「怒ってる?」  
……答えない。答えてなんか、やらない。  
「ねえ、怒ってるよね?」  
……知らない。こんなヤツ、もうどうでもいいもん。  
「ごめんね。どうしても仕事抜けられなくて」  
………そんなに頭下げたって、もう七夕は一年先まで無いじゃない!  
 そう思ってこのバカの顔を睨み付ける。  
 睨んでるのに、コイツはにこっと笑う。そこが気に入らない。  
フンだ。ぷいと横を向いてコイツの顔を視界から消してやる。こんなバカ、どっかに消えちゃえ。  
「ね、怒ってる?」  
しつこい。とうとうあたしもキれた。  
「当たり前でしょ!」  
 噛み付くように怒鳴ったのに、コイツは嬉しそうな顔をしてる。ホントムカツク。バカ。死んじゃえ。  
 あたしの顔を下から覗き込むようにして、コイツは言ってくる。  
「客先でサーバー落ちちゃって。僕しか対応できる人いなくて。ごめん。ホント、ゴメンね」  
……ホント、コイツはバカなんだから。会社にいいようにこき使われて、体壊しそうになるくらい  
頑張って、それでも「僕しかできないから」とか言って文句一つ言わずに働いてる。ホント、バカ。  
 
……いけない。あたしは怒ってたんだった。  
「約束破るような薄情モノのことなんか、あたしは知らないんだから!」  
 
 そう。  
 せっかく浴衣を新調して、コイツに『キレイだね』って言わせたかったのに!  
 
「うん。あんなに楽しみにしてたのに、一緒に行けなくてゴメンね」  
 水に落ちた犬みたいな視線でコイツはそう言ってくる。  
 くうううん、というようないじらしい犬みたいな擬音まで聞こえてきそうな表情であたしの顔を  
下から覗き込みながら。思わずきゅん、と胸が高鳴ってしまう。恥ずかしい。  
「べ、別に、楽しみになんかしてなかったんだから!」  
 そう。あたしは怒ってたんだ。忘れてた。  
 
「うん。僕も、浴衣姿、見たかったな」  
 聞いちゃいない。  
 でも、なんだか嬉しそうな顔でソレを想像してるコイツの顔は嫌いじゃない。  
 ぽややんとしてるクセに、目がキラキラとしてて。  
 
 そんな顔で、何かを思いついたのか、突然コイツの目が輝いた。  
「そうだ! 来月、七夕行こうよ」  
「はぁ? アンタバカ? 来月は八月でしょ」  
 働きすぎでイカれちゃったのかと心配になった。どうしよう……。  
 
「違う違う。仙台だと七夕は八月にやるんだよ」  
「へ?」  
「七月七日だと東北はまだ梅雨だったりすることが多いから八月にやるの」  
「そうなの?」  
「うん。花火大会もあるし、パレードや夕涼みコンサートやらいろいろあって楽しいよ」  
 八月。来月に、仙台で…コイツと一緒に……  
 だめだめ。顔が緩んできちゃう。あたしは怒ってるんだから。  
「でも、どうせそんなイナカのお祭りなんかたいしたことないんでしょ」  
「東北の三大祭の一つなんだよ。三日間で200万人の人出があるって言ってたかな」  
 ぐう…なによ。そんな…楽しそうなモノなら…  
「で、でも、そんな大イベントだったら、今から宿なんて取れっこないでしょ」  
「だったらウチの実家に泊まればいいよ」  
「へ?」  
「ウチの実家、広瀬川沿いにあるから。あ、広瀬川ってのは仙台市内を流れてる川で――」  
 
 じ、実家?実家って、それって、ごごごご、ご両親に、しょ、紹介………それって!  
 ど、どんな服着ていったらいいのかな!?  
 や、やっぱり、シックにパンツスーツで…ダメダメ固すぎる!   
 で、でもジーンズにTシャツだなんてのは絶対ダメだし……スカートで女らしさをアピールしたほうが?  
 ああもうっ!なんであたしがこんなに悩まなきゃいけないのよ!  
 
「――動物園も近所にあるし。退屈はしないとおもうよ?」  
 そんなことを言ってるコイツの口を塞いでしまおう。あたしは、そう思いながらゆっくりと唇を近づけていった――  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こんな二人なわけだが、コイツ両親が世界一周旅行中で不在だということを太白区のコイツ邸に着いて初めて知った  
この子が怒り狂ってコイツの耳に噛み付いたのは、そしてその噛み跡をその晩優しく舐めながら嬌声を上げたのはまた、  
別のお話。  
 
 

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