
捕獲器官の先端は花のツボミのように軽く膨らんで、  
その頭頂部にある亀裂からは白く濁った液体が止め処なく溢れ出る。  
血の巡りの悪そうな肉色をしたソレは正に欲望という概念を物質化した逸物であった。  
その根元には爬虫類めいた縦に走る瞳孔の巨大な目玉が左右にふたつ、  
つまりはアンモナイトの化け物である。  
 
「ヌゥハァァア!オンナァ、オンナァ、たぐざんいるゥ〜!」  
 
ブルブルっとその身を震わせると、貝殻の中から大量に吐き出されるクリーム色の液体。  
その放出物は見る見るうちにプールの水と混ざり合い、  
太陽の光を受けてキラキラ輝いていた遊泳場は、  
あっという間に白く濁った不気味な液体へと変換されてしまった。  
 
「な、なに!?コレ!?」  
 
「や、やだ……ッ!!」  
 
ツーンと鼻腔を突く栗の花に似た香り。  
とてつもなく不潔で生臭い空気が水面から沸き立ち始める。  
 
公営プールは一瞬にして恐慌の渦へと引きずり込まれた。  
居合わせた客たちは水から上がろうと先を争ってプールサイドへ殺到する。  
それは正に悪夢のような海洋パニック映画のひとコマそのものだ。  
 
「まァずはオマエ〜!!」  
 
ヒュンと風切り音が鳴り響き、デスパイアの触手が走る。  
 
「ひっ!や、やめ、や、嫌ァッァァァア!!!」  
 
ザパッと、二十代前半と思しき女性がひとり、触手によってプールから引き抜かれる。  
ヌメった肉蔓は、四肢を無茶苦茶にバタつかせて抵抗する彼女を雁字搦めにすると、  
その身体を品定めするかのように引き締まったお腹を撫で回す。  
塗りたくられた粘液が肌の上を走り、黒一色のセパレーツに染み込んで妖しく光る。  
 
「ひ、ひぃぃぃい!だれ、だ、誰か、助け……!!」  
 
乱暴に持ち上げられるウエストのゴム。  
露出した青い茂みをまさぐるように滑り込んで来る肉の塊。  
薄く伸縮性に富んだ水着の生地は、その下で蛇でも飼っているかのようなミミズ腫れを作り、  
暴れ回る侵入者の姿を外部にアピールしてしまう。  
前袋だけを強引に伸ばされたボトムが、グイグイとTバック状に着用者のヒップへ食い込んだ。  
フンドシのような姿に変わり果てた水着によって分断された双つの山からは、  
デスパイアの粘液と塩素消毒された水が交互にポタポタと滴り落ちる。  
 
「ヌプウ〜…。そこのォ、オマエはどうだぁぁぁあ〜!?」  
 
「え、え、あ……。あぁぁぁぁぁあ!!」  
 
今度は水色の競泳水着姿の女性が手繰り寄せられる。  
デスパイアの触手は、ハイレグラインを持ち上げて水着の内側へ侵入を試みるが、  
無駄のない綺麗なボディラインにしっかりフィットした合成繊維は簡単には持ち上がらない。  
 
「ヌゥゥゥゥゥウ、ならばァ、こうじでやるゥ〜!!」  
 
デスパイアは彼女を顔の真ん前まで近づける。そして、  
 
ヌプ―――――――――、ぬちゃぁぁぁぁあ………  
 
「ひ、ひやぁぁぁぁあ!あ、あ、あぁぁぁぁあン!!!」  
 
甲羅の中から伸びてきた真っ赤な舌で、その身を股間から胸元まで一気に舐め上げたのだ。  
なすり付けられた唾液がジュワジュワ泡立ち、みるみる内に溶解して行くポリウレタン。  
伸縮性に富んだ競泳水着はプチュプチュと悲鳴を上ながら着用者の肌を露出させ、  
その下で乳房を守っていたパットがポチャンと水面に落ちた。  
窮屈なスポーツウェアから解き放たれたバストは弾けるように自らの存在を主張。  
それに応えるようにして、陽に焼けていない白い果実にデスパイアの触手が巻き付けられた。  
 
「きゃぁぁぁあ!!」  
 
「早くッ!早くぅッ!!」  
 
真夏の太陽の下、公衆の面前で繰り広げられる公開陵辱を目の当たりにし、  
半狂乱状態に陥った客たちは次々と水から上がり、少しでもその場から遠ざかろうと互いに押し合う。  
 
「待ぁぁぁでぇぇぇえ〜!逃がずがぁぁぁぁぁあ〜!!!」  
 
狩場からの離脱を目論む獲物たち。  
その様子を捉えたデスパイアはそ力むように巨体をブルブルと震わせる。  
そして…………!!  
 
「逃げるオンナはァ、こうだァァア!!!」  
 
ブパパパ―――――――――、ベチョ!!  
 
「きゃあっ!」  
 
「痛っ!!」  
 
高圧ポンプで湿った物体を押し出すような音。  
次々とデスパイアの口器から吐き出される無数の何か。  
放たれた物体はミサイルのように空中を滑り、  
プールサイドから逃れようとする女性客たちに次々と着弾する。  
命中の衝撃にくずおれ転倒する者も少なくない。  
背筋を走るヌメった感触に、恐る恐る振り返ると、  
そこには………………!  
 
「嫌ァァァァァア!!」  
 
「やッ!何よこれぇぇえ!?」  
 
「ひ、ひぃぃぃぃぃいッ!!!」  
 
寸分違わず女体に張り付いたソレは、目の前の化け物をそのまま縮小コピーしたような生物。  
子供の頭ほどのサイズをしたミニチュアサイズのデスパイアである。  
 
「と、取って!誰かコレ取ってぇッ!!」  
 
「は、放して!放して!放してぇっ!!!」  
 
今の世相、デスパイアの好餌を知らぬ者など皆無。  
だが、助けに入ろうとする男性たちは、親デスパイアの振り回す触手に容赦無く薙ぎ倒される。  
孤立無援の状況下、か細い両腕を酷使し、必死の形相で小さな襲撃者を引き離そうとする女性たち。  
しかし、生まれたての兵隊たちは、親譲りの生え揃った触手を巧みに操り、  
標的の背中に、腹部に、臀部にガッシリとしがみ付いてまるで離れる気配が無い。  
それどころか、そのまま抵抗など物ともせず、劣情が命じる進攻目標めがけてモゾモゾと肌の上を移動。  
日焼けした肌に粘液を擦り込みながら、余裕の表情で獲物の股間へと辿り着く。  
しして………………!  
 
「ひ、ひぃやぁぁぁぁあ!!」  
 
「や、や、やめてぇぇぇええ!!」  
 
鼠径線を撫で回す触手が肌とウェアの境界線を探り当てた。  
瑞々しい肌の感触に燃え盛る化け物たちに対して、水着という衣類はあまりにも無力である。  
露出度が高く、生地が薄く、デスパイアたちはその上から自らの粘液を好き放題に塗りたくることが出来る。  
女性のボディラインを魅力的にアピールするためのこのスポーツウェアは、  
彼らデスパイアにとっては陵辱を待つ性奴隷の布切れそのもの。  
美女たちの下半身を守る薄い合成繊維はいとも簡単に持ち上げられる。  
その伸縮性に富んだ触り心地と獲物の反応をひとしきり愉しむと、  
子デスパイアたちはぬたくる拷問器具をその下へと潜り込ませてきたのだ。  
 
「誰かァ!誰かァァァァあ!!」  
 
「い、い、嫌ァ!嫌ァ!い、い、いぃぃぃぃい!!」  
 
「助けて!たすッ、た、た、たす、助け………っ!!」  
 
辺り一面に繰り広げられる陵辱地獄絵図。  
脚を閉じて抗おうにも、秘裂の真下には布地一枚隔てて巨大な果実が吊るされている。  
どう頑張っても犠牲者たちはそれを剥き出しの太腿で挟む事しか他に出来ない。  
うら若い水着姿の女性たちが、恥ずかしい場所に謎の球体をブラ下げて、ガニ股でもがく異様な光景。  
まるでプールサイドが何か妖しい儀式の祭礼場にでも変わってしまったかのようだ。  
 
腰を滅茶苦茶に振ったとろで、慣性で剥がれて飛んでいく程ヤワな生き物ではない。  
まるで自分たちが今年の新作水着だと言わんばかりのその態度。  
逃げ出そうにもこの姿である。走ることは勿論、満足に歩くことすら叶わない。  
狼狽のあまり、デスパイアごと水着のボトムを脱ぎ捨てようとする女の子もいるが、  
恥部から尻をグルリと一周して獲物をホールドしている触手の前ではそれすら不可能。  
 
「きゃっ!……や、やめて!!」  
 
「な、………やだ、なんなの、コレ………」  
 
「や、やめて……。なんか、………やんッ」  
 
柔らかなデルタの膨らみを、真っ赤な舌がゆっくりと舐め回す。  
塗りたくられる粘液は肌色の三角州に生える茂みでもってしても湛えきれず、  
ヴィーナスの丘をトロリと滑り落ち、その下でヒクつく肉芽を濡らす。  
理性を溶かし、欲情の苗木を育む魔の液体肥料。  
硬く尖ったピンクの突起がふたつ、パットを入れた水着の上からでも判別できるほどそそり立つ。  
やがて流れ落ちる唾液には被害者自身の分泌液が混じり始め、  
カラフルな流行の水着に他人には見せられないシミを広げていく。  
―――――――――そろそろ頃合だ。  
 
「ヌフゥゥゥウ!ト〜ロトロだぁ、ト〜ロトロだぁ。  
 いっぱい吸っでぇ、もぉっど大きくなぁるぅ〜!!」  
 
大元の巨大デスパイアはその触手を総動員して、一度に十数人もの女性たちを絡め取っている。  
ツーピースの水着を身に付けていた女性は、そのボトムをクルクルと、よじれた縄のように丸められて降ろされ、  
ワンピース水着の着用者は、肩紐を二の腕の半ばまで外されて乳房を振り出し、  
肋骨辺りから下の生地はドロドロに溶かされ、桃色の下半身は真夏の太陽の下に暴かれていた。  
皆揃って多量の粘液を浴びせられ、潤んだ瞳は虚ろに垂れ下がり、声帯からは既に悩ましげな囁きが漏れ始めている。  
 
「ヌフゥ。そぉろそぉろかなぁ〜?」  
 
真っ赤なビキニのトップがグイっと持ち上げられ、  
カップの拘束から放たれた白桃がブルンと振動する。  
一番最初に囚われた、あの髪止めを探していた女の子だ。  
 
「あ……あんっ!ひ……ぁ………あうっ!!」  
 
童顔に似合わぬ豊満な乳房が揉みしだかれる。  
ゴム鞠のように姿を変え、形を変える健康的な脂肪の塊。  
喘ぎながら首を振る度に、瞳の淵に浮かべられた涙が空中に踊る。  
その反応にデスパイアは満足の笑みを浮かべた。  
出来上がっている。完全にスイッチが入ったようだ。  
 
「ムゥフゥフゥ〜!いよぉぉぉし!」  
 
ニチニチと、触手の先端を包む包皮がめくれ始める。  
徐々に姿を見せ始めた責め具の真の姿。  
それは正に大小無数のイボを有する肉の矢尻。  
まるで真っ赤なゴーヤそのものである。  
 
「ムフっ、それではぁ〜」  
 
グイっと、その切っ先は潤んだクレヴァスにあてがわれる。  
既にクリトリスは限界までその身を膨らまし、  
弛緩し切った谷間はドロドロとヨダレを流しながら、  
目の前で焦らす果物を咥え込もうと躍起だ。  
 
「い〜ただ〜きまァ〜ず!!!」  
 
クチュ―――――――――ズ、ズ、ズ、ズ、………ズン。  
 
「ぁ…ぁ…ぁ…ふぁぁぁぁぁあ!!!」  
 
「ひぃぃぃぃぃぃい!!!」  
 
「んあッ……あ…あ…あ……あんっ!!」  
 
一糸乱れぬシンクロ率で実行された挿入。  
子デスパイアたちもそれに続き、獲物の股間にブラ下がったまま、次々とドッキングを開始。  
中には手違いで後ろの穴に差し込んでしまった個体も見受けられる。  
 
真っ赤な逸物は突き刺さるや否や、即座にその身を膣壁に合わせてググっと膨張させ、  
ちょっとやそっとでは抜ける事の無いよう、ガッチリとロックをかける。  
止まる事無く漏れる悲鳴。足の指はピンと張って開き、腰がガクガク打ち震える。  
 
だが、その腰の動きもデスパイアがゆっくりと抽送を始めるにつれ、  
滑らかに、艶やかに、官能的な躍動へと変わり果てていく。  
それは触手の突き上げから逃れる動作でもなく、  
下腹部の痛みを誤魔化すための運動でもない。  
まさに………受け入れた異性のモノに送る情熱的奉仕のうねりである。  
 
「あン……、あン……、あン……、あ……」  
 
「ふくッ……、はァ……、はァ……、はァ……、はんッ!」  
 
欲望の果ての盲目的なグラインド運動。  
先程まで悲鳴を搾り出していた喉までもが、いつの間にやら悦びに打ち震え、  
蹂躙者をより盛らせるための嬌声を放送している。  
 
「ぬゥ〜ぷゥ〜ぷゥ〜!いいぞ、いいぞぉ〜、いいごえだぁ!  
 それじゃぁ〜、すごし早いけど、ご褒美をォ〜、あァげようがァ〜!!」  
 
それまでウネウネとその身を波打たせていた触手たちが動きを止め、  
あらん限りの海綿体をググっと膨張させ全身を力ませる。  
真っ赤なデスパイアの口から漏れる長く熱い吐息。  
………間違いない。出すつもりだ。もちろん中に。  
熱く煮え滾る欲望が咀嚼された大量のスペルマを。  
 
「これでオマエだち、みィ〜んなオレのお嫁ざんだァ〜!!」  
 
収まり切るハズもない膨大な白濁液が、  
凶器の先端から放たれようとした正にその瞬間―――。  
 
 
 
 
―――――――――ザシュ。  
 
 
 
「―――――――ヌゥ!!」  
 
果実をナイフで抉るような残響。  
デスパイアの右顔面に突き立てられたのは光の矢。  
続けざまに三発の閃光が巨体めがけて飛来する。  
 
「ぬぅばぁぁぁぁア!!」  
 
デスパイアの反応も早かった。  
眼球目掛けて殺到した光条を間髪入れず貝殻で受け止め、  
犠牲者の胎内に注がれる予定だった液体はすかさず別の触手に充填。  
攻撃の飛来方向、ウォータースライダーの天辺めがけ放つ。  
 
「…………チっ!流石に硬いわね」  
 
すぐさま宙に舞う黒い影。  
一泊送れて着弾した白濁液が遊具を鳥モチのように覆い尽くす。  
 
「逃ィがァずゥがぁぁぁぁぁあ!!」  
 
その影がプールサイドに着地する瞬間を狙って、  
先端部を刃物のように角質化された触手が放たれる。  
その切っ先が標的に到達しようとした刹那―――。  
 
「はぁぁぁあ、―――――――――ヤァッ!!」  
 
気合一閃。唸りを上げる巨大な鉄の塊。  
真横からの乱入者が放った一撃をマトモに食らい、  
デスパイアの武器は中腹から跡形も無く吹き飛とんで、  
ベチンと、ここより遥か彼方のビル外壁に叩きつけられた。  
 
 
 
―――――――――ザ………。  
 
 
 
ふたつの対照的な影がプールサイドに並び立つ。  
 
黒一色の、喪服を思わせる装飾の少ないシックな衣装。  
足首まであるロングスカートから伸びる細い踵。  
その左手には漆黒の衣装に良く映える紫色の洋弓が握られ、  
右手には同じ彩のアーチェリーグラブが填められている。  
肩に少し掛かるか否かといった長さのプラチナブロンドの髪。  
その隙間からは灰色の瞳が二つ、ガラスで出来た刃の様な冷たさを湛えながら、  
眼前の狙撃対象を瞬きひとつせず見据えていた。  
 
その傍らに控えるのは白い影。  
あからさまに装飾過多な、フリル満載の純白のドレス。  
足元には児童文学のお姫様でさえ遠慮するのではと思われる輝かしい靴。  
ふくよかな胸元にはペールブルーのリボンがあしらわれ、  
慎ましやかな真夏の微風にその身を任せている。  
………………そして何より目を引く物体。  
細い腕に握られているのは、少女趣味爆発の立ち姿とは余りにもミスマッチなシロモノ。  
主力戦車の正面装甲さえも容易く叩き潰すのではと思われる巨大な鉄槌であった。  
身の丈ほどもある柄に備え付けられた、紛う型なきスレッジハンマーである。  
背中まで伸びた黒髪をなびかせ、強い意志の宿った漆黒の瞳は、  
粉砕すべき標的を一直線に捉えて放さない。  
 
「………来ぃたぁなぁ〜!えんじぇるどもォ!!」  
 
五臓の底から相手を呪い、大親の化け物は捕らえていた女性たちをプールサイドに放り捨てた。  
 
「まだ陽が高いってのに、随分と羽振りがよさそうね」  
 
チラリと周囲に視線を配り、ブロンドの少女が口を開く。  
辺り一面には触手を差し込まれ、よがり狂う水着姿の女性たち。  
その股間に張り付くデスパイアの子供たちは、二人の乱入者もお構いなしに、  
哀れな犠牲者の陰部と陵辱遊戯に明け暮れている。  
 
「私たちは今すこぶる機嫌が悪いわ。誰のせいかは言うまでもないわね。  
 ま、手間は取らせないわ。―――――――――大人しく消えなさい!」  
 
「ブシュルルルルルル!ほーざーけぇぇぇえ!オマエらもオレの嫁にじでやるぅ!  
 トロントロンにしてぇ、脚ぃ開かせてぇ、めぢゃぐぢゃに流し込んでやるぅ〜!」  
 
デスパイアの陵辱宣言も終わり切らぬ内に、二人の踵は地を蹴っていた。  
プラチナブロンドの少女、エミリアが手甲をかざすと、そこには光の矢が出現する。  
すぐさま握り締めた洋弓<クロイツァー>にノッキング。  
灰色の瞳はエイミングを開始する。  
 
「エミィちゃん!どっちからやっつけるの!?」  
 
並走する黒髪の少女がエミリアに訊ねる。  
 
「決まってるじゃない!デカブツからよ!!」  
 
「でも!小さいのに捕まってる人たちが……!」  
 
「親玉が先よ。元締めを叩かないと堂々巡りだわ」  
 
「わ、わかった!!」  
 
純白の少女、ナツメが自慢の鉄塊を振りかざす。  
対デスパイア用戦闘槌<フロムヘヴン>は内蔵タービンを唸らせ、  
灼熱を帯びて自らの纏う魔力を最大限まで昂ぶらせた。  
 
「ぶじゅぁぁぁぁあッ!!」  
 
デスパイアが一際巨大な一振りを天高くかざし、  
軟体の下に隠れた全身の筋肉を軋ませ打ち下ろす。  
 
―――――――――ズズゥ…ン。  
 
即座に二人の天使は散開。  
空振りに終わった渾身の一撃はプールサイドのタイルを  
落ち葉か紙屑のように打ち上げる。  
 
「……まずは搦め手からってね!!」  
 
着地を待たずしてエミリアは張り詰めた弦から光の矢をリリース。  
立て続けに二発を放ち、計三発の閃光が触手を強襲。  
デスパイア本体を護る様に配置されていたそれを串刺しにする。  
 
「ピギィィィィィイッ!!」  
 
「………………っ!?」  
 
その攻撃が合図になったかのように、  
辺りを埋め尽くすデスパイア・チャイルドたちが次々と獲物の股間から離れ跳躍。  
母体に加勢すべく更なる矢を番えようとするエミリアに殺到する!  
 
「―――――えぇーいッ!!」  
 
どこか平和的な一声と共に唸る剛の一撃。  
エミリアの前に立ちはだかったナツメが鉄槌を一振り。  
眼前の標的に組み付こうとしていた雑兵達は、  
その直撃の前に原形を留めぬどころか粉末状にまで砕かれ四散した。  
 
その大降りの隙を狙い今度は本体から触手が伸びるが、  
放たれた肉蔓はナツメの身体に到達する前にエミリアの矢に貫かれた。  
 
「今のナイスよナツメ!サマになってきたじゃない」  
 
「でもっ、これキリがないよ!!」  
 
「分かってる!速攻で決めるから!準備して!!」  
 
「りょ、了解!!」  
 
ナツメの返事を待たずにエミリアは詠唱を開始。  
右手のグラブに光芒が集まり静かに大気を揺るがす。  
 
「リカーヴ<クロイツァー>……モード変更、ベラーゲルング!!」  
 
ヴァイオレットに輝く手甲の内に現れたのは一際太い光の柱。  
すぐさま巨大な矢は弓にマウントされ、その中心にはターゲットレールが出現。  
凍てついた湖面の如き瞳を凝らし、視線はその先に佇む標的を捕捉。  
強靭な装甲から僅かに露出した一点を狙う。  
―――――――――そして!  
 
「―――――――――フォイア!!」  
 
弓鳴りはたった一発。  
だが、撃ち出されたのは視界を覆いつくさんばかりの無数の閃光。  
それはまさに光の雨<リヒト・レーゲン>。  
世界の全てを飲み干しながら、あらゆる邪念を殲滅する濁流がデスパイアに迫る。  
―――――――――しかし!  
 
「なァッめるぬァァァァァァァア!!!」  
 
デスパイアの咆哮。  
本体を取り囲んで伸びていた触手たちを前面に集中。  
全身の血液を凝縮し、ギシギシ唸るそれを天高く、  
遥か上空に振りかざし………、  
 
ザッ………バァァァァァアン―――――――――!!!  
 
………打ち下ろした。  
高圧線に迫る高さまで建立された水の壁。  
岩も砕けんばかりの水圧に弾かれ、光の軍勢は宙に舞う。  
攻撃は失敗……………に終わったかに見えた。  
 
「…………ンなぁ!?」  
 
化け物の顔が驚愕に引きつる。  
弾かれた無数の矢は空中に静止、標的を中心にズラリと円陣を組んでいる。  
獲物を取り囲み、牙を剥き、今まさに飛び掛らんとする猟犬の群れ。  
スーっと、エミリアの腕が持ち上がり、グラブに包まれた人差し指が標的に向けられる。  
 
「――――ラヴィーネッ!!」  
 
沈黙は決壊。次々と獲物に襲い掛かる牙。  
雪崩打つ光の渦にズタズタに引き裂かれる触手。  
怪物は狂乱の嵐を振り払おうと足掻くが、  
幾百の腕を以ってしてもその猛攻は捌く事叶わず。  
 
―――――――――ズブリ。  
 
「ぬぅギャァァァァァァァァ……………ッ!!!」  
 
その内の一筋が水晶のような右目を貫いた。  
止め処なく流れ出る青い血液。  
尚もジリジリと傷口を焦がす矢を抜き払おうと腕を伸ばすが、  
巻きつけた触手までもが光の魔力に焦がされ炭と化す始末。  
 
「ヌゥゥゥ、ヌフゥゥゥ………!」  
 
怒りと屈辱に牙をガチガチ鳴らし、潰れていない方の目で敵の姿を探すデスパイア。  
だが、その策敵行動の成果は……………………まさにその瞬間、  
スレッジハンマーを振り下ろすナツメの姿を捉えたに過ぎなかった。  
 
「ハアァァァァァァ―――――――――………」  
 
右肩に大きく振りかぶられる鉄塊。  
斜め上空四十五度からの急降下と共に放たれようとしている大打撃。  
ゴゥンゴゥン唸りながら<フロムヘヴン>は猛り狂い蒸気を吐き出す。  
先刻までどこかおっとりした印象を見せていた黒い瞳は、  
怖れも慈悲も躊躇も宿さず、今から叩き潰す手負いの肉欲獣を捕縛して放さない。  
 
フワっと、長い黒髪が風を切った。  
 
「………―――――――ヤアッ!!!!!」  
 
―――――――――ゴッ。  
 
音とは、その規模が余り甚大であると人間の聴覚でもって認識されない。  
故に、この一撃のインパクト音はホンの一瞬であった。  
爆音の代わりに周囲を染めたのは………………まばゆい光。  
白昼、もうひとつの太陽が降臨したかのように怪物と少女の姿は光に飲まれる。  
一人と一匹を中心に、水面は月面のようなクレーターを形成。  
敷き詰められたタイルは波打ち、窓ガラスは弾け飛ぶ。  
 
 
―――――――――ズズゥゥゥゥゥン。  
 
「ぬ……アァ……ぶふぁッ!がひゅ……、がひゅ……ゴブっ!」  
 
何が何だか、本人にも認知できていないであろうカラフルな液体を吐き出すデスパイア。  
圧倒的強度を誇っていたその貝殻には、大人が優に出入りできるような大穴が空けられ、  
その下に露出した皮膚までもが衝撃と高熱に曝され、ジクジクと血液を噴出していた。  
 
「………っ!まだ生きてる!!」  
 
必殺の一撃<ジャガーノート>を受けてもなお絶命しないその生命力にナツメは驚愕。  
だが、敵は相当弱っている。歴戦の猛者とは言えない彼女の観察眼を以ってしても、  
二発目を回避する体力がおよそ残っていない事は断言できた。  
止めの一撃を加えるべく、ナツメは<フロムヘヴン>を再び構え―――――………。  
 
 
 
 
「跳びなさいナツメっ!!」  
 
背後から掛けられたエミリアの声。  
デスパイアの身体が一瞬、膨張したか見えた。  
―――――刹那の攻防。  
頭で判断するよりも早く、ナツメの脚はありったけの魔力と筋力を集め、地を蹴っていたのだ。  
 
 
 
ごぷ……………―――――――――ドボボボボボボッボップァ!!!  
 
 
 
敷地全体を飲み干すのではと思われた白い爆発。  
一体あの身体のどこにコレだけの体液が収められていたのか。  
質量保存の法則を疑わせるような射精が敢行された。  
 
 
 
「……………ナツメ、無事?」  
 
「……な、なんとか。エミィちゃんのお陰で」  
 
すんでの所でナツメは売店の屋根の上へと逃れていた。  
一方のエレミアはスピーカー塔の上。  
細い鉄柱の上に爪先を使って器用に立っていた。  
 
「………ちッ!まんまと逃げおおせたわね。あと一歩のとこだってのに」  
 
まかり間違っても被りたくない煙幕が落ち着くと、既にデスパイアの姿は無かった。  
 
「どうやって逃げたんだろ?とても動けそうな感じじゃなかったのに……」  
 
「多分、ブッ放しながらザーメンの上を滑って行ったんでしょうね」  
 
「う………うわぁ……。ソレは豪快というか、余り見たくないというか……」  
 
エレミアの冷静な解説にナツメの顔がゲンナリと崩れる。  
ハレンチ極まりないスケーターが滑っていったと思われる方角にはキラキラ輝く白濁液の川。  
重機で抉ったような爪跡をタイルに刻み、フェンスをブチ破り、プール裏手の緑地の中に突っ込んでいる。  
ファインダーに収めておけば、色んな賞が総ナメにできた。………かもしれない。  
 
「でー……、これからどうするの?」  
 
「何言ってるの!追うわよ!!」  
 
「あう、やっぱり………」  
 
エレミアの返事にナツメが嫌そうに溜息をつく。  
あんなもモノ、頭から被ったら青春台無しどころでは済まされない。  
 
「エンジェルがビビってちゃダメ!引き摺ってでも連れてくわよ!」  
 
「あー、うん。わかってるって―――――――――」  
 
はァ、―――――――――あぁぁぁぁぁあンっ!  
 
「…………えっ!?」  
 
突如湧き上がった悩ましげな嬌声に、ビクっと二人の声が揃う。  
 
「な………、何なのよ………これ?」  
 
「……………………」  
 
眼下に広がる光景に、思わずナツメは声を上ずらせる。  
一方のエレミアは黙って表情を押し殺しその景色を見つめていた。  
 
「あん、あん、あぁぁぁん………あっ!」  
 
「はう……キモチ………いい……ッ」  
 
「はぁ……、はぁ……、はぁ……、うんッ!」  
 
プール全体を洗い流すようなスペルマの海の中で、  
先刻までデスパイアに嬲られていた女性たちが悦びに打ち震えている。  
どうやら奴の吐いた白い煙幕、いや、精液の大洪水に巻き込まれたらしい。  
水着は一人残らず溶かされて汗ばむ身から剥がれ落ち、  
先っぽを尖らせた乳房がブルンブルン踊る。  
恥部に生い茂る艶っぽい繊毛は日光に曝され、  
陰部から流れ出る愛液は真っ白な空間を希釈していく。  
 
膝下までつかりそうな精液の上を流れていく色とりどりの水着の破片。  
惨めに汚され尽くしたこの夏の流行の残骸。  
ナツメの立っている売店のすぐ下で、  
一着の黒い紐ビキニが音を立てて小さくなっていく。  
すぐ傍には持ち主と思われるロングヘアーの女性。  
右手で自らの乳房を揉みしだき、左手は股間の秘裂へ。  
その顔は既に理性を宿さず、極上の歓喜に打ち震えていた。  
 
「ひ………あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁあぁあん!!!」  
 
次々と絶頂の叫びが上がり始める。  
 
「―――ナ――――メ、――――――ツメ、ナツメ!!」  
 
「……………あ!?」  
 
エミリアの声に彼女は再度ビクリと身体を震わせ、我に返る。  
 
「ナツメ、気をしっかり持ちなさい。彼女たち、これでも助かった方なのよ」  
 
「え、あ、うん。…………でも」  
 
ナツメは考えてしまう。  
この人たちは、何か悪い事をした訳でもない。  
家族と、友人と、恋人と過ごす今日のひと時を、ただ楽しみにしていただけだ。  
なのに………いきなり化け物に襲われて、無理やり……されて、女の誇りも奪われて、  
こんな格好にまでさせられて、お気に入りの水着もボロボロで、  
最後はみんなが見てる前で、自分のカラダを――――――。  
 
「な…、ナツメ!待ちなさい!!」  
 
彼女たちの元に飛び降りようとしたナツメを慌ててエレミアが制す。  
 
「な、何でよエミィちゃん!助けてあげなきゃ!!」  
 
潤んだ瞳でナツメはキッと戦友を見つめた。  
 
「違うわよ!今あの中に足なんか突っ込んでみなさい!  
 靴なんかアッと言う間に溶けて、あなた彼女たちの仲間入りよ!?」  
 
珍しく強い視線を投げ返してきたナツメをエレミアが諭す。  
 
「……………で、でも」  
 
尚もうろたえるナツメの隣に、エレミアは跳んで来た。  
 
「いい、ナツメ?良く聴いて頂戴。もうじき救護班が来るわ。  
 彼らはプロだから、あの人たちはそっちに任せて置けば大丈夫。  
 私たちがヘタに手を出しても何ひとつ好転しないわ。わかる?」  
 
「………………」  
 
同い年の先輩の言葉に、ナツメは瞳を伏せて頷く。  
 
「そうよ、私たちに出来る事はあのデスパイアを仕留める事。  
 あいつ、手負いだからきっとこれから他の女性たちを次々襲うわ。  
 そしてこっから先の被害者はこんなモンじゃ済まされない。  
 それどころか、完全に再生してしまえば、勝てる保障だって無いの。  
 こっちは今の戦いで手の内明かしちゃってるんだから。  
 モタモタすれば………次にこうなるのは私やナツメかもしれないのよ?  
 だからそうなる前に、私たちが奴に引導を渡すのよ。いいわね?」  
 
エレミアの言葉は正論だ。  
さほどお喋りではない彼女が、ナツメの為にここまでまくし立てているのだ。  
一緒に戦うようになってまだ日は浅いが………、  
彼女の気持ちだけはしっかりとナツメに届いていた。  
 
「………うん。ごめん。無茶言っちゃって」  
 
「………………ふぅ」  
 
ようやく出てきたナツメの言葉にエレミアは顔を綻ばせ、ポンっと後輩の肩を叩いた。  
そしてすぐさまいつもの表情に戻ると、漆黒の衣装を翻し跳躍。  
遊具や建物を飛び石代わりにして、白い海の上空を駆け抜けていく。  
目指す先はデスパイアの消えた緑地。  
一拍遅れてナツメがその後に続く。  
 
 
 
あぁん……あん……あん……あぁぁあん、あん  
 
はぁ、あわわ、んぁ‥‥んんンー  
 
イクっ、イクっ、うそ、もう、イク‥‥ん、ハァ、ひぃ  
 
 
 
どこまでも続く痴態の沼。  
下から沸き立つ甲高い喘ぎに後ろ髪を引かれながら、ナツメは宙を駆ける。  
エレミアに諭された今でも、この声を聴くと逃げている気分に囚われてしまいそうだ。  
 
「……………………」  
 
もう一度、頭の中で彼女の言葉を反芻し、片隅の迷いを打ち払う。  
 
負けられない……。絶対に、負けられない。  
 

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