「わぷっ?」  
「…っ?」  
ぺちゃ、と粘着質な音を立ててゼリーが少女二人の顔に命中した。  
大輔によって操作されたそれは形を崩しながらも乙女たちの首へと下り始める。  
当然、それを防ごうと愛菜と雫の手は動くが、いかんせん相手は不固定物である。  
あっという間にそのぷるぷるした物体は首筋から制服の中へと侵入を開始した。  
「ひゃっ…」  
「はぅ…」  
冷たい感触の侵入に二つの小さな悲鳴が上がる。  
顔を上気させていやいやするように首を振る妹と後輩の姿はいやおうなしに大輔の興奮を引き起こす。  
大輔はゼリーを念動力で包むようにしてコーティングすると慎重に操作を続けた。  
服の中が見えない以上、精密な操作はできないのでかなり神経のを使うのである。  
とはいえ、見えないからこその興奮というものもあるのだが。  
 
「く、くすぐった…ひゃぅんっ」  
「…っ、ぁ…くっ…」  
そうこうしているうちにゼリーは二人の胸元に到着したらしい。  
愛菜は胸元に空気を送り込むように制服の首元をぐいぐいとひっぱっているが、勿論何の対処にもなっていない。  
時折、胸の上からゼリーを取り押さえるようにぎゅっぎゅっと手のひらを押し付けるも、  
傍から見ればそれは自分で胸を揉んでいるようにしか見えない。  
一方、大胆な行動をとっている愛菜とは違い、雫はずっと胸元の制服をぎゅううっと握り締めているだけだった。  
顔をうつむかせ、何かを耐えるように小刻みに震えている。  
恐らくは愛菜と同じようにしたいのだろうが、彼女は大輔の目を気にしているのだろう。  
健気にもただゼリーの侵攻に耐えていた。  
「こ、このっ…」  
そしてついに我慢がきかなくなったのか、愛菜は制服の中に手を突っ込んだ。  
隣の雫が目を見開いて親友のトンデモ行動を凝視するが、既に愛菜にそれに気がつく余裕はない。  
(ていうか俺もいるって完全に忘れてやがるなコイツ…)  
最近になってようやく自分に対しても羞恥心を持ち始めた妹だが、やはり完全にとはいかないらしい。  
大輔はそれならばとゼリーを二分割させると一気に片方を降下させた。  
胸の谷間を滑り、おへそを中継し、そして更にその下。  
「あっ!? そ、そこはっ」  
パンティの縁までたどり着いたぷるぷる物質の暴虐に愛菜は焦りを覚える。  
もはや恥も外聞もないとばかりに残った片手をスカートの中へと突っ込んだ。  
「やだっ、もうっ…そこに入らないでっ」  
「あ、愛菜…」  
親友の恥態に雫は頬を赤らめることしかできない。  
何せ今の愛菜の格好は右手を制服の中の胸に、左手をスカートの中に突っ込んでいる状態だ。  
パッと見は自慰をしているようにしか見えない。  
 
だが当の雫も徐々に余裕はなくなってきていた。  
なんとか声を上げまいと身体を縮めてこらえるも、胸元を這い回られるとどうしても背筋がビクついてしまう。  
すでにゼリーはブラジャーの中にまで侵入を開始していた。  
制服の上からでもわかるくらい胸の辺りがぐにぐにと歪み、その光景を大輔に見せているということに恥ずかしさが増す。  
「せんぱ…見ない…ぁぅ!」  
つん、と胸の頂上を掠める物体の動きに、雫はついにはっきりとした声をあげてしまった。  
大輔は弱点見つけたりとばかりに胸の頂上の辺りにゼリーを這わせまくる。  
「ひっ…はっ…あんっ」  
たちまち雫の顔が首筋まで赤く染まり、俯いていた頭がぶんぶんと振られる。  
必死に胸から伝わってくる感覚に耐えようとしているのだろうが、大輔は容赦なく操作を続けた。  
柔らかな肌を掃除するように這い回らせ、時には震動も加えてみる。  
「あ…あはぁっ」  
たまらずおとがいを跳ね上げてしまう雫。  
はぁはぁと漏れる吐息が非常に色っぽく大輔の耳に届く。  
「お、おいどうしたんだ二人とも?」  
だが大輔は平然と二人を心配する声をかけた、前かがみで。  
二人に起こっていることがわからないのならば当然の反応だ。  
勿論、大輔本人が事の犯人なのだからわざとらしいことこの上ないが。  
「え、あ、お兄ちゃんっ? だ、大丈夫だよ。なんでもないか…らぁんっ!」  
「うん。だいじょう……ぅひゃんっ」  
返事をするタイミングを見計らってゼリーの動きを激しくする。  
すると、二人の少女はものの見事にその刺激に耐え切れず声を震わせてしまう。  
大輔は二人を心配するように、本音はもっと近くで見ようとゆっくりと近寄っていく。  
だが愛菜と雫からすればそれは困る。  
どうにか少年から離れようと足を動かそうとするが、足が動かない。  
まるで金縛りにあったかのように足がピクリとも反応してくれないのだ。  
これも勿論大輔の仕業である。  
 
「う…んっ」  
「はぁ…っ」  
そして数十秒後。  
既に二人の年下少女は息も絶え絶えに身体を脱力させていた。  
愛菜はうずくまる様に身体を前傾させ、胸と股間に手を突っ込んでいる。  
雫は身体を仰け反らせるように仰向けに倒し、両手で何とか身体を支えているといった状態だ。  
それぞれの制服の下ではゼリーが縦横無尽に動き回り、時折盛り上がる布地がその証拠となっていた。  
もはや少女たちは身体をピンク色に染め、ぴくぴくと反応を返すことしかできない。  
どう考えてもゼリーの動きは常軌を逸している。  
だが、二人はあまりの事態にそこまで考えを及ばせることができなくなっていた。  
 
(そろそろやめとくか)  
このまま少女たちの恥態を眺めつつ弁当を食べるのも一興なのだが、それでは二人が弁当を食べられない。  
なあに、また機会はあるさと自分を納得させた大輔は念動を解除した。  
ずる…びちゃっ  
途端に支えを失ったゼリーが制服の裾やスカートの中から滑り落ちていく。  
「あっ…はぁ、はぁ…」  
「……うぅ」  
シートの上に落ちたゼリーを呆然と眺めながら愛菜と雫は荒い息を吐く。  
徐々に呼吸が整ってくると共に今までの自分たちがどんな姿を大輔に晒していたのかを認識し、顔が羞恥に染まりだす。  
笑う膝を懸命に押さえつけながら二人は立ち上がり  
「お、お兄ちゃん、ちょっとごめんねっ!」  
「愛菜、待って…!」  
脱兎のごとくその場から逃げだすように走り去っていくのだった。  
 
「……濁ってるな」  
ぽつり、と大輔は一人になったシートの上で呟いた。  
視線の先は二人の少女がいた場所に落ちているゼリー。  
ぐずぐずに形を崩して己の役目を終えたそれは散々乙女の肌を這いまわっていたせいでその色を濁らせている。  
入り混じっているのは汗だろう。  
しかしこの念体物質は少女たちのショーツの中にも入っていたのだ。  
あるいは、汗以外の『何か』も混じっているのかもしれない。  
(ごくっ…)  
大輔の喉がなった。  
そろそろと手が伸びていく。  
「…はっ、な、何を考えているんだ俺は。流石にそれは変態すぎるぞ!」  
落ち着けとばかりに自分の頭を殴る。  
だが視線はゼリーから離れない。  
あのゼリーには妹と後輩の身体から分泌された様々な液体が混じっているのだ。  
年頃の男として興味を抱くなというほうが無理である。  
「た、食べたらまずいよな…やっぱり」  
誰かに確認するようにつぶやく。  
それをしてしまったら人として終わる。  
そういう一線が世の中にはあり、今大輔はその線の前に立っていた。  
しかし人とは目の前に突きつけられた欲に耐えられない生き物である。  
大輔の手は誘われるように再び動き始め――  
「ご、ごめんねお兄ちゃん。待たせちゃった?」  
妹の声に弾かれるように引っ込んだ。  
 
「どうしたの、お兄ちゃん?」  
「い、いやなんでもないぞ、なんでも…」  
愛菜と雫の注意を自分に引き付けつつ大輔はシートの上に散乱するゼリーの残骸を念動力で引き寄せる。  
そしてそれを空き缶に保存すると何事もなかったかのように二人に微笑んだ。  
しかし、二人の少女はそんな大輔の顔を直視していなかった。  
別にこれは大輔の笑顔に胸きゅんとしたとかそういう理由ではない。  
ましてや、身体の火照りが取れきっていないなどという艶っぽい理由でもない。  
単に恥ずかしかったのだ。  
場を離れて冷静に思い出すと、兄に、先輩に見せていた自分たちの姿は控えめに言っても破廉恥極まりない。  
まだ処女であり、真っ当な羞恥心を備えていた二人からすれば目の前の少年と顔をあわせるということは少々難題であった。  
(……ん?)  
重要物件を保存した大輔はそんな二人の少女の心境をある程度理解していたが故に、気がついた。  
彼女らがついさっきまでクラスの女子たちが浮かべていた表情を浮かべていることに。  
確かに顔をあわせづらいのはわかる。  
だが、少女たちはあからさまに胸やスカートの裾辺りを気にしながら動いているのだ。  
恐らく席を外した理由はゼリーで粘ついた身体を拭くためだったのだろう。  
となると、今更それらの部位を気にする必要はない。  
それに、よく見てみればわかるのだが、愛菜の制服の胸の先に突起のようなシルエットが見えるではないか。  
これらのことから導き出される結論は一つしかなかった。  
「お前ら、もしかして…」  
「ち、違うよ! ちゃんと下着はつけてるもん!」  
 
時が止まった。  
愛菜は盛大な自爆に顔を硬直させ、ピクリとも動かない。  
雫は大輔に下着なしの状況を知られたことで顔が朱に染まっている。  
大輔はまさかこんなにあっさりと自白してくるとは思わなかったので何といってよいのか逆に困ってしまう始末だった。  
「え、えーと」  
「だってその、ゼリーの欠片がブラとかパンツに残ってて、気持ち悪かったから…」  
「愛菜、自重」  
「あ!? い、いまのなし。なしだから、お兄ちゃん!」  
「いや、手遅れだろ常識的に」  
「う、うぅ〜〜〜!」  
「俺が悪いのか?」  
実際は諸悪の根源なのだが、表面的にはまるで悪くない大輔は唸ってくる妹に呆れた視線をなげかけた。  
睨みあう事数秒、大輔に見られていることを意識した愛菜がはっと気がついたように胸を隠しながら目をそらす。  
「えっち…」  
 
それからの数分間は三人とも無言だった。  
ただ、時折チラチラと恥ずかしそうな、何かいいたげな視線を二人の少女が自分に向けてくるのを大輔は自覚していた。  
勿論、だからといって何か反応を返すという薮蛇をつつくような真似はしなかったのだが。  
全員が弁当を食べ終わる。  
普段ならば歓談タイムなのだが、やはり誰もしゃべらない。  
本来なら愛菜が率先して話題を提供する場面だが、流石の彼女も三度目となる恥態に無言を通すしかないようだった。  
瞬間、まるで狙ったかのように予鈴が鳴った。  
「じゃ、じゃあお兄ちゃん、またね!」  
「あ、ああ」  
「明日からは気をつけるから、それじゃあねっ」  
何を気をつけるのかとは大輔も雫も突っ込まない。  
ただ、その言葉の中には色々な意味があるんだろうなぁとは思う。  
愛菜はスカートがめくれないように慎重に立ち上がると、そそくさとその場を離れるべく足早に動き出した。  
べたん。  
そして三歩かけたところで、少女はこけた。  
大輔の仕業ではない。  
スカートを気にするあまり、足元への注意が疎かになっていたが故の失敗だった。  
 
「い、いったぁ……あ?」  
したたかに打った鼻を押さえながら、愛菜は振り向く。  
そこには呆れたような視線を送ってくる兄と親友の姿――がなかった。  
二人とも視線を外している。  
そこで気がつく。  
こけた拍子にスカートが盛大にめくれ、しかも自分の格好がおしりを彼らに向かって思い切り突き出すような形になっていることに。  
「―――ふぇあっ!?」  
自分でも意味不明な声を上げながら愛菜はバネ仕掛けの人形のようにぴょこんと立ち上がった。  
慌てて、スカートを元に位置に戻し、深呼吸。  
周囲を見回す、人はいない、一安心。  
だが、兄と親友に対して穿いてない状態の下半身を見せ付けるように転んだという事実は覆らない。  
つま先から徐々に這い上がっていく羞恥心。  
「み、見た…?」  
少女のか細い声に大輔と雫はいたたまれないものを感じつつ、反応を返さなかった。  
いや、正確には返せなかった。  
なぜならそれ以外に反応の仕様がなかったからだ。  
先程のパンツ丸見えの時とは状況が違いすぎる。  
たとえ嘘だとバレバレでも見てませんよ的なリアクションをとるしか道はない。  
 
故に、愛菜にはギクシャクと壊れたブリキのおもちゃのように立ち去るという選択肢しか残されていなかったのだった。  
 
「先輩、あたしも…」  
ひゅう、と一陣の風がむなしく通り過ぎる中、すっくと雫が立ち上がる。  
愛菜と同じようにスカートを押さえてはいるが、あからさま過ぎない自然な動作だったため第三者にはそれを察することはできないだろう。  
すなわち、彼女が現在ノーブラノーパンであるということは。  
「ああ、愛菜へのフォロー頼むな」  
「うん。あの…」  
「なんだ?」  
「あんまり、見ないで」  
ぽ、と頬を染めて胸と股間を隠すような動作を取る雫に大輔は一瞬劣情を忘れて見とれた。  
まさに可憐と称するに相応しい仕草だった。  
だからこそ、数瞬後に訪れる色欲を抑えるのに苦労することになるのだが。  
「え、えっと、気をつけろよ?」  
「死んでも見せないから……先輩以外には」  
「え?」  
「なんでもない」  
何か気になる台詞を聞いたような気がする、と首をひねりつつ大輔は雫を見送る。  
一瞬、後姿を見てスカートをめくろうかな、と考えてしまったが、突如振り向いた後輩にその思考は断ち切られた。  
「先輩」  
「な、なんだ音那?」  
「これで、おあいこ」  
ふっと恥ずかしそうに微笑んで立ち去っていく雫。  
流石に目の前で親友の失敗を見ているだけに、彼女はこける様子などまるで見せずに楚々と駆けていった。  
 
「……どう考えても等価値じゃないと思うんだけどなぁ」  
一人残った大輔は空に向かって呟いた。  
不慮の事故で見られた上半身の裸と、意図的に見た少女の恥態。  
どう考えても後者の方が重い。  
最初は雫にえっちなことを教える、というか普段の自分の言動を鑑みてもらうためにやったことだったのだが…  
気がつけば調子に乗りすぎていたようだ。  
幸い、雫はさほど気にしていない様子だったのだしいいか。  
愛菜に関しては家でフォローすれば大丈夫だろう。  
そう考え、大輔はよっこらせと立ち上がるのだった。  
 
ちなみに、大輔が空き缶の中のゼリーをどうしたのかは――彼のみぞ知るトップシークレットだった。  
 
 

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