「あの…長谷部君!」退屈な電車を彩ったのは、都築さんのウィスパーヴォイス。
「あの…これ…」白く透き通った手には美術館のチケット。「土曜日大丈夫かな?」
「ああ。大丈夫。」飛び上がりそうな気持ちを抑える。本当はもう飛び上がりたい。
「えへへ。断られたらどうしょうかなと思ってた。」「都築さんの誘いを断るようなのは…」
「居ない?長谷部君?ねぇ長谷部君!私勘違いしちゃっていいのかな?」「えっ…」
「ううん。何でもない。これから…段々とね。」都築さんが僕の手を握る。
「長谷部君。この参考書良いね。国別の地図と年表が一緒になってる。世界史得意だもんね。」
「いや…そんなこと無いよ。都築さんだって古文や数学が得意じゃん。スゴいや。」
「じゃあ私に世界史と英語教えて!数学や古文は私に…任せて欲しいな…ダメかな?」
「えっ。いいの?マジで。」「うん。じゃあ決まりね。」弾けるような笑顔。
その中に、わずかに朱が入った様な…。考え過ぎか。でも本当可愛いな、都築さん。
土曜日…約束の日。ひたすらガムを噛んでいる。何もしないことが、こんな苦しいとは。
「長谷部君!ごめんね?待った?」「ううん。全然。都築さん…よく似合ってるね。」
「本当?嬉しいな。」白いワンピースに、白い帽子。彼女の清楚さを引き立たせる。
このまとわりつきそうな暑さも、彼女の前では無力だ。涼しげな姿。写真にしたいな。
電車がやってくる。「長谷部君!これ…」「グリーン券じゃん。どうしたのこれ?」
「ママに頼んで…人が少ないって言うし…どうせなら長谷部君の隣が良いなって…」
「僕なんかの?」「うん!長谷部君の隣が良いな。」
「ありがとう…都築さん。」それから、僕はひたすら喋った。沈黙が怖かった。
それにもっと都築さんの事が知りたかった。僕を走らせてくれる優しい彼女。
上野駅のフォームに入って行く。僕は彼女の手を握る。彼女のナイトを気取ろうとする。
ゆっくりと構内を進んで行く。動物園へ向かう親子連れ。「わぁ。可愛いよ長谷部君!」
(意識したらダメだ)「うん。可愛いよね。」「長谷部君なら、格好いいパパになれるよ。」
(格好いいパパか…じゃあ綺麗なママは…都築さん?それとも…夏月お姉さん?)
「ねぇ長谷部君!着いたよ。」目的地が、僕を妄想からすくい上げる。「助かった…」
「アレが…考える人か…。」「長谷部君。考える人って何を考えてるんだろうね。」
「何て言うか、考えさせたかったのかな?考える人は1つしかないけど、見る人は違う。」
「沢山いる。見る人にはそれぞれバイアスがあるから、1つとして同じ考える人は無い。」
「それを気付かせたかったんじゃないかな?1人として同じ人は居ない。みんな特別。」
「都築さんだって、特別だよ。優しいし、頭良いし、綺麗だし。」「でもね長谷部君。」
「私は…長谷部君の一番の方がいいかな…ううんごめんね。夏月さんいるものね。」
「あっ!長谷部君…顔真っ赤にしてる。まだ私にも可能性あるのかな?あっそうだ。」
都築さんがバッグから取り出したのは。「美術館ってクーラー強くてないんだね。」
デオドラントペーパー…。都築さんの細い手で、僕の顔や腕の汗を拭き取って行く。
「夏月さんより巧くできたかな?」仄かにクールシトラスの香りがする。「これもいいな。」
「長谷部君はこっちの方が良いよ。それに…フローラルは…夏月さんの香りよ。」
「長谷部君は長谷部君だよ。絶対こっちがいい!」都築さんの思いが届く。光より早く。
あれから…僕は綿あめの中を歩いていた。「私は…長谷部君の一番が良いな…」
(長谷部君の一番…)こんな美人と付き合えたら…それは幸せだろう。でも…良いのか…?
お揃いのパスケースを買ったアメ横でも。グラブの話をした神田でも。フワフワの世界。
参考書と言う現実の申し子を選んだ神保町でも。やっぱりフワフワの世界にいた。
「長谷部君の一番が良いな。」(僕の一番って誰なんだろう。)帰りの電車でも同じだった。
駅についても、まだフワフワの世界にいた。現実感が全くない。そのまま帰宅のはずだった。
「かず君!」夏月が立っている。「もう11時よ。都築さんとのデート楽しかった?」
「デートなんかじゃ…」「んっ?何?私の香りじゃない!かず君ひどい!どうして!」
「夏月…嫉妬してるの?だとしたら嬉しいな。」「えっ…?そんなんじゃないわよ!」
「もし嫉妬してるなら…都築さんには会わないよ。」「本当…かず君…」「本当だよ。」
「かず君…ごめんね…私1人になりたくなかったの。」「夏月…不安にさせてごめんね。」
夏月が僕の手を引いてゆく。「かず君…都築さんには出来ない事をしてあげる。」
夏月が僕の部屋で、僕を見つめている。「都築さんにはこんな事はできないよね。」
淡いブルーのTシャツと下着を剥ぎ取ってゆく。豊かな、夏月の膨らみが露わになる。
「かず君…」夏月が僕の局部を、谷間の中に挟み込む。そして先端を啄む。「んっ…」
「ジュル…ズッ…ジュル」「夏月…気持ちいい。」「んっ…だって好きだもん。かず君。」
上目遣いで僕を見つめる。もっとこの女性を…優しさでつつまなきゃ…なんて思う。
「かず君!張り切ってきたね。出しても良いよ。」「夏月…汚いよ。」「良いのよ。」
「かず君だから。」僕は盛大に発射した。「コホッ…コホッ…コホッ…」「大丈夫?」
「大丈夫よ。それにね…お姉ちゃんは…かず君の為に無理をするものなの。ねっ。」
「夏月!」僕は彼女に抱きついた。彼女だけに無理をさせる訳にはいかなかった。
夏月を膝の上に乗せてみる。そして…「かず君…入ったよ…」夏月が深く呼吸して…
スッ…グチュグチュ…大きく腰を動かす。瞳は僕の瞳を捕まえたまま。「かず君…」
「あっ…この前より巧くなったかな。」「多分。」とはいったものの、まだぎこちない。
それに夏月の祕唇はまだ硬いままだ。でもそれが彼女らしさかなと思ったりもする。
グチュ…ズブ…ズブ…部屋に湿った音が響く。「かず君!かず君!かず君!」
「どうしたの?」「んっ…ヤッパリ…んっ…気持ちいいなって…」「よかったね夏月。」
限界が近づいてくる…。「夏月。出して良い。」「聞かなくても…決まってるじゃない」
ドクッドクッ…白い液体が2人を繋いで行く。「かず君…」「夏月…良かったよ。」
「かず君ね…幼稚園の時ね…勝手に1人で歩いてっちゃって…隣の駅まで行ってしまったの」
「私ね…不安で不安で…もうかず君の手を離したらいけないって思ったの。」
「今日ね…その時を思い出して…不安で不安でたまらなかった…かず君…独りはいやだわ。」
「夏月。わかったよ。」「んー。物分かりの良いかず君はよい子です。ナデナデ。」
窓から夏の月が見える。僕達の未来を指し示すような。「夏月…もうナデナデは…」
「かず君!よい子を誉める事は当たり前の事です!」多分、手は離さないだろう。
増長しました。すいません。