「さあ、行きますわよ!」  
気を取り直した美香の宣言のもと、二人は本日の舞台であるデパートに足を踏み入れた。  
ちなみにこのデパートの名前はタカミザワデパート。  
名前からわかるように、高見沢グループの所有する物件である。  
 
(あれ、これって普通にデートじゃね?)  
今回の件の原因が原因なので、美香がどれだけ無理難題を吹っかけてくるのか半分身構えていた大輔。  
しかし、予想に反して入店後の彼女は普通にショッピングを楽しんでいるようだった。  
アクセサリーや小物など、女性が好む商品を眺めたり、時折自分に意見を求めたり。  
それはまるで普通のデートのようで、警戒していた大輔は少し拍子抜けな気分になってしまう。  
「次、行きますわよっ」  
(…お嬢も楽しそうだし、これなら別に何もしなくてもいいか?)  
先導するように次々とフロアを渡り歩く美香の後をついていきながら、大輔は当初の考えを撤回し始めていた。  
一日召使扱いされるだけなのだから念動力で色々悪戯してやれ。  
そう思っていたのだが、意外にまともな扱いなので邪な考えが薄れ始めていたのだ。  
(よく考えなくてもお嬢は美人だし、休日にそんな女の子と二人きりで買い物ってレアなシチュエーションだよな…)  
段々自分が貴重な時間をすごしていることに気がつき始める。  
そうなると美香の普段の言動も寛大な気持ちで許せてきてしまうのだから大輔も単純な性格だったといえよう。  
あるいは彼がこのままの気分でい続けることができたのならば。  
美香にとって今日という一日は幸せなまま終わったのかもしれない。  
だが、気にしている異性と初めて二人きりで過ごすというシチュエーションは予想以上に彼女をテンパらせていた。  
罪は暴走した少女にあるのか、それとも相手の意を汲めなかった少年にあるのか。  
とにもかくにも、二人の穏やかな時間の終わりはすぐそこに近づいてきていたのは確かだった。  
 
「次は六階ですわね。それじゃあこれもよろしくお願いしますわ」  
「オイ…」  
「何か問題でも? それともまさか、貴方はか弱い女性に荷物を持てと言う気なのかしら?」  
買い物開始から一時間が経過した頃。  
可愛い彼女の言動にニコニコしていた少年の表情(比喩表現)は、我侭お嬢様に振り回される男の表情へと変わり始めていた。  
それもそのはず、彼は今、非常に不本意な状況を強いられていたのだから。  
両腕には複数の紙袋が吊るされ、手の上には箱が六個。  
箱の高さは既に少年の顔の位置を越え、視界を確保するにも一苦労。  
現実ではまずお目にかかれない、漫画やアニメでよく見る大量の荷物を抱える男の図。  
周囲の客にも大注目を浴びている、それが現在の大輔の姿だった。  
勿論、彼が抱えている荷物はすべて美香の買った商品の数々だったりする。  
(いや、買いすぎだろこれは!)  
美香が金持ちなのは知っていた。  
だが、まさか気に入った商品を見つけるたびに躊躇なく購入に踏み切るとは庶民の大輔には想像もできなかったのだ。  
 
美香に嫌がらせの意図はない。  
ただ、彼女は今の状況がいつもの買い物とは違うということを忘れているだけ。  
大輔と二人きりで買い物という状況に彼への負担というものが頭から抜け落ちているだけなのだ。  
ちなみに普段の買い物だと、お付の使用人が分担して荷物を持ったり、あるいは配達で品物を運んでもらうのが常だったりする。  
(……俺が甘かったのか?)  
当然のことながら、そんな女の子の機敏を察しろというのは大輔には無理な話だった。  
彼とて男の端くれなのだから女の買い物で荷物を持たないといけないことくらいはわかっている。  
実際、愛菜や文乃と出かけた時の荷物もちは当たり前なのだから。  
だが、その二人とてここまでの荷物は持たせない。  
まあ、今の大輔は念動力を使っているので荷物の重さなどあってないようなものなので負担など欠片もないのだが。  
しかしながら、こんな扱いをされて悪感情を持つなというほうが無理があるわけで。  
(それにしても、修地大輔……意外と力持ちなんですわね。少し、見直さないといけないかしら?)  
(クッ、笑いやがった。鼻で笑いやがったなテメェ)  
勘違いからの好感度アップの微笑を異なる解釈で受け取ってしまっても、それは不幸な行き違いだったといえよう。  
しかし、これで大輔の腹は決まってしまった。  
すなわち、エロ思考モード発動である。  
(こうなったらもう遠慮はしない…くくく、待ってろよお嬢!)  
「〜♪」  
邪悪な笑みを浮かべる少年と、楽しげな笑みを浮かべる少女。  
傍目には異様な、しかし本人たちはいたって楽しそうな雰囲気を漂わせつつ買い物は進行していく。  
そして舞台は次のフロアへ。  
 
デパート五階。  
ここは基本的に子供関連の商品が多く取り扱われているフロアである。  
当然美香にこのフロアは用事などなく、本来ならばただ通り抜けるだけの場所。  
だが、大輔にとっては悪戯を仕掛ける絶好のポイントだった。  
幸いにも、出だしの子供の悪戯で美香のスカートの中身は把握している。  
意識を前を歩く少女の腰の辺りに集中させ―――しゅるっ。  
 
ぱさっ…  
 
(よし、成功)  
手が空いてないため、心の中で親指を立てる大輔。  
彼がやったのは、美香の下着の紐の結びを解くことだった。  
無論、通常の下着と違い、結び目で自重を支えている紐パンは解けるのと同時に少女の下半身を滑り落ちてしまう。  
しかし、自分の身に起きた事態を把握していないお嬢様は平然と歩を進めていた。  
となると勿論床に落ちた下着は置いてきぼりになるわけで。  
ハンカチほどの大きさしかない真紅の布が少女の後ろに、そして少年の目の前にぽつんと出現する。  
 
「おい、お嬢。ハンカチ落ちたぞ」  
「え?」  
「赤いやつ。お前のだろ?」  
ハンカチではないとわかっていながらそう声をかける大輔は緩みかける頬を抑えるのに必死だった。  
一方、声をかけられた美香のほうはハテナ顔。  
それはそうだ、彼女は赤いハンカチなど持ってはいないのだから。  
だが、振り返ってみれば確かに床には赤い布が落ちている。  
(誰かの落し物かしら? でもあのハンカチ、何か見覚えが……?)  
どうにも気になった美香は足を止めるとまじまじと床の一点を見つめる。  
よく見てみればその布はハンカチにしては形がおかしかった。  
普通、ハンカチというのは手のひら大の正方形のはず。  
なのに目に映っている布は三角形に近く、頼りないほどに面積も小さく、四方の端にはそれぞれ紐が伸びている。  
それはまるでハンカチというよりは自分が今日穿いてきた―――  
 
「―――っ、な……ぁ!?!?」  
 
瞬間。  
そっ、と恐る恐る腰に手を当てた美香は声なき悲鳴をあげる。  
ガーターベルトとともに腰を覆っているはずの下着の感触がなかった。  
それは数日前の授業中と同じ、否、状況的に考えてそれ以上の衝撃で。  
(ま、待って、待ちなさい…! ということは、あの、あの布は…!)  
「ていうかお前のほうが手が空いてるんだから拾えよ…」  
混乱する思考をまとめているうちに、大輔がゆっくりと床へ手を伸ばす。  
片手で六箱の荷物を支える形になるのでかなり曲芸的な体勢だが、彼には念動力があるので問題はない。  
だが、体勢が体勢なので伸ばされる手のスピードはゆっくりだった。  
しかしそれこそが大輔の狙いであり。  
「ちょ、待っ……それは、わ、私のパ……とっ、とにかくダメですわーっ!」  
案の定、状況を把握した美香は大輔の手を振り払い、まるでひったくるように己の下着を回収した。  
その顔は首筋までピンク色に染まっていて、間一髪の危機脱出に大きな溜息が吐かれる。  
「何慌ててるんだお前?」  
「そっ、それはそのっ! そう、これは私のハンカチだから貴方に触られて汚されたくなかったんですわ!」  
(…お前その言い訳は流石に酷いと思うぞ。くくっ、まあその慌てっぷりに免じて許してやるけどな)  
気が動転しているせいか、何気に酷い台詞を吐くお嬢様に人の悪い笑みを向ける大輔。  
回収された紐パンは後ろ手にまわされたため今は見えない。  
だが、言うまでもなく現在の美香はノーパン状態である。  
学校の制服とは違い、今穿いている足元まで伸びているスカートが自然に捲れる心配はない。  
が、だからといって下着が脱げたまま外を出歩くなどこの自尊心の高い少女ができるはずもなく。  
一番いいのはトイレに駆け込むことだが、このフロアのトイレの場所はここから遠い。  
 
(さて、どうするお嬢?)  
トイレに近づくまで我慢するか、それとも何もなかった振りをするのか。  
これは見物だとばかりに大輔が対面の少女を観察していると。  
ガシッ。  
「へ?」  
「ちょっとこっちにきなさい」  
突然、手首を掴まれズンズンと人気のないほうへと連れ込まれる。  
まさか念動がバレたのか!? そしてボコられるのか!?  
ありえないはずの事態に混乱する大輔は、しかしその考えが勘違いだったことにすぐに気がつかされる。  
美香は、近くのイミテーションツリーの陰に自分を連れ込むと、こちらに背を向けて通路側に突っ立っているように指示してきたのだ。  
「な、何なんだ一体?」  
「す、少しコルセットのズレを直すだけですわ。こっちを見たら殺しますわよ!?」  
大輔の返事を待つことなくゴソゴソと動き始める美香。  
コルセットのズレを直すとはよく言ったものだが、真実を知る大輔が騙されるはずもない。  
美香はこの場で下着を穿きなおすつもりなのだ。  
(だ、大胆な奴だな…)  
いくら物陰で人通りが少ない場所とはいえ、他人が行き交う場所で着替えを行うなど果断にもほどがある。  
大体、真後ろには自分がいるというのに。  
(ひょっとしてコイツ、俺のことを男としてみてないんじゃないだろうな?)  
ふとそんなことを思ったが、先程の台詞から考えてそんなことはないらしい。  
実際に今も、チラチラとこちらを気にしている様子が伝わってきていた。  
もしもここで振り向いたりしたら間違いなくバレるだろう。  
(だが甘いなお嬢……!)  
大輔の口元がニヤリ、と歪む。  
確かに振り向けばすぐにバレるだろう。  
しかし、振り向かずとも後ろを見る方法はあるのだ。  
そして少年は早速その方法を実行に移した―――そう、手鏡を念動で宙に浮かせるという反則技を。  
 
(ふおお…!)  
手鏡に映し出された光景、それは予想通りショーツを穿きなおそうとしている美香の姿だった。  
少女は慎重に周囲に気を配ると、スカートの右側を腰まで捲り上げる。  
他の下着ならば足に通して持ち上げるだけですむが、彼女の今日の下着は紐パンなのでそうはいかない。  
ちゃんと紐を結ぶためには、スカートを捲り上げるしかないのだ。  
実際はスカートを脱ぐのが一番なのだろうが、流石にこの場でそこまでできるはずもない。  
(ぬう、こっちで強制的にやるのもいいが、女の子が自分でスカートを持ち上げる姿というのも…)  
腰骨の辺りまで裾が持ち上げられているため、美香の右足はほとんど丸見えだった。  
むちむちと肉感的な生脚と、それを覆うガーター、そして裾から僅かに覗く尻たぶ。  
更には、丁寧に、しかし迅速に右腰の上に結ばれていく真紅の極細紐。  
正にチラリズムの極地ともいえる光景が少年の思考を魅了していく。  
 
(多分前から見れば滅茶苦茶際どいんだろうなー)  
流石に前側を見る方法はないので大人しく着替え中の美少女後姿を観察する大輔。  
ごそごそとスカートの中と外で紐を結ぼうと手が動くさまが想像力をかきたてさせる。  
やがて、右側は結び終わったのか、美香は左側のスカート裾を持ち上げていく。  
数秒後、やはり右側と同じように左も紐を結び終えたお嬢様はほっと一息。  
念のためにとくいっくいっと腰をひねったり、とんとんと足踏みやジャンプをしてみたり。  
そしてようやく安心したのか、ビッと背筋を伸ばし、いつもの尊大なポーズを作るとくるりと振り向いた。  
「もういいですわよっ」  
「あいよ」  
こっそり手鏡を回収した大輔は、前しか見えてませんでしたよとばかりに半回転。  
美香も彼が後ろを振り向かなかったのはわかっているので特に疑問を持った様子はなかった。  
とはいえ、異性のすぐ近くで下着を穿きなおしたのは事実なので少々顔に赤みが残ってしまっていたのはご愛嬌だが。  
これで実は鏡越しに覗かれていたと判明した日には、とはそんな彼女の様子を見ていた大輔の思考である。  
 
(…んん?)  
再び気を取り直して移動再開。  
しかし、相変わらず荷物を持ち抱えて歩く大輔はすぐにその違和感に気がついた。  
僅かに美香の歩行速度が落ちている。  
正確に言えば、やや猫背気味に身体が曲がり、歩幅が狭く、短くなっていたのだ。  
それはいつもは自信満々に背筋を伸ばして大きなステップを取る彼女にしては珍しい姿で。  
(成程、それだけさっきのが気になってるってことか)  
この歩き方ならば異常がすぐに察知できるし、ある程度素早い反応もできる。  
だが、それは念動力という超常の力の前ではなんの意味もなさない。  
それを証明するように、大輔は再度見えざる力を少女のスカートの下で行使した。  
 
しゅるり……  
 
「―――はう!」  
右側の下着紐が解ける感触に美香はビクリを身を跳ねさせる。  
警戒をしていただけに今度は気がつくことができたが、時は既に遅かった。  
慌てて手を伸ばすも、パラリと解けきった紐はふたつに分かれ、力なく太ももの上で垂れ下がってしまう。  
自然、片側の拘束を失ったショーツは位置がズレ、数センチほど腰からずり落ちていく。  
ゴスロリ少女は反射的に股を閉じ、それ以上のピンチを防ぐもショックは隠せない。  
(う、嘘ですわ……あんなにちゃんと結んだというのに…)  
左側は未だ解けていないため、かろうじて下着の再落下は免れているが脚を開けば危険度大。  
かといってまた物陰に行くわけにもいかない。  
恥ずかしい思いをするのは嫌というのもあるが、何度も同じことをしては大輔に不審を与えてしまうからだ。  
実際は不審どころか真実、それ以前に全ての原因は彼にあるのだがそれを彼女が知る由はない。  
 
「どうしたお嬢?」  
「なっ、なんでもありませんわ!」  
結局美香にできたのは、何事もなかったかのように振舞う事だけだった。  
だが、下着が脱げかかっている以上挙動が不審になってしまうのは必然。  
更に歩幅が狭まり、まるでトイレを我慢しているかのような。  
そして残った紐を守るために左腰に不自然に手を当てて歩くお嬢様を大輔は荷物越しに鼻息荒く見つめる。  
 
(あのスカートの下ではお嬢のパンツが脱げかかってるんだよな…ヤバイ、かなり見たい)  
見えないからこそ見たい。  
人間として当然の心理でどうにかスカートの中を見ようと考える大輔だが、実行には移せない。  
今は美香のガードと警戒心が強すぎる。  
流石に念動力があるとはいえ、ここでの無理強いは危険だと判断できるくらいには少年は冷静だった。  
仕方なしに、スカートの中身を想像しながら悶々とした視線を向けつつ次の方策を練る。  
その時、耳障りなわめき声が妄想少年の耳朶を貫いた。  
見ればおもちゃコーナーでプラモデルを片手に子供がダダをこねている。  
他にも人形を物欲しそうに見つめる女の子や、カードバトルを繰り広げる男の子たちがいた。  
(そういやこのフロアは子供向けだったな。子供が多いと…そうだ!)  
何かを思いついた大輔は思い立ったが吉日とばかりに即座に念動力を行使。  
狙いはスカート、ではなく少女の右足だった。  
「えっ」  
僅かに足を強制的に大きく踏み出させ、バランスを崩させる。  
やったことといえばただそれだけのことだったのだが、今の美香にはそれだけで十分だった。  
こけまいと踏ん張った足は更に広角度の開脚を促し、バランスをとるため両手は宙へ浮く。  
つまり、脱げかけていた彼女の下着を守っていた力は全て奪われてしまったわけで。  
 
「ひうっ!?」  
するすると左足を滑り落ちていくショーツを引きとめようと懸命に手を伸ばす美香。  
だが、今度はそのためにバランスが崩れ、転倒の危険性がでてきてしまう。  
刹那、美香の脳裏にはあの恥辱のバスケットの日が浮かんでいた。  
あの時は二者択一を迫られておきながら結局どちらも選択できずに酷い目にあってしまった。  
今度はそうはいかない―――!  
同じことは二度も繰り返さないとばかりに金髪のお嬢様は即座に判断した。  
足元に向かいかけた手を引き戻し、バランス調整に使って転倒を防ぐことに注力したのである。  
もしこの時、彼女が下着を守るほうを優先、あるいは決断できないままでいたら身体は派手に転倒していただろう。  
そうなれば、腰を強かに打ち付けて下半身はスカートが捲くれた状態で大開脚。  
しかも下着は脱げている最中だったので大事な部分がフルオープンという惨事になっていたことは想像に難くない。  
むしろそちらのほうが大輔的にはおいしかったのだが、結果は既に出ていた。  
少女はかろうじて転倒だけは防ぎきり、被害を最小限に抑えることができたのである。  
その代償として下着が完全に脱げてしまい、再びノーパン状態に追いやられたのだとしても。  
 
「っ!」  
それからの美香の動きは素早かった。  
大輔に声をかける暇を与えずにしゃがみこむと即座に紐パンを拾い上げ、ポケットの中へと収納。  
そして何事もなかったかのように姿勢を正すと、コホンと咳をはいて居住まいを正したのだ。  
 
(ある意味すげーな、コイツ…だが!)  
あまりの早業と強引なうっちゃりに感心する大輔。  
しかしまだ今回の作戦は終わりではない。  
むしろ、今からが本番なのだ。  
例えうまくこの場を切り抜けたつもりでも、ノーパン状態なのが確かな以上、美香は迂闊に動けない。  
実際、目の前の少女はもじもじと下半身を気にしつつ足を踏み出そうとして踏み出せない、そんな風だった。  
だが大輔の罠は容赦なくノーパンお嬢様に牙を剥く。  
「わーいわーい」  
「ひっ!?」  
飛行機の模型を片手に持った子供が二人の横を駆け抜けていく。  
ただそれだけのことだったのだが、どうしたことか美香は大げさにビクついてしまう。  
「ほっ…」  
(ビンゴ! やはりさっきのことが頭に残ってたか)  
先程、待ち合わせの時美香は子供にスカートをめくられている。  
あんなことを突然する子供は少数だろうが、何せ相手は子供。  
何を考えているのかわからない以上油断はできない。  
何よりも今、彼女は下着を穿いてない状態で乙女の秘密を守るのは儚い布一枚。  
間違ってもこの状態でスカートをめくられるわけにはいかないのだ。  
だが、フロアの特性上周囲は子供だらけ。  
いわば、今の美香にとってこの場所はデンジャラスゾーンに他ならないのである。  
 
「きゃっ」  
「ひぃ」  
「ううっ」  
子供が傍に寄ってくるたびに過剰反応する美香。  
その姿の中に、普段の高慢な態度は欠片も見当たらない。  
あるのはただ、恥辱に怯える一人の美少女の姿だけだった。  
(これはこれでレアな場面! あのお嬢がこんな表情を…やべ、俺ってS?)  
ゾクゾクと背筋に走る何かを抑えながら、大輔は更なる手を打つ。  
歩いていないにも等しい美香に近寄りながら、念動を使用し、彼女のポケットからある物を引き出していく。  
そう、先程奥に押し込まれたはずの赤い下着を。  
「お嬢、ハンカチがまた落ちかけてるぞ」  
「は? 何を言って……!?」  
 
大輔のわざとらしい指摘に目を落とした美香はギクリと身を竦ませた。  
見れば確かにポケットからは赤い布がはみ出している。  
だがそれはハンカチなどではなく、異性の目に触れさせてはならない恥ずかしい布なわけで。  
(い、いけませんわ!)  
慌しくぎゅっとポケットの奥へと紐パンが押し込まれていく。  
そして無意識に内股に畳まれる下半身。  
万が一にも今の布がハンカチではないと、下着であるとバレれば一巻の終わり。  
何しろ大輔は先程この下着を見てしまっている。  
すなわち、これが下着だとバレるということは穿いてない状態だとバレるということでもあるのだ。  
無論、その焦燥と徒労が最初からなんの意味もないのは知らないほうが幸せな事実ではあるのだが。  
 
(くく、慌ててる慌ててる)  
オロオロと戸惑うお嬢様の姿に、大輔はなんともいえぬ快感を覚えていた。  
とはいえここまですれば流石に溜飲が下がるというもので。  
「なあ、お嬢。お前ひょっとしてトイレに行きたいのか?」  
こんな風に助け舟を出すくらいには少年は余裕を取り戻していた。  
が、このようなデリカシーのない言い方でプライドの高いお嬢様が「行きたい」と答えるはずもなく。  
「なっ!? 何を言ってますの!?」  
当然のように火山は爆発。  
羞恥とは別の意味で真っ赤になった美人顔が大輔に向けられることになる。  
「いやだってお前さっきから歩かないし、なんかもじもじしてるし」  
「そ、それはっ…」  
「言い方が悪かったのは謝る。けど変な遠慮とかされても俺だって困るしな」  
原因は別だとわかっているのにサラリとこう言えるあたり、マッチポンプにほどがあるのだが効果はあったようだ。  
激昂はおさまり、大輔の言葉に甘えるかどうか美香は悩み始める。  
とはいえ、プライドが変に高い分、なかなか決断が下せない。  
紫藤由貴は似たような状況下で恥を忍んでトイレに駆け込んだものだが。  
やはり性格の違いがあるのだろう、と大輔は妙なところで感心していた。  
 
(…仕方ないか)  
別にこのままのノーパン状況で買い物を続けても大輔的には一向に構わないのだが、これでは話が進まない。  
近くを走っていたラジコンカーの制御を奪うと、勢いよく美香の股下を走らせる。  
「ひゃあっ!?」  
ふわり、とほんの数センチほどスカートの裾が浮き上がった。  
だがそれは美香の決断を促すには十分だったらしい。  
後ずさりしながら両手で股間とお尻を軽く押さえ、不自然なほど周囲に気をつけながら。  
「べ、別に行くほどの事態など欠片もないのですけど、貴方がそこまで言うのなら……行ってあげましてよ!」  
そういい残し、お嬢様は小走りでトイレへと向かっていくのだった。  
 

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