少女がいた。  
 まだあどけなさの残る顔は蕩け、頬は赤く上気し、瞳は恍惚を灯している。  
 両肘、両膝をついていた。四つんばい。よく躾けられた犬と同じような体勢で。  
 うなだれた少女の首筋には黒い首輪。中央のフックには短い鎖が繋がれ、重力のなすがまま垂れている。  
 身に着けるものはほとんどない。膝までを覆う白いハイソックスと、大切な御主人様からいただいた首輪だけ。  
 まだ発育途上の白い裸身を晒し、膨らみかけの乳房が呼吸と共に上下する。  
 犬と呼ぶにふさわしい格好で。  
 犬と呼ぶにふさわしい姿勢で。  
 少女は、押し殺したあえぎを漏らす。  
 
「気のせいかな……?」  
 
 彼女の上で。  
 御主人様が、つぶやく。  
 つぶやいたのはまだ若い男。とはいえ彼女ほどではない。  
 男との関係は、初めて会ったときは学校の先輩と後輩だった。それが今は、全く別の関係になっている。  
 所有物。  
 奴隷ではなく、ペットでもない。オモチャと表現するのが最も近い。  
 彼女の身体も、心も。つま先から髪の毛の1本に至るまで主のモノだった。  
 
「椅子が何か言った気がしたんだけど」  
 
 少女は応えない。  
 椅子、といった。  
 それが今の少女の役割で、存在意義。  
 生まれたままの姿で首輪をつけ、犬のように四つんばいになった少女の上に、少女の所有者が座っている。  
 教科書とノートを広げ、彼は静かに勉強していた。  
 少女は黙ったまま、椅子として這う。  
 男を上に乗せたまま、静かに待つ。  
 
「ふー。終わったぁ」  
 
 男がペンを放る。ひとつ伸びをしてから、椅子に手を置いた。  
 そこはちょうど、少女のお尻にあたる場所。  
 無骨な男の手が、まろやかなふくらみを撫でる。  
 少女がぴくりと背を反らす。  
 
「っ……はっ……」  
 
 蜜が溢れる。  
 御主人様の手で撫でていただいているから。  
 御主人様に使っていただいていると、実感できるから。  
 手がゆっくりと少女をなぶる。尻たぶの柔らかさを堪能するようにこね回し、戯れに不浄の部分を指で突く。  
 それだけで、少女は感じていた。  
 おかしくなりそうなほどに。  
 溢れた蜜が太股をつたい、垂れる。  
 愛液が幾筋もの小さな流れをつくり、  
 椅子は喋らない。  
 椅子は動かない。  
 歯を食いしばり、自然に漏れるあえぎ声を殺す。身体から抜けようとする力を必死にとどめ、震えそうな手足を押し留める。  
 彼女は所有物なのだから、御主人様の命令がないかぎり動いてはならない。  
 
「新しい椅子は居心地がいいな。勉強がはかどる」  
 
 存外のお褒めの言葉に、少女の心が沸き立つ。胸の辺りを締め付けるような、甘い疼きが走る。  
 
「っ……」  
 
 また――  
 太股の間から、新しい蜜が垂れてしまう。  
 男がく、く、と楽しそうに笑った。  
 左手が、少女から離れる。  
 彼女を虐める、暖かなぬくもりが消えた。  
 安堵と寂寥。二つの相反した感情にさいなまれながら、椅子になった少女は何も言わない。何も反応しない。  
 ただ、ゆっくりと息を吐く。音を立てぬように。  
 快楽の波を、子宮のうずきを収めるために。  
 男が手を振り上げた。  
 
「ご褒美だ、薫」  
 
 勢いよく、手を振り下ろす。  
 乾いた音が響き、少女の桃尻が赤く腫れ上がる。  
 肌を刺すような鋭い痛みに少女は甲高い悲鳴をあげた。  
 
「はぁぁぁっ!」  
 
 蜜が湧き出す。   
 叩かれ、痛みを認識するたびに、達してしまう。  
 そういう身体に、作り変えられてしまった。  
 少女は分かっている。頭だけではなく身体が、子宮が知っている。  
 自分は誰のモノで、誰に使われるべきなのかを。  
 誰が、自分の所有物であるのかを。  
 
 

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