で、何処に行くの?  
 「余人の干渉が及ばぬ静かな場所で膝付き合わせて小一時間、アンタを説教…。」  
……僕の部屋で良い?  
 「!!!…しっ、仕方ないわよね。アンタみたいな安月給取りに一流ホテルのスゥィート期待しても、イジメにしかなんないしっ!!!」  
うん、『甲斐性無し』で本当ごめん。  
 「……そーよねー。せっかくの出世への足がかりも、あの恥知らずに横取りされちゃったし。」  
いや、僕より〇〇君の方が仕事が出来るから、これで良かったんだと思う。  
 「……アンタってほんと、超ネガティブ!!!そんなんじゃ、一生独身のままよ!?いっそ、童貞の妖精さんでも召喚してみる?」  
あはは、『妖精』って一度見てみたいからそれも良い……?なんで、足踏むの?  
 「別に意味は無い。踏みたかったから踏んだ。反省する気も無い。」  
ふーん、それって僕が君の事をずーっと見ていたいと思うのと同じなのかな?  
 「断・じ・て・違・う。このあたしをアンタみたいな『ムッツリなんとか』と一緒にすんなっ!!!」  
……ごめん……。  
 「解かれば宜しい。…あーもー、この話題は終了っ!!! それより新しいアンタの部屋って何処?この近く?」  
うん、…と言うか前と同じ所。  
 「へー、本当なら最低3年間は地球の真裏に行ったきりだったはずのアンタが、同じ部屋を借りられたなんて結構、運が良いじゃない。」  
ううん、あの部屋は元々今月一杯借りる約束してたから。ところで君、あの部屋の合鍵、今持ってる?  
 「勿論、持ってるけど……って、アンタ自身の鍵は?」  
あぁ、良かった。…えーと、僕の鍵は多分今頃××に有ると思う、〇〇君からまだ返して貰って無いから。  
 「……は?それ、どういう事?」  
『8日付けで契約解除しても、今月いっぱい借りてても、払う家賃は同じなんだから、31日までは俺に貸せ。ベットだけは残しとけよ。』  
って、〇〇君が言うから、それもそうかな…って……?なんで、首絞めるの?  
 「アンタみたいな莫迦には、地球の真裏より地獄の底の方が、お似合いだと思う!!!」  
そうだね。それなら、お盆には胡瓜の馬に乗って君の所に、あっという間に帰って来られるし。すごく良い考えだね。企画書、書い……。  
 「ア・ン・タ・は、このあたしを結婚する前から未亡人にする事決定済みか、大莫迦!!!」  
 
……へー、最近の地獄って一週間程度で一時帰郷を認めてるんだ……。って、アンタ死相が出てるわよ。本当に足有る?  
 「……ぁ、ごめん……。」  
普段からあまり御洒落に興味が無いにしても、酷過ぎ……。って、ちょっと本当に大丈夫?!  
 「……ん……、君の顔見たらなんか気が抜けちゃって」  
……あーもー、今日はさっさと帰りなさいよ。そうね、あたしに会った直後に野垂れ死にされても後味悪いから、送っていくわ。  
 「……ごめん、だけど駄目……。」  
えっ、ひょっとしてこの前の事、まだ根にもってる?…アンタって時々すごく頑固になるけど、今はそれどころじゃないでしょ!!!  
 「……違……僕の部屋には今、〇〇君が居るから……」  
……今、なんて言ったの?  
 「……ごめん、まだソファ買ってないから今、君が来ても床……」  
アンタ、ひょっとして今、床で寝てるの?!  
 「……ううん……、会社の机の下……。」  
何やってるのよ、アンタは!!!  
 「……〇〇君がやってた仕事の引継ぎが、なぜか全然終わらなくて。そしたら昨日、急に〇〇君が帰って来て……」  
なんで?!  
 「……『着任早々、地元有力者主催のパーティ会場で親しくなった女がその有力者の一人娘で、未成年なのに  
  俺を誘惑してきやがって、先っぽ入れただけなのにあやうく結婚させられそうになったから、逃げてきた』って……」  
……どーして、そのバイタリティがアンタには、備わってないのよ!!!  
 「……ごめん。でも、新しい鍵出来たから真っ先に君に届けなきゃって思って。……迷惑?」  
アンタが鍵なくした時のスペアキー保管所か、あたしは?!  
 「ううん、君に持っていて欲しいんだ。それに、ソレ合鍵じゃなくてマスターキーだから……。」  
そーゆー問題じゃない!!!  
 「……あはは、やっぱり君の声って本当に気持ちいい……。ごめ……。」  
……ちょっと、こんな所で熟睡しないでよっ!!! あたし『急用』が……。この、大莫迦ーっ!!!  
 
   
 
さてこの後、このヘタレが目を覚ました時、一流ホテルのスゥィートで彼女が添い寝……は、当然のお約束ではあるが  
さらに2日後の海の日の朝、『顔馴染みの女が訪ねて来るから、3時間ほど席を外せ』と自分の部屋を追い出され  
仕方なしにコンビニ立ち読みで時間を潰していたこのヘタレに、黒尽くめのガタイの良いどう見てもソッチ方面の  
兄ちゃん2人従えた、いかにも気の強そうな典型的なラテン系美少女がツンとしたままで部屋の鍵を返してくれて  
其の日の夕暮れに会った彼女に大真面目に「鍵の妖精さんって、スペイン語を喋るんだね」とか言って、鼻で笑われた  
のも又、お約束なのかも知れません。  
 

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