(…ぷぷっ、こっち見てるこっち見てる)  
学校に到着し、席に座った大輔はちらちらと自分を気にするような視線に気がつきほくそ笑んだ。  
既に視線の犯人はわかっている。  
文乃だ。  
尻を触ったことまではバレていないようだったが、大輔はコケた彼女を助け起こす手伝いをしている。  
つまり、あのパンツ大公開を間違いなく見ているのだ。  
いや、実際は見ているどころか、状況を作り出した犯人ですらあるのだが。  
(しかしバレバレだっての、そんなに恥ずかしかったのか?)  
しきりに自分のほうを窺ってくる幼馴染にやや辟易しながらも大輔は内心でニヤニヤと笑い続ける。  
こちらが視線を向けるたびにビクッと視線をそらす仕草が非常に滑稽だった。  
 
(さーて、ノートノート)  
授業開始から数分。  
大輔は必死にノートに書き込みをしていた。  
ここだけ見れば真面目な学生そのものだが、書き込んでいることは黒板の内容でも教師の説明でもない。  
では何を書いているのか?  
それは自分の超能力についてだった。  
別に物忘れが激しいわけではないが、大輔は基本的に几帳面な性格である。  
自分の力の詳細や思いついた使い道などを細かく書き記すノートを作るという作業は彼にとっては当たり前のことだった。  
 
(うーむ、しかし問題はターゲットだよな…)  
鉛筆を鼻に乗せながら大輔はうなった。  
超能力で女の子にえっちなイタズラをするといえば男のロマンだが、だからこそその相手は重要である。  
現時点ではまだ見ず知らずの女性にイタズラを働くというのはいささか心苦しい。  
かといって顔見知りだとそれはそれで気がとがめるものがある。  
既に愛菜と文乃に力を使っているが、それは妹と幼馴染という身近さが心の罪悪感を軽減していただけなのだ。  
(力を使っても気がとがめない奴…)  
脳内の女の子データを検索する大輔。  
だが、一人目の女の子の顔が浮かぼうとしたその瞬間、彼の頭にごつんと鈍い衝撃が走った。  
 
「ふげっ!?」  
「こら、修地君! ぼーっとしない!」  
自分を叱る声に大輔はようやく事態を把握した。  
目の前の女教師が自分をこづいたのだ。  
途端に笑いに包まれる教室。  
 
(うぐっ…)  
注目されることに慣れていない大輔は恥ずかしさに身を縮こまらせた。  
見れば、文乃までこちらを指差して笑っているではないか。  
(あ、あの女…!)  
大輔は自分の心に暗い衝動が湧き上がるのを感じた。  
それを向ける対象はもちろん自分を叱った女教師である。  
女教師、名前は東雲夏樹(しののめなつき)というのだが、彼女は今年採用されたばかりの新任教師だった。  
名前に反して、よく言えばクール、悪く言えば無表情な彼女は生徒受けがあまり芳しくない。  
何故ならば、彼女は教師一年目のせいか無駄な方向でやる気に満ち溢れているからだ。  
授業内容はやたら細かく、宿題は多い。  
私語や居眠りなどには厳しく、その対応も今のように生徒をさらしものにするような手段をとる。  
顔立ちはかなりの美人なので男子にはそれなりに人気があるのだが、その性格ゆえに観賞用としての人気しかない女性だった。  
(見てろ…)  
 
都合よく見つかったターゲットに喜びを隠せない大輔は静かにタイミングをはかる。  
東雲はうつむき黙った大輔に反省の色を見たのか満足気に教壇へと戻っていく。  
「さて、中断はここまでにして続きですが…」  
チョークを持ち、黒板へと目を向ける東雲。  
完全にクラス全員に背を向ける形になったその瞬間、大輔は念動力をスタートさせた。  
狙いは東雲の膝上まであるタイトのスカートの留めボタンだった。  
(くらえ!)  
 
ぷつんっ  
ボタンが勢いよく宙に舞った。  
それはまるでウエストの太さにボタンが耐え切れなかったかのような光景だった。  
ついで、ボタンが取れたことによってファスナーがジジジとひとりでに降りていく。  
すると  
 
すとん  
 
と東雲の下半身を覆っていたスカートがあっさりと床へと落ちた。  
瞬間、教室に怒号のような歓声が響き渡る。  
 
「おおおおおおおおおっ!!」  
「ぷっ、あははははっ!!」  
「く、くまさん!?」  
その光景を見たクラスの反応は三つに分かれた。  
一つ目のグループはスカートが消えたことによってお目見えした東雲の下着と太ももに興奮する男子生徒たち。  
二つ目のグループは女教師の肥満(?)に同情と優越を隠せない女子生徒たち。  
そして三つ目のグループは、東雲のパンティの柄に驚いた者たちだった。  
(く、くまっ!)  
大輔は三つ目の集団に属していた。  
なんと東雲のパンティのデザインは可愛いくまさんだったのである。  
普段は怜悧な女教師の穿いているパンティがくまさんプリント。  
これは今朝の文乃の黒下着に続き、物凄いギャップだった。  
 
「え…何を皆さん笑って…え…?」  
生徒達の反応にしばし混乱する東雲。  
だが、その視線が自分の下半身に向いた瞬間、普段の冷たい表情が見事に絶対零度で凍結する。  
そこにあったのは教室の生徒全員に思い切りさらされている自分のお気に入りのパンティだったのだ。  
「ひっ…いやああああああっ!?」  
悲鳴を上げながらもスカートを引き上げようとかがみこむ東雲。  
だが、慌てていたせいかその手はまごついてしまう。  
それどころか、逆にスカートに足を引っ掛けてずてん! と転げてしまう始末だ。  
 
お尻を突き上げるように床に伏せる東雲の姿に生徒たちの歓声がヒートアップする。  
特に男子生徒の熱狂は既に限界だった。  
下着のデザインこそ子供っぽくて色気がないが、強調されるように突き上げられたお尻は見事なラインを描いている。  
何人かは夜のおかずにしようと血走った目で瞳に映る光景を記憶しようと躍起になっているくらいだ。  
「み、見ない……見てはいけません!」  
かろうじて教師として矜持で命令形を保つ東雲。  
しかし、誰一人としてその命令を聞くものはいない。  
中にはこっそり携帯電話で撮影している者までいる。  
 
「ううっ…の、残りの時間は自習です!」  
かろうじてそう叫んだ東雲はスカートを太ももまであげたパンツ丸出し状態で教室を飛び出していく。  
(こ、これは想定外の展開に…しかしこれはこれでOK!)  
一人冷静に一部始終を見ていた大輔はこっそりと机の下でサムズアップをするのだった。  
 
そして休み時間。  
教室の話題は先程の事件一色に染まっていた。  
「可愛かったよね、東雲先生の下着…ぷぷっ」  
「まさかあの歳でくまさんって…くすくす」  
「しかしいい足だったなぁ」  
「俺ケータイでとったぞ」  
「お、コピってコピって!」  
一様に東雲の話題を取り上げるクラスメートたち。  
会話に参加していないのは大輔と文乃くらいだ。  
(ま、アイツは朝自分も似たような目にあってるからな、当然か)  
なんともいえない微妙な表情の幼馴染を眺めつつ、大輔は誇らしげな気持ちに浸っていた。  
何せ話題を提供したのは紛れもなく自分だ。  
もちろん俺がやったんだとは言い出さないが、その光景は大輔の小さな自尊心を満足させるには十分だった。  
 
(明日の授業が楽しみだ…ぷぷっ)  
大輔は明日東雲がどんな顔をして授業を行うのかワクワクしつつ、次なるターゲットを探す。  
と、そこで目に留まったのは一人の女子だった。  
 
(高見沢…)  
視線の先で談笑しているのはお嬢様オーラを撒き散らしている高見沢美香だった。  
高見沢美香、金持ちの家に生まれた生まれ着いてのお嬢である。  
ロングの金髪をツインテールにまとめた髪に、整った顔立ち。  
均整の取れたスタイルとぼんっと突き出たDはあるであろうおっぱい。  
そして抜群の運動神経と学年上位の成績。  
実家は金持ち容姿端麗成績優秀運動神経抜群と漢字だらけのステータスをもつ彼女は大輔にとって天敵であった。  
平凡平穏平和主義と平三つを持つ大輔にちょっかいを出そうという人間はそうはいない。  
例外は幼馴染の文乃くらいである。  
だが、美香は文乃と並ぶ数少ない例外だった。  
何が気に入らないのか、彼女はよく大輔に話しかけてくるのだ。  
 
「ほーっほっほっ! 相変わらず貧相な顔つきですのね!」  
「全く、もう少し身だしなみを整えなさい!」  
「この私が話しかけてあげているのだからもっと嬉しそうな顔をなさい!」  
基本的に美香はこんな風に大輔と会話をする。  
まあ、会話というよりは美香が一方的に喋っているだけなのだが。  
 
(あいつらはツンデレ! ツンデレ! って騒いでるけど…ツンしかねーしデレを見たことねーよ)  
完璧超人である美香の男子人気はかなりのものがある。  
やや高飛車で短気、そして男を見下したような発言の数々と性格面ではかなりマイナスが多い彼女だが  
外面がその全てを打ち消して余りあるのだ。  
当然、そんな美香にしょっちゅう話しかけられている大輔は他の男子の嫉妬の的だ。  
しかし、デレというリターンを得たことがない大輔からすればそれはいい迷惑でしかない。  
正直、美香へ対する恨みは結構なものになっていた。  
 
(よし…!)  
大輔は次のターゲットを美香に定めた。  
いつも迷惑をかけられているのだ、少しは楽しませてもらわないとやってられん!  
そう理論武装した大輔にもはや恐れるものは何もない。  
(外面はいいんだ、目の保養をさせてもらうぜ…)  
 
美香に恥辱を与えるべく、策を練りだす大輔。  
次の授業は体育である。  
これは都合がいい…大輔はほくそ笑むのだった。  
 

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