「新入りよう、最後に一つ良いもん見せてやらぁ」  
定年を迎えるラグレーが曲がった鼻をすんと鳴らして暗い階段を下りた。  
反対にまだ若々しいジェスは、やつれたような顔でそれに続く。  
彼は犯罪者を更正させるため刑務官を志望した。  
しかしその実態たるや、革新派の拷問所とさして変わらぬ凄惨なもの。  
三日の研修を経て、彼は明日にでも別の仕事を探そうと心に決めていた。  
ラグレーの足は廊下の突き当たりで止まった。  
蝋燭の炎だけが揺れる、今までに来た事の無い場所。  
その扉には『AGITATO DEVIL(煽動の悪魔)』と書かれている。  
「さぁて、魔女とご対面だぜ」  
ラグレーは一瞬、バカにしたような賛美歌を口ずさんで扉を開けた。  
 
廊下よりさらに暗い室内は、扉越しに入る蝋燭の炎がなければ完全な暗闇だと思われた。  
二人が部屋に入った瞬間、その部屋の隅に気配がした。怯えている。  
そちらに目を向け、ジェスは目を疑った。  
鎖で壁に繋がれて牢屋に潜むそれは、年端もいかぬ少女であった。  
肩の下までで無惨にばらけた髪は、しかし金糸のように質が良い。  
こちらを凝視する潤んだ目はアメジストのような澄んだ紫。  
路地で見かけたなら、花でも買ってやろうと思う愛らしさだった。  
「おう新入り、どうした見惚れたかい」  
ラグレーが牢を開けつつ茶化したが、ジェスにはもう聞こえない。  
ただ、立ち尽くした。  
 
少女は口に大きなコルク栓のような物を咥えさせられていた。  
ラグレーの節くれた手がその先端を掴み、引きずり出す。  
「…お゛っ、ぇ゛うおぇあ゛……っっ」  
風呂釜の湯が流れるときに立つ、濁った声が牢に響いた。  
コルク栓じみた口枷はなかなか全容を現さない。  
想像以上に細く長いそれは、少女の喉奥までを犯していたのである。  
無機質な茎に纏わりついた少女の唾液。  
ジェスの目は、それが滴り落ちるのをスローモーションで捉えていた。  
「さすがにコイツはガキに着けるもんじゃねぇな。  
 だがまぁこれで、イキのいい逸物でも根元まで咥え込めんだろ」  
ようやく口枷を少女の喉から引きずり出し、ラグレーはズボンのチャックを下ろし始める。  
ジェスが訝しがる前で、彼は怒張を取り出した。  
歳を感じさせぬとんでもない大きさ。  
胴回りは悠に4センチ、長さときたら30センチは下らないだろう。  
彼はその巨根をしごき、少女の顎を掴んで腰を突き出した。  
「ふぇふ…ぃあ、あ、かぁ……ぁおお゛……!!」  
少女の目が見開かれ、その可憐な唇を醜悪な塊が埋め尽くす。  
 
「があ゛…おっおっおっおう゛、げぶっ!…げぇ、ぁはっ……!!」  
じゅぷじゅぷと音を立てながら、少女は蛙のように汚い喘ぎを上げざるを得なかった。  
ラグレーの太い腕でがっちりと頭を掴まれ、自ら扱くのと同じ凶暴なペースで  
前後させられるのだから。  
白い喉が幾度も脈打つ。  
口の端からはとめどない涎が糸を引く。  
後ろに拘束された手は互いの手首をしっかと掴み、耐えている。  
 
「こいつはよ、魔女なのさ」  
少女の喉を激しく犯しながらラグレーは言った。  
「余所者のお前さんは知らんだろうが、昔この娘は世論を煽ったんだ。  
 まぁ10歳そこらのガキだ、政治屋だった父親の入れ知恵だろうな。  
 だが結果として聖女扱いが起き、暴動で数千人が死んだのは事実だ」  
ラグレーは一旦腰を引き、安堵してあえぐ彼女の喉を一息に貫いた。  
男より低い苦悶が美しい少女から発せられる。  
「俺のカミさんも一人娘も逝っちまったよ。  
 俺だけじゃねぇ、この町にゃあコイツと父親を恨んでる奴が山ほどいる。  
 父親の方は引き回しで処刑されたが、コイツはそれじゃ済ませねぇ。  
 この可愛い顔で、皆コロッと騙されたんだぜ。だからそれを悔いさせる。  
 まさに口は災いの元だ、って事をな」  
ラグレーは腰使いをさらに激しくした。  
少女の赤くなった鼻と毛深い腹がばちんばちんと音を立てる。  
少女は泣いていた。  
「ほら、清めてやるぞ。溢すな、飲めよ、最後の一滴まで吸うんだぞ!!」  
一番深くえぐった瞬間にラグレーの腰が止まり、身震いを始める。  
少女は喉を必死に蠢かし、目をきつく瞑って口をすぼめた。  
小さな口から零れる白濁が、どれほどの量注がれているかを物語っていた。  
 
ラグレーが身を離すと、少女はしばらく咀嚼するように口を動かした。  
しかしある時うっと嘔吐しかけ、口から零れた残滓を床を舐めることで採取する。  
それは余りに健気な姿だった。  
いかな罪があろうとも、物の道理も分からぬ子供が何故こんな目に遭わねばならないのだ。  
ジェスが拳を握り締めるのを見たラグレーは、ポケットから葉巻を取り出した。  
「おめぇは今日から、俺の引継ぎでこいつの世話係だ。  
 今みたいに思うさま口を犯しても誰にも咎められやしねぇ。  
 町一つ動かした程の美少女だ。こんな機会は若いっつっても二度は無ぇぞ」  
ラグレーは肺の汚れを吐き出し、ジェスに吹き付けて言った。  
ジェスは少し動揺していたが、煙たそうな顔を厳しく整える。  
 
気のせいだろうか。  
そんなジェスを見て、いつも怒っているようなラグレーが笑った気がしたのは。  
「ただよぅ。あんな事した後に言うのも何だが、子供ってなぁ可愛いよな」  
唐突な口調の変化に、ジェスは戸惑った。  
「他のキャリアある奴じゃなく、わざわざ余所者のおめぇを連れてきたんだ。  
 ここで食事を与えて同棲気分に浸るもよし。町中を敵に回しての逃避行も良し。  
 おめぇなら、色々出来るんじゃねぇのか」  
彼はそういうと、鍵をジェスに放って立ち上がった。  
「さてと、しがらみ抱えた老いぼれはようやくお役御免だ。  
 可愛い奉仕って楽しみがねぇのは寂しいがな」  
 
少女がふと顔を上げ、ラグレーを見つめていた。  
ラグレーは一瞬だけそれを見返し、牢の外へと踵を返す。  
ジェスはそこに言いようのない絆を感じた。  
毎日のように処罰の行われるこの国で、少女が生きているのは、もしや…。  
「頑張れよ、新入り」  
彼の吸う煙草の辛さが、2人の牢を霧に包む。  
丸まった後姿は大きかった。  
それを見送り、やがてジェスは口を開く。  
「僕の名前はジェスっていうんだ。君の名前、教えて貰えるかな」  
少女は澄んだ目で眼前の若者を見上げた。  
 
牢は真の暗闇で、頼りない明かりがいつまでも2人の影を照らしていた。  
 

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