ゆさゆさゆさゆさ
「ん……なんだよ……一体……」
昭司は身体を乱暴に揺すられて、目を覚ました。
「昭司、こら、起きなさい」
再び身体を揺さぶられる。
「どうしたんだよ、お姉ちゃん」
寝起きの悪い弟がまぶたをこすりながら布団から顔を出した。するとそこに
は、目を吊り上げて姉が仁王立ちになっていた。すでにセーラー服に着替えて
いる。
「──これはなんなの、昭司」
ばさっ、と音を立てて姉が何かを目の前に突き出してくる。
焦点が合っていくと、そこに映ったのは肌を露に晒した若い女性が悩殺的に
尻を向けているパッケージのアダルトDVDだった。
「桃尻Tバック娘」と書かれている。
しまった、と昭司は思った。風紀委員よりうるさい我が家の生徒会長様はこ
の手のビデオが大嫌いだった。普段は華菜に見つからない場所にこっそりとし
まっておくのだが、昨日はうっかりと出しっ放しにしてしまっていた。
「こんなビデオなんか見ないようにって前に言ったでしょ?」
「ご、ごめんなさい」
健全な男子高校生がエロビデオを見たくらいで何もそこまで、というほどの
迫力で睨んでくる姉。
華菜はパッケージに目を落とした。
アダルト女優が際どいTバックパンツを食い込ませたヒップで挑発している。
過激なパンツを身に着けた女優のヒップにスポットを当てて大きくフィーチ
ャーした、どちらかというとマニアックなビデオである。
姉の目がパッケージ裏面の写真で止まり、みるみる彼女の顔が紅潮した。
「こ、こんな……」
と、彼女は洩らした。
「ばかっ!」
プラスチック製のパッケージの角で昭司の頭をぽかりと打つ。
「痛えっ」
華菜は憤然としてDVDを放り投げ、その朝はまったく口を聞いてくれなか
った。
昼休みの学校。
屋上で昭司はぼうっとパンをかじっていた。
天気は晴れ。秋に向かいつつある空には羊雲が浮かんでいる。
しかし、そんな空模様とはうらはらに昭司の気分は沈んでいた。
「おす!!」
ばしん、と不意に背後から背中を強く叩かれ、昭司はむせこんだ。
「だーれだっ!?」
目隠しをされる。その声は軽快な女性のもので、背中には豊満なふたつのふ
くらみがぎゅうっと押し当てられる。
「な、何するんだよ、姉貴……」
昭司が言うと、すぐに目隠しが外された。
ゆっくりと開いた目に、屈託なく笑う風間瑛子の姿が映った。
「よお、少年。毎日勃起してるか?」
幼馴染の従姉は例によって強気な瞳を輝かせながら際どい挨拶をした。
「お姉様と毎日しっぽりとヤッちゃってる?」
人差し指と中指の間に親指を通す下品な仕草をしながらニヤニヤと笑う。
瑛子は華菜と昭司を奪い合った経緯があり、姉弟の密通を知っている唯一の
人間であった。一度は昭司と関係を持ったこともあるが、今では危険な冗談で
昭司をからかう程度にとどまり、本気で誘惑してくる気配は見せていない。
瑛子は、昭司の隣に勝手に腰を降ろすと、手をポケットに入れた。
キン……シュボッ
オイルライターで、唇に咥えた煙草に火を点す。
「こらこら、学校で煙草なんて吸うなよ、姉貴」
「お姉様に言いつけたらお仕置きだよ、昭司」
紫煙をくゆらせる従姉。
「そもそも、同棲して毎晩姉弟で不純異性交遊してる不良に比べれば煙草な
んて可愛いもんでしょ」
瑛子は軽い笑い声を立てた。昭司は返す言葉もない。
「──で」
と、従姉は煙草を指に挟み、昭司を見た。
「おまえ、華菜とケンカでもしたの?」
瑛子は彼の瞳を覗き込んだ。
風間瑛子はデリカシーのない頭からっぽギャルのように見られることがある。
だが、その実は繊細極まりない少女であり、特に幼い頃を共に過ごした昭司
に関しては実に鋭い。
まるで見ていないようで、従弟が困っていると何気なく近づいてきて手を差
し伸べてくれるのが風間瑛子という少女だった。
そしてそんな時、昭司はこの美少女にどんな悩み事でも素直な気持ちで打ち
明けることができるのだった。
「ふうん」
と、規律を破りたがる困った美少女はオイルライターを弄びながら言った。
「アダルトビデオよりエロいことしてるくせに、ガタガタ言う必要なんてな
いんじゃない」
彼女は昭司を見た。
「昔から、その手のエログッズにはうるさいんだよな。なんであんなに堅物
なんだろう」
昭司はため息をつく。
「堅物だから怒っているのじゃないかもよ」
小麦色の肌をした小悪魔の瞳が光った。
「どういうことだよ?」
「そういう意味よ、鈍い色男」
瑛子は謎かけをしたまま、解答を教えてくれる気はないようだった。
「──それに、佐伯のバカのことは気にする必要なんてないと思うよ。部活
と生徒会で一緒だからそれなりに打ち解けてはいるだろうけど、男としては華
菜の眼中にないよ」
「そうなのかな?」
「華菜の目にはおまえしか映っていない。もっとも、それだからおまえをあ
の子に譲ってあげたんだけどね。
でもこのままじゃ、あんまりあたしが身を引いた意味がないな」
幼馴染の従姉は煙草を咥えながら、何かを考える風だった。
「──いいよ。まかしときな、昭司。あたしがきっとおまえとお姉様がうま
くいくようにしてあげるから」
瑛子は久しぶりに、からかいではない本気の目をしていた。
部活に生徒会活動に友人からの誘い、と多忙な華菜は珍しく早い帰宅をして
いた。
だが、そんな時に限って弟の昭司の帰りが遅い。
いつもは華菜の帰りが遅く、彼女は心ゆくまで弟の顔を見つめることができ
ないでいた。
熱い夜を重ねることはあっても、やはりそれはそれとして、弟と甘く過ごす
凪のような時間も持ちたかった。
華菜は、弟の繊細な横顔が好きだった。
弟はだらしのない無頼漢を気取ろうとするところがあるが、決して一線を越
えずに真面目な優等生であろうとするところもあった。それは従姉の瑛子に憧
れる一方で実姉に心配をかけまいとする彼なりの葛藤のようでもあった。
彼はいつも何も言わない。
どんな悩みも悲しみも、いつも笑顔の下に押し隠して華菜に接してきた。
そして、ふとした瞬間に見せる繊細で物憂げな弟の横顔は、誰も知ることの
ない彼の本当の寂しさや優しさが滲み出してくるようだった。それは姉として
の華菜の胸を切ないほどに痛め、母性本能に似た庇護欲をかきたて、我知らず
弟の身体を抱きしめているのだった。
たとえ弟が「痛いよ、お姉ちゃん」と言おうとも、華菜にはその力を抜くこ
となどできないのだった。
携帯の着メロが鳴った。
愛しい弟からの、帰りが遅くなるので食事は要らないというメールだった。
華菜は携帯を放り出し、布団の上に寝転んだ。
ああ。どうしてこんなにも苛立つのだろう。
枕を抱きしめて、布団の中に潜り込む。
なんだか、身体が熱い。
あのあどけない顔立ちをした鬼畜が毎晩毎晩姉の秘肉をずぶずぶに犯し抜い
た挙句、二日も続けて放り出すからだ。
あのバカ……。
なんだか股間がむず痒いような感じがして、華菜は太ももをこすり合わせた。
我慢ができない。
………………………。
お、オナニー、してみようかな……。
華菜は、今まで自慰行為というものをしたことがなかった。
ずっと興味なんてなかったし、弟と夜を共にするようになってからは、そん
な暇もないほど弟は求めてきた。
だが、カラダがすっかりと弟の肉棒を受け入れるように順応してしまった今、
初めての空閨に耐えることが難しい。
──いや、ダメだ。
華菜は自制する。
快楽に流されるようでいてはいけない、と思う。そもそも、今まではこんな
ことをしようという気さえ起きなかったのだ。
三崎華菜が自らの襞肉に指を這わせ、自慰に耽っているなんて、あってはな
らない。
あってはならない、が……。
華菜の指は意思に反して股間へと伸びていた。
どうしてしまったのだろう。
三崎華菜は鋼鉄の自制心が売り物のひとつだった。どんな誘惑にだって常に
克己心を発揮してただ目的のために努力してきた。
だが今度ばかりは今まで彼女が経験してきたどんな気持ちとも違う。学業だ
って、スポーツだって、どんな分野でも華菜は自分の努力とそこから生み出す
実績に自信を持っていた。
ただ、弟を前にした時、自分の心と身体を制御しきれる自信がまるで持てな
かった。
こんなことは、初めてだ。
激しい交歓の連続の中で、いつの間にかこんなにも弟の存在が自分の中で大
きくなっていたなんて。
華菜のほっそりと整った指先が襞肉をこすり始めた。
小さな電流が通ったように快感が背筋を走る。
だがそれは飢えた胃に小さな食物が入ったように、ますます刺激への渇望を
促すだけだ。
下着の中に入った指先がせわしなく動き始める。
あっという間に女洞の奥からねっとりとした液体があふれ出してくる。その
勢いに華菜は我ながら驚いてしまう。
こんなにも自分はいやらしい女だったのか。少し指でこすり上げただけで、
下着がぐっしょりになるほど淫液を吐き出して男のものを求めてしまっている。
なんとあさましいカラダなのだろう。
美しい人差し指がすうっと女穴へと差し入れられた。
背筋がぴくっと跳ねた。
カラダが発赤し、かぁっと熱くなってきた。ペニスの侵入を求めている。硬
く太いもので貫かれたがっている。
ああ、なんて下品なのだ。
人差し指が女穴を素早く出入りすると、その度にもじもじと太ももはこすり
合わされ、切なげに腰がよじれる。次第に吐く息は荒く、湿度が高まっていく。
華菜の女芯は刺激することで満足するどころか、指が挿入されるたびにますま
す感度を上げ、いよいよ貪欲に快楽を求めようと蠕動を始める。触れれば触れ
るほどに切なくなっていく。
しかし、快楽曲線が上がれば上がるほど、自慰は華菜にとって背徳的な感じ
のする行為だった。
皮肉なことに、その背徳感がさらに彼女の快楽源となっていく。
ああ、こんなにも自分とは淫乱な女だったのだろうか。弟の帰りが待ちきれ
ずにひとりでオナニーしているスケベな女だと知られたら、彼に嫌われてしま
うのだろうか。
違うのだ。
弟にだけはわかってほしい。華菜にとっての自制心とは、即ちたったひとり
の弟を守り、幸せにするための努力なのだ。
どんな努力もすべては弟を愛し、愛されるため。だから、彼の前ではすべて
の自制心のたがは外れ、無敵の三崎華菜から、ただひとりの女になる。
それを意識した時、彼女の女芯の奥の奥で何かが疼くような感じがした。
華菜の股間の中心で、襞肉が蠢き、妖しく花開きはじめた。
──な、なに!?
腰が知らずに揺れ始めた。
自分のカラダが自分のものでないかのように反応を始める。
股が大きく割り開かれ、ストリップダンサーのように腰が突き出され、淫ら
な前後運動を始める。
顎が上がっていく。
なんて恥ずかしい格好をしているのだろう。
華菜は自分で自分のカラダの激しい反応をもてあまし始めた。一体これはな
んだ。あまりにも弟に犯されすぎてカラダが彼のペニス依存症にでもなってし
まったのか。弟のペニスに対する世にも下品な禁断症状だとでもいうのか。
彼女はぞっとした。
ああ、なんと怖ろしいことなのだ。
これは、開放してはならない。彼女の心の地下の底の底に堅く扉を閉じて押
し込めておかねばならない魔性のモンスターだ。
なぜなら、このモンスターには決して打ち勝つことのできない確信が華菜に
はあったからだ。
女芯へと差し入れられる指の動きはいよいよ速度を上げていく。
粘膜は強く絡みつき、蠕動する。
目を瞑った暗闇の視界の中で、稲光がいくつも走る。数度瞬き、身体の筋肉
が硬く硬直する。
華菜の脳裏に、はにかんだような表情の弟が浮かんだ。
──昭司!
彼は、愛の言葉を囁いた。
刹那、華菜の全身が一枚岩のように硬くなり、痙攣した。
目の前が真っ白になった。
大空に舞い上がるような浮揚感が生じ、全身を襲う。小さな痙攣。そして襲
う疲労感。急速な弛緩。
華菜は荒い息をつきながら、目を見開いた。
「昭司……」
うわ言のように呟いて、姉は静かに眠り始めた。
トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル
「──あれ、電話に出ないぜ、姉さん」
昭司は携帯電話を鳴らしながら言う。
「忙しいのかしらね」
隣にいた瑛子は答える。
「まあいいわ。また今度だって構わないもの」
「でも姉貴」
と昭司は従姉の目を見る。
「一体何をするつもりなんだい?」
「言ったとおりよ。華菜がどれだけおまえのことを求めているのか、それを
見せてあげる。それも、とびきりに切実に求めているってことをね」
性質の悪い悪戯の好きな従姉はふくみ笑いをした。
「悪い顔してるよ、姉貴」
「そんなことないわよ、ふふふ。悪いけれど、華菜のカラダはおまえには過
ぎた玩具だよ」
「……どういう意味だい?」
「おまえは相当のスケベだけど、華菜のカラダも超一級にスケベだってこと
よ」
昭司は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「ふふふ」
と瑛子は何かを想像して愉快げに笑った。
じりりりりりりりり
少し遅めに帰宅した次の日の朝。
寝覚めの悪い昭司は眠い目をこすりながら布団の中でもぞもぞと動き、腕だ
け出して目覚まし時計を止めた。
あと五分寝るか……。
……………………。
…………………ぐぅ。
「起きろ、昭司!」
ばさっ
「のわっ」
大きな声とともに布団を剥ぎ取られ、昭司は縮み上がる。
顔を上げると、そこにはすでに制服に着替えた姉が仁王立ちになっていた。
「遅刻するでしょ、早く起きて支度しなさいっ」
「ひいいいっ」
朝に弱い昭司は亀のように首を縮めた。
仕方がないのでパジャマを脱ぎ捨て、タンスにかかった制服へと手を伸ばす。
ズボンを穿いてシャツを着て。
「……?」
彼は不審に思って姉を見た。
「お姉ちゃん、なんで俺の着替えをずっと見てるんだよ?」
すでに着替えの終わった姉は腕を組んで仁王立ちの姿勢のまま弟を恐い顔で
睨んでいる。
姉は黙って何かを投げて寄越した。
慌ててキャッチすると、それは昨日の朝にひどく怒られたマニアックなお尻
DVDだった。
「そんなもの見なくたって──」
と姉は言うと踵を返して弟に背を向けた。
膝を曲げてお尻を突き出し、制服のフレアスカートをそっとめくり上げてい
く。
姉の肉付きの良い後ろ太ももから、桃のようにむっちりとしたお尻がむきだ
しになっていく。
「……あ」
そして、そこにはいつものような白い下着はなく、黒いTバックのパンツが
際どく尻の谷間に食い込んでいた。
「お姉ちゃん、こんな下着持ってたっけ……?」
「き、昨日、買ってきたのよ」
姉は顔を真っ赤に紅潮させて言った。
ふぁさっ、とすぐにスカートを下ろしてしまう。
「あぁ……」
昭司は魅惑の光景の閉幕に肩を落とした。
「なんて顔してるのよ、バカ」
グラビアアイドルよりも挑発的で肉感たっぷりの桃尻の持ち主は弟の肩に手
を乗せた。
「あんなビデオなんかもう買ったらダメよ? もし見たいんだったら、どん
なものでもお姉ちゃんが、見せてあげるんだから──」
「ど、どんなものでも?」
弟はごくりと唾を飲んだ。
「うん。どんなものでも──」
美しい姉が耳で囁いた言葉はどこまでも甘い音色だった。その言葉の持つ無
限の可能性に、妄想たくましいスケベ弟は頭がくらくらした。