「起きて」
落ち着いた、透明感のある声。
聞き慣れたその声に私が目を開けると、そこには同僚のセーラがいつもの無表情な顔で立っていた。
「あ……おはよう、セーラ」
「支度して。ご奉仕の時間だから」
それだけ言うと、彼女は化粧室に向かっていった。
「まだ、生きてるんだ、私」
誰に言うわけでもなく、呟いて立ち上がり、着替えを始めた。
パジャマを脱いで、下着も新しいものに替える。
しかし、私には本当にいつも白い下着しか支給されないなぁ、と思う。セーラは時々カラフルなのをもらえるのに。
「…まあ、立場が違うもんね」
ため息をつきながら、いつもの黒いメイド服に袖を通し、ヘッドドレスをつける。と、
「おはよう、セーラと真樹」
後ろから、ご主人さまの声がした。
「おはようございます、ご主人さま!」
私は急いで振り返って頭を深く下げる。
セーラも化粧室から飛び出してきて、同じく頭を下げる。
「ふん、今日もちゃんと準備をしていたようだな」
頭を上げると、私と同い年のご主人さま――佐久誠さまの冷たい瞳が私を見ていた。
するとセーラが口を開く。
「今日もご奉仕は二人でご主人さまのお部屋で…」
「いや結構」
「えっ?」
その時、ご主人さまの眼が私をキッと睨んだように見えた。
「もう真樹は俺の部屋には入れない事にした。真樹、お前にはここで奉仕してもらおう」
そして、そう言い終わらないうちに、ご主人さまは私をすぐ後ろのベッドに押し倒していた。
「構わないよなぁ、真樹」
「は、はい」
「返事は『はい』だろうが!」
「うっ!!」
ご主人さまの右手が、私の頬を打つ。いつものことだと分かっているのに、私は悲しくなる。
「謝れ」
「申し訳ござ…ん!ぐぅ…」
今度は、口のなかにディルドを突っ込まれる。抵抗が許されない中、強く喉の奥まで押し込まれた私を吐き気が襲う。
「吐きそうだろう!だが吐くなよ、吐いたらさらに折檻だ」
「んぅ、んぅぅ……」
「セーラ、念のためバケツを持って来い」
「かしこまりました」
吐きたくなんかない。
ご主人さまの目の前で、そんな有様は…でも、もう…
「うぁげほげぼぐべぼぼぁ!!!!」
声にならない声を出しながら、とうとうセーラが持ってきたばかりのバケツにディルドごと嘔吐してしまった。
「吐いたか」
「う…ぁぁ…申し訳…ございません…ぐっ!」
さらに腹を蹴られた。うつぶせになって倒れた私には見上げることもできないが、何か近くでゴトリと音がしたのは分かった。
「この馬鹿メイドがぁっ!」
直後に、頭に強い衝撃と激痛。恐らく、木製バットだろう。
「ああああああああぁぁぁぁ!!!!」
痛みに悲鳴を上げる私に、第二撃が命中する。
脇腹をアッパースイングで捉えられ、悶絶する。
「く…はっ…ご主人…さま…うぅ」
腹をやられたことで悲鳴も上げられなくなり、私の眼からは涙が流れだす。
ふと目の前に広がるシーツを見ると、赤い点を見つけた。私の頭から出血があるんだと、その時やっと理解した。
「さて、セーラ」
「はい」
「始めようか」
私に背を向けたご主人さまの視線の先には、さっきからこの様子を無表情なままに見ているセーラが立っていた。
「ん…ちゅっ…ちゅぷ…んぅ…」
ご主人さまの口づけを小さなセーラは背伸びをして優しく受けとめて、二人は舌を絡め合う。ここにメイドとして勤めてから一ヵ月、私には一度も出来なかった事を、二人は何度も繰り返している。
そして、そんな二人を見つめたまま、動くことも出来ない私。
「セーラ…」
赤ちゃんの肌に触れるかのように丁寧に、セーラの長い金髪が愛撫される。そしてそのまま、メイド服の胸をはだけさせると、美しい形をした乳房が露になる。
彼女は下着を着けていなかったのだ。
「うっ…ぁ…」
ご主人さまに乳首を甘噛みされるたびに、セーラの人形のように固まった表情に少しずつ変化が現れ、小さな声が漏れる。
ご主人さまは左手でそんなセーラを抱きよせながら、右手をスカートの中へ潜り込ませた。
「ぁ…ふぁあぁっ!」
人形の顔に赤色が浮かび、ご主人さまにしか見せないおねだりの目をする。
口でねだることはなく、ただ目で、「欲しいです」と懇願しているのだ。
「さすがは淫乱セーラだなぁ、朝からそんな目をして…ほら、味わえ!」
ご主人さまが強くセーラを抱き寄せたかと思うと、そのままファスナーを開いてペニスを出し、彼女に押し込んだ。
「あぁっ、ご主人さまが……」
ご主人さまに貫かれて、セーラは恍惚の表情を浮かべながら体を震わせた。
「十分に濡れてるじゃないか、え?」
「だって、あっ、ご主人さま、ですから、はぁんっ」
駅弁の姿勢で強く突き続けられて、快感に酔いしれるセーラ。
結合部からは愛液が滴り落ち、二人がぶつかるたびぐちゅ、ぐちゅと淫らな音が部屋に響く。
ふと、私の股間が熱くなっているのに気付く。欲しいのだ、私も。
「やっぱりセーラは体が小さいから締まりもいいな」
「あ、ありがとう、ございますっ」
「さぁ、ラストだぞ!」
「はいっ!あ、あっあっあっあああぁっ!!ご主人さまっ!ごしゅじんさまぁっ!!!!」
二人の動きがさらに激しくなる中、最後のセーラの絶叫と同時に、ご主人さまの動きは止まる。
セーラはご主人さまにしがみついたまま数回びくびくと震え、その後ご主人さまに優しくベッドに寝かせられた。
結合が解けた後の蜜壺からは、白いご主人さまの精液がふとももを伝って流れていた……
「ご主人さま…気持ち良かったです」
「そうか、今朝はここまでだ」
ご主人さまは私を見る事無く部屋を出た。その時、泣き止んだはずの私の目から、大粒の涙が流れ始めた。
「これで大丈夫ね」
私の頭に包帯を巻き終わると、セーラは短く息を吐いて立ち上がる。
「じゃあ、私は食事を作ってくるから」
くるりと背を向けて歩きだす彼女に、私は声をかけた。
「セーラ」
「何?」
「私、邪魔かな?」
「そんなことはないわ」
振り向かず、背中を向けたままの会話。
「でも、よく怪我で仕事が出来ないし…」
「普通、ご主人さまに嫌われてるメイドは怪我しても仕事は休めないわ」
「えっ…」
「あなたは嫌われてなんかないの。ただ、ご主人さまは恐いだけ」
ようやく振り返ったセーラの瞳は、無表情な中にありながら、それでも悲しみを帯びているような気がした。
「心から愛されているのかが、恐いだけ」
そう聞こえた直後、視界が急に歪む。
「あ…れ…?」
崩れ落ちる私の身体。失われる色彩。
私を呼ぶセーラの声が聞こえたような気がして、そのまま私の意識は途切れた。
小学生の頃に、私達は出会った。
家族もなく、孤児院から学校に通っていた私を、何の偏見もなく迎えてくれた彼。
彼のおかげで、私は友達が増え、楽しい学校生活を送ることが出来た。
けれど、高学年に差し掛かった頃、私たちの関係に亀裂が走る。
資産家の息子だった彼に周囲の目は厳しくなっていき、その両親が海外に住みはじめたと分かったとたんにいじめが始まった。
そして私も、あろうことか彼をいじめていたのだった。
たくさん出来た友達がいなくなるのが恐くて、その友達が出来るきっかけを作ってくれた彼を、いじめ続けた。
田舎にある学校にはよくあることで、私たちは同じ中学、同じ高校へと進む。
いじめはその間にもエスカレートを続け――
――そしてある日、彼は高校を辞めた。
その日のことを、私は今でも覚えている。
彼が退学した旨を担任が伝えると、教室は歓声に包まれたのだ。
そんな中、私は一人恐怖に襲われていた。私のしたことで、一人の人生が狂った、その事実への恐怖に。
そして気がつくと、私は彼の屋敷の前に立っていた。
その時初めて出会ったセーラに中へと通されると、そこには怒りを露にした彼の姿があった。
私はその場で土下座をし、泣きながら全てを謝罪した。なんでもして償うから、と。
すると、彼は私に「この家の住み込みメイドとしてタダ働きする」ことを要求してきた。
『俺のメイドになれ』
『メイド?』
『嫌か』
『…分かったわ』
そして私はメイドになることを受け入れた。すると、
『さて、もうお前は俺のメイドだ。何をされても拒否権はないぞ』
私はその場に押し倒され、高校の制服を脱がされた。
そして、恥ずかしがる暇もなく、
『嫌あああああぁぁ!!!』
私の中に、無理矢理硬いものがねじ込まれた。
初めて感じる激痛に悲鳴を上げるも、彼は冷たく笑うだけ。
それが引き抜かれると、その笑みは更に恐ろしさを帯びた。
『なるほど、これはいい!こんなディルドで処女を失うとは、まさにお前にふさわしいじゃないか!』
目の前に映ったのは、破瓜の血にまみれた、男性器「の形をしたおもちゃ」。
大切に守ってきた私の純潔は、そんなおもちゃに破られ、汚されたのだ。
謝りにきた時点で、私は「彼に」処女を捧げる覚悟は出来ていた。だが、こんな処女喪失を、私は認めたくなかった。
『そんな…うぅっ…』
泣きだす私。そんな私の横に、新品のメイド服が置かれる。
そうか、これがこれからの私の立場なんだ。私はメイド服を抱きしめ、下着姿のまま、セーラに連れられてメイド部屋に向かっていった。
セーラから、真樹が倒れたと連絡が入り、俺は何故か焦っていた。
俺を長い間傷つけてきた女が倒れたのに、何故焦るのだろう。あんな女、どうなってもいいじゃないか。
「ご主人さま」
ふと、セーラの声に顔を上げると、病院の廊下の窓から見える辺りの景色はすでに夕焼けに染まっていた。
「何だ」
「心配なんですね」
「黙れ」
「申し訳ありません」
セーラも時々鋭いことを言うから困る。
「お前は人形でいればいいんだ」
「はい…」
頷き、そのまま黙るセーラ。
それでいい。無駄な感情は、忠誠の低下と主人からの不信を招く。
俺のメイドは人形でなければならない。そう、真樹だって、そうならなければいけないのだ。
真樹については、やはり罪の意識から仕方なく従っているようにしか俺には思えなかった。
むしろ、以前自分に害を与えた人間を信じることは俺には無理なことで、彼女をメイドにしたのは、一度彼女を「破壊」して、従順な人形にするという復讐のために過ぎなかった。
それにしても、何故こんなに、俺は不安になるのだろうか。
しばらくして、医師がやってくる。
「先生、真樹は…」
「ひどい事するねえ、誠くん」
親父の代からのつきあいであるその医師は、俺をニヤニヤ顔で見ながら言う。
「命に別状はないよ。ただ、一週間は安静にすべきだね」
「……ありがとうございます」
しばらく医師と話をすることになるので、先にセーラを病室に行かせておいた。
一時間くらい経っただろうか、話し合いが終わり俺が病室のドアを開けると、そこには頭に包帯を巻かれた真樹の姿があった。
「ご主人さま……」
あれだけの暴行を受けつつも俺のことをご主人さまと呼ぶ彼女は、非常に弱っているふうに見えた。
「とりあえず一週間は安静らしいから、休んでろ。入院が長引いて金を多く取られたら困る」
「申し訳ありません……」
それからしばらくの沈黙。そしてそれを破ったのは、真樹だった。
「ご主人さま」
「何だ」
「セーラから聞きました……私の住んでいたアパートの家賃が、まだ払われ続けているって」
「……」
あのバカが。
「もう、そんなことなさらないでください」
「何故だ?お前の私物がたくさん残っているだろう?」
「私は、人形にならなきゃいけないからです」
そこで俺は初めて、真樹が涙を堪えていることに気付いた。
「最初は、嫌でしかありませんでした」
「そりゃそうだな」
「でも今は、仕方ないことなんだ、って思うんです」
真樹の頬を、光の筋が伝う。
「ご主人さまはずっと傷つき続けて…それを、私は何も思うことなく見るだけで…そんな過去の自分への、罰なんだって」
「ふむ」
「ご主人さまが私を罰することで、その傷が癒えるなら…」
ふと、ベッドから伸びた彼女の細い左手が、俺の右手を弱く握る。
「私はどうなっても構わないんです」
泣きながら俺を見るその目には、覚悟が映っていた。
彼女は恐らく、俺に殺されたとしても何も言わないのだろう。それで俺の傷が癒えるなら、と、その命を俺に差し出すつもりでいるのだ……
「……ご主人さま?」
気がつくと、俺は真樹を抱きしめていた。パジャマ越しに感じる少し熱い彼女の体温。
彼女は戸惑いの声を上げながらも抵抗しようとはしない。ただ、俺のすることに身を任せている。
「真樹」
「……はい」
「お前は、俺をどう思ってる」
真樹は表情を変える事無く、答えた。
「私の愛する、ご主人さまです」
返事をする事無く、俺はそのまま彼女の体をベッドに押し倒し、掛け布団をどかしてパジャマのボタンを外し始めた。
スムーズに全てのボタンを外し終え、その小振りな胸を露にすると、彼女は「んっ」と恥ずかしそうな声を上げる。
「声を上げるな。ここは屋敷じゃないんだぞ」
「申し訳、ございません……」
両手で胸を強く揉みながら注意すると、熱い息をしながら返事が来た。
右手を股間に移動させ、秘部を布ごしに触れてみると、パジャマにまで愛液がしみ出してきた。
「淫乱だな」
「そんな…だって、ご主人さまが…あぁっ!」
今度は右手をパジャマのズボンの中に忍び込ませ、下着の中にまで直接触れる。
今までおもちゃでしか触れられたことのない部分を、丁寧に責めていく。
「あっ、い、いいです……ひゃああぁっ!」
膣内を指でかき回すと、ついに我慢できなくなったのか大きな声を上げ、身体を強く震わせる。
既に下着はぐっしょりと濡れており、当然俺の指はぬるぬるした愛液にまみれていた。
「舐めろ、淫乱」
その指を真樹の目の前に突き付けると、彼女はそっとそれを口に含み、丁寧に舌を這わせて綺麗にしていく。
ちゅぷちゅぷと音を立てながら舐め続ける真樹は、非常に満足そうな顔をしていた。
そうしている間にパジャマのズボンを脱がせると、腿の内側まで愛液が滴れているのが見えた。
「脚を開け」
「は、はい」
彼女の両脚がためらう事無く開かれ、濡れてしまった薄い純白の下着から、膣口が透けて見える。
それは既に僅かに開いているのが分かる程しっかり透けていて、しかし真樹はそれを隠そうともせず、ただただ主人に自分のいやらしい身体を見られる事に快感を感じているようだった。