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魔性の姉 
 
 
 
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──第一章── 
 
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 三崎昭司は、姉の三崎華菜と連れ立って近所の私立高校に通学を続けていた。 
 姉は大きな瞳の印象的な美少女で、彼女が折り目の正しい制服に身を包んで 
朝の歩道を歩いていくと、それだけでなんとも言えない華やかなオーラを周囲 
に発揮する。 
 整った顔立ちは一種貴族的ですらあり、姉が凛として通り過ぎていくと、 
次々とすれ違った男達、あるいは女達までもが立ち止まって振り返る。 
 生まれながらに華を持った人間なのかも知れない。華菜は脚がすらっと長く 
全体にすっきりとした肢体の持ち主で、美しいバランスのスタイルをしている 
ので何をしても絵になる佇まいの少女だった。 
 彼女に目をまっすぐに見つめられると、大概の男は鼓動を早めてしまう。華 
菜は他人と話す時に相手の瞳をじっと見る癖があり、それはまるで空気の密度 
が変わるかのように圧迫する力を持っていた。 
 ふっと彼女が笑うと、まるで花束が開いたかのようにあたりに光が満ち、温 
かさが溢れてくるのだ。 
 そんな時、大抵の男は彼女に畏敬のような感情を抱き、そして崇拝に近い恋 
に落ちるのだった。 
 弟の昭司は姉の隣で、男達が恋に落ちる瞬間を数え切れないほどに見てきた。 
 そしてそれは弟としての誇らしい気持ちとともに、一抹の嫉妬や不安感を煽 
り、彼の胸に弟ゆえの複雑な胸の痛みを生じさせるのだった。 
 
     ◇ 
 
 「よう、昭司!」 
 通学バスを降り、校門へと通じる坂道を登り始めた頃、昭司のクラスメイト 
である遠藤裕一が手を振って駆けてきた。 
 「あら、遠藤くん。おはよう」 
 華菜がにこりと笑って挨拶すると、裕一は「お、おはようございます」と口 
の中でもごもごと挨拶を返した。彼も華菜のファンの一人で、いつもは顔を輝 
かせて華菜の話をしているが、そのくせ本人の前に出ると固くなってうまく挨 
拶さえできない。 
 「き、今日は水泳部の朝練はないんですか?」 
 裕一が訊ねると、 
 「ええ。部活の朝練は月水金だけよ。ああ、そう言えば遠藤くんはよく応援 
に来てくれているわね」 
 そこで姉はとびきりの微笑を浮かべて、 
 「ありがとう」 
 と言った。 
 裕一は溶けだしてしまいそうに目尻を下げ、傍で見ている昭司の方が恥ずか 
しくなってくる。 
 「いえ、そんな。華菜さんの頑張っている姿を見ているだけで自分は元気が 
出てくるんで!」 
 華菜の水着姿を見るだけで身体の一部に元気が出てくる、の間違いだろうが、 
と昭司は小さな声で毒づいた。 
 刹那、裕一が昭司の足を思い切り踏んづけた。 
 「あら、どうしたの?」 
 飛び上がった昭司を見て華菜が首を傾げると、 
 「なんでもありませんよ、はははっ」 
 と、なぜか裕一が答えるのだった。 
 
 「じゃあまた後でね」 
 校門に差し掛かった頃、華菜が後ろにいた昭司を振り返った。 
 「うん。また後で、お姉ちゃん──」 
 昭司が言いかけると、姉の視線の険が増した。 
 「お姉ちゃんなんて子供っぽい呼び方はよしなさい、と言ったでしょう」 
 「わ、わかったよ、姉さん」 
 彼が慌てて言い直すと、華菜は少しだけ視線を緩めて、 
 「今日も一日頑張りなさいよ」 
 と言って踵を返した。 
 ふわりとスカートの裾がめくり上がって、一瞬だけ肉付きの良い姉の太腿が 
見えた。 
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 「華菜さんて、結構厳しい人なのか?」 
 肩を並べて校舎の階段を昇っていきながら、裕一が訊ねた。 
 「そうだな。礼儀にはかなりうるさいし、おかしなことをしたらさっきみた 
いな調子で注意されるよ」 
 華菜は決して手を上げたりすることはないが、美人で強い目の力を持ってい 
るので、厳しい目つきをされるだけで注意される方は大きな精神的圧迫を感じ 
る。 
 「意外だな。華菜さんは自分には厳しいけど、後輩や他人がどんな失敗をや 
らかしてもいつも『いいよ、いいよ』って笑顔を崩さない人かと思ってた」 
 「学校では確かにそうだけど、身内に対しては違うんじゃないか。俺にはす 
ごく厳しいよ。頭がまったく上がらない」 
 「そうかぁ」 
 裕一は夢想するように目を瞑った。 
 「でも、美人でなんでもできる華菜さんみたいな姉ちゃんがいたら多少厳し 
くたって良いよなぁ。おまえがうらやましいよ」 
 「そうか?」 
 「だって、あんな美人の私服姿が毎日見れるし、一緒に登校できるし、いつ 
だって会えるんだろう? 俺なんか、華菜さんと三分話をするために一時間早 
起きしなきゃいけないんだぜ」 
 どうやら裕一は昭司に会うためでなく、華菜と話をするためにわざわざ朝か 
ら待ち伏せをしていたようである。 
 「まったく、昭司と友達で俺は良かったよ」 
 あまつさえ、そんなことをぬけぬけとのたまうのだった。 
 「……どうせ、放課後に水泳部のプールに覗きに行くんだろ?」 
 昭司が言うと、 
 「覗きじゃなくて応援だよ、応援」 
 とすかさず裕一が訂正する。 
 「姉さんの水着姿が目的なんだろうが」 
 「それは、否定できんな」 
 校内には、男女問わず華菜のファンが多数いる。初めは華菜がキャプテンを 
務める水泳部の練習の応援に女生徒が集まってきていたのだが、水着姿目当て 
にそこに男子生徒までが加わってきており、今ではちょっとしたファンクラブ 
の様相を呈してきている。 
 「華菜さんは、生徒会の方の仕事はいつしているんだ?」 
 「朝練のない日に早く話し合いをしたり、部活の前に会議をしたりしている 
みたいだよ」 
 華菜は水泳部のキャプテンとして数々の受賞をしている一方で、生徒会長も 
努めている。様々な行事の開催には常に先頭に立ってリーダーシップをとって 
おり、その堂々とした姿に憧憬の念を持った生徒達が数多くいて、華菜は校内 
ではアイドルさながらの人気を誇っているのだった。 
 人気は男子生徒にとどまらず、バレンタインデーにはなぜか女生徒から山の 
ようなチョコレートを受け取って、自宅で困惑している姿を昭司は見ていた。 
 「なんでもできて、あれだけの美人なんて、まったく非の打ち所がない人だ 
よな。やっぱり、弟のおまえがうらやましいよ」 
 裕一は昭司を見てため息をついた。 
 「そうは言うけどな、裕一」 
 昭司は言った。 
 「弟には弟なりの悩みっていうのが、あるんだぜ」 
 「ふうん……?」 
 少しだけ真面目な顔になった昭司を見て、裕一は思案顔になった。 
 「六月くらいにおまえが荒れて華菜さんに怒られてたのがそれか?」 
 「ああ、そうだな。うん」 
 昭司は曖昧な感じで言葉を濁した。 
 それははっきりと口にできることではない。 
 なぜならそれは、姉と弟だけの、誰にも言えない秘めごとなのだから。 
 
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 両親が離婚したのはまだ姉弟が幼い頃。華菜が小学校に上がって間もなくだ 
った。 
 当初華菜と昭司は父と母にそれぞれ引き取られる予定だったらしいのだが、 
どうしても離れようとしない姉弟に匙を投げる形で母親はひとりで家を出た。 
 以来、昼間は仕事で家を空けている父に代わって華菜が三崎家の主婦となっ 
た。 
 六歳のあの日、母親が出て行って閑散とした家で姉が言った言葉を昭司は今 
でも覚えている。 
 泣いている昭司に向かって、 
 「昭司、泣かなくていいよ。悲しくなんかないんだから」 
 「だってお姉ちゃん。お母さんがいなくなっちゃったんだよ」 
 「大丈夫よ。これからは、お姉ちゃんが昭司のお母さんになってあげるから。 
 これから先、どんなことがあっても昭司を守ってあげる。昭司が幸せになる 
ためなら、どんなことでもしてあげるから」 
 「本当?」 
 「うん。だから、泣かないで」 
 昭司が姉の顔を見ると、そう言った姉自身の目からも涙がこぼれているのだ 
った。子供心に、昭司はきっともう自分は泣いてはいけないのだと思った。 
 「わかったよ、お姉ちゃん。僕、もう泣かないよ」 
 「いい子ね、昭司。あたしも、もう泣かない」 
 あの日以来、昭司は姉の涙を見ていないし、姉がほんの小さな弱音さえも吐 
く所を見たことがない。 
 そして、あの日から華菜は例の相手を射抜くようなキラキラとした強い目の 
力を発揮するようになった。 
 スポーツ万能、成績優秀、人望厚く、容姿端麗。 
 そんなスーパーウーマンの三崎華菜が誕生したのはあの日なのではないだろ 
うかと、昭司は勝手に思っている。 
 
 
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 まるで姉に才能のすべてを持っていかれたかのように、昭司の学業成績は低 
空飛行を続けている。 
 今日も昭司は教室で居残り勉強を課されていた。しかも、成績が悪いから残 
されているくせに、漫然と窓の外を眺めている体たらくだった。 
 窓の外の遠くには屋外プールがあり、折りしもそこでは姉が水泳部を率いて 
熱心な練習を続けているところだった。 
 姉は見事なプロポーションを披露しながらプールサイドに立ち、後輩を指導 
している。 
 それを金網越しに校庭から眺めている男子生徒、女生徒達が大勢おり、活気 
のある光景となっていた。 
 水泳で磨き上げた華菜は太腿やヒップにたっぷりと肉がついており、それが 
細身のモデル体型にはない色気の源となっている。 
 ぴったりと身体に食い込むような競泳水着から、はみださんばかりの尻肉は 
彼女が動く度にふるふると揺れ、男子生徒達の劣情を刺激した。 
 そして、華菜は着やせする体型だったが、身体のラインが露になる水着にな 
ると、そのGカップを誇る豊満な乳房の稜線が姿を現すのだった。 
 その大迫力のロケット型巨乳は身体に食い込む競泳水着では収めきることが 
できず、深々とした谷間を形作って首元へはみ出している。 
 彼女が立つと、二つの乳房が重力に逆らうように前へ突き出され、誇らしげ 
にゆさゆさと揺れる。 
 制服姿の華菜は貴族的な容貌と生真面目な印象が先行して、上品なイメージ 
がする。しかしこうして水着になると、むしろ卑猥ですらあるような爆乳と丸 
尻が曝け出されるのだ。 
 三崎華菜は、生真面目の権化だった。 
 鋼のような自律心を持ち、成績は常にトップ、生徒会長を努め、水泳部キャ 
プテンとして数々の大会で受賞している。 
 文武両道で礼儀正しく完璧な優等生。 
 そんな彼女が、一皮剥くとこんなにも女らしく丸みを帯びたエロい身体をし 
ている、というギャップが男子生徒達にとってはたまらない欲情の直撃点なの 
だった。 
 「ああ、たまんねえよなぁ」 
 と、昭司の隣で思わず声に出したのは裕一だった。 
 この男も昭司と同様に成績低空飛行のペア滑空中だった。 
 「昭司、華菜さんのオッパイは何cmなんだ?」 
 「な、何を言ってるんだ、おまえは」 
 「ああ、あのオッパイが揉みたい……」 
 裕一は頭を抱えて悶えはじめた。居残り勉強させられていながらこの有様で 
は、そりゃ成績が上がるはずないわな、と昭司は呆れてしまう。 
 「あの爆乳に顔をうずめて揉みしだいて吸いまわしたい……」 
 「こ、こら。仮にも弟が目の前にいるんだからそういう下劣な妄想を口にす 
るなよ」 
 「……俺、毎日三回華菜さんで発射してるんだよ」 
 「やめてくれ、馬鹿!」 
 思考能力が下がったのか、己の性生活までだだ漏れになりだした友人の口を 
慌てて塞ぐ。 
 「なぁ、おまえは華菜さんのオッパイ見たことあるんだろ? 
 「え、そりゃ……弟だからな」 
 「でも、弟だから興味ないんだろ。ちぇっ、まったくもったいないな。この 
学校の男で華菜さんの裸に興味がないのはおまえだけだぞ」 
 勝手な事を言いながら裕一はため息をつく。 
 「ああ。華菜さんの身体って、触ったらどんな感じがすんのかな。やっぱり 
吸い付いてくるのかな。柔らかいよな」 
 あまつさえ裕一は両手で胸を揉むようなジェスチャーまで始めるのだった。 
 
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 裕一だけでなく、昭司に羨望を抱く生徒は数多くいた。 
 美しく優秀な学校のアイドルを姉に持って弟や妹として甘えたい、という気 
持ちなのかもしれない。 
 だがしかし、実は彼が学校中から羨望される理由はもうひとつあった。 
 
 
 「こらーっ、出来ん坊主共。居残りしてまで何を馬鹿なことやってるの!」 
 廊下から聞こえてきた大声にふたりが振り向くと、そこに腕組みをして立っ 
ていたのは風間暎子だった。 
 声とはうらはらに、状況を楽しんでいるようにニヤニヤ笑いを顔に浮かべて 
いる。 
 「なんだ、暎子センパイじゃないですか。僕達は一生懸命補習していた所で 
すよ。邪魔しないでくださいよ」 
 裕一がオッパイを揉むジェスチャーのまま白々しく文句を言ってみせる。 
 「なんの補習よ。保健体育? このエロ学生が」 
 暎子は唇の端をにやっと上げて見せた。 
 風間暎子は華菜と同じクラスの三年生。華菜と同様に男子生徒の人気を集め 
る美少女である。しかし、生真面目な華菜に対し、暎子はどちらかというと遊 
ぶのが大好きな開放的なタイプだった。 
 いつも男子生徒や女友達と連れ立って街で派手に遊びまわっている彼女は、 
自分の魅力を輝かせる術を身に付けていた。 
 髪は明るいブラウンに染まり、豪奢なウェーブがかかっている。それが、子 
猫のように大きくつぶらな瞳を強調するメイクと相まって彼女をトップモデル 
のようにゴージャスな印象に仕立て上げていた。 
 大きく開いた胸元からは姉に負けず劣らず大迫力の巨乳が谷間を見せ、首か 
ら下がったシルバーのネックレスが他人の目をそこへと誘うようにキラリと光 
っている。 
 健康的に日焼けした太腿が丸出しになるくらいにまで短くカットされたフレ 
アスカートは、暎子が身体を動かす度にふわりと浮かび上がる。それは、常に 
危うく彼女の下着ラインぎりぎりを上下しては、決してその桃源郷たる股間の 
布地を露にすることはない。 
 
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 「こら、エロガキ。あたしのどこを見てるんだよ」 
 思わず昭司が暎子のアンタッチャブルなスカートの中に思いを馳せていると、 
つかつかと歩いてきて彼女は彼の頭を小突いた。 
 「勉強もしないでエロいことばっかり考えてるとあたしみたいになっちゃう 
よ」 
 「マジですか。じゃあセンパイは毎日エロいことばっかり考えてるんす 
か?」 
 鼻息荒く挙げ足をとる裕一。 
 「黙れ、裕一」 
 と、暎子はどこまでも下品な後輩を片手で押しのける。 
 「裕一はもう手遅れだからどうでもいいけど──」 
 抗議の声を上げる裕一を無視して、暎子は話を続ける。 
 「昭司はちゃんとやっとかないと生徒会長のお姉様が心配するんじゃない 
の?」 
 そう言いながら、ドスンと近くの椅子に勝手に腰を下ろした。そして、大き 
く股を開いて脚を組み上げる。 
 昭司はうっかりと目を見開いて顔を近づけてしまったのだが、一体どうした 
仕組みになっているのか、決して暎子の下着はスカートの裾に隠されて見える 
ことがないのだった。 
 そんな様子を見て暎子はクスリと笑い、 
 「バカ」 
 と言った。 
 「勉強もしないで人のパンツばっかり覗いてると、華菜お姉様が本当に心配 
するよ」 
 風間暎子という少女は、チラチラと誘惑するような服装や素振りを常に自然 
に見せている。しかし、媚びるようでいてその実決して主導権を相手に渡すこ 
とはない。一種小悪魔的なところのある子猫のような女だった。 
 でも、そんな彼女も昭司の前では、妙に男っぽくて甲斐性のある所を見せる 
のだ。同級生の男達に対してはどうか知らないが、少なくとも昭司に対しては 
食べ物を奢ってくれたり、困っている事があるとどこからともなく現れて何く 
れとなく面倒を見てくれる。つまりそんな、姉御肌を発揮するのだった。 
 しかし、それにはひとつの理由がある。 
 「あんまりスケベなことばっかりやってると、華菜お姉様だけじゃなくて、 
あたしだって心配するじゃない。 
 ──この暎子お姉様がね」 
 そう言って、もうひとりの姉、暎子はそっと昭司の頬を撫でた。 
 
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 風間暎子は三崎姉弟の父親の妹の娘。つまり、正確には従姉にあたる。 
 幼い頃から三崎家に出入りしていたため、昭司からしてみれば気心の知れた 
親戚である。 
 小さな頃から鉄砲玉のようにヤンチャで、親の言いつけを破るような遊びに 
ばかり昭司を連れまわしていたため、華菜からはあまり良い目で見られていな 
い。 
 しかし、ひとりっ子の暎子にとっては「姉貴、姉貴」と呼んで自分を慕ってく 
る昭司は実の弟のように可愛く、いつも気になる存在だった。 
 幼年期にあった暎子はまだ愛情の表現の仕方が身についておらず、いつもか 
らかうように、時にはわざと意地悪をするようにして彼の気をひくのだった。 
 そんな関係も、小学校の高学年、お互いが忙しくなり始める頃には疎遠にな 
り、長い間の空白があった。 
 やがて再びふたりが出会ったのは、昭司が暎子と華菜の通う高校に入学して 
間もなく。 
 「久しぶりね、昭司」 
 制服姿の姉と歩いてきたとびきりの美少女を見て昭司は初め、誰かわからな 
かった。 
 「え、あたしのこと忘れたの!? 失礼すぎるわ!!」 
 激怒といっていい程の剣幕で迫った暎子の表情を見て、やっと昭司はそれが 
誰か気付いたのだ。 
 ああそうだ。 
 このアイドル歌手のような美少女が、黒くてちっちゃくて男の子さながらに 
髪の短い、独楽鼠のような、そして自分を可愛がってくれた「姉貴」だったな 
んて、一体誰が気付くというのだろうか。 
 
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 「あたしは思うけど」 
 と、暎子は言った。 
 「昭司は絶対に裕一よりずっとスケベだよ」 
 「俺は授業中にエロ本読んで先生に見つかる奴よりスケベじゃないよ」 
 昭司が言うと、 
 「待て昭司、あれはエロ本じゃなくて着エログラビア雑誌だ」 
 と裕一が嫌な顔をする。 
 「どっちでも同じだよ。……いや、そういう事じゃなくて」 
 ともすれば逸れていきそうになる話を暎子が修正する。 
 「──昭司は、きっとムッツリだよ」 
 にやっと笑う暎子。心外とばかりに顔をしかめた昭司の後ろで裕一が拍手喝 
采を送る。 
 「裕一が学校でエロ本を読むライトなスケベだったら、昭司は家でこっそり 
もっとディープな動画をネットで収集したりするタイプだと思う」 
 裕一が大爆笑した。 
 「そんなことしないよ」 
 見てきたような出まかせを並べ立てる暎子に対して昭司は抗議する。 
 「ごめん。今のは言い過ぎた」 
 軽い笑い声を立てながら、暎子は両手をあげて制止する。 
 「でもね。きっと昭司は裕一よりもずっとエロいよ。どういう意味かは自分 
で考えてごらん。もしかすると──」 
 暎子の目が夜の子猫のように光を帯びた。 
 「心当たりがあったりするんじゃない」 
 昭司の心の奥を見透かすように悪戯っぽく彼の目を覗き込んだ。 
 そして、屈託なく笑う。 
 「さあ、あんまりスケベ共の前にいると妊娠しちゃうから、あたしはもう帰 
ろうかな」 
 暎子はパッとスカートをはためかせて立ち上がった。 
 帰ろう、じゃなくて遊びに行こうかな、の間違いだろうがこの遊び人、と思 
いながらも、昭司と裕一は反射的に屈み込んでスカートの下を覗き込もうとす 
る。しかし、決して神秘の布地のご尊顔を拝することはできないのだった。 
 「いつまでスカート覗いてんだ、エロガキ共」 
 暎子が脚を上げてふたりの頭を蹴る真似をした。しかし、その仕草でまたス 
カートがちらちらと揺れる。ああ、こんなことならもっと蹴って欲しい、とふ 
たりの男子生徒は思った。 
 「センパイ、もしかしてノーパンですか!?」 
 ついにうわずった声で裕一が質した。 
 「バカ、ちゃんと穿いてるよ」 
 「いいや、信じられん。絶対ノーパンだ」 
 昭司も言い募るが、 
 「アホ、ノーパンで通学ってどんな露出狂だよ」 
 暎子は唇を尖らせた。 
 「パンツを見るまではとても信じられないな。暎子センパイはノーパンで学 
校に来ているエロエロ露出狂だ!」 
 裕一は自分で口にした言葉に勝手に興奮したのか、鼻息荒く決めつける。 
 「な、何てことを言うのよ」 
 「姉貴。俺は姉貴が清楚な女学生だって信じてるから、証拠を見せて俺を安 
心させてよ」 
 昭司が裕一に乗る形で援護射撃を行う。 
 「もう、昭司まで……。あたしがパンツを見せれば露出狂じゃないって信じ 
てくれるのね?」 
 「そうなんだ。よくわかってくれました、センパイっ! さあ、スカートを 
ひらっ、と。簡単だよ、箸より軽いんだっ」 
 裕一の目は、ある種類の犯罪者のそれのように危険に血走っている。 
 「わかったわ。ようく見ててね」 
 ふたりの飢えた狼が目を充血させて暎子の股間に顔を近づけていった瞬間。 
暎子の膝頭がフルスピードで眼前に迫っていた。 
 
     ごんっ 
 
 ふたりが尻餅をつくと、その向こうで軽い笑いが聞こえた。 
 「パンツ見えたかい、このスケベアホガキ共?」 
 「あつつ……、星柄のパンツが見えたような……」 
 「バカ、それは目から星が飛び出したんだろ……」 
 昭司が首を振って目を開けると、廊下から今しも立ち去ろうとしている暎子 
がこちらを指差していた。 
 「今日だけ特別だぞ、スケベガキ〜」 
 暎子は身をかがめてスカートの裾を両手でつまむと、大きく上へ跳ね上げた。 
 裾が上がって健康的な太腿に続いて、遂にエルドラドの布地が全開になり、 
ブラウスの裾から形の良いセクシーなヘソまで捲り上げられた。そして、ス 
ローモーションのようにゆっくりとスカートが下がっていく。 
 ──暎子のパンツは、レースの入ったショッキングピンクのきわどいハイレ 
グだった。 
 「見えた。ピンク……」 
 昭司が口にすると、タイミングを逸して見逃した裕一が「人生最大の不 
覚!」と悲鳴を上げた。 
 スカートが完全に落ちていつもの位置に落ち着くと、再び暎子はビシッと人 
差し指をこちらに向けて、 
 「勉強しろよ、スケベ共」 
 と言って軽い笑い声を立てると廊下を歩き去っていった。 
 
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 華菜は部活に生徒会にと多忙の身だから、三崎姉弟が一緒に下校することは 
まずない。 
 しかし、今日は昭司は居残り勉強。しかも、その最中に裕一と遊んでいた事 
がバレてたっぷりと担任に絞られた後なので偶然にも(?)水泳部の練習が終わ 
る頃に彼も下校することになった。 
 昭司が屋外プールの前を通りかかると、ちょうどプールサイドに立った姉が 
キャップを脱いで濡れた髪をパサッと広げた所だった。 
 華菜は制服姿も美しいけれど、身体のラインが露になればそれだけ美しさを 
増すように昭司には思われた。 
 特に、この競泳水着というのは身体のラインをはっきりと描き出す。 
 競泳水着というのはなんでこんなにエロいんだろう、と昭司はいつも思う。 
姉の巨乳は収まり悪く無理やり押さえつけられているから、今にも弾けて飛び 
出しそうだ。引き締まっていながら大きく張り出した尻肉も同様に薄手の水着 
に締め付けられてる。その尻は夏の日に灼けて琥珀色の肌と白い部分にはっき 
りとコントラストを作っている。 
 それが、何かの加減で水着のラインが上がり、白い尻肌がはみ出て覗くこと 
のなんとエロいことだろう。 
 ふっと華菜が視線に気づいて振り返った。 
 そして、眉根を寄せる。 
 「こら、部活には来ないように言ってあるでしょう?」 
 「どうしてだよ?」 
 
 「水着姿だからよ」 
 昭司は首を傾げて、 
 「姉さんの水着姿を拝むために学校中の生徒達が来てるだろう?」 
 華菜はにらむようにして、 
 「あんたは弟だから、違うでしょ」 
 「弟だから、見たっていいんじゃないのかい」 
 「屁理屈をこねないの。とにかく、見にくるんじゃないわよ。わかったわ 
ね」 
 そこまで言った後、華菜は昭司を見て、 
 「──そんな顔しないの。おまえは帰ってから……ね?」 
 裸足のままプールサイドを歩いてきて、くしゃっと昭司の髪を一度だけ乱暴 
に撫でた。 
 そして、微笑んだ。 
 「部活はもう終わるから、校門の所で待ってなさい。一緒に帰ろう」 
 
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 聖書に登場するモーゼが手をあげて祈りを捧げると、海面が割れて道が現れ 
たとされている。 
 姉の下校風景はそれに少し似ている、と昭司は思っていた。 
 抜群の知名度と人気を誇る華菜が通れば、自然と人は割れて道が現れ、皆が 
彼女を振り返るのだった。 
 そして目があえば華菜は微笑を浮かべ、会釈する。その笑顔が多くの生徒を 
魅了するのだった。 
 そんな時、すぐ後ろについている昭司は亀のように身を縮めている。 
 まるで、アカデミー賞の赤カーペットを歩く大女優の後ろで間違えて招かれ 
てしまった売れない芸人が歩いているみたいだ。 
 居心地の悪いことおびただしい。 
 昭司がひっそりと存在感を消すことに専念していると、やがて華菜は立ち止 
まって振り返った。 
 「どうしたの、昭司。早く帰りましょう」 
 「う、うん」 
 「あら」 
 華菜は何かに気づいたかのように昭司に近づいてくると、襟元に手を伸ばし 
てきた。 
 「ボタンはちゃんと留めなさいって、言っているでしょう」 
 「これは、わざと空けてるんだよ」 
 「ダメよ、もう。だらしないんだから」 
 彼女は昭司の学ランの第一ボタンをきっちりと留めてしまう。 
 「ちぇっ、今時第一ボタンを締めてる高校生がどこにいるんだよ。そんなに 
気になるんなら山ほどいる他の男子生徒にも留めさせたらいいんだ」 
 「周りは周り。昭司は昭司でしょ。服装がきちんとしていなかったら、心ま 
でだらしなくなってしまうわよ」 
 華菜は学ランの裾を整えながら言った。 
 「とても今時の女子高生の言葉とは思えないな。どこのおばあちゃんだよ。 
まったく──」 
 と、昭司は言った。 
 「姉さんは筋金入りの真面目人間なんだな」 
 
 
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 そう、華菜は筋金入りの真面目人間に違いない。 
 それはきっと間違いのない事実だった。 
 そして、風紀委員顔負けの鉄のような規範意識を持ち合わせている。 
 礼儀正しさ、他人への心配り、固い貞操観念、慎しみ深さ……。 
 だがそれと同じくらい、華菜は弟想いの姉でもあるのだった。 
 
 玄関の扉を閉めて昭司は、すぐに華菜のたおやかな身体に抱きついた。 
 ふわっ、と甘い香りが広がった。 
 「ダメよ、昭司」 
 「今すぐ触りたいんだ」 
 「お風呂に入ってから……」 
 「姉さんの匂いがしている方がいいんだ」 
 昭司は華菜の背後から抱きついたまま、腋の下から手を伸ばして姉の温かく 
柔らかな乳房を手のひらに収めた。 
 「やめなさい、昭司」 
 華菜は学校で見せるきつい目つきで昭司を睨んだ。 
 昭司はひるまずに後ろから姉の耳元に口を寄せた。 
 「我慢できないんだ。姉さんのおっぱいを揉みたい」 
 吐息が耳穴をくすぐると、華菜は声を洩らして首を縮めてビクビクッ、と震 
えた。 
 女王のような華菜の身体から力が抜け、昭司は無防備になった全校生徒の憧 
れの胸元を思うさま揉みしだいた。 
 「ああ、姉さん。姉さん……」 
 華菜の爆乳は、毎日揉んでも飽きるということがなかった。マシュマロのよ 
うな柔らかさと温かさ、ミルクのような匂いは昭司の奥底に眠る男としての野 
生の本能を呼び覚ますかのように魅了する。揉めば揉むほど彼の心は引き込ま 
れ、一心不乱になお姉の乳房を揉まずにはいられなくなる。それはさながら何 
者かに取り憑かれ、魂を抜き去られたような趣ですらあった。 
 そんな悪魔的ですらある姉の魅惑的な爆乳は、彼女の放つ強気なオーラによ 
って、普段は誰もが希求しながらついに触れることのできない聖地だ。その聖 
園を昭司は夜な夜な毎晩思うままにしているのだった。 
 
 
 「だめ……」 
 抗いの声が弱くなった頃、昭司は姉を床へ押し倒した。 
 「姉さんのおっぱいを舐めまわしたい」 
 昭司が言うと、華菜は弱々しく首を振った。 
 その瞳には憂いが浮かび、長いまつ毛が微かに震える。 
 「姉さん、おっぱいを俺の前に出して」 
 「……」 
 「お願い」 
 昭司が姉の目を見つめると、姉の瞳の奥で小さな光が揺れた。 
 「……あんまり、強くしないでよ」 
 そして華菜は自ら、セーラー服の前をはだけて、下着をさらけだした。 
 パチン、とフロントホックを外すと、押さえつけられていたゴムまりのよう 
に大ぶりの乳房が解放されて飛び出してくる。 
 男の欲情の源だった。 
 昭司はたまらなくなって、姉の爆乳へとむしゃぶりついた。ぷるん、といっ 
た感じで胸は弾み、口の中で乳首が立ち上がった。 
 

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