!!!………。
「なに?その、鳩が豆鉄砲喰らったような顔?」
ほんと、綺麗だな……って思って。
「あぁ、浴衣?そうよ、これ一点物なんだから。すごく高かっ…」
いや、君が。
「………、なっなんか悪いモノでも食べた?」
あぁ、そうか今日は『七夕』か。
「えっ、知らなかったの?本当に?……アンタって、伝統とか風流とかに全然興味無いのね」
いや、有る意味ぴったりの『日』かなって思って。
「何?話が全然見えないんだけど?」
あぁ、ごめん。実は明日から××に行く事になって……。
「××?それ、何処?」
えーと、ココからだと、ほぼ地球の真裏かな。
「はぁ?なんで、アンタがそんな所に行くの?なんかの罰ゲーム?」
いや、仕事。
「へー、アンタみたいなボンクラをそんな遠くに送り込むなんて、アンタの会社大丈夫?」
うん。結構、大きなプロジェクトの下準備らしいから……。
「ふーん……。あっ、あたしお土産は『宝石』が良いなー。」
そうだね。君なら、なんでも似合うと思うよ。
「ふふん、当然じゃない。で、何日ぐらいで帰ってくるの?」
………3年………。
「……はぁ?なんか、よく聞こえなかったんだけど?」
あぁ、ごめん。最低、3年。仕事がうまくいったら、5〜6年ぐらいかな?
「………なに、それ!?」
いや、社運を賭けたプロジェクトだし。それに、自分が今いる部署の独身者が……。
「この前、アンタから紹介された瞬間に、このあたしを口説いたあの恥知らずは!?」
〇〇君?なんでも、彼には山奥のど田舎に年老いた両親と生まれてまもない病弱な弟と……
「……実家は隣町で、両親は長期海外滞在中。一人っ子だけど、同居するつもりは無い!!!」
へー、そうだったんだ。色々と大変そうだね。
「……アンタ、脳味噌腐ってんじゃないの?!……」
はは、そうかも。でも、『期待してるよ』って言われたし……。
「……誰に?」
〇〇君のおじさん。
「……なんでソコに、あの恥知らずの身内が出てくるの?!」
うん、『専務』だから。
「……解かった、よーく解かった……。じゃ、あたし『急用』が出来たから」
そう?ちょっとさびしいけど、今日は本当にありがとう。見送りは要らないから、元気でね。
「なんで、このあたしがアンタのお見送りなんかに行かなきゃなんないのよ。自惚れんな、莫迦!!!」
そうだね、じゃオヤスミ。
「……二度とあたしの前に顔見せるな、大莫迦!!!」
……二度とあたしの前に顔を見せないはずじゃなかったの?
「うん、そのつもりだったんだけど……」
で、最低3年後まで××に居るはずのアンタが、こんな所でなにしてる訳?
「……うん、何故か海外長期出張者が〇〇君になっちゃって」
ふーん、やっぱりアンタの駄目駄目っぷりが『専務』より上に通じちゃったんじゃない?
「うん、多分そうだと思う……。」
会社の為を思う、誰かさんの大英断よね。
「うん、なんか飛行機に乗る直前に、真っ青な顔の『専務』が〇〇君を羽交い絞めにして引き摺って来て……」
あー、もうあんな往生際の悪い恥知らずの話なんかどーでも良いわよ。で、今日は何の用?
「……うん、あの……『お土産』駄目になっちゃったから、替わりに……」
どーせ、アンタみたいな安月給取りから、何か貰おうなんて全然思ってなかったから、別に平気。
「はは、そうだね。でも、ゴメン」
なんでソコでアンタが謝るのかまるっきり訳わかんないけど……、まぁ『悪い』と思ってるんならちょっと付き合って。
「うん、良いけど……。何処に?」
『独身者だから地球の裏側まで飛ばされる』んなら、絶対飛ばされないように頑丈な『重石』を付けとかなきゃね。
「?」
……いい、勘違いしないようにコレだけは言っとくけど、あたしアンタの事『大莫迦』だと思ってるから。
「うん、知ってる」
大変、宜しい。じゃ、行きましょう。