「愛菜、おはよう」  
「えあっ!? お、おはようお兄ちゃん…」  
翌朝、昨夜のタオル落下事件から初めて顔をあわせる兄妹。  
しかし、大輔に挨拶を返す愛菜はわかりやすく挙動不審だった。  
大輔の顔を見た瞬間あからさまに狼狽し、きょろきょろと視線をさまよわせ、目をあわせようとしない。  
「どうしたんだ、愛菜?」  
その原因が昨日の事件にあることは百も承知の大輔。  
だが、それでも彼は意地悪く尋ねた。  
ぶっちゃけていえば、妹の反応を楽しみたかったからだ。  
 
「ど、どうしたってその…そ、そうだ朝ごはんできてるよ! 早く食べようっ!」  
答えに窮した愛菜は誤魔化すように大輔の手を引っ張りテーブルへと連れて行く。  
「おい、引っ張るなよ…」  
口では批難しているが、大輔の表情はまるで愛菜を責めるものではなかった。  
予想通り。いや、期待通りのリアクションを愛菜がとってくれたからだ。  
 
「いただきます」  
「いただきますっと」  
修地家は現在両親が共に出張中なので家の住人は大輔と愛菜だけだった。  
二人だけの味気ない食卓。  
だが、今日はその様子が異なっている。  
向かい合う二人の片方は食事をしながらも視線を正面から外さず、もう片方は必死にその視線から逃れようとしているのだ。  
(むくく…照れてる照れてる。いやあ、あの愛菜がなぁ)  
視線をそらすべく落ち着きのない動作を繰り返す愛菜に大輔は軽い感動を覚えていた。  
高校に入学し、思春期はとうに過ぎているというのに今まで妹ではなく弟のような態度で自分に臨んできた愛菜。  
だがそれは昨日で終わった。  
今の愛菜は男を意識した一人の女の子なのだ。  
そしてそれをもたらしたのはひょんなことから手に入れた超能力。  
大輔の頭の中は正にビバ! 超能力だった。  
 
「…お兄ちゃん」  
「なんだ?」  
「その…ジロジロ見ないでよ。落ち着かないじゃない」  
ついに視線の圧力に耐えかねたのか、愛菜は観念したように大輔と目を合わせるとそう言った。  
無論、大輔がそんな命令を聞くはずがない。  
「何しおらしいこと言ってるんだお前? 昨日までは『何、私に惚れちゃった?』とか俺をからかってたのに」  
「だって…その…」  
流石に昨日のことを自らの口から出すのは恥ずかしいのか愛菜の口がもごもごと動く。  
と同時に両手の人差し指がくるくると胸の前で回され始める。  
愛菜が困った時に始める癖だった。  
「お、癖が出たな」  
「な、何よ。癖なんだからいいじゃない…それとも子供っぽいって笑うの?」  
「いやいや、そんなことは言わんぞ。お前が子供じゃないっていうのはちゃーんとわかってるからな」  
すべすべとして弾力のありそうな肌にくびれた腰。  
そして成長を続ける大きく膨らんだおっぱいに陰を作り始めた処女部。  
昨夜見た魅力的な肢体を思い出しながら大輔は仰々しく首を振った。  
そう、あんなものを見せられて妹を子供だといえるはずがない。  
 
「え、あ……な…え…?」  
予想外の兄の言葉に呆然とする愛菜。  
だが、その言葉の意味を理解し始めると徐々に首から上が朱に染まり始める。  
そして、それが頂点に達した時、愛菜は爆発した。  
「お、お兄ちゃんのバカッ!! ごちそうさまっ! 私先に行くからっ!!」  
バン! とテーブルに両手を叩きつけてそう叫んだ愛菜は片付けもそこそこに大輔の視界から姿を消す。  
残された大輔はやれやれ…と困ったねのジェスチャーを取りつつもセクハラ成功にニヤつくのだった。  
 
 
「おはよっ、大輔くん!」  
愛菜の分まで片づけを行い、家を出た大輔の後から声がかかる。  
バン、と叩かれた背中の痛みに顔を顰めつつ大輔は面倒くさそうに振り向いた。  
「なになに、朝から辛気臭い顔しちゃってー。そんなんじゃあいつまでたっても彼女ができないよー?」  
「うるさい、余計なお世話だ…文乃」  
 
うるさいのが来た、と大輔は憂鬱そうにその少女を見つめた。  
少女の名は比内文乃(ひないふみの)  
大輔と同い年の幼馴染である。  
「なにさー愛想がないなぁ。あ、ボタンが外れてる。ちょっとかがんで!」  
「へいへい」  
かがむ、というよりはしゃがみ込むといった動作で大輔は身を沈める。  
文乃はチビだ。  
そして体型に見合った貧乳である。  
一つ年下の愛菜よりも頭一つ半分低いその身長はもはや文乃のトレードマークといっても良い。  
顔こそそこらのアイドルにも負けないレベルの美少女っぷりなのだが、いかんせん背の低さゆえにアイドルというよりチャイドル。  
それが大輔の幼馴染の比内文乃という少女だった。  
と、大輔が脳内ヒロイン紹介を終えたその時。  
文乃は邪念を感じとったのかボタンのすぐ傍にあった大輔のネクタイを掴み、そして下に引っ張った。  
「ぐえええええ!? おまっ、しまっ、絞まってる!?」  
「絞めてるもの」  
「俺が何をしたっ!?」  
「何かバカにされた気がした!」  
ぷんすかという擬音がピッタリな様子で憤慨する文乃。  
そーいうところがガキなんだよ、と大輔は薄れゆく意識の中で毒づいた。  
 
「…げほっ、げほっ、あー苦しかった」  
「ふん、おねーさんをバカにしたバツ!」  
「このアマ…」  
ジト目で先を歩く文乃を大輔は(自業自得ではあるが)睨みつける。  
文乃はその身長のせいでよく中学生、悪ければ小学生に間違われる。  
そのせいか、彼女はとにかく大人ぶりたがるのだ。  
特に大輔にはそれが顕著で、たった一ヶ月先に生まれただけという理由でお姉さん気取りをし続けている有様だった。  
勿論第三者から見ればどう見ても立場は逆なのだが。  
 
(誰がお姉さんだ誰が)  
文乃の背中に文句を投げかける大輔。  
だが、賢明にも心の声は口には出さない。  
何故なら報復が怖いから。  
(…ん? 待てよ?)  
しかしふと大輔は気ついた。  
そうだ、自分には念動力があるではないか!  
(くっくっくっく…)  
途端に自信を取り戻し、邪悪な表情になる大輔。  
非常に小者臭全開だが、今の彼は魔王の気分だった。  
 
「おーい、あんまりとろとろ歩いてると追いてっちゃうよ?」  
「うっさい、先にいきたけりゃ行けばいいだろ」  
「む…ならお言葉に甘えてっ!」  
買い言葉に売り言葉。  
大輔の拒絶に憤慨した文乃はくるりと反転するとダッシュをするべく足を踏み込んだ。  
だが、それこそが大輔が狙っていた瞬間。  
 
(こけろ)  
大輔の念によって文乃の足が見えない何かに絡め取られる。  
がくん、と急に崩れた身体に文乃は慌てる。  
けんけんでなんとかこけまいとするが、大輔は容赦しなかった。  
次の瞬間、軽く背を押されたかのように文乃の身体が地面へと投げ出される。  
目の前に迫る地面に目を瞑る文乃。  
だが、その瞬間大輔は念動力を発動させ文乃の身体を優しく着地させた。  
 
ぺたん。  
まるで自分の胸のような擬音と共に文乃は倒れこんだ。  
痛みのない身体に不思議がる文乃。  
だが、その意識はすぐさま周囲に向けられた。  
何故か周囲の通行人の視線が自分に集まっていたからだ。  
(な、何?)  
確かに公共の道でいきなりコケれば注目は集まるだろう。  
しかし今感じている視線はそういった視線ではない。  
ふと、文乃はお尻の辺りにチリチリと焼け付くような感覚を覚えた。  
(なんだろう?)  
その感覚が気になった文乃はうつぶせに倒れたまま振り返り、そして固まった。  
 
制服のスカートが見事にまくれていたのである。  
 
「っきゃああああーっ!?」  
バッ!  
慌てて後ろ手でお尻を隠す。  
だが、彼女の小さな手では当然全てを隠すことなどできない。  
指の間からチラチラと覗く色は黒。  
少しでも大人っぽくと身につけていた下着が公衆の面前でさらされた瞬間だった。  
 
「…く、黒っておい…ぶははっ!」  
滑稽なほど慌てた仕草でお尻を隠そうとする文乃を見て大輔は爆笑していた。  
さっさと立ち上がってスカートを直せばいいというのに、そこに気がつかないほど混乱している幼馴染を眺めるのは快感だった。  
勿論、スカートを大きく捲り上げたのは事故でもなんでもなく大輔の仕業である。  
「しっかしアイツ背と胸はちっちゃいのに尻は意外とでかいな」  
笑いながらも大輔の目はキッチリと文乃のお尻とパンツととらえている。  
子供のような体型にそぐわぬ桃尻と黒の下着というアンバランスさはよく見ればそれなりにエロかった。  
 
「さて、いつまでもこうして見ていたいが、そういうわけにもいかないか」  
動けば動くほど状況を悪化させている幼馴染を見て流石に気の毒になった大輔は手を貸すべく文乃の元へ駆け寄った。  
(うお…)  
近くで見ると一段と文乃のヒップは迫力を増していた。  
下着の黒と肌の白のコントラストが大輔の目を釘付けにする。  
文乃は混乱のためか大輔に気づいていない。  
大輔はやれやれ…と溜息をつきながらスカートをそっと元の位置に戻し、文乃を持ち上げる。  
なお、戻す瞬間にこっそり文乃のお尻をなでたのは彼だけの秘密だった。  
 

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