〜粉砕天使ナツメ いんたあみっしょん〜  
 
「い、嫌ァァァア!パパっ、ママーーーァっ!!!」  
 
真夜中の閑静な住宅地。降りしきる雨音を切り裂き少女の悲鳴が響き渡る。  
幹線道路から少し入った所に立ち並ぶ、ありふれた木造二階建家屋。  
駐車場に止められた車のボンネットは仄かに温もり、この家の主たちが帰宅からまだ間もない事を物語っていた。  
外灯に照らされる表札。そこに刻まれた二文字の漢字。それが今宵、何もかもを奪われた一家の苗字だった。  
 
………―――――『藤沢』  
 
♯  
 
「い、い、ひぃっ!やめ、やめぇ、やめてぇぇぇぇえーーーーーー!!」  
 
関節が外れてしまいそうなほど頭を左右に振りながら、狂ったように泣き叫ぶ少女。  
その白く細い四肢には腐臭を放つ何本もの触手が絡みつき、彼女の両脚をMの字に開かせたまま拘束している。  
股間を覆っていたパンティは今や足首にぶら下がり、少女が暴れるたびに降伏を表す白旗の如く振り回されて踊っていた。  
 
「あぐ……ッ!やだァ!こんなのっ、こんなのーーー……っ!!」  
 
彼女を背後から抱きかかえるようにして戒めているのは大人の背丈ほどもある大きな肉の塊。  
そのグロテスクの極致といえる体からは無数の赤黒い触手が伸び、その少女、藤沢ハルカを辱めていた。  
股間に頭を埋めた亀頭が蠢くたびにカーペットの上に滴る真っ赤な印。その喪失の証を上書きするように今度は乳白色の粘液がどろりと落ちる。  
幼い娘の膣内を自らの子種で満たしても、肉のバケモノは飽きもせず休みもせず抽送を続ける。  
 
「あぅ……、えっぐ、なんで……!なんで……!なんでなのぉ……!!」  
 
子作りに励む怪物の周囲に横たわるのは、ほんの数分前まで人間として生命活動を行っていたモノたち。  
次女を助け出そうとした一家の主は、唯一の武器となったゴルフクラブを握り締めたまま、胸板を貫かれ息絶えていた。  
その傍らには妻の亡骸。頭蓋を強打された彼女は、一番年下の翔太を庇うように抱き締めたまま、既に帰らぬ人となっている。  
間一髪のところで腕の中で抱き留められた息子は、意識こそ失っていたものの、辛うじて一命を取り留めているようだ。  
 
「なんでぇ!なんでこんな、なんでこんな事するのっ!!ねぇってばぁぁぁぁあ!!………あぅっ!!」  
 
ゴールデンウィークを軽井沢で過ごし、Uターンラッシュを掻き分けようやく帰宅した藤沢一家を待ち構えていたのは、留守の間に床板を突き破って入り込み、我が物顔で居座っていた手負いのローパー型デスパイアだった。  
二階の次女の部屋で待ち構えていたバケモノは、後部座席に長時間揺られ続けて帰宅したハルカを一瞬の内に捕獲し、彼女の初体験と駆け付けた両親の命を永遠に奪ってしまった。  
 
「や、やぁ………っ!!」  
 
ローパーはその身をブルブルッっと震わせたかと思うと、今宵三度目となる射精を敢行。  
膨れ上がった肉棒が真っ白に爆ぜ、ほんの十分前までは穢れひとつ知らなかったハルカの中に、天文学的な数の精子を放つ。  
 
「ひ、ひッ!もうやめ、やめぇー………―――――あぐっ!?」  
 
気が振れてしまいそうな悲しみも、壊れてしまいそうな快楽も、そびえ立つ肉の塊は一向に意に介さない。  
ただただ自らの眷族を世に蔓延らせるため、年端も行かぬ少女の膣に枯れる事無き命の素をひたすら注ぎ込み続けていた。  
 
♯  
 
「うぐ……、あぐぅ……っ!!お姉ちゃァん!お姉ちゃーーーーーん!!」  
 
呼んでいる。誰かが呼んでいる。そうだ。この声は間違いない。ハルカだ。ハルカが助けを求めている。でも一体、なんで……?  
 
「………―――――痛っ!!」  
 
右腕に走った激痛が、ようやく彼女の意識を底無し沼から救い上げる。  
咄嗟に見遣った利き腕は、百科事典を握り締めたまま肘の辺りから有り得ない角度に曲がっていた。  
 
「………!!!」  
 
長女の頭の中で、途切れる寸前の記憶が蘇る。  
バスルームから出てパジャマを着込んだ直後、家中に響き渡った悲鳴と振動。  
無我夢中で二階へと駆け上がり、そこで彼女が目にしたものは、血の海に倒れ伏した両親の姿と、巨大な肉の塊に抱きかかえられたまま暴行されている妹ハルカだった。  
 
こめかみの辺りで何かが途切れたような音がして、訳も分からず、彼女は手近に転がっていた分厚い本の背表紙で殴りかかっていった。  
しかし殴打の瞬間、その右腕は肉の縄に絡め取られて曲げられ、ゴキリという嫌な音が聞こえた直後、長女の体は宙を舞いクローゼットに勢いよく叩きつけられたのだ。  
 
「ハ、ハルカ………っ!うぐッ!?」  
 
右腕だけではない。立ち上がろうとした彼女の背筋を鈍い痛みが走る。  
半歩と踏み出さない内に、長女は前のめりの体制のまま床に突っ伏す。口の中に広がる鉄の味。唇を切ってしまったようだ。  
 
「く、くぅ………―――――あぐっ!?」  
 
何とか頭を起こした彼女の首筋に、真っ赤な縄が掛けられる。慌てて左手で掴んでも、ローパーの触手はギリギリと食い込むばかりで一向に緩む気配が無い。  
粘液に濡れたその表皮は幾筋もの血管が走り、ドクンドクンと規則正しい鼓動を刻みながら分厚い筋肉を波打たせていた。  
その気になれば、こんあ細首など野花の茎を折るようにして両断してしまうだろう。  
 
なら、なぜそうしないのか?  
 
至極簡単な事だ。  
じっとしていろ。そうすれば殺さないでやる。妹の後にたっぷりと可愛がってやる。  
無言の内にそう伝えるデスパイア。波打つ皮膚に浮いたシワは唇のように歪みニンマリと笑っている様ですらあった。  
 
「お願い……!だったら……っ、ハルカはもう、ハルカはもう放してあげてぇ!!」  
 
そのの悲痛な願いが届いたのかどうかは判らない。耳も口も目も無いこのバケモノから、返事が帰って来るはずが無かった。  
唯一彼らが持っているのは生殖器。これだけで彼らの一生が求める総ては足りてしまうのだ。  
その内の一本が、長女の方へとやって来る。  
 
「――――――――あっ!」  
 
第二ボタンまで外れたパジャマの襟元から触手は侵入。きめ細やかな肌をまさぐりながら這い進み、胸板の上にでんと構えた二つの果実を探り当てる。  
床に押し付けられて潰れ気味のオッパイ。その合間に出来た柔らかな谷間に、触手は頭を埋めてきたのだ。  
ボディソープの香りが残る柔肉に、強烈な悪臭を放つ粘液が塗り込まれていく。左右にピクピクと曲がっては戻るその運動は、まるで長女の躯を品定めしているかのようだ。  
 
「……うぐ!!」  
 
首に巻きついた触手が力強く収縮し、彼女の体はローパー本体の方へと大きく引き寄せられる。陵辱者の興味はどうやら、妹より遥かに豊潤に育った長女の肉体へと移り変わったようだ。  
 
(だったら早く……、早くハルカを放してよ……っ!!)  
 
だが、どうやら嘆願が受け入れられた訳ではなかったようだ。  
 
「………―――――なっ!?」  
 
新たに伸びて来た二本の触手が尻を突き出させるような姿勢で彼女の腰を持ち上げると、パジャマのズボンの一気に腿の半ばまでずり降ろしたのだ。  
現れたのは晴れ渡った五月の空のようなスカイブルーのショーツ。即座に触手たちは股布越しに彼女の秘所を撫で上げ、これから堪能するディナーの舌触りに思いを馳せる。  
 
「や、やめぇ…!お姉ちゃんにまでしないでぇーーー………!!」  
 
犯されながら自分を庇うハルカの声が酷く遠くに聞こえる。  
なぜ自分はこうまで無力なのか。なぜ助けようとしていたハズの妹に命乞いをさせているのか。  
一体何が、何が足りないと言うのか。覚悟?気力?それとも勇気?  
分からない。なぜ自分たちは、ただ相手の意のままに貪られるのだろうか………。  
 
憔悴に焦がされた思考はもはや意味を成さない問答を繰り返す。  
ひやりとお尻を撫でる冷たい空気。ゴムを伸ばされたショーツが剥かれ、下半身が丸出しになったのが感じられる。  
 
「ごめん……。ごめんハルカ……」  
 
終わりだ。いや、――――――――絶望の始まりだ。  
きつく目蓋を閉じて歯を食い縛り、股間を貫く痛みに耐えようとしたその瞬間……。  
一筋の閃光と共に、世界は反転した。  
 
♯  
 
「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!?」  
 
降り注ぐガラスの五月雨。一瞬、月の破片が窓から飛び込んで来たのかと彼女は思った。  
どこに発声器官が備わっていたのやら、今まで一声も発しなかったローパーが怪鳥のような絶叫を轟かせ、滅茶苦茶に触手を振り回す。  
放り出されたハルカは運良くベッドシーツの上に。一方の長女は降ろされた衣類を履き直すことも忘れ、カーペットの上に伏したまま呆然とその光景を眺めていた。  
 
「ぎぃ!ぎぃぃ!ぴぎーーーーーーーィ!!」  
 
一撃で王座から蹴落とされたローパー型のデスパイア。その体には蒼白い光を放つ三本の針のような物体が矢の如く突き刺さっている。  
のたうつバケモノの触手が頭上すれすれを掠め、ようやく我に返った彼女は慌ててショーツとズボンを持ち上げる。  
 
―――――――ガシャァーーーーーーーーン。  
 
再び破砕音。先ほど閃光が空けた穴を大きく広げてガラスを打ち破り、部屋の中に飛び込んできた影。  
 
「………え………!?」  
 
それは、人の姿をしていた。  
降り積ったばかりの雪のように白いプラチナブロンド。銀化を溶かして鋳造したような灰色の瞳。高すぎず低すぎない鼻梁に、強い意志の力を宿したシャープな眉。  
淡い中間色で統一された顔の各パーツは、まさに完璧としか言いようが無いバランスで配置されている。  
その下のモデルのように細いボディラインは、新月の夜空を思わせる黒一色の衣服で覆われ、呆れるほど白い肌と絶妙なコントラストを成していた。  
そして窓から射し込む街灯の光を背に立つその輪郭は、自分と似たような年頃の少女のものだ。  
 
(………天……、使…!?)  
 
或いは死神か。いずれにせよ目の前に現れた少女の纏う空気は、とても現実のそれとは思えなかった。  
神話や戯曲、それとも御伽噺か何かから飛び出してきた人物。  
自分の願望が生み出した幻なのかとも思ったが、彼女が一歩踏み出すごとに響く確かな足音がそんな迷いを打ち消す。  
 
(い、一体……なんなの?)  
 
唐突に展開された超越者同士の対峙に、長女の思考は全く付いて行けない。  
そんな彼女の困惑を他所に、二階の窓から飛び込んできた黒衣の少女は、自らの携行する武器の照準をデスパイアに定めた。  
優美でいてどこか禍々しい紫色の弧。その両端からは先刻の光と同じ色に輝く弦が伸び、今まさに撃ち出されんとする光条の底部を捉えている。  
つまりこれは、………弓矢だ。異形の存在を狩り獲る為の狩猟道具なのだ。蒼白く輝く矢先で狙い定められたバケモノは明らかに恐怖の色を浮かべ度を失っている。  
 
「………っシィィィィィィィイイ!!」  
 
怒りと恐怖に任せた咆哮。ひときわ太い触手が部屋の隅に在った書棚を手繰り寄せ、天敵に狙いを定めて投げつける。  
架けられていた書物をドサドサと振り撒きながら、木製の直方体があわや天使を直撃しようとした瞬間、彼女は軽快なステップでその身を翻し、飛来した本棚に右手で裏拳を見舞う。  
細腕から放たれた信じ難い一撃で書棚は軌道修正され、ベキベキと言う効果音と共に窓枠に突っ込み静止した。  
 
「………………………」  
 
呆気に取られ声も出ない長女。圧倒的な戦力差に身動きひとつ出来ないバケモノ。  
目の前の存在が放つ威容に、一人と一匹は不可視の糸で床に縫い付けられてしまっていた。  
あからさまに追い詰められていたローパーは、藁にもすが思いで部屋の中をぐるりと見渡す。  
哀れにも、その悪あがきの成果として見出されてしまったのは、ベットの上に投げ出され気を失っていた次女だった。  
 
「……ハ、ハルカっ!?」  
 
幼い体を蹂躙され、真っ赤に晴れた秘部から白濁液を吐き出し続けていたハルカは、再度その身を触手によって捕らえられ、輝く矢の射線上へと突き出されたのだ。  
 
「……――――――ちッ」  
 
舌打ちが聞こえた。  
人質を前にしたその瞬間、今まで仮面のような無表情を保っていた天使の顔が僅かに歪む。  
およそ知性溢れる容姿から程遠い形態のバケモノであったが、どうやら一般人を盾にするだけの知恵は持ち合わせていたらしい。  
キリキリと張り詰める弓先に、微かな焦りの気配が差す。  
 
「フシュー……!フシュー……!」  
 
一方のデスパイアの息も荒い。  
無理も無い。今の状態は言ってみれば単純に猶予が出来ただけであり、戦況がデスパイア側に傾いた訳でも決して無いからだ。  
逃走しようと一歩でも動けば、人質はバケモノと狩人とを結ぶ線上から外れ、それこそローパーは瞬き一つできぬ間に無数の矢を浴びせられ、サボテンのお化けになってしまう。  
うっかり力加減を誤り、人質に危害を加えてしまった場合も同様だ。  
 
戦況は膠着状態に陥っていた。  
 
♯  
 
女神のように美しいシルエットと、この世の物とは思えないほど醜いシルエット。  
およそ一枚の絵に同時に存在できないほどの落差を宿すふたつの影を、長女はただ見つめることしか出来ずにいた。  
戦いに関する知識など何ひとつ有していない彼女でも分かる。動けないのだ。目の前の一人と一匹は。一歩たりとも。  
そして――――――余りに無力な自分も。  
 
「ぉ………ねぇ……ちゃ……」  
 
「!!」  
 
部屋の空気を微かに震わせ響いたその声。聞き間違う筈が無い。  
 
(――――――ハルカ…)  
 
気を失っていた妹の瞳が僅かに見開き、姉の倒れている方角を見つめている。  
涙に濡れたその瞳が訴えているのは救済か、それとも別れの言葉なのか。  
バケモノに犯された挙句、人質に取られている妹の瞳。その弱々しい輝きは、今にも消え失せてしまいそうだ。  
 
それでも彼女は闘っている。何もかもが折れてしまいそうな絶望と。狂ってしまいそうな恐怖と。  
 
(……それなら、……――――――それならッ!!)  
 
自分がここで伸びている訳には行かない。  
何としても、例え命と引き換えになったとしても、妹を救い出す。  
今この瞬間は、それだけが全てでいい。私の……―――――藤沢ナツメの全てでいい。  
 
「………く………ぅっ」  
 
折れ曲がり激痛が走る利き腕を叱咤し、バケモノに感づかれないようにカーペットの上を這う。  
向かう先には父の亡骸。ようやく顔の見える位置まで這い進んだナツメは、そのカッと両目を見開いた父の死に顔に息を呑む。  
 
(………パパ………)  
 
思い出が走馬灯のように流れる中、まだ温もりを失っていない指を一本一本丹念に解き、ゴルフクラブを父の手の内から抜き去る。  
確かこれは去年の父の誕生日に、他の家族みんなでお金を出し合ってプレゼントしたアイアン。  
汗と血にまみれたグリップを両手で堅く握り締め、まるで蜃気楼か何かのように、ナツメはゆらりと立ち上がった。  
 
「……………っ!?」  
 
その姿に先に気が付いたのは銀髪の少女の方だった。  
端整な顔立ちに驚きと困惑の色を浮かべ、その開きかけた唇が何かを言おうとしていた。  
が、時既に遅し。彼女が止めるよりも早く、ナツメは駆け出していた。  
 
「うぁぁぁぁぁぁぁぁアーーーーーーーーーーーーっ!!!」  
 
およそ少女の物とは思えない絶叫。  
 
「よ、よしなさいッ!!」  
 
悲鳴にも似た天使の制止も、その雄叫びの前に掻き消されてしまった。  
思い掛けない横槍に仰天したデスパイアが、ナツメの頭を打ち据えようと横薙ぎに触手を揮う。  
だが、元より僅か数歩にも満たない距離。ナツメの方が先だった。  
 
打ち下ろされるゴルフクラブ。彼女が狙っていたのは妹を捕らえている触手の付け根。ぼっこりと膨らんだ肉の瘤だ。  
 
(――――ダメ!殺られるッ!!)  
 
堪らずに飛び出す黒衣の天使。  
デスパイアにそんな打撃が通用する筈が無い。負の魔力でコートされた連中の皮膚は見掛けより遥かに頑強だ。  
およそ鈍器による殴打などで倒せる相手ではない。気が動転している長女の次の一撃が放たれる前に、彼女の頭は触手で薙ぎ払われ、弾け飛んでしまう。  
そう思った。天使は思ったのだ。しかし………!!  
 
 
 
……―――――ドグシュ。  
 
 
 
静寂を打ち破る鈍いインパクト音。  
 
「……―――――なっ!?」  
 
ナツメの放った一撃は、ローパーの皮膚を見事に食い破り、紫色の皮下組織へと突き刺さっていた。  
インパクトの瞬間、彼女の全身は淡い白色に光り輝き、両腕を介してクラブに伝わったその煌きが、怪物の纏う闇の帳を打ち払ったのだ。  
天使はとにかく我が目を疑う。あのクラブはただのゴルフクラブだ。何らかの魔力が宿っている武器でも無い。  
だとすれば……、あの輝きは彼女自身が有する力が、感情の爆発を引き金に発露したものに他ならない。  
 
「、ギ、ギ、ギィィィィィィィィィイ!!!」  
 
「―――――!」  
 
デスパイアの絶叫に天使はようやく我に返る。  
ゴルフクラブの突き立てられたままになった傷口からは、冗談のような量の血液がアーチを描いて噴出していた。  
盲滅法に動き回る触手が部屋の調度品を打ち付け、破壊の嵐を巻き起こす。  
 
すぐさま<クロイツァー>の弦を引き絞り、ノッキングした矢をリリース。  
立て続けに秒間五発の高速連射を見舞い、半狂乱のまま踊り狂う肉塊を針山へと変える。  
傷口から決壊する血液と魔力の奔流。内圧を失った肉の袋は、紙風船のようにクシャクシャに萎んでいく。  
 
……―――――数十秒後。  
潰れたミイラのような姿に変わり果てたデスパイアはサラサラと、風も無いのに崩れ去り、小さな光の粒子となって窓の外へと消えて行く。  
狂気の幻想の宴が去り、静けさに包まれる一室。そこに響き渡るのは少女の啜り泣き。  
デスパイアの戒めからようやく解き放たれた妹をその胸に掻き抱き、背中まで伸びた半乾きの黒髪を震わせながら、祈るような姿で彼女はただひたすら泣き続ける。  
それはあたかも、今夜失ったものと……、守り通したものを確かめるかのように―――――。  
 
 
 
―――――これが、藤沢ナツメと葬送天使エミリアの出逢いだった。  
 
 

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