「うーん、清々しい朝だ。やっぱりテストが終わった後の休みの朝は最高だな」
窓の外で雀達が囀る音をバックコーラスに、大輔はむくりとベッドから身を起こした。
コキコキと間接を鳴らしながら、すっと伸ばされた人差し指がまだ鳴っていない目覚まし時計へと向けられる。
すると、触れられてもいないはずのアラームのスイッチがOFFになってしまう。
続けてタンスの引き出しがひとりでに動き出し、中から着替えが飛び出してきた。
勿論これはポルターガイストでもなんでもなく、大輔の念動力によるものである。
「よし、今日も快調だな」
ここ最近の朝の日課ともいえる作業で己の能力を確かめた大輔は満足気に口元を吊り上げる。
引き寄せた服に着替えると、身だしなみを整えるために洗面所へ。
途中で愛菜に会うかと思ったが、妹は昨日から雫の家に泊りに行っていることを思い出す。
「まあ、そっちのほうが都合がいいか…」
ここ最近、滑稽になるほどこちらを意識していた可愛い妹の姿を大輔は思い浮かべる。
チラチラとこっちに視線を向けようとしては頬を赤く染め。
逆にこちらが視線を向けようとすれば「な、何っ!?」と過剰反応を見せ。
七月だというのに家の中では冬場並の厚着で行動。
昨日からの泊りにしろ、明らかに動揺して距離をとろうとしているのがバレバレだった。
(わかりやすすぎるんだよな、アイツは)
苦笑しながら顔を洗う。
とはいえ、元をたどれば妹の今の状態は自分の招いたこと。
いくら相手が兄とはいえ、ああも続けざまに男に恥ずかしい姿を見せては普通の女の子なら気まずくなって当たり前。
そういう意味では自業自得といえるのだが、大輔は後悔する気などサラサラなかった。
「ま、いずれなんとかしないといけないけどな」
何をどう何とかするつもりなのかは現時点ではまったくの謎である。
しかしその口元をニヤリと歪めながら悪戯っぽく笑う少年の顔を見る限り、ロクでもないことを企んでいるのは明白だった。
同時刻、音那家。
「だ、ダメだよお兄ちゃん。私たち、兄妹なんだよ…?」
「愛菜、寝言自重」
「しかし思ったより早起きしちまったなー」
焼きあがったトーストをもしゃもしゃと口に含みながら、大輔は時計を見る。
現在時刻は七時半。
普通の男子学生の休日の起床時間としては早い部類に入るだろう。
「まあ早く起きることにこした事はないんだけどな、今日は――」
そう、今日は先日の放課後に美香と交わした約束の日。
荷物持ちという名のデートの日なのである。
「あっちはそうは思ってないだろうけどな」
むしろお前のほうがわかってねーよ!
そんな声がどこからか聞こえてきそうだったが、当然大輔には自覚はなかった。
「んーむ、なかなか良い場所がないな」
待ち合わせの時間は十一時。
まだまだ時間があるからと大輔が向かったのは近所の公園。
大き目の鞄を片手に公園内をウロウロと歩き回る。
時間が時間だけに人はほとんどおらず、精々が犬の散歩をする老婆を見かけるぐらい。
だが、当初の目的からすれば彼にとって人がいないのはむしろ好都合だった。
適当な芝生で立ち止まると、鞄を開けて中身を取り出す。
出てきたのは小型の折り畳み椅子、スケッチブック、鉛筆数本。
つまりは、絵を描くための道具一式だった。
「さて、何を描こうかな」
組み立てた椅子に座り、軽く鼻唄を歌いながらスケッチブックに鉛筆を構える。
絵描きは大輔の唯一といっていい趣味だ。
とはいえ、所詮趣味の域を出ないレベルのことなので美術部に所属する気はない。
しかも彼が絵を描くのは正に気分次第なため、この趣味を知る者は少ない。
家族を除けば幼馴染である文乃を入れても片手の指にすら届かないくらいだった。
ダムダムッ。
「ん?」
近くの噴水を描きはじめて数分。
大輔はどこからか聞こえてくる音に耳を澄ます。
よく聞いてみればそれはバスケットボールのドリブル音だった。
おそらく近くで誰かが練習をしているのだろう。
興味を引かれた大輔は道具一式を念動力で引き連れながら、音の発生源へと向かう。
(茂みの向こうからだな。確かあっちにはバスケットゴールがあったはずだし…いた!)
ガサガサと茂みを掻き分けながら進む少年の目に映ったのは、一人の少女だった。
予想通りバスケットの練習をしているらしい彼女は、ドリブルやシュートを繰り返している。
余程集中しているのか、こちらにはまるで気がつく様子がない。
(あれ? なんかあの女の子どこかで見たことがあるような…)
愛菜と同じポニーテールを上下に揺らしながらボールを追いかける少女に大輔は記憶を刺激される。
しかしどうしても思い出せない。
もっと近くに寄ればはっきりと顔も見えるのでそうしたいところだが、練習の邪魔をするのも心苦しい。
少しの時間悩んだ大輔だったが、しかし次の瞬間何かに気がついたのか手にしていた鞄をゴソゴソと漁りだす。
はたして、取り出されたのは双眼鏡だった。
ちなみに、この双眼鏡は別に卑しい目的で鞄に入っていたわけではない。
小鳥などを描くときに使用するつもりだったものだとここに明記しておく。
(あ、ひょっとしてあれって紫藤か…?)
本来の使用目的とはかけ離れた意図の下に使われた双眼鏡によって判明した少女の正体。
それはクラスメイトにして委員長の紫藤由貴であった。
成程確かに彼女であれば別におかしなことではない。
バスケ部のキャプテンが休みの日に自主練習していても別に違和感などないのだから。
大輔が彼女の素性になかなか思い至らなかったのは、髪型がいつものストレートではなかったからだった。
(しかし休日のこんな朝っぱらから自主練か、相変わらず真面目というか…)
デートする彼氏とかいないんだろうか?
そんな失礼かつ鈍感な思考をしつつ大輔は茂みに隠れつつ双眼鏡によるクラスメート観察を続ける。
タンクトップと短パンという露出大目な格好なのは練習中だけに動きやすい格好を選んだ結果なのだろう。
上下ともに黒色なのは好みの色だからなのか。
はたまた透けることを嫌ったのかはわからないが、黒髪を靡かせる少女には良く似合っている。
ずっと練習を続けていたのか、服に覆われていない腕や太ももには汗が霧のように吹き出ていた。
時折汗の珠が舞うのがなんとも言えない美しさを醸し出していて、大輔は思わずそんな彼女に見とれてしまう。
そして気がつけばスケッチブックは開かれ、右手の鉛筆は動き出していた。
今見ている光景を描きたい。
大輔はそんな本能ともいえる衝動に動かされたのだ。
「…うん、我ながらいい出来だ」
十数分後、大輔は描きあがったスケッチブックの中の由貴を眺めていた。
短時間で思うがままに描き殴った作品なだけに、かなり雑な仕上がりの絵。
しかし本人としては納得のいく出来だった。
「でも、これどうすっかな?」
本人の承諾なく描いてしまった以上、まさか由貴に渡すわけにもいかない。
勿論破り捨てるのも勿体無いわけで。
とりあえず持って帰ろう、そう結論を出した大輔は再び視線を先程までモデルであった少女へと向ける。
「えいっ!」
時折休憩を挟みながら練習を続けている由貴は、現在シュート練習をしている様子だった。
念動力を使っているわけでもないのに、次々とリングに吸い込まれているボール。
流石は本職、と大輔は感心する。
(しっかし休憩挟んでるとはいえどんだけ練習してるんだ。一時間はやってるだろ絶対)
呆れるやら尊敬するやら、と改めて観察モードに入る大輔。
さっきまではモデルとして見ていた少女だったが、ぼーっと眺めているうちに少年の脳裏に別の感情がわきあがってくる。
躍動する肢体、汗だくで息を切らせる美少女、弾けんばかりの太もも、揺れるバスト。
それら全てから目を離せない。
有体に言うと、ムラムラしてきたのである。
(いかんいかん! 大体さっきまでモデルとして見ていた相手にとか…!)
湧き上がってきた邪な感情を振り払うように首をブンブンと振る。
しかし一度発生したスケベ根性は沈静化するどころか肥大化する一方だった。
(…服が汗でピッタリと身体に張り付いてるから紫藤のスタイルがクッキリとわかるな、うん)
双眼鏡が見せる少女の健康的な肢体は、少年の欲望をどんどん加速させていく。
ここ数日、大輔はエロ目的で超能力を使用していなかった。
これは別に今までの行いを反省をしたからといった理由ではない。
単にテストが近くなったので勉強に集中するため一時的にそういったことをやめていただけなのだ。
だが、抑圧された欲求はテスト終了とともに解放された。
本来ならば妹である愛菜がすぐさまそのカタルシスの餌食になるのだが、前述の通り彼女はお泊りで傍にいない。
要するに、大輔の「女の子に超能力で悪戯したい」欲求は臨界寸前にきていたのである。
そんな時に現れた、自分を誘っているとしか思えない格好の美少女。
これはむしろ何もしないほうが問題なのでは?
そう大輔が思ったのも無理はないといえるだろう。
無論、由貴からすれば言い掛かりというか迷惑極まりないことであろうが。
(しかし前から思ってたけど、やっぱ紫藤ってイイ身体してるよなー)
背が高めなのを本人は気にしているようだが、大輔はそんなことは気にならない性質なので問題はない。
むしろスタイルの良さと相まって他の女子にはない、大人な感じの色気がある。
何よりも巨乳と評するしかない大きな胸は思わず拝みたくなるシロモノだ。
今もシュートのたびにタンクトップに押し込まれたそれが上下にブルンブルンと揺れる光景が目に眩しくて仕方ない。
そして自分を挑発するように揺れ続ける乙女の乳房に、遂に大輔の理性は敗北を喫した。
(……えい)
念動力が何も知らずに練習を続ける少女に向けて発動する。
タンクトップの下で由貴の柔胸を包み込んでいるブラジャー。
そのホックが外れたかと思うと、少女のシュートの瞬間に合わせてすぽんっと服の裾から飛び出した。
タイミングがよかったのか、それともそれだけ集中していたのか。
自身の下着が脱げたことにも気がつかず由貴は練習を続けている。
そんな彼女を他所に、大輔は脱がしたブラジャーを一気に引き寄せ、そして手に取る。
「こ、これはスポーツブラって奴か…? しかしデカい。そしてヤバい」
自身の行動の結果に大輔は戦慄する。
手の中にあるグレーの布地は、一瞬前まで身に着けられていただけに持ち主の温もりが残っていた。
それどころか、流れ出た汗がたっぷりと染み込んでいて、その手の趣味のある人間にはたまらない状態。
幸いにも大輔にはそこまで変態的な趣味はなかったが、それでも脱がしたてホカホカの下着である。
妹である愛菜のものですら手に取ったことがない青少年にとって、その衝撃は計り知れないものがあったといえよう。
「……はっ」
触覚と視覚、あとさりげなく嗅覚をフル動員して乙女のブラジャーを堪能する大輔。
しかし本来の目的を思い出したのか、ハッと目を見開くと慌てて視線をあげる。
勿論目の向く先はノーブラとなったバスケット少女だ。
なお、この時大輔の手にあった由貴のブラジャーは彼のポケットの中にしまわれることになる。
本人としては後でこっそり返すつもりなのだが、実際どうなったかはだらしなく緩んだ大輔の顔を見て察してほしい。
「やばいやばい、思わず我を失ってしまった。恐るべし…紫藤」
何がどう恐るべしなのかはわからないが、とりあえず落ち着いた大輔は観察を再開する。
視線の先の少女は下着の消失に気がついていないらしく、シュート練習を続けていた。
一見すると先程とは何も変わらない光景。
しかし前後を見ている大輔にはその大きな違いが判別できていた。
「ダイナミック双子ぷりん…!」
思わず少年の口をついて出た言葉は、もはや意味を成してはいない。
それほどにまでその光景は危険だった。
ブラジャーという保護布を失ったふたつの蜜桃は、先程とは比べ物にならないくらいの勢いで上下に跳ねている。
擬音的に言えば、「ゆさっゆささっ」か「たぷんたっぷん」が正に相応しい。
あまりのダイナミズムに、ありえないことではあるが胸元から生乳が零れ出るのではないかと心配になるくらいだ。
ふたつ同時に、あるいはそれぞれが上下に揺れ弾む巨大バストは正に凶器だった。
「ぐ、ぐっじょぶ…俺かつてないほどぐっじょぶ…! 巨乳万歳」
幼馴染や妹では決してお目にかかれない素晴らしい光景に大輔は感動を抑えきれない。
ノーブラ。
たったそれだけの単純なことがこの光景を生み出したと思うと、念動力を与えてくれた存在に感謝せずにはいられない。
今、大輔は神を信じていた。
「よし、じゃあ次は…」
十分にノーブラおっぱいを堪能した大輔は、しかしまだ満足をしていなかった。
次の目標は視線を下げた先にある短パンに包まれた下半身である。
狙いをつけ、やはりシュートの瞬間を狙って能力を発動させる。
ずりっ!
次の刹那、胸ほどではないにしろ、動作のたびに跳ねるヒップを包む短パンがその下のパンツごと軽くずり下がった。
ギリギリ見えるかどうかの露出でお尻の丸みと谷間の先が空気に触れる。
だが、着地の瞬間元の位置に戻るよう操作したためやはり由貴は気がついていない。
続け様に放たれるシュート。
その瞬間、やはり大輔は前回と同じように能力を使用する。
ずりりっ!
先程よりも大きくずり下がる短パンと下着。
当然、その分だけお尻の露出面積を増え、魅惑の丸みが良く見えてしまう。
そして着地の際、やはりずり下げた布地を元に戻す大輔。
「はっ! やっ! えいっ!」
(おっ! おおっ! うおっ!)
リズムよく放たれるシュートと掛け声にあわせ、大輔の心の声も餅つきの相方のように唱和する。
念動力という見えざる手によって徐々に見える面積が大きくなっていく由貴の下半身。
それに比例するように少年の興奮も高まっていく。
(おっぱいもやばかったけど、お尻もかなり! 紫藤最高、マジ最高!)
相手が気がついていないことをいいことに、大輔は好き放題していた。
しかし何事も調子に乗ったときが一番危険である。
それは超能力という異能を持ったこの少年といえども例外ではなかった。
もう少し、もう少し。
そう思っているうちに無意識に念動力に想定外の力がこもってしまったのである。
ずるるっ!
「えっ…?」
(ぬお!?)
そのシュートの刹那、少女の短パンと下着は勢いよくずり下がっていた。
否、それは今までのようにずり下がるというレベルではない。
予定よりも大きく込められた念動力の力は、由貴に下半身の異変を察知させるほどだった。
かろうじて前は大事なところを隠したままだったが、後ろ側は太もものあたりまで露出してしまう。
言うまでもなくお尻は丸出しになってしまい、ぷりんっと張りのある逆ハート型の膨らみが太陽の下に晒された。
胸ほどではないが、それでも女の子らしい柔らかさを帯びたヒップが双眼鏡を通して大輔の目に映る。
だが、次の瞬間。
「きゃあああっ!!」
ぶんっ!
突然自分を襲ったハプニングに動揺した由貴は手に持っていたバスケットボールをあらぬ方向へと投げてしまう。
そして放たれたボールは大輔のいる方向へと向かっていた。
しかしこの時、大輔は間抜けにも丸見えになった乙女の桃尻に釘付けになっている。
それはつまり、迫りくるボールを回避するのは不可能になったということで。
「へ?」
ぼこんっ。
目に映る光景が白い丸みから茶色の丸みに変わった瞬間。
大輔の頭に衝撃が走っていた。