柔らかな春風が開け放した窓へ薄ピンクの花びらを運んでくる。  
庭に面した居間の大きな窓なので朝から結構な量の花びらが僕の足元に散らばっている。  
しかし僕は花びらを片付けずに柔らかな春の日差しに照らされた庭の一本の桜をただ眺めていた。  
今年はいつにもまして桜の花は綺麗で去年よりも花の数が多いように見える。  
桜の花びらも均一なピンクではなく中心は白っぽく花びらの縁は桃色というようにグラデーションが掛かっている。  
「どうして今年はこんなに美しいんだろう。」  
晴れ渡った空の青さと咲き乱れる桜は夢の中のようだ。  
 
 
 
僕は幼い頃から我が家の桜の木を毎年絵に描いていた。  
だから去年との僅かな違いもわかる自信がある。  
いつもの僕なら、突然変異したような今年の美しい桜を残したいとカンバスに向かっていただろう。  
しかし今の僕は毎日何をするわけでもなく庭を眺め桜は満開もいいところ10分咲になってしまった。  
この桜は僕が生まれた年田舎の祖母が、なんと自分の庭から僕の家へ運ばせ殖樹したのだ。  
なんと大胆なお祝いだろう。  
僕の父は幼い頃から親しんだ桜が見れると喜び、母は毛虫がわくと嫌がった。  
今はその二人はいない。  
2ヶ月前に交通事故であっけなく亡くなってしまった。  
ちょうど美大に進みたいという僕と揉めていた頃だった。  
 
事故がありしばらくふさぎ込んでいた。  
だがある日庭を見ると桜が咲き始めており、なんとなく窓を開けると  
まるで誰かが寄り添っていてくれるような錯覚を感じた。  
広い一軒家にただ一人住むことになった僕は暖かな日差しと桜に温もりを求めて窓を開けたまま居間にいる。  
このままの魂が抜けたような暮らしは良くないと思っているがもう絵を描く気分になれない。  
 
 
僕は昼食をとると居間のソファーでうたた寝してしまった。  
ふと目が覚めると居間の白い天井や壁は  
一面茜色に染められ暖かな風は熱を失い肌寒くなっている。  
「やっと起きてくれた。風邪ひいちゃう。」  
いきなり女の人の声がして僕はびっくりしてソファーから落ちそうになった。  
見上げると見知らぬ美人が僕のすぐそばに立っていた。  
「…あの、どこから入ったんですか?」  
寝起きで頭も舌も回らない。  
「ここからよ。もう冷えてくる時間だから閉めるわね。」  
女の人は居間の窓へ近づくと勝手に窓を閉めた。「あのー、ここからって…。  
一体何の用ですか?新手の空き巣ですか?」  
 
女の人は全く空き巣には見えないが、僕はそう言ってしまった。  
年は20代前半のようで両親の知り合いや接点にある人物にこういう人は心当たりはないのだ。  
「あなたにお礼とお別れを言いたくて。」  
僕の知り合い?  
僕はなぜかモテる容姿らしく一人で学校や外で  
絵を描いていると隣に代わる代わる学校の女の子がやってきた。  
僕は絵を描くことしか興味はないので話を振らずにいると相手は去っていくのだが。  
「僕の知り合い…  
学校の後輩かなにか?  
でもお姉さんって事は先輩ですか?  
絵を描いてるとき来ましたか?」  
「あなたが絵を描いてる姿はよく知ってるわ。  
見た目はやっぱり年上に見えちゃう?  
これでもあなたと近い格好になれるように祈ったんだけどな。」  
微妙に言っている意味がわからないな。  
きれいなお姉さんなのに、ちょっとおかしい人なのかな。  
 
僕はソファーに座り直しじっーと彼女を見つめた。  
細い体つきにピンク色のシンプルなワンピースで肩までのサラサラのこげ茶の髪に大きな瞳。  
その表情は穏やかで悪い人には思えないのだが。彼女は僕と向かい合う形でソファーに腰掛けた。  
「今年は桜の絵描かないの?」  
いきなりの彼女の質問に僕は顔を強ばらせた。  
「いきなりなんなんですか?  
あなたには関係ないじゃないですか。」  
「関係あるわ。  
来年、もう桜の花は咲かないの。」  
意外にしっかりした声で彼女が反論してきた。  
僕もつい声を荒げてしまう。  
「何でそんなことわかるんですか!  
僕は…両親の願いどうり、もう美大は諦めます。もう筆をとる気にならないんだ。」  
すると彼女は悲しそうな顔で言った。  
「あなたのご両親はあなたを密かに応援していたのよ。  
あなたがこの居間で絵を描いていた時、お母さんは必ずあなたのそばにお茶を置いていった。  
画材も切らさないようにしていた。  
そしてお父さんはあなたが行き詰まると  
何ヶ月か絵を放り出して女の子とデートしていたでしょう。  
本当に強い意志があるか確かめたかったのよ。」  
確かに。  
両親も闇雲に反対していたわけじゃなかった。  
僕は僕自身に苛ついていたんだ。  
「でもなんであなたがそんなこと知っているんですか?  
どこかで見ていたんですか?」  
窓の外はだんだん暗くなり、桜はウチの家の陰に入り寂しげに花を揺らしている。  
 
「わたしはあなたが生まれた時からあなたの全てを知っているわ。  
私は庭の桜の樹の精よ。」  
僕は呆気にとられてしまった。  
「僕は…信じませんよ。」  
「これを見ても?」  
彼女は片足を真っ直ぐに上げ足首の傷跡を指差した。  
傷跡は長さ10センチぐらいの線が十字の形に入っている。  
「あっ…」  
十字の傷…  
僕が子供の頃、彫刻刀で桜の樹を傷つけてしまった事がある。  
単純な好奇心からだったが僕はすぐに罪悪感を感じ桜の樹に泣きながら謝ったのだ。  
再び罪悪感が僕を襲い何も言えなくなってしまった。  
今も桜の樹に傷はあるはずだ。  
僕が黙り込むと彼女は少し明るい声で話しかけてきた。  
「傷の事は子供の時あなたが謝ってくれたからもういいの。  
ねぇあなたが毎年描いてきた桜の絵を全部見たい。」  
それぐらいなら応じてもいい気がして僕は桜の絵を持ってきた。  
幼稚園の時のクレヨンで殴り描きしたようなもの、小学生の時初めて水彩絵の具で描いたもの、  
中学に入りデッサンに凝って白黒でカッコつけて描いたもの、去年の油絵。  
それらをソファーの後ろの窓の前の広いスペースに並べる。  
窓の外には桜の樹。  
同じ桜を描いたのに僕の描いた絵はどれも違って見える。  
「わぁ。綺麗に描いてくれたのね。  
嬉しいわ。  
一枚ずつ表情が違うのはあなたの心を映しているのね。」  
彼女は微笑みながら絵を見ている。  
普段の僕なら、心が…なんて評されたらムッとしてしまう。  
しかし彼女に言われても嫌な気分はしなかった。  
「私がきれいに花をつけられるのは今年最後だから、描いてほしかったな。」  
「それを言うために現れたんですか?」  
「本当はあなたに触れたかった。」  
彼女は僕の方を向くと頬を触ってきた。  
急に僕は女の人と二人きりというのを意識した。  
部屋の明かりはつけておらずカーテンも開けっ放しで月明かりが彼女を照らしていた。  
淡い夜の光に浮かぶ彼女の淡いピンクの唇。  
僕の絵に興味を持ってくれた女の子は彼女が初めてかもしれない。  
「キスしてもいいですか?」  
「いいわよ。」  
絶対断られると思ったのに彼女は一歩前に進み僕に近づいた。  
いいのかなと思いつつ僕はそっとキスをした。  
彼女の背中に手を回す。  
温かく柔らかい女性の体に僕はホッとした。  
このまま甘えてしまいたい。  
僕は唇を離しても彼女から離れられなかった。  
 
「キスしたらもっとあなたと触れ合いたくなっちゃった。」  
意外に彼女からまた唇を重ねてきた。  
僕ももっと彼女に触れていたかった。  
僕は久しぶりに他人の体温に触れホッとした。  
僕はそっと彼女の胸を触った。  
嫌がられている感じがしないのでかなり強く揉んでみる。  
「あっ…」  
彼女が小さな声をあげそれを耳元で聞いた僕は止まらなくなってしまった。  
彼女の柔らかい耳たぶを口に含みながら胸をもみしだく。  
彼女が目を閉じて感じているようなので、服を脱がし始めた。  
足元に彼女が身につけていた衣服が落ち、白い肌の裸体が現れると僕は見とれた。  
丸く豊かな乳房に美しい曲線を描くお腹、細い脚。  
「あなたの悲しみが和らぐなら…」  
僕と彼女は抱き合うと床に寝転んだ。  
僕が彼女の胸に顔を埋めている間彼女は優しく頭を撫でてくれた。  
乳首を舌で転がし吸うたび彼女の吐息が漏れる。  
僕はやがて彼女の足を少し持ち上げ熱くなっている部分に口を近づけた。  
息を吹きかけ舌を這わす。  
「あ…んっ…」  
彼女は身をよじり目をギュッとつぶる。  
彼女の熱い蜜を舐めとり吸い込む。  
舌を入れる度、蜜は溢れてきて少し早いけど僕は入れたくなってしまった。  
僕は自分の服を脱ぎながら彼女に起き上がってと言った。  
彼女が起きると僕は寝転び、彼女に上に乗ってほしいと頼んだ。  
戸惑いつつもとりあえず僕の太股をまたぎ彼女は座った。  
「このカッコなら君と桜の樹が見える。  
とても綺麗だ。  
絵は必ず描くよ。」  
彼女の後ろの窓から夜桜が見えるのだ。  
彼女は照れていたが嬉しそうだった。  
そして彼女にゆっくりと腰を沈めて僕のモノを挿入してもらった。  
すでに彼女の中は十分潤っていたので僕は思い切り腰をあげ動かした。  
「…あっ、あぁっ…」  
彼女の丸いおっぱいが揺れる。  
下から見ると大きく興奮する。  
やがて彼女が腰を動かしはじめ僕は今までにない快感に身を委ねた。  
月明かりに輪郭を照らされた彼女は美しく妖しい光を放っている。  
背景の夜桜もまた闇に白い花と枝を浮かべこっちを見ている。  
「…ねぇっ…桜が…二度と咲かなくてもっ…」  
彼女が僕を攻めながら呟く。  
「私のこと、忘れないでっ…私を描いていた日々を…忘れないでね…」  
僕は頷くと彼女に長いキスをした。  
やがて果てた僕を彼女は優しく抱き締めてくれた。  
 
 
朝目が覚めると彼女の姿は無かった。  
しかし僕が毎年描いていた桜の絵画たちは部屋の隅に並べてある。  
庭に目を向けると美しい桜が陽光の中、花を揺らしている。  
「今までで一番綺麗に描くから。」  
僕は声をかけると画材を居間に並べたのだった。  
 

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