放課後、いつものように活況を呈する屋外プール。  
 今日も華菜率いる水泳部の練習が行われていた。  
 
 競泳水着でむちむちの肉体を引き締めた華菜はパーカーを羽織り、濡れた  
プールサイドを闊歩していた。  
 半分ほどはみ出した尻の肉がたぷんたぷんと揺れ、男子生徒達の劣情を否応  
なく刺激する。  
 正直、そんな華菜の姿に憧れて入部した男子部員も数多くいるのだった。  
 そして、佐伯恭介もそのひとりだった。  
 
 恭介はプールサイドから後輩を指導しながらちらちらと横目で華菜の肢体を  
盗み見ていた。  
 ──ああ。華菜さんの体はいつ見てもスゴイな……。  
 巨乳で売っているグラビアアイドルだってこれだけ形良く盛り上がった爆乳  
をしてはいまい。  
 胸だけでなく、水泳でよく発達した肩まわりや背中にかけての優美なライン  
が健康的ななまめかしさを感じさせる。  
 その躍動を眺めているだけで恭介は思わず小さな競泳パンツの中で勃起して  
しまうことがあり、そんな時には慌てて水中へと飛び込む。ぴったりとした競  
泳パンツでは彼の剛直を隠すことはできず、危なくペニスが頭を出しそうにな  
ってしまうのだった。  
 
 「──華菜さん、少し休憩しない?」  
 恭介が華菜を誘うと、彼女は笑顔で頷いた。  
 「そうね。休みましょうか」  
 ふたりは日のあたる金網にもたれかかって肩を並べた。  
 華菜はペットボトルのミネラルウォーターを口に運ぶ。恭介はそっとその胸  
元を見つめた。深い谷間が形成され、収まりきらない爆乳が首元から飛び出し  
そうになっている。ビキニを着ているわけでもないのにこのボディのわがまま  
ぶりは異常だ。華菜を見ているだけでいつも恭介は自然と鼻息が荒くなってき  
てしまう。  
 恭介が冗談を言うと、プールサイドの女神は明るく笑い、時にはたしなめる  
ように彼の肩をちょんと叩く。  
 そんな瞬間、恭介はテンションが上がりすぎて射精しそうになる。彼女の笑  
顔は太陽のように明るく、その肉体は眩しすぎる。  
 恭介自身が冗談めかして彼女の肩を叩いたり抱いたりすることもあった。そ  
れでも、華菜は嫌がる素振りを見せることがない。  
 彼は、校内では特別扱いだと思っていた。  
 完璧な女神である華菜にそんなことが許されている男は、自分だけだという  
自負があったし、水泳部内でも校内でもそれは周知の事実となりつつあった。  
 順調に既成事実は作られつつあった。  
 あとはあの目障りな弟さえ排除してしまえば華菜はあっさりと落ちる、と思  
った。ちょいとプレッシャーをかけてやればすぐにも姉から離れていくだろう。  
 ──たまらん。もうすぐ、この全校生徒憧れのナイスバディが俺の手に。う  
へへ。  
 恭介はごくんと唾を飲み込んだ。  
 
 その時、プール入り口の方がざわめき始めた。  
 「? どうしたのかしら?」  
 華菜は不審げな顔をした。  
 「見てくるよ」  
 恭介は立ち上がって、入り口へと歩いていった。  
 すると、そこに立ち並んでいた一年生達をかきわけるようにして、制服姿の  
美少女が現われた。  
 「よう、恭介」  
 小麦色の肌をした美少女は挨拶した。  
 「おまえは──風間じゃないか。何の用だ?」  
 「ふふふ。華菜に会わせて。──三崎華菜に水泳の勝負を挑みに来たのよ」  
 風間瑛子はそう言った。  
 
 「見てのとおり、今は部活の最中よ」  
 と、プールサイドへやってきた瑛子に向かって華菜は言った。  
 「そんな勝負、受けられるわけがないでしょ?」  
 彼女はいたって常識的な意見を口にする。  
 「そうだよ。風間おまえ、バカじゃないのか? 華菜さんはおまえみたいな  
アホとやり合う暇なんてないんだよ」  
 瑛子を連れてきた恭介も尻馬に乗る。  
 「逃げるつもり?」  
 小麦色の肌をした強気な瞳の美少女は言った。  
 「逃げるとは言ってないでしょう。ただ、周りを見ればわかるでしょう。今  
はそんなことできる状態じゃないの。ましてや私は部長なのよ。そんな自分の  
わがままなんか通したらいけないのよ」  
 華菜の言い分はどこまでも当たり前のことであった。  
 「勝負形式は50mの自由型競泳のタイムよ。ただ、現役の水泳部員の華菜に  
はハンデをしょってもらうわ」  
 強引な瑛子は、勝手に話を続ける。  
 「おい風間、華菜さんの話を聞いてるのかっ?」  
 恭介は声を荒げ、ついに実力行使で瑛子を排除しようとした。  
 「ハンデは、これよ」  
 
 
     ばさっ  
 
 
 美少女の手がひらめき、制服がプールサイドに舞った。  
 中からこぼれだしてきたのは、あろうことか大胆なカットの黒ビキニに包ま  
れた悩殺的な小麦色のダイナマイトバディだった。  
 瑛子を追い出そうと手を伸ばしていた恭介は固まり、その目は彼女の巨乳に  
釘付けになった。  
 金網の外、グラウンド側に詰め掛けていたいつものギャラリー生徒達、主に  
男子生徒から声が上がった。  
 何人かの水泳部の男子が股間を押さえてその場にしゃがみ込む。  
 
 「──これと同じ水着を華菜にも着てもらうわよ。競泳水着なんて着られた  
ら遠慮なくインターハイクラスのタイムを叩き出されてしまうからね。脱げ易  
いこのビキニを着ることで枷をつけてもらうの」  
 瑛子はショッキングピンクのビキニを手にしてそう言った。  
 「風間、そんなもの華菜さんが受けるはずがないだろう?」  
 恭介は大胆に胸のカットされたビキニのハミ乳から目を離せずに言った。  
 「恭介くんの言うとおりよ、瑛子」  
 華菜の毅然とした態度を予想していた瑛子は、背後に控えていた男子の肩を  
掴んで引き寄せた。  
 それは、肩を縮めて居心地悪そうな弟だった。  
 「賭けの対象は昭司よ。もしあたしが勝ったりあんたが棄権するというなら、  
コイツはあたしの弟としてもらっていくわ」  
 ふふっ、と笑う瑛子。  
 華菜の眉が吊り上り、瞳が危険な光を帯びた。  
 
     ピクピクッ  
 
 「──いいわ、受けて立とうじゃない」  
 こと弟のことになると一瞬で見境を失う姉は、前言までの流れをきれいさっ  
ぱりあっさりと撤回した。  
 「か、華菜さんっ。こんなバカな勝負受けることないよ。弟さんは彼女に自  
由にさせてやったら──」  
 
     どんっ、ばしゃーんっ  
 
 横も見ずに華菜が恭介を突き飛ばすと、彼はプールの中に勢いよく転落した。  
 獲物を前にした鷹のような目でまっすぐに瑛子を睨む華菜。もしも他の生徒  
ならば一瞬で縮み上がってしまうに違いない迫力だったが、腕組みをした瑛子  
はその視線を受け止め、鋭い視線を返してくる。  
 「上等じゃない。昭司に手を出したらどんなことになるか教えてあげるわ」  
 史上最強のブラコンは低い声で告げる。  
 学園で双璧を誇るアイドルふたりは今、昭司を巡って一触即発の修羅場を迎  
えていた。  
 
 清楚で凛々しく、いつも毅然とした美しい生徒会長兼水泳部部長。  
 その正統派アイドルがショッキングピンクのビキニを身に着けてプールサイ  
ドに姿を現した。  
 周囲の男達から「おおっ」というどよめきが起こった。  
 小さな布切れに収まりきらない双爆乳が真ん中に寄せられて互いに圧迫しあ  
い、裾野に深い谷間を作っている。  
 あまりそういう水着に慣れていないのか、下乳横乳を覆いつくすことに腐心  
したあまり、谷間にこぼれそうなほどの乳肉が集まり、かえって悩ましい圧迫  
感を感じさせる。  
 その悩ましさとギャップにギャラリーの男子生徒達は総立ちだった。華菜の  
ビキニの破壊力に男子生徒達は降伏状態だった。  
 恭介もプールの中で、競泳パンツから完全に頭を出したペニスを押さえなが  
ら息を荒くしていた。  
 普段の華菜ならこんな格好で部活中に衆目の前に姿を現すなど考えられない。  
 だが弟のこととなると一瞬で頭が沸騰し、冷静さを失うのが三崎華菜という  
美少女だった。無敵の彼女のアキレス腱は言うまでもなく弟なのだ。  
 そしてそれを十二分に知り尽くし、あざといまでに利用するのが風間瑛子と  
いうしたたかな従姉だった。  
 学園で圧倒的な人気を誇る美少女ふたりは、この上もなく悩殺的なスタイル  
でギャラリーを前にして対峙していた。  
 そのふたりはスタート台に立つ。  
 「条件を確認するわよ。50mを先に泳ぎきった方が勝ち。もしあたしが勝て  
ば昭司をもらっていくわよ」  
 瑛子が言う。  
 「私が勝ったら、もう昭司に手を出すんじゃないわよ」  
 華菜は強い口調で言った。  
 瑛子はニヤリと笑って頷いた。  
 
 
 「──こんな勝負したって、華菜さんが勝つに決まっているだろう?」  
 昭司の隣にいつの間にかやってきた裕一が言った。関係者のふりをして華菜  
のセクシーなビキニ姿を近くで見るつもりらしい。  
 「瑛子センパイは運動部に所属しているわけじゃないし、超高校級の華菜さ  
んには敵わないだろ」  
 「もちろんそうだろうが、あんな紐みたいな水着を着てれば姉さんだって本  
来の実力は出せないだろうしな。それに姉貴は部活なんかしていないくせに、  
たまに本気出すとありえないくらいの身体能力を発揮するからなぁ」  
 ただ、本職の水泳で華菜が負けるとは昭司にも思えなかった。  
 
 
 恭介の合図でふたりの魅惑的な美少女は水中へ飛び込んだ。  
 身体のバネを利かせ、勢いよく飛び込むと一切無駄のない美しいフォームで  
前へ進む。  
 素人の瑛子は凄まじいロケットスタートで華菜の前方へと飛び出した。  
 プールサイドから「おおっ」という驚嘆の声が洩れる。  
 ぐんぐんと華菜を突き放しにかかる瑛子。  
 「す、すげえ、瑛子センパイ!」  
 裕一が興奮して叫ぶ。  
 「無茶だ。スタミナの配分をまったく考えていない。あんなペースでもつわ  
けがない」  
 恭介がふたりの泳姿を見ながら言う。  
 昭司はふたりの姉の姿を複雑な表情で見つめていた。  
 25mのターン前で瑛子は息切れを起こし、みるみる減速を始めた。ぐっと華  
菜が距離を詰めてくる。  
 そして、瑛子が尻を浮かび上がらせ、壁面を蹴った。そのすぐ前に華菜。  
 瑛子の手が走った。  
 刹那、プールサイドでどよめき。華菜が泳姿を大きく崩す。  
 次に瑛子の右手が水面に現われた時、その手にはショッキングピンクの小さ  
な布切れが握られていた。  
 それは、先ほどまで華菜の胸元を覆っていたビキニだった。  
 
 片手で大きすぎる胸を隠しながら泳ぐ華菜は大幅な減速を余儀なくされる。  
 水面へと、手ブラの爆乳が現われるたび、男子生徒達は鼻血を出してしゃが  
み込み、水泳部男子達は水飛沫を上げてプールへと飛び込み股間を押さえる。  
 「な、なんて真似をしやがるんだ、風間の奴っ」  
 と叫ぶ恭介もしゃがみ込んで股間を両手で押さえていた。  
 
 
 華菜がやっと50m泳ぎきった時には、すでにスタート台の上に瑛子が待ち構  
えていた。  
 その手には戦利品のようにピンクの水着をくるくるとまわしている。  
 「ひ、卑怯よっ」  
 華菜はもっともなことを主張して怒り狂う。  
 「卑怯だろうがなんだろうが、約束は約束でしょ。昭司はもらうわよ」  
 悪役丸出しでニヤニヤする瑛子。  
 「認めないわ。絶対に昭司は渡さないっ」  
 水着を返すように迫ることも忘れ、華菜は叫ぶ。  
 はたから見ると、どう考えても勝手な賭けを持ち出した上に反則技を使った  
瑛子の方が分が悪いはずだ。だが、すっかり頭に血ののぼった華菜は彼女らし  
い冷静さを失い、論理も道理もなく瑛子に食ってかかるばかりなのだった。  
 それこそが華菜が重度のブラザー・コンプレックスであることの何よりの証  
明でもあった。  
 
 
 「そうね。華菜がそんなに言うなら、あたしも鬼じゃない。少し妥協してあ  
げてもいいわ」  
 瑛子は今回の勝負が始まってから一番悪い顔になって含み笑いをした。  
 これだ。  
 ──こうして姉さんに断れない状況を作り上げるために、姉貴は今回の茶番  
劇を仕組んだんだ。  
 昭司は、華菜の性向を見通して作戦を立てた瑛子の用意周到さに内心舌を巻  
いた。  
 瑛子は、ざぶん、と大きな水飛沫を上げてプールに飛び込むと、華菜に近づ  
いて胸のビキニを着けてやった。  
 そして、そっと彼女の耳元に口を近づけていく。  
 
 「──昭司と華菜のエッチにあたしを一度だけ混ぜなさい」  
 と、小悪魔美少女は囁いた。  
 「なっ!!!」  
 華菜はぱっと体を離す。  
 「隠す必要なんてないのよ。わかっているんだから。ふふふ、嫌とは言わせ  
ないわ」  
 華菜はぞっとした。恐ろしい。瑛子は初めからこれを狙っていたのだ。  
 だが、興奮して足元をすくわれ、絡めとられた華菜にはすでに逃げ出すすべ  
もない。  
 
 ただ、この小悪魔の要求を呑むより仕方がないのだった。  
 

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