朝食中、向かいにいる姉、千紗の箸が動いてないのを見て、沢渡浩一は不思議  
そうな顔をした。  
「なんだ、姉貴。ダイレクトか」  
それを聞き、味噌汁を啜っていた母がため息をついた。まさかここまでバカとは  
思っていなかった──そんな感じである。本当はダイエットかと聞く所なのに、こ  
のざまでは母親としてやり切れなかった。  
 
一方、千沙は弟の心配を他所に、箸を動かしながらこう呟いた。  
「あんたはいいわね、何も悩みが無さそうで」  
「何だよ、それじゃまるで俺がバカみたいじゃないか」  
「まんま、バカでしょ」  
と、母。確かに学校で貰ってくる成績表にも、バカですと記されているが、その  
言い方は無いだろうと浩一は思った。  
 
「その話し方から察するに、姉貴は何か悩み事を抱えてるわけか」  
「まあね」  
「良かったら俺に話してみろ」  
「バカね。あんたに話して何とかなるなら、悩みの内に入らないわよ」  
と、再び母。成る程と頷く浩一を見て、千紗はへこたれた。  
「ごちそうさま」  
千紗はとうとう席を立ち、大学へ出かけて行った。浩一はその後姿に哀愁を感じ  
ながら、『あいしゅう』ってどんな漢字を当てるんだっけなどと考えている。  
 
「ねえ、母ちゃん。姉貴もお年頃かね」  
「何を言ってるの、あんたは?」  
「いやさ、恋煩いじゃないかと思って」  
「まあ、あの年だったらそれもあるでしょうね」  
「母ちゃんだって、二十歳くらいの時はブイブイ言わしたんでしょ?」  
「私の場合、壮絶よ。聞きたい?」  
「いや、いい」  
誰が母親の恋愛経験など知りたいものか。浩一は黙って飯を喰らい尽くした。  
 
それから幾日か経って、帰宅途中の浩一は同じく自宅へ向かう千紗と遭遇した。  
隣には親友の仙道のぞみが一緒に居て、何やら楽しげに話しこんでいる。  
「ここはひとつ、格好良い登場を・・・」  
よせばいいのに浩一はおもむろに走り出し、側転しながら姉たちの前へ飛び出し  
た。が、そこが四辻だった為、決めポーズを取ろうとした瞬間、右手から走って来  
たトラックに跳ねられてしまう。  
 
「ぐわあ!」  
ボールのように数メートルも吹っ飛んだが、幼い頃から学んでいる小林(誤字に  
あらず)寺拳法の後ろ受身のおかげで、何とか無傷。おまけに自分が悪いのを  
棚に上げ、トラックの運転手を怒鳴りつける始末であった。  
「最近の交通マナーはなってないな。嘆かわしい」  
呆然とする姉たちの前にきて、浩一はそんな事を言うのである。  
 
「やあ、日光美女軍団じゃないですか」  
浩一はお世辞のつもりで言ったが、一歩間違えば凄惨極まる事故現場を見せ付  
けられて、女二人は凍てついたように動かない。更に言うと冗談のセンスが圧倒  
的に足らない。芸をするエテ公と同じくされては、女性だって怒るというもの。何の  
リアクションも見られないのはむべなるかな。  
 
「・・・姉貴、俺のギャグって面白くないかな?」  
「壮絶すぎてちょっと・・・」  
「そうか・・・」  
姉弟はちょっとうつむき加減に見詰め合った。その様を、横からのぞみが眺めて  
いる。  
「相変わらず、お姉ちゃん子が直らないのね、浩一君は」  
「おねえ・・・ちゃんこ?何か美味そう」  
「バカね、あんたは・・・」  
意味もなくしこを踏み出した弟を、千沙は呆れ顔で見下ろした。  
 
美女二人におまけが引っ付いて、一行は沢渡家に向かった。浩一はのぞみも  
姉に等しく思っているので、いつも心安く接している。  
「のぞみさん、今日もうちに泊まっていくんですか?」  
「迷惑じゃなければ、そうしたいんだけど・・・」  
のぞみがちらりと千紗の横顔を覗き込む。潤む眼差しが何やら意味ありげなの  
だが、勿論、浩一は気づかない。  
 
「じゃあ、俺、先に帰って母ちゃんに飯を余計に作ってくれって言っておきます。  
美女軍団は後からどうぞ」  
びゅんと走り出した浩一は、またもや四辻を信号無視で走り抜けようとし、車に  
接触。だが、空中で体勢を整え、猫のようなしなやかさで何事も無かったように  
着地し、走り去った。その姿を見ながら、のぞみは、  
「ふふふ。あの子もまさか、お姉さんがこんな事されてるとは思わないでしょうね」  
そう言って、千紗の肉感的なヒップを撫でまわしていた。  
 
夕食を終えると浩一は買ったばかりのゲーム機に電源を入れた。海外製で、や  
たらと爆音が気になるゲーム機である。  
「さて、デッドライジングの続きをやるか」  
ロゴマークを眺めた後、ストレージの選択などの面倒くさい手順を踏んで、ようや  
くゲームが始まろうとしたまさにその時、隣室の姉の部屋から物音がした。  
 
「何事か」  
決して大きい音ではないが、ゴトゴトと気になる音質だった。一旦、ゲームを止め、  
浩一は姉の部屋へと向かった。が、この時、彼は気づいていなかった。コツコツと  
進めたゲームのセーブデータがぶっ飛んでいた事に・・・  
「はて、何やら蚊の泣くような声が」  
部屋の前まで来ると、すんすんと女泣きの声。浩一はおもむろに扉を開けた。す  
ると・・・  
 
「ああ・・・」  
声の主は姉だった。おまけに裸でベッドの上にいて、両足をこれでもかというくら  
い開かされ、若草がある部分をのぞみの手でいじられているではないか。浩一  
は一瞬、何がどうなっているのか分からなかった。  
 
ぼんやりしていると、のぞみが慌てて、  
「浩一君、早く扉を閉めて」  
などと言うのである。浩一は言われるがまま扉を閉めたが、良く見ればのぞみも  
裸。まったくもって訳が分からない状態であった。  
「い、いやっ!浩一、見ないで・・・」  
「姉貴、何やってんの・・・」  
「ふふふ、浩一君、もっとこっちにいらっしゃいよ」  
 
悪戯な眼差しで浩一を射抜くのぞみは、豊満で悩ましい線を描く体を持った悪女  
そのものだった。逆に千紗は儚げで、細身の華奢な囚われの美女という感じであ  
る。二人の関係はまさに嗜虐者と被虐者だった。  
「これって、ボヘミアン・・・」  
「レズビアンよ。浩一君、英語が駄目みたいね」  
「ええ、まあ・・・英語だけじゃないんですけどね」  
「何、和んでるのよ!しっかりしなさい、浩一!」  
のぞみと弟の遣り取りに、千紗が激昂した。  
 
「私と千紗はね、小学校からの付き合いだけど、まあ、こういう関係なの。お願い、  
浩一君。他の人には黙っててね」  
「分かりました」  
「ちょっと、物分り良すぎよ!私の気持ちは無視か!」  
千沙は親友の悪戯を受けながらも、果敢に攻めている。もっとも弟がこの体たらく  
ゆえ、仕方が無い所。  
 
「ねえ、浩一君。女同士でこういうのって、おかしいと思う?」  
「男女同権の世の中ですし、良いんじゃないかと」  
「ありがとう。あなたは私の味方なのね」  
のぞみはベッドから起き上がり、浩一の前に傅いた。  
「私、男は好きじゃないんだけど、浩一君は子供の時から知ってるし、特別よ」  
 
ズボンのジッパーが引き下ろされ、陰茎がごっそりと出た。すでに勃起しており、  
ソーセージに例えればすぐさまパンで挟まれそうなほど、立派なサイズである。  
「しゃぶってあげるね」  
「の、のぞみさん・・・」  
「のぞみ、やめて!」  
千紗に挑むような眼差しを送りながら、のぞみは陰茎を咥え込む。浩一はうっと  
呻き声を上げ、腰砕けとなった。  
 
「ああ、大きいわ・・・羨ましい。私にもこれがあれば、千紗を愛してやれるのに」  
「のぞみ、浩一には何もしないで・・・お願いよ」  
よよと泣き崩れる姉を見て、浩一に理性が戻った──ような感じがしたが、それ  
は気のせいであった。実際は初めて知る口唇愛撫に脳を焼かれて、ただただ立  
ち尽くすのみである。  
 
「浩一くんは彼女、いないの?」  
「いません」  
「じゃあ、私がお初を貰っちゃおうか。良いよね?」  
「是非」  
「決定。千紗、邪魔よ」  
「きゃあッ!」  
のぞみは千紗をベッドから蹴り落とし、浩一を寝かせて自分はその上になった。  
「騎乗位ってやつよ。浩一君、馬並だしちょうどいいわ」  
陰茎を逆手に取り、自らの女陰に挿入しようとした時、千沙が立ち上がった。  
 
「駄目ーッ!」  
千沙が夢中で出した正拳突きが脇腹にヒットし、のぞみはそのまま窓を突き破っ  
て階下へ落下。実はこの姉も空手を学んでいて、その実力は浩一に勝るとも劣  
らなかった。  
「姉貴・・・」  
「浩一」  
 
見詰め合う姉弟は、何となくその場の雰囲気でベッドに同衾した。  
「実は最近、悩んでたのは、のぞみとの事なのよ」  
「うん」  
「私、本当はレズでも何でもないの・・・好きなのは・・・」  
そこまで言うと、千紗は顔を赤らめて浩一の胸に飛び込んで来た。  
 
「もう分かるでしょ?」  
「うん」  
姉の肩を強く抱く浩一。細身の体が愛しい。  
「私、あなたの玩具になりたい」  
「姉貴!」  
浩一は千紗の上になり、陰茎を突き出した。  
 
「ああうッ!」  
千紗の背は反り、破瓜の衝撃で細い体がギリギリとしなる。浩一の巨魁な物は  
それでも最深部を目指し、埋められていった。  
「姉貴」  
「こ、浩一」  
のぞみの悪戯もあって、破瓜の痛みはそれほど感じられない。しかし、初めて  
をこの弟に捧げられ、千紗は満足だった。  
 
「な、何事?」  
その頃、一階でビリーズ・ブートキャンプに夢中だった母、美津子は庭に落ちて  
きたのぞみを見て驚いた。  
「のぞみちゃん!」  
「お、おばさま・・・」  
 
脇腹を見ると打撃痕があって、高手(達人)の一撃を喰らった事が分かる。性質  
上、浩一は絶対に女性には手を上げないので、これが千紗の打撃と判断した美  
津子はのぞみを介抱してから、二階へと上がった。  
「嫌な予感がするわね・・・」  
ただの喧嘩程度の事なら良いがと、扉を開けた時──  
 
「ああ、いいッ!」  
「姉貴、俺もだよ」  
美津子の目の前では、我が子が犬畜生のように交わっていた。千紗は四つん這  
いになり、細い体で弟の全てを受け止め、よがり狂っているし、浩一は浩一で姉  
の尻にへばりつき、腰を外れんばかりに振っている。美津子はほとんど自失呆然  
となった。  
 
「何、これ・・・」  
裸で落ちてきた娘の友達に破壊された窓、そして互いを貪りあう姉弟、何をどう取  
っても理解の範疇を超えていた。それでも母として黙っていられず、ベッドへ駆け  
寄った時、  
「うッ、いく!」  
射精の瞬間、陰茎を抜いた浩一は何とその矛先を母に向けてしまった。無論、白  
濁液はすべて、その母へ注がれていく。  
 
「キャーッ!」  
「あ、あれ、母ちゃん!」  
「か、母さん」  
最悪の親バレである。おまけに浩一は母に向かって射精という、世界一の無様さ  
だった。  
 
「お、の、れ、ら〜」  
何か切れてしまった感のある美津子が拳を構えた。実を言うと沢渡家で最も強い  
のは、八極拳を得意とするこの母である。  
「母親に向かってこんな汁飛ばして・・・浩一、覚悟はいい?」  
「やばい!」  
「浩一、逃げて!キャーッ・・・」  
 
千紗が浩一を窓から逃がそうとした時、美津子の一撃が襲った。発剄の力で女だ  
てらに一トンを超える美津子の拳で打たれれば、常人だとほぼ即死。だが、日頃の  
鍛錬の甲斐あってか、浩一は五十メートルも吹き飛ばされながらも、向かいの家の  
屋根にへばりつき、何とか生きていた。  
「死ぬかと思った・・・あッ、やばい!母ちゃん、追いかけてくる」  
 
窓から身を乗り出す美津子を見て、浩一は走り出す。  
「このまま旅に出る。しからば、御免」  
幸い、足の早さでは母に勝っている。このまま行けば、きっと逃げられる──そう  
して大きな四辻まで来た時、やはり車に跳ねられた。本日三度目、しかし、浩一は  
かすり傷ひとつ負わず、そのまま走り去ったという。  
 
おちまい  
 

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